新刊紹介:「歴史評論」2022年10月号

 小生が何とか紹介できるもののみ紹介していきます。正直、俺にとって内容が十分には理解できず、いい加減な紹介しか出来ない部分が多いですが。
特集『エンターテイメントの世界から見た日本中世史』
【前振りその1】

 名刀を男子に擬人化し育成する「刀剣乱舞」というゲームが多くのファンを獲得し、博物館の刀剣展示にも影響するほどの現象となったことをご記憶の方も多いでしょう。また、対馬における蒙古襲来をモチーフとしたゲーム「Ghost of Tsushima」は、世界規模で人気を博しました。こうしたエンターテインメント作品をきっかけに、歴史学の成果に関心を持つ人は少なくありません。
 そこで本号では、近年の歴史系エンターテインメント作品のありようと、それを歴史教育・歴史研究の現場でどう受け止めるか考える特集を組みました。エンターテインメント作品の数々は、人々を歴史の世界に導いてくれる貴重な窓口であると同時に、そこに現れる歴史像が人々の歴史観を育む/育んでしまう、という側面を持ちます。娯楽性への偏重や、歴史修正主義に流されてしまう危険も拭えません。だからこそ、本特集を通して、歴史学が社会の中で/社会とともに、何を実践できるか考えてみていただきたいのです。(編集委員会

だそうです。小生はおっさんで「その方面には無知」なので「へえ?」でしかありませんが。
【前振りその2】

【パリの窓】「ベルばら」愛 - 産経ニュース
 雑談で、18世紀のフランス革命が話題になった。恐怖政治を敷いたロベスピエールに触れたら、「日本人なのに、すごい歴史通だ」と尊敬された。少女時代、漫画「ベルサイユのばら*1」を読んだおかげだ。

 今回の企画は「エンターテイメントの世界から見た日本中世史」であって「日本中世史限定」ですが勿論「歴史をネタにしたマンガ」にはベルばらのような「海外歴史もの」もあります。


◆過去/現在の創造的出会いに向けて(北條勝貴*2
(内容紹介)
 日本中世史を題材としたエンターテインメントとして

【テレビドラマ】
NHK大河ドラマ(比較的近年の物)
太平記(1991年、足利尊氏
炎立つ(1993年、奥州藤原氏
花の乱(1994年、日野富子
北条時宗(2001年)
義経(2005年)
平清盛(2012年)
・鎌倉殿の13人(2022年、北条義時

→過去の源義経」(1966年)、「新・平家物語」(1972年、平清盛)、「草燃える」(1979年、源頼朝も含めれば「源平合戦の時代を含む作品(赤字の作品)」が6作も作られており、「源平合戦」に強い人気があることが分かる。ただし、過去作品においては「清盛が悪、頼朝、義経が善」のような「伝統的な描き方(勧善懲悪話)」が強かったが近年はそうでもない。
【アニメ】
平家物語
 2022年1月から3月までフジテレビの深夜アニメ枠『+Ultra』ほかでテレビ放送。琵琶法師の少女びわが主人公
【マンガ(連載期間順:マンガの内容についてはウィキペディア参照)】
ジパング 深蒼海流(かわぐちかいじ
 『モーニング』(講談社)で2013年1号(2012年12月6日発売)から2017年51号(2017年11月16日発売)まで連載。源平合戦がテーマ。なお、かわぐちマンガの連載された2013年の前年(2012年)にはNHK大河『平清盛』が放送されており、大河人気にのったものとみられる。
アンゴルモア 元寇合戦記たかぎ七彦
 『サムライエース』(角川書店)でvol.5(2013年2月26日発売)よりvol.10(2013年12月26日発売)まで連載されたのち、同誌の休刊に伴い『ComicWalker*3に移籍し2014年7月11日よりweb連載され、完結した。元寇文永の役、1274年)における対馬の戦いを描く。2018年7月から9月までサンテレビTOKYO MXなどでアニメ放送された。
→なお、北條氏は作者には「右翼的意図はないであろう」と見なしがらも産経『対馬が危ない*4』『佐渡が危ない』などの『離島が危ない』シリーズ的な理解をされることへの危惧を表明している。 
◆新九郎、奔る!(ゆうきまさみ
 『月刊!スピリッツ』(小学館)で、2018年3月号(2018年1月27日発売)から2019年12月号(2019年10月27日発売)まで連載された後、『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)へ移籍して、2020年7号から隔週で連載中。
 室町時代から戦国時代前期の人物で、後世「北条早雲戦国大名『後期北条氏』の創始者)」の名で知られる伊勢新九郎盛時(出家後の名として伊勢宗瑞)が主人公。
 北条早雲については素浪人から戦国大名にのし上がった下剋上の典型とする説が風聞され、長く通説とされてきた。しかし、近年の研究では室町幕府政所執事を務めた名門武士・伊勢氏を出自とする考えが主流であり、ゆうきマンガもその立場に立っている。なおゆうきマンガでは黒田基樹*5駿河台大学教授が時代考証協力者としてクレジットされている。
◆逃げ上手の若君(松井優征
 『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2021年8号から連載中。鎌倉時代から室町時代にかけて、北条時行鎌倉幕府最後の得宗北条高時の遺児)の生涯を描く歴史漫画。足利尊氏によって鎌倉幕府が滅ぼされた後、尊氏の手から逃げ延び諏訪頼重*6らとともに再起を期す時行の物語が展開される。なお松井マンガでは本郷和人*7・東大教授が時代考証協力者としてクレジットされている。
→北條氏は、
【1】「世間一般には無名の存在」「最終的には足利氏に敗れ、処刑された敗北者」である時行を取り上げた上、「(戦上手などではなく)逃げ上手*8」というネーミングをしていることが興味深いとする一方
【2】松井漫画以外の作品は「源平合戦大河ドラマ、フジテレビアニメ)」「元寇たかぎ七彦)」「北条早雲ゆうきまさみ)」など「やはりメジャーな存在を取り上げる傾向があること」は否定できないとしている。

などが簡単に紹介されている。なお、小生はこれらのマンガの内「新九郎、奔る!」以外は全く知らないことをメモしておきます。そもそもコンビニにもおいてある『モーニング』『週刊ビッグコミックスピリッツ』『週刊少年ジャンプ』ならともかく、『サムライエース』や『ComicWalker』なんてまず読みませんし。

参考

北条時行 - Wikipedia
 建武2年(1335年)に中先代の乱を起こし、足利直義を破って鎌倉を奪還するが、わずか20日で尊氏に逐われた。南北朝の内乱(1336~1392年)では、後醍醐天皇から朝敵を赦免されて南朝方の武将として戦った。延元2年/建武4年(1337年)から翌年にかけては、鎮守府大将軍・北畠顕家(『神皇正統記』を著した親房の子)や新田義興(義貞の子)と共に杉本城の戦いで足利家長*9斯波家長)を討って自身にとって2度目となる鎌倉奪還に成功し、顕家の遠征軍に随行して青野原の戦いで顕家らと共に土岐頼遠*10を破った。ところが、遠征軍は和泉国大阪府)で行われた石津の戦いで執事高師直*11に大敗、遠征軍の長の顕家は敗死したものの、時行は生き残った。のち正平7年/文和元年(1352年)、時行は再び義興らと共に武蔵野合戦で初代鎌倉公方足利基氏を破って3度目の鎌倉奪還を果たした。しかしこの奪還も短期間に終わり、逃走を続けるも、翌年、足利方に捕らえられ、鎌倉龍ノ口(神奈川県藤沢市龍口)で処刑された。


時代考証の経験(早島大祐*12
(内容紹介)
 垣根涼介*13『室町無頼*14』(2016年、新潮社→2019年、新潮文庫)の時代考証経験について述べられています。
 これについては内容紹介にかえて

波 早島大祐「室町小説の誕生」| 新潮社の電子書籍2016年9月号掲載
 カキネさんという方から、編集者を通じて、小説執筆のために足軽室町時代について話が聞きたいとの依頼を受けたのは、確か三~四年前のことだった。ネットで検索してみると、現代のアウトローを題材に小説を書かれている方で、それらのうちのいくつかは、テレビドラマ化*15もされている。垣根涼介さんが流行作家であることはすぐにわかった。
 実際に依頼された仕事内容は少々、予想とは異なっていた。私に求められているのは、小説の舞台の小道具としての史実の提供であり、有り体にいえば、「裃をつけた現代劇」の「裃の調達役」だと思っていたからである。
 ところが、案に相違して垣根さんは史実の確認に熱心であり、その勢いを前に、時にこちらが圧倒されることもあった。
 私に白羽の矢がたったのも、足軽に関わる本*16と、相国寺大塔について触れた著作*17があったからである。
 このように史実の探求に熱心である一方、それに束縛されているわけではない。本作品の主要登場人物である骨皮道賢と蓮田兵衛、馬切衛門太郎などはいずれも実在の人物だが、史料では数行の記述が残されるのみで彼らの実像については不明な点が多い。しかし本作品では小説の技法で彼らの動向がきわめて躍動的に描かれており、史実を土台にしていることもあって、リアリティーをもって読み手に迫ってくる。それは今後、私が骨皮道賢の史料を読みなおした時に、本小説で描かれた道賢像が頭からはなれないことを危惧するほどである。

という早島氏の文章を紹介しておきます。


◆歴史マンガと日本中世史(田中誠*18
(内容紹介)
 北条論文で紹介されたマンガの他に以下のマンガが紹介されている。

【マンガ(連載期間順:マンガの内容についてはウィキペディア参照)】
後宮海野つなみ*19
 鎌倉時代の古典であり、後深草院二条が記したとされる『とはずがたり』を原作とした作品。
◆ぶっしのぶっしん:鎌倉半分仏師録(鎌谷悠希
 スクウェア・エニックスウェブコミック配信サイト『ガンガンONLINE』で2013年11月21日から連載中。
◆バンデット:偽伝太平記(河部真道*20
 『モーニング』(講談社)で2016年45号(2016年10月6日発売)から2017年48号(2017年10月26日発売)まで連載。南北朝時代鎌倉時代後期から室町時代初期)の騒乱を記した『太平記』を題材にした漫画。バンデット (bandit) は山賊の意味だが、本作では『太平記』の時代に見られる悪党を指している。
◆逃げ上手の若君(松井優征
→「赤坂城の戦い」において城を捨てて一時逃亡した楠木正成を「逃げ上手の武将」として描いている点を田中氏は「興味深い」と評価している。
◆ワールドイズダンシング(三原和人)
 『モーニング』(講談社)で2021年から連載中。能の創始者世阿弥が主人公。
 なお三原マンガでは清水克行*21明治大学教授が時代考証協力者としてクレジットされている。

 なお、「時代考証協力者」として大学教員がクレジットされてることが近年の興味深い事象として指摘されている。
 こうした大学教員の「時代考証」がどこまで実質的な物かはともかく、歴史マンガにおいて「時代考証を求める風潮」がある時期から生じた物と見なすことができると評価されている。


◆多声的な歴史叙述のために:フィクション・フェミニズム・日本中世史(杉浦鈴)
(内容紹介)
 例の「呉座勇一の不祥事(NHK大河の時代考証を降板すると共に、国際日本文化研究センター日文研)から懲戒処分)」について「日本中世史研究」の世界において「女性差別的体質」があることを示しているのではないか、中世史研究者はもっと「呉座の不祥事」を真摯に受け止め、論じるべきではないかと言う問題提起がされていますが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。


◆歴史の眼『時代考証の領分:大河ドラマ『鎌倉殿の13人』との日々』(木下竜馬*22
(内容紹介)
 あくまでも「自分の体験限定」と断っていますが、木下氏が「誤解と真実」と言う形で体験を書いていますので紹介しておきます。
【誤解1】
 時代考証者は撮影現場で俳優たちに指導することがある
→少なくとも木下はそのようなことはなかった。あくまでも脚本に対する「意見具申」のみであり、俳優と関わることはなかった。
 また脚本への意見具申も「脚本家(三谷幸喜)」と直接やりとりすることはなく、意見具申は「木下→NHKプロデューサー→脚本家」という形でされた。
【誤解2】
 大河ドラマは、時代考証者の意見に全面的に従い完全に歴史学に忠実な形で制作されている。
大河ドラマも結局は「娯楽時代劇」なので必ずしも時代考証者の意見に全面的に従っているわけではない。最終決定者は番組プロデューサーであり、その判断は常に時代考証者支持ではない。

【参考】

2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」考証チームのご紹介 | 大河ドラマ | NHKドラマ
 平安鎌倉の物語に挑む三谷幸喜さんを強力にサポートする考証チーム。中世史研究の第一線で活躍する、坂井孝一さん*23、木下竜馬さんに時代考証を担当していただきます。風俗考証は「麒麟がくる」にもご参加中の佐多芳彦さん*24で、「真田丸」に続く三谷大河*25です。
 「鎌倉殿の13人」の時代考証を依頼していた歴史学者の呉座勇一氏*26より、自身のツイッター投稿の一部内容が不適切*27であった責任を取り、降板したいとの申し出*28がありました。番組制作サイドもその事実を確認し、降板していただくことにしました*29

呉座さんが時代考証降板 22年大河、不適切投稿で: 日本経済新聞2021.3.23
 NHKは23日、来年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当する一人、歴史学者の呉座勇一さん(40)が降板すると明らかにした。呉座さんのツイッター投稿に不適切な内容があり、呉座さんが降板を申し出て、NHKが了承したという。
 呉座さんは関係者のみが閲覧できるようになっていた自身のツイッターアカウントで、フェミニスト批評が専門の女性研究者*30を名指しでおとしめる投稿を長期にわたって繰り返していたことが発覚。女性研究者が抗議し、批判の声も高まる中「一連の揶揄、誹謗中傷について深く反省し、お詫び申し上げます」と謝罪文を投稿していた。

 今回の歴史評論論文も、呉座があんな愚行*31をしなければ奴に来た可能性もある*32わけで、まあ何というか滑稽ではあります。
 しかし例のid:Mukkeという輩も「I濱先生は偉大なチベット研究者だ」と強弁して「恩師らしいI濱」の暴言、失言は擁護しても「無関係な呉座」については「呉座先生は偉大な日本史研究者だ。NHKは歴史考証担当から外すな」なんて擁護はしないのだから呆れたクズです(Mukkeについては呆れるとともに軽蔑している)。  
 まあ呉座擁護したらそれはそれで「呉座の被害者に対して失礼」で「別の意味でクズ」ですが。
 いい加減「私のI濱先生擁護は屁理屈でした、ボーガスさん、すみません」などと詫びればいいところ、「俺のことを格下に見ているから」、絶対に詫びれないんでしょう。

鎌倉殿の13人の時代考証について【名古屋刀剣ワールド】
 NHK大河ドラマはエンターテインメントであって教科書ではありません。
 あくまで歴史をベースにしたフィクションであり、史実を追求するあまり面白さに欠けてしまっては本末転倒と言えます。
 この点について、「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当する坂井孝一さんは、「源頼朝」(演:大泉洋)の「ごめん、ちょっといいかな」というセリフを例に挙げて言及しました。
 それによると、このセリフは完全に現代的な言い回しであり、源頼朝が口にしたとは考えられないものの、源頼朝役の大泉洋さんがセリフとして発しているところを想像するだけで面白く、脚本家である「三谷幸喜」さんのセリフ回しを活かすためにもそのままでいこうと決めたそうです。
 現代的なセリフを使うことについては、視聴者から批判を受けることもあるかもしれないと不安に思ったとのことですが、ドラマを面白くしたいという三谷幸喜さんの想いを受け止めて判断した坂井孝一さん。

 是非はともかく所詮「娯楽時代劇」ですからね。おそらくは「脚本家>時代考証」がNHKの立場でしょうし。

「鎌倉殿の13人」13人衆は一堂に会したのか?時代考証・木下竜馬氏が最速解説 頼家と13人の合議制― スポニチ Sponichi Annex 芸能2022.7.17
 木下氏によると、2010年代頃、研究が進んだ結果、頼家に対する評価が変化し始めたという。
 従来は能力の劣る「暗君」とされてきた頼家だが「何か新たな文献が発見されたということでもないんですが、『吾妻鏡』の読み直しが進んで『頼家も意外とデキる人物だったんじゃないか』という再評価の動きが、この10年ぐらいで出てきました。その前に、まず1980年代ぐらいに研究が精緻になって、北条氏の傀儡とされてきた3代将軍・実朝の再評価が始まったんです。初代・頼朝はもともと評価が高かったので、その間の2代・頼家も見直してみようと。今まで素通りしてきた『吾妻鏡』の記事を足元から丁寧に読んでいくと、案外、通説とは違う一面が見えてきたんです」と研究の変遷を明かした。
 頼家の再評価に伴い「13人の合議制」の位置付けも反転する。「頼家=暗君」と捉えれば「13人の合議制=頼家の政治関与を排除するシステム」になるが、木下氏は「それが18歳の若き頼家を支え、補佐するためのものという新説が出てきたんです」と説いた。


歴史の眼・リレー連載『21世紀の災害と歴史資料・文化遺産⑫、⑬』
◆とちぎ歴史資料ネットワークの課題と活動(坂本達彦*33
那須地域での資料保全活動とその動向(作間亮哉*34
(内容紹介)
 とちぎ歴史資料ネットワーク、那須資料ネットの活動紹介がされていますが、詳細な紹介は小生の無能のため省略します。


◆書評:田中宏*35『小笠原長生*36天皇制軍国思想*37』(評者・手嶋泰伸*38
(内容紹介)
 小笠原長生が日本軍国主義に与えた影響について論じられているとのこと。
 なお、評者は田中氏が「当事者(今回の場合は小笠原)の自画自賛」になりがちな「小笠原の日記」に依拠しすぎたために「小笠原の政治力を過大評価してるのではないか」と批判している。
 評者は「小笠原の政治力」は彼が親分としていた「東郷平八郎*39の政治力」によるところが大きく、「であるがゆえに」1934年の東郷死後は小笠原の政治力は大きく衰退したとみている。

参考

東郷平八郎 - Wikipedia参照
◆死後、東京都渋谷区に「東郷神社」が建立され、神として祀られた。ただし東郷自身は生前、(陸軍出身の乃木を祀る乃木神社に、海軍が対抗するために)東郷を祀る神社の設立計画を聞いて驚き、「やめてほしい」と強く懇願したという。しかし、願いは聞き入れられず結局、没後に神社は建立されている。
◆晩年において「日本海海戦勝利の英雄」「数少ない海軍元帥*40の一人」である東郷の「海軍における権威」は絶大で、重大事項は東郷にお伺いを立てることが慣例化していた。 末次信正*41加藤寛治*42らのいわゆる艦隊派が東郷を利用して軍政に干渉した昭和5年(1930年)のロンドン海軍軍縮問題はその典型である。海軍省内では軍令部総長伏見宮博恭王*43と共に「殿下(伏見宮)と神様(東郷)」と呼ばれ、しばしば障害とみなされた。伏見宮すら「自分と東郷の意見が分かれるようなことがあってはならん」と気にしていた。井上成美*44(いわゆる条約派)は「東郷さんが平時に口出しすると、いつもよくないことが起きた」と述懐したうえで、「人間を神様にしてはいけません。神様は批判できませんからね」と語っている。
◆東郷に関する著作で重要なものは「東郷の私設副官」といわれた小笠原長生によるが、山路一善*45は小笠原に対し「閣下の東郷元帥に関する著書や講演のなかには、潤色が度に過ぎて誇大に失するものがあり、日本の歴史を誤るのではないかと憂える」と述べたとされる。
【逸話】
◆一般に寡黙という印象があるが、晩年に学習院へ招かれた際、講演中に生徒に「将来は何になりたいか」と質問し「軍人になりたい」と答えた生徒に「軍人になると死ぬぞ」 「軍人になるなら陸軍ではなく海軍に入れ。海軍なら死なない」 と冗談を言い、陸軍大将である乃木希典学習院長を激怒させたというエピソードがある。

小笠原長生 - Wikipedia参照
◆1905年6月29日、日本海海戦について東京で講演し、「当日、東郷大将が執られたる戦法が丁字戦法」と語ったことが翌日の『朝日新聞』に報じられたことが、日本海海戦の勝因が敵艦隊の進路前方を抑える丁字戦法だったと広く信じられるきっかけとなった(現在では「丁字戦法」否定説も有力)。
大正3年(1914年)4月から大正10年(1921年)3月まで、皇太子裕仁(後の昭和天皇)の教育を担う東宮御学問所幹事を務める。東宮御学問所総裁だった東郷平八郎と親しくなり、東郷の伝記の刊行で東郷の神格化に拍車をかけた。東郷没後には東郷寺建立を呼び掛けた。
昭和5年(1930年)、小笠原長生の著書『撃滅・日本海海戦秘史』(1930年、実業之日本社)の映画化である日活25周年記念映画『撃滅』が製作される。同映画の監督は長男・小笠原明峰(小笠原長隆)*46が務め、また二男・小笠原章二郎が小笠原長生を演じた。

*1:1972年21号から1973年52号まで『週刊マーガレット』(集英社)で連載。フランス・ブルボン朝後期、ルイ15世末期からフランス革命でのアントワネット処刑までを描いている。宝塚歌劇団による舞台化(1974年)の大成功が作品のヒットに拍車をかけ、テレビアニメ(1979~1980年、日本テレビ)、劇場版アニメ(1990年公開)などが制作されて社会現象化した(ベルサイユのばら - Wikipedia参照)。

*2:上智大学教授

*3:2014年からKADOKAWAが運営している無料コミックポータルサイト

*4:これについては宮本雅史対馬が危ない:対馬を席巻する韓国資本』(編著、2009年、産経新聞出版)。宮本には他に「離島の危機」を煽る著書として『報道されない沖縄:沈黙する「国防の島」』(2014年、角川学芸出版)、『爆買いされる日本の領土』(2017年、角川新書)がある。

*5:後北条氏研究の著書が多い。著書『百姓から見た戦国大名』(2006年、ちくま新書)、『戦国大名:政策・統治・戦争』(2014年、平凡社新書)、『真田信之』、『羽柴を名乗った人々』(以上、2016年、角川選書)、『井伊直虎の真実』(2017年、角川選書)、『関東戦国史:北条VS上杉55年戦争の真実』、『戦国大名の危機管理』(以上、2017年、角川ソフィア文庫)、『北条氏政』(2018年、ミネルヴァ書房・日本評伝選)、『戦国大名・伊勢宗瑞』(2019年、角川選書)、『戦国北条五代』(2019年、星海社新書)、『戦国大名北条氏直』(2020年、角川選書)、『戦国北条家の判子行政』(2020年、平凡社新書)、『北条氏綱』(2020年、ミネルヴァ書房・日本評伝選)、『戦国関東覇権史:北条氏康の家臣団』(2021年、角川ソフィア文庫)、『下剋上』(2021年、講談社現代新書)、『国衆:戦国時代のもう一つの主役』(2022年、平凡社新書)など

*6:中先代の乱において自刃したとされる。

*7:著書『謎とき平清盛』(2011年、文春新書)、『武士とはなにか:中世の王権を読み解く』(2013年、角川ソフィア文庫)、『戦いの日本史:武士の時代を読み直す』(2014年、角川選書)、『軍事の日本史:鎌倉・南北朝・室町・戦国時代のリアル』(2018年、朝日新書)、『上皇の日本史』(2018年、中公新書ラクレ)、『承久の乱』(2019年、文春新書)、『暴力と武力の日本中世史』(2020年、朝日文庫)、『北条氏の時代』(2021年、文春新書)、『「合戦」の日本史』(2022年、中公新書ラクレ)など

*8:勿論「敗死を逃れ再起を期すための一時的逃亡」ですが

*9:杉本城の戦いで戦死

*10:康永元年(1342年)9月6日、光厳上皇の牛車に対して、酒に酔った勢いに任せて牛車を蹴倒す(矢を射たとも)という狼藉行為を行った。これを知った足利尊氏の弟・直義は激怒して頼遠を斬首した。頼遠の武勇を評価する各所から助命嘆願が相次いだため直義は「頼遠は厳罰とするが土岐子孫は許す」とした。頼遠のようないわゆる婆娑羅大名には多かれ少なかれ、朝廷などの旧来の権威を軽んじる風潮があったが、直義にとって光厳上皇は兄・尊氏の征夷大将軍任命を行った光明天皇の即位に対する大義名分を保障する権威(治天の君)であり、その権威を揺るがす行為を容認することはすなわち室町幕府の正統性そのものを否定することにもつながりかねない事と考えていた。ゆえに、幕府の正統性を守るためにも光厳上皇の権威の保持を、功臣・頼遠の生命よりも重んじたとされている。

*11:後に足利直義(尊氏の弟)によって謀殺された

*12:関西学院大学教授。著書『首都の経済と室町幕府』(2006年、吉川弘文館)、『室町幕府論』(2010年、講談社選書メチエ)、『足軽の誕生』(2012年、朝日新聞出版)、『徳政令』(2018年、講談社現代新書)、『明智光秀』(2019年、NHK出版新書)

*13:2000年、『午前三時のルースター』(現在、文春文庫)でサントリーミステリー大賞(大賞・読者賞)を、2004年、『ワイルド・ソウル』(現在、新潮文庫)で大藪春彦賞吉川英治文学新人賞日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を、2005年、『君たちに明日はない』(現在、新潮文庫)で山本周五郎賞を受賞。歴史小説としては『室町無頼』の他に『光秀の定理』(2016年、角川文庫)、『信長の原理』(2020年、角川文庫)、『涅槃』(2021年、朝日新聞出版、戦国大名宇喜多直家が主人公)がある。

*14:応仁の乱足軽大将として活躍した骨皮道賢 - Wikipediaが主人公

*15:『午前三時のルースター』がテレビ朝日サントリーミステリー大賞スペシャル」(2000年11月25日)で、『君たちに明日はない』がNHK総合土曜ドラマ」枠(2010年1月16日~2月27日、全6話)で放送

*16:足軽の誕生』(2012年、朝日新聞出版)のこと

*17:室町幕府論』(2010年、講談社選書メチエ)のこと

*18:四天王寺大学立命館大学講師

*19:一般にはTBSでドラマ化された『逃げるは恥だが役に立つ』の作者として知られる

*20:2020年から、『週刊漫画ゴラク』で『鬼ゴロシ』を連載中

*21:著書『喧嘩両成敗の誕生』(2006年、講談社選書メチエ)、『大飢饉、室町社会を襲う!』(2008年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー)、『日本神判史』(2010年、中公新書)、『足利尊氏と関東』(2013年、吉川弘文館)、『耳鼻削ぎの日本史』(2013年、洋泉社歴史新書→2019年、文春学藝ライブラリー)、『戦国大名と分国法』(2018年、岩波新書)、『室町社会史論』(2021年、岩波書店)、『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』(2021年、新潮社)、『室町社会の騒擾と秩序(増補版)』(2022年、講談社学術文庫) など

*22:東京大学史料編纂所助教NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証担当者の一人。著書『鎌倉幕府室町幕府』(共著、2022年、光文社新書

*23:創価大学教授。著書『曽我物語の史実と虚構』(2000年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー)、『源実朝』(2014年、講談社選書メチエ)、『曽我物語の史的研究』(2014年、吉川弘文館)、『承久の乱』(2018年、中公新書)、『源氏将軍断絶』(2020年、PHP新書)、『鎌倉殿と執権北条氏』(2021年、NHK出版新書)、『考証・鎌倉殿をめぐる人びと』(2022年、NHK出版新書)など

*24:立正大学教授。著書『服制と儀式の有職故実』(2008年、吉川弘文館

*25:三谷脚本の大河ドラマは『新選組!』(2004年、近藤勇が主人公)、『真田丸』(2016年、真田信繁が主人公)、『鎌倉殿の13人』(2022年、北条義時が主人公)の3本

*26:信州大学特任助教国際日本文化研究センター機関研究員。著書『戦争の日本中世史』(2014年、新潮選書)、『一揆の原理』(2015年、ちくま学芸文庫)、『応仁の乱』(2016年、中公新書)、『陰謀の日本中世史』(2018年、角川新書)、『日本中世への招待』(2020年、朝日新書)、『頼朝と義時』(2021年、講談社現代新書)、『戦国武将、虚像と実像』(2022年、角川新書)、『武士とは何か』(2022年10月刊行予定、新潮選書)など

*27:「不適切」というより「誹謗中傷」と言うべきでしょう。

*28:勿論実際の所は不明です。「諭旨退職」のような「NHKからの説得による降板申し出(事実上、NHKによる更迭)」の可能性は当然あるでしょう。

*29:なお、木下論文に寄れば呉座の後任として、『中世公武関係と承久の乱』(2015年、吉川弘文館)の著書がある長村祥知・富山大学講師が時代考証担当者に就任したとのこと。

*30:シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち:近世の観劇と読書』(2018年、白水社)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か:不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(2019年、書肆侃侃房)、『批評の教室』(2021年、ちくま新書)、『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード:ジェンダーフェミニズム批評入門』(2022年、文藝春秋)などの著書がある北村紗衣氏のこと。

*31:呉座本人やシンパが編集してるのか、呉座勇一 - Wikipediaに「例の不祥事」について全く記載がないことには呆れます。

*32:どう見てもトラブルメーカーの呉座を避けたのでしょう。失礼ながら木下氏に単著がないのに対して、呉座には単著が複数ありますし。

*33:國學院大學栃木短期大学教授

*34:那須歴史探訪館学芸員那須資料ネット事務局長

*35:防衛大学校名誉教授。著書『東郷平八郎』(1999年、ちくま新書)、『BC級戦犯』(2002年、ちくま新書)、『秋山真之』(2004年、吉川弘文館人物叢書)、『マッカーサーと戦った日本軍:ニューギニア戦の記録』(2009年、ゆまに書房)、『復員・引揚げの研究』(2010年、新人物往来社)、『山本五十六』(2010年、吉川弘文館人物叢書)、『消されたマッカーサーの戦い』(2014年、吉川弘文館)、『横須賀鎮守府』(2017年、有隣新書)など

*36:1867~1958年。江戸幕府老中を務めた唐津藩主・小笠原長行の長男として生まれる。常磐艦長、香取艦長、軍令部参謀、東宮御学問所幹事、宮中顧問官など歴任。『東郷元帥詳伝』(1921年春陽堂)、『乃木将軍と東郷元帥』(1927年、興文社)、『撃滅・日本海海戦秘史』(1930年、実業之日本社)、『聖将東郷平八郎伝』(1931年、改造社)、『晩年の東郷元帥』(1934年、改造社)、『東郷元帥』(1934年、建設社)、『東郷元帥』(1937年、大日本雄弁会講談社)、『東郷平八郎』(1940年、三教書院)などの著書によって東郷神格化に貢献した人物として知られる。

*37:2021年、吉川弘文館

*38:龍谷大学講師。著書『昭和戦時期の海軍と政治』 (2013年、吉川弘文館)、『海軍将校たちの太平洋戦争』 (2014年、吉川弘文館歴史文化ライブラリー )、『日本海軍と政治』 (2015年、講談社現代新書

*39:日露戦争において連合艦隊司令長官として日本海海戦に勝利。その後も海軍軍令部長東宮御学問所総裁を歴任。昭和5年(1930年)のロンドン海軍軍縮会議においていわゆる艦隊派の立場に立ったことで知られる。死後、東郷神社が建立された。

*40:海軍元帥については 元帥 (日本) - Wikipedia参照

*41:軍令部次長、第二艦隊司令長官、連合艦隊司令長官、第一次近衛内閣内務相など歴任

*42:連合艦隊司令長官、海軍軍令部長など歴任

*43:佐世保鎮守府司令長官、軍令部総長など歴任

*44:海軍航空本部長、海軍兵学校長、海軍次官など歴任

*45:第三特務艦隊司令官など歴任

*46:明峰(長隆)は長生の長男であり、「第15代小笠原家当主」となる立場であったが、映画界に入ったため、1935年1月に廃嫡となる。俳優となった次男章二郎も同様に廃嫡され、さらに三男長孝(ながよし、1915年2月~1946年9月)は父長生に先立って没したため、家督は四男長勝が継承した。