2022年には、新規の死刑の確定者が出ないかもしれない(死刑判決自体も、地裁では現段階なし)(追記あり)

2022年には、新規の死刑の確定者が出ないかもしれない(死刑判決自体も、地裁では現段階なし) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)関係の記事です。
【判決前】

間接証拠による立証、裁判員らの判断は 堺の父弟殺害事件で死刑求刑:朝日新聞デジタル
 堺市で2018年、父親と弟を殺したとして、殺人罪などに問われた無職足立朱美被告(48)=同市南区=の裁判員裁判の判決が29日、大阪地裁である。検察側は間接証拠をもとに死刑を求刑し、弁護側は無罪を主張している。裁判員らの判断が注目される。
 起訴状によると、足立被告は18年1月、同市中区の実家で、父親の富夫さん(当時67)に多量のインスリンを注射して低血糖脳症などに陥らせ、約5カ月後に殺害した▽同年3月、弟の聖光(まさみつ)さん(当時40)に睡眠薬を飲ませて眠らせ、実家のトイレで練炭を燃やして一酸化炭素中毒で殺害した▽聖光さんの妻らを中傷*1する文書を近所の車のワイパーに挟み込むなどした――とされ、殺人と名誉毀損、器物損壊の罪に問われている。
 足立被告は公判で「特に申し上げることはございません」などと述べた以外、黙秘を続けた。
 一つ目の争点は、富夫さんの死因だ。
 検察側は、インスリン投与による低血糖脳症で意識障害に陥ったことががんの適切な治療を妨げ、適切な栄養摂取を困難にして衰弱させ、誤嚥性肺炎を引き起こしたとした。一方、弁護側は、末期がんで衰弱していたため、家族が栄養の減量を希望するなどした結果、病死したとしている。
 二つ目の争点は、足立被告が富夫さんを殺害した犯人といえるかどうか(犯人性)。
 検察側は、足立被告がスマートフォンで「インスリン 多量 摂取」「低血糖放置で死ぬ?」などと何度も検索していた▽富夫さんはインスリンの投与歴が長く、本人が過って投与することはない――などとして足立被告による犯行だと主張。これに対し、弁護側は、スマホインスリンに関する検索をしていたのは、富夫さんを心配した可能性があり、殺意を示す証拠にはならない▽富夫さんが自ら投与して無自覚性低血糖*2に陥った可能性もある――などと反論した。
 三つ目の争点は、聖光さんの死亡をめぐる犯人性。
 検察側は、足立被告の名義で練炭がネット注文されていた▽足立被告のスマホの位置情報が実家を示していた期間に、実家のパソコンで聖光さんの「遺書」が作られた痕跡がある――などとして、足立被告が練炭自殺を装い、聖光さんを殺害したと主張した。
 一方、弁護側は、第三者が被告名義で練炭を注文した可能性がある*3▽足立被告のスマホの位置情報が実家を示していない日にも、「遺書」が作られた痕跡があった――などとし、足立被告による犯行だと十分に立証できていないとした。
 量刑をめぐる論告と最終弁論では、検察側は「2度にわたって人を殺害しており、生命軽視が甚だしい」として死刑を求刑。無罪を主張する弁護側は、仮に被告の犯行だったとしても「死刑を言い渡すような執拗さや残虐さはない」と死刑の回避を求めた。

 殺人だけ起訴でもいいところ、青字部分の起訴は「自分が犯人でありながら、被害者遺族を誹謗するとは、反省の意思も更生の見込みもなく、極刑(死刑)で望むしかない」という考えを検察が裁判官や裁判員に抱かせたかったのでしょう。
 結論としては「無罪かどうか」については検察の主張「有罪」を認め「量刑」については「死刑回避」で弁護側の主張を認めました。


【判決後】

堺の父殺害、弟は自殺偽装の女性被告に無期懲役判決 大阪地裁 | 毎日新聞
 堺市で2018年に父親と弟を殺害したとして殺人罪などに問われた水道工事会社元社長の足立朱美(あけみ)被告(48)の裁判員裁判の判決で、大阪地裁は29日、無期懲役(求刑・死刑)を言い渡した。坂口裕俊裁判長は「被害は非常に重大で、到底許されるものではない。生涯をかけて罪と向き合うべきだ*4」と述べた。
 判決によると、足立被告は堺市中区の実家で18年1月、がんや糖尿病を患っていた父親の富夫さん(当時67歳)に注射器でインスリンを過剰投与。低血糖脳症などで約5カ月後に死亡させたほか、18年3月には弟で建築会社社長だった聖光(まさみつ)さん(同40歳)に睡眠薬を飲ませ、トイレで練炭を燃やして一酸化炭素中毒死させた。
 足立被告は8月の初公判以降、20回以上開かれた裁判で黙秘*5を続け、被告人質問も実施されなかった。弁護人は無罪を主張し、足立被告が事件に関与したかどうかが最大の争点だった。
 弁護側は「父親は末期がんによる病死」と主張したが、判決は富夫さんが救急搬送された際の血糖値や意識障害の状況などを踏まえ、インスリンの過剰投与と死亡との因果関係を認めた。そのうえで、被告は低血糖と死亡の関係をインターネットで何度も検索していたなどとして、殺害に関与したと判断した。
 聖光さんの事件については、富夫さんの体調不良に聖光さんが関わったとするうその遺書を被告が準備していた状況などを挙げ、聖光さんを自殺に見せかけて殺害したと認定。坂口裁判長は「動機は悪質で、当時中高生の子供たちの成長を見届けることもできずに亡くなった無念さは察するに余りある」と指弾した。
 一方で、判決は富夫さん殺害の動機は不明になっていると指摘。過去の死刑事件と比べて悪質性が高いとは評価できないとして、死刑を回避した。

父と弟殺害で女に無期懲役 大阪地裁「結果は重大」:東京新聞 TOKYO Web
 堺市で2018年、がんや糖尿病を患っていた父親にインスリンを過剰に投与して死亡させ、弟を練炭自殺に見せかけて殺害したとして、殺人罪などに問われた無職足立朱美被告(48)の裁判員裁判の判決で、大阪地裁は29日、「2人の命を奪った結果は重大」として無期懲役を言い渡した。求刑は死刑だった。
 弁護側は「殺害の動機がなく、犯人ではない」と無罪を主張。坂口裕俊裁判長は、スマートフォンの位置情報や検索履歴などの状況証拠を踏まえ、被告による計画的な犯行だと認定した。一方で過去に死刑判決となった同種事件と比べて悪質性は高いとは言えないなどとして死刑を回避した。

「生命軽視の度合い高い」父と弟殺害の48歳女に無期懲役、極刑は回避 大阪地裁 - 産経ニュース
 堺市で平成30年、インスリン製剤を投与して父親を、練炭自殺を装って弟を殺害したとして、殺人罪などに問われた無職、足立朱美被告(48)に対する裁判員裁判の判決公判が29日、大阪地裁で開かれた。坂口裕俊裁判長は「生命軽視の度合いが高く、結果は重大」として無期懲役(求刑死刑)を言い渡した。
 弁護側は無罪を主張し、足立被告は認否を黙秘していた。坂口裁判長は、間接証拠から足立被告が2人を殺害したと認めたものの、ほかの死刑判決事案と悪質性を比較して極刑を回避した。
 判決理由で、父親の富夫さん=当時(67)=は低血糖脳症によって誤嚥性肺炎を引き起こし、摂取する栄養量の低下につながったとして、インスリン投与と死亡との因果関係を認定。弁護側の「がんによる病死」との主張を退けた。
 また、足立被告が「低血糖死亡」と検索していたことなどを踏まえ、「殺意を持って投与したことは間違いない」とした。
 弟の聖光(まさみつ)さん=当時(40)=については、足立被告が事前に練炭を購入し、遺体から検出された睡眠薬の成分も被告が処方されていたものと一致すると指摘。富夫さんへのインスリン投与をほのめかす聖光さん名義の「遺書」が見つかったが、パソコンの使用履歴などから文書を作成したのは足立被告と判断し、「犯行の責任をなすりつけるために自殺に見せかけて殺害した」と批判した。
 量刑については、聖光さん殺害を「動機は自己中心的」と指弾。一方、富夫さんはがんによる衰弱とあいまって死亡しており、「ほかの死刑事案と比べて非難の程度は劣る」とし、無期懲役が相当とした。
 判決によると、30年1月、堺市中区の実家で、富夫さんに多量のインスリン製剤を投与し、同年6月に死亡させた。同年3月には、聖光さんを睡眠薬で眠らせた上でトイレ内で練炭を燃焼させて一酸化炭素中毒により殺害した。

父弟を殺害した女に無期懲役の判決 裁判所『死刑の選択がやむを得ないとは言えない』 | MBSニュース
 4年前、大阪府堺市で父親と弟を殺害したなどの罪に問われた女に対して、大阪地裁は無期懲役を言い渡しました。
 堺市の足立朱美被告(48)は2018年、父親の富夫さん(当時67)に大量のインスリンを投与して殺害し、弟の聖光さん(当時40)を練炭自殺に見せかけて殺害したなどの罪に問われています。
 裁判で一貫して黙秘を続ける足立被告に対して検察側は死刑を求刑。一方、弁護側は無罪を主張していました。
 11月29日の判決で大阪地裁は、父親の死亡について「足立被告が投与したインスリンと死亡には因果関係がある」と指摘し、弟についても「自殺をうかがわせる事情はない」として、2人を殺害したと認定。そのうえで、弟の殺害動機が不明であることや、遺族が極刑を望んでいないことを踏まえて「死刑の選択がやむを得ないとは言えない」として、足立被告に無期懲役を言い渡しました。

父親と弟の殺害で起訴の被告に無期懲役の判決 大阪地裁 | NHK | 事件
 大阪堺市で糖尿病を患っていた父親にインシュリンを大量に投与して殺害したほか、弟を練炭自殺に見せかけて殺害した罪などに問われた48歳の被告に対し、大阪地方裁判所は2人を殺害したと認め、無期懲役を言い渡しました。弁護側は、無罪を主張していました。
 堺市南区の元会社役員、足立朱美被告(48)は、平成30年1月、市内の実家でがんや糖尿病を患っていた父親の富夫さん(当時67)に大量のインシュリンを投与して低血糖状態にして殺害したほか、2か月後には、弟の聖光さん(当時40)を練炭自殺に見せかけて殺害したとして、殺人などの罪に問われました。
 これまでの裁判で、検察が死刑を求刑した一方、弁護側は被告に家族を殺す動機はなく、父親は病死の可能性があるなどとして無罪を主張していました。
 29日の判決で、大阪地方裁判所の坂口裕俊裁判長は、「被告は、死亡する危険性を認識しながら父親を低血糖状態のまま7時間以上放置した。パソコンの入力履歴やスマートフォンの位置情報などから被告が弟のうその遺書を作成したのは明らかで、父親の事件の犯行をなすりつけようとした」などと指摘し、父親と弟の2人を殺害したと認めました。
 そのうえで「2人の命を奪った結果は重大で弟の殺人の動機は自己中心的だ。生命を軽視しているが父親の殺人は動機が不明でほかの死刑判決と比べると行為の危険性も比較的低い」などとして足立被告に無期懲役を言い渡しました。
 死刑の求刑に対し無期懲役が言い渡されたことについて、大阪地方検察庁の小弓場(こゆば)文彦次席検事は「判決の内容を精査して適切に対応したい」とコメントしています。
 無罪を主張していた被告の弁護士は、判決のあと報道陣に対し「コメントしません*6」と話しました。
 この事件は裁判員裁判で審理され、被告が父親と弟を殺害したとする直接的な証拠や目撃証言などがない中での判断となりました。
 裁判員を務めた女性は「結局証拠として出てきたものに『絶対的にこの人がやりました』という確定的なものはなかったので、一つ一つ積み重ねて判断したものがほとんどだった。見方が変われば結果が変わる事件だったと思う。真実を見極めるのがすごく大変でした」と話していました。

 と言うことで紹介しておきます。赤字部分が死刑回避理由、青字部分が無期懲役理由です。
 (勿論裁判官の示唆はあったでしょうが)裁判員が「死刑を回避し無期にした」のは「被告人が完全黙秘」であることから
1)多分真犯人と思うが、状況証拠しかないし、冤罪だったらどうしようという恐怖
2)真犯人だとしても「完全黙秘」の人間を死刑にして意味があるのか、犯行動機を語るように働きかけるべきではないかという悩み
ではないか。もちろん遺族が極刑を望んでいないことも大きいでしょう。
 しかしこれで控訴したら(「判決を精査する」という検事の口ぶりでは控訴する可能性は十分あると思いますが)裁判員裁判なので
そんなことを言うのであれば、検察は今後裁判員裁判では、量刑不当の控訴はしないのかという話になる - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
検察は、裁判員裁判での量刑を最大限尊重するんじゃなかったっけ - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
検察は、かつての主張を撤回したのかな - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
と言う批判がまた該当しますね。

【追記】
新潟女性殺害の無期判決不服、地検控訴 求刑は死刑 - 産経ニュース
 新潟事件は裁判員裁判ですので
そんなことを言うのであれば、検察は今後裁判員裁判では、量刑不当の控訴はしないのかという話になる - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
検察は、裁判員裁判での量刑を最大限尊重するんじゃなかったっけ - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
検察は、かつての主張を撤回したのかな - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
と言う批判がまた該当します。検察も全く恥知らずな役所です。

*1:どういう文書か気になるところです。「二人の死が他殺だとしても私はやってない。弟の妻の犯行じゃないか」と言う文書でしょうか?

*2:この事件はともかく一般論で言えば、インスリン過剰摂取による無自覚性低血糖症もあるようです。

*3:ミステリ小説でよくある設定ですが、現実にはあまりないかと思います。

*4:無期だからある意味当然ですが「死んで償え(死刑)」ではなく「生涯をかけて罪と向き合うべきだ(つまりは死刑廃止)」があるべき司法の態度かと思います。

*5:勿論、褒めてないのですが「完全黙秘」とは随分と気合いが入ってるもんです。冤罪被害者であれ、真犯人であれ「自分は無実だ」「確かに犯人は自分だが、自分にもこういう事情があった、一方的に非難されるいわれはない(言い訳)」「被害者に申し訳ない(反省)」とか何か言いたくなるのが普通の人間でしょう。もしかして弁護士相手にも「完全黙秘」だったのか。であるなら弁護士も頭が痛かったでしょう。

*6:コメントしないので「無罪を求めて控訴するのか」等は現時点ではわかりません。