選択的夫婦別姓へ法改正を/日本 4度目の勧告/国連女性差別撤廃委 選択議定書批准も
男女の賃金格差は依然として大きく、女性のパートタイムや低賃金労働の割合が高いと指摘。出産や育児で職務上差別を受けていることや、女性の家事労働の負担が多いと指摘しました。女性の雇用環境の整備や間接差別を広く考慮すること、中小企業にも男女賃金格差の公表義務を広げること*1を求めました。
政治分野における男女共同参画推進法の強化、立候補時の供託金減額など暫定的な措置の必要性にも触れました。
リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)について、人工妊娠中絶薬の費用引き下げや、母体保護法を改正し(ボーガス注:人工妊娠中絶手術の)配偶者同意の要件*2を削除するよう要求しています。
▽沖縄の女性に対する在日米軍兵士の性暴力防止と加害者への処罰*3▽性暴力の防止と被害者のための保護施設や支援体制の充実▽シングルマザーや高齢女性の貧困対策*4▽同性婚の法制化▽男女の固定観念の助長*5の防止▽所得税法56条を改正し、家族経営における女性の労働を認めること―なども求めました。
マスコミ報道では専ら「夫婦別姓」「女性天皇(自民、維新、産経など右派が「内政干渉」と猛反発)」が取り上げられてる気がしますが、他にも「男女平等」に関し、上記のような問題が指摘されています(一方、赤旗記事では女性天皇については触れていません)。
なお、立候補時の供託金減額、つまり「供託金が高すぎる問題」は勿論「経済的弱者が多い女性の立候補」を阻害していますが、それに留まらず「自民、立民など大政党に有利」で「女性に限らず、経済的弱者の立候補を阻害しています」。「女性限定の減免」ではなく、現在の供託金は廃止されるか、大幅に減額されるべきです。とはいえ「供託金の高さ」に批判的でない人間に比べれば、国連委員会の態度は全くもって「正論」「まとも」ですが。
なお、「勧告は4度目」だそうですが過去の勧告については以下を紹介しておきます。
民法改正「1年以内に」/国連女性差別撤廃委が勧告2011.12.1
国連女性差別撤廃委員会は日本政府に対し、選択的夫婦別姓制度の導入などの「民法改正法案の採択」のとりくみを今後「1年以内」に国連に報告するよう求める勧告を11月30日までに出しました。
具体的には、民法改正法案(婚姻年齢を男女とも18歳に統一*6、選択的夫婦別姓制度の導入、婚外子と婚内子の相続分の同等化*7)の採択(国会提出のための閣議決定など)について講じた措置を1年以内に報告することを求めました。また、政府の民法改正法案に含まれていなかった、女性のみに課せられている6カ月の再婚禁止期間の廃止*8についても法規定と1年以内の報告を求めています。
ということで「2011年(今から13年前:当時は野田*9首相(勿論、現在の野田立民党代表と同一人物))にも夫婦別姓導入を求める国連勧告が出ていた」のに「野田首相以降、現在の石破首相に至るまで」ネグり続けたわけです。そんな野田が果たして「夫婦別姓導入」にどこまで動くか怪しいもんです。
民法の女性差別撤廃 再勧告/国連委 「慰安婦」問題で遺憾表明2016.3.9
前回勧告で「直ちに是正すべき」とされた夫婦同姓の強制、結婚最低年齢の男女差*10、女性のみに適用される再婚禁止期間*11などの民法の差別的規定が改正されていないことに対し、改正のための即時措置を再び勧告しています。
日本軍「慰安婦」問題については、被害者への補償、加害者処罰、教育を含む「永続的な解決」など、同委員会をはじめ国際諸機関からの勧告が実施されていないと遺憾を表明。
同一価値労働同一賃金の原則に基づいて男女の賃金格差を縮小すること、雇用差別にあった女性の司法へのアクセスを保証し職場でのセクハラを禁止・防止する法的措置をとることを要請しています。
女性立候補者の供託金減額を勧告 国連差別撤廃委、国会での平等を | 共同通信
国連の女性差別撤廃委員会が29日公表した最終見解は、日本政府に対し、国会での男女平等を進めるため、女性が選挙に立候補する場合、300万円の供託金を一時的に減額する措置を取るよう勧告した。最終見解は、供託金減額を最重要事項の「フォローアップ項目」の一つに位置付け、2年以内に実施した取り組み内容を改めて文書で提出するよう日本政府に求めた*12。
女性立候補者の供託金減額を勧告 国連差別撤廃委、国会での平等を:東京新聞 TOKYO Web2024.10.30
国連の女性差別撤廃委員会が29日公表した最終見解は、日本政府に対し、国会での男女平等を進めるため、女性が選挙に立候補する場合、300万円の供託金を一時的に減額する措置を取るよう勧告した。
こうした報道をした共同通信、東京新聞を大いに評価したい。日本では「供託金の高さ」はあまり批判されませんからね。そもそも共産党など一部を除き「政党からの批判」も少ないし。但し個人的には「女性だけの問題」ではなく、また「減額ではなく廃止すべき」と思いますが、こうした問題意識がない連中よりは今回の国連勧告はずっとまともです。
国連女性差別撤廃委、日本に夫婦別姓の導入を勧告 皇室典範の改正も:朝日新聞デジタル
最終見解は性的少数者の人権をめぐり、同性婚を認めること、昨秋の最高裁判決で違憲・無効となった性同一性障害特例法の生殖不能要件のもと不妊手術を受けた人への賠償を要請。
違法な手術だから当然そうなるでしょう。性格が違うとは言え「先日の障害者等への不妊強制手術での最高裁判決(国家賠償を認めた)」と考え方は同じでしょう。
日本に選択的夫婦別姓の導入を勧告 国連女性差別撤廃委が最終見解 | 毎日新聞
慰安婦問題にも触れ、被害者らの賠償請求などの権利を保証する努力を続けていくよう日本政府に求めた。
国連女子差別撤廃委員会、質問せずにアニメなどを「女性に対する性的暴力強化」扱い 漫画家・議員が憤慨/サブカル系/芸能/デイリースポーツ online
まあ「以前からの話」ですが、レドマツ(赤松)&デイリースポーツらしいバカさですね。「どんなエロ表現でも、法規制も、自主規制も何も無しで、野放しでOKです」なんてバカな話が通るわけがないし、こいつら「表現の自由戦士(蔑称)」がこだわるのはエロ表現だけでそれ以外の表現には無関心ですし。
澤藤統一郎の憲法日記 » 「皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項」なんちゃって。そりゃ、ないよ。
国連の「女性差別撤廃委員会」が(中略)「日本の伝統的な家族制度」の基盤にまで切り込んだ。それが、皇室典範改正の勧告である。さすが国連である、立派なものだ。
当然のことながら、身分差別の残滓である天皇制そのものが「日本の伝統的な負の遺産」ではある。しかし、(中略)ジェンダーギャップ解消の勧告においては、皇位継承権や順位に、性差を除去すればよいと、控え目に考えたのであろう。
これに対する政府の反応が滑稽なほどヒステリックである。「林芳正*13官房長官は30日の記者会見で、国連の女性差別撤廃委員会が女性皇族による皇位継承を認めていない皇室典範の改正を勧告したことについて、『大変遺憾であり、委員会側に強く抗議し、削除の申し入れを行った』と明らかにした。林氏は『皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項であり、女性に対する差別の撤廃を目的とする女子差別撤廃条約の趣旨に照らし、委員会が皇室典範について取り上げることは適当ではない』と指摘した。」(朝日新聞)
「皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項」なんて言ってはいけない。そりゃ、天皇に主権があったという大日本帝国憲法時代の話じゃないか。国民主権の今、皇室典範は国民の意思次第で変えられる。
「国家の基本」よりは「人権の保障」が数段大切でしょ。国民の人権保障に有害であれば、国民過半数の意思で天皇制の廃絶だってできる。
それにしても、こういうときによく分かる。天皇制・国体思想が、いまだに世にはびこり、人を惑わして人権侵害の温床となっていることが。
全く同感ですね。「女性天皇に反対するようだからジェンダーギャップ指数が低い」と言うべきでしょう。
【追記】
コメント欄でご指摘があったリヒテンシュタインについては以下を紹介しておきます。
男女問わず長子継承へ 国民の声にも動かされた欧州王室 識者に聞く:朝日新聞デジタル2024.10.30
国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が29日、日本の皇位継承は男女平等が保障されていないとして、男系男子のみを継承者と定める皇室典範の改正を勧告しました。世界を見ると、欧州の王室が20世紀に入って女性への継承の道を広げてきました。各国の王室事情に詳しい関東学院大学の君塚直隆*14教授(英国政治外交史)に聞きました。
◆君塚
男系中心だった欧州の王室にも、20世紀になってから男女平等の考え方が広まってきた。2度の世界大戦を通じて、女性がさまざまな分野の労働を担うようになり、男女同権意識が醸成された結果、普通選挙などが実現した。そうした社会変化が君主制にも反映され、男女を問わず第1子が王位を継承する「長子相続」制をとる国が増えてきた。
欧州で君主制を維持する主な国々の中で、リヒテンシュタイン以外は女性も王位継承できるようになった。スペインでは、女性が王位継承できるものの、その女性に弟ができた場合は弟の継承権が優先される「男子優先」の仕組みが残っている。
なお、
「ローマ教皇やダライ・ラマも男性」と国連で反論 葛城奈海氏、日本の皇位継承への批判に - 産経ニュース2024.10.21
ある委員は皇室について「リスペクトしている」と述べ、「ただ、われわれはスペインなど王室のある国に対して同じことを言っている。日本に対しても平等の観点から言っている。(ボーガス注:勿論勧告に従って欲しいが、法的拘束力はないので)聞くか聞かないかは(ボーガス注:日本政府の)自由だ」と語ったという。
ということで弟の継承権が優先される「男子優先」というスペインについても、リヒテンシュタインや日本同様に「女性差別ではないか」の指摘が国連女性差別撤廃委員会からあるようです。
*1:現在は女性活躍推進法によって、常用労働者が300人未満の中小企業には「男女賃金格差の公表義務」はない(301人以上の企業には公表義務がある)。
*2:但し「配偶者が死亡したとき」「(失踪、身体障害等で)配偶者がその意思表示ができないとき」「DVなど婚姻関係が破綻しており配偶者の同意を得ることが困難なとき」は同意不要。また、18歳未満の場合は、保護者や親権者の同意も必要(人工妊娠中絶で配偶者の同意は必要か 日本の産婦人科医たちの戸惑い - ジェンダーをこえて考えよう - NHK みんなでプラス参照)
*3:国連、日本政府へ初の勧告 在沖米軍人の性暴力で加害者処罰と被害者への補償 女性差別撤廃委員会が最終見解 | 沖縄タイムス+プラスなど、沖縄のメディアはこうした問題に触れてるようですが、本土のメディアがあまりにも冷淡だと思います。なお、失礼ながら赤旗記事が分かりづらいですが、国連が問題にしてるのはやはり「日米地位協定」でしょうね(米兵不起訴密約など「密約まで問題にしてるか」は記事だけでは不明です。)。
*4:「女性差別撤廃」だから「シングルマザーや高齢女性」なのであって「シングルファーザーや高齢男性」の貧困対策も必要なのは当然です。
*5:「天皇は女性でなきゃダメだ」なんてのはもろに「男女の固定観念の助長」にあたるでしょう。
*6:なお、2022年4月の民法改正によって男女とも18歳に統一(それ以前は女性15歳、男性18歳)
*7:「婚外子は、婚内子の相続分の1/2」だったが、その後、最高裁の違憲判決(2013年9月:なお、それ以前には合憲判決が出ており判例変更がされた)が出たため相続分を同じとする民法改正が2013年12月にされた
*8:その後、「期間が不当に長い」とする最高裁の違憲判決(2015年12月)が出たため2016年6月に民法が改正され、再婚禁止期間は100日に短縮された(但し、DNA鑑定等によって親子関係は容易に判断できるため、再婚禁止期間自体が不要とする廃止論も未だ有力)
*9:鳩山内閣財務副大臣、菅内閣財務相、首相、民進党幹事長(蓮舫代表時代)、立民党最高顧問等を経て立民党代表
*10:なお、2022年4月の民法改正によって男女とも18歳に統一(それ以前は女性15歳、男性18歳)
*11:その後、2016年6月に民法が改正され、再婚禁止期間は100日に短縮された(但し、DNA鑑定等によって親子関係は容易に判断できるため、再婚禁止期間自体が不要とする廃止論も未だ有力)
*12:今の自民政権では「法的強制力はない」と居直って何もせず放置しそうで何ともかんとも
*13:福田内閣防衛相、麻生内閣経済財政担当相、第二次、第三次安倍内閣農水相、第四次安倍内閣文科相、岸田内閣外相、官房長官等を経て石破内閣官房長官
*14:著書『ヴィクトリア女王』(2007年、中公新書)、『女王陛下の外交戦略:エリザベス二世と「三つのサークル」』(2008年、講談社)、『ジョージ四世の夢のあと』(2009年、中央公論新社)、『ジョージ五世』(2011年、日経プレミア)、『チャールズ皇太子の地球環境戦略』(2013年、勁草書房)、『女王陛下のブルーリボン:英国勲章外交史』(2014年、中公文庫)、『肖像画で読み解くイギリス王室の物語』(2015年、光文社知恵の森文庫)、『立憲君主制の現在:日本人は「象徴天皇」を維持できるか』(2018年、新潮選書)、『エリザベス女王』(2020年、中公新書)、『王室外交物語』(2021年、光文社新書)、『イギリス国王とは、なにか』(2024年、NHK出版)、『君主制とはなんだろうか』(2024年、ちくまプリマー新書)等