高世仁に突っ込む(2025年5/7日分)

ウクライナのジャーナリストが語る「報道の使命」 - 高世仁のジャーナルな日々

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)は2日、2025年の世界各国の報道自由度ランキングを発表した。対象180カ国・地域のうち、日本は66位で昨年から四つ順位を上げた

 あくまでRSFの主観的評価に過ぎませんが「順位を下げる理由ならともかく上げる理由なんかあるのか?」ですね。
 それとも相対評価に過ぎないので「他が下がったから日本が上がっただけ」なのか?

 以下は2023年3月に『朝日新聞』が配信した彼女のインタビュー記事《「事実と民主主義を手に戦う」 ウクライナプラウダ編集長の決意》(キーウ=喜田尚)の一部である。
「事実と民主主義を手に戦う」 ウクライナ・プラウダ編集長の決意:朝日新聞
◆喜田
 戦時体制下で、ウクライナのメディアにはどんな影響が出ていますか。
◆ムサイエワ
 我々はウクライナ軍の死傷者の数は報じません。戦時では機密情報にあたり、我々はそうした制約を受け入れています。ただ、私たちが今議論しているのは外からの圧力ではなく、記者たちによる自己規制についてです。たとえば、汚職を報じることが欧米の不信を引き起こし、ウクライナに対する国際的な支援を壊してしまうのではないか、と記者自身が恐れる問題です。

 死傷者は機密情報に当たるんですかね?
 単に「ウクライナ国民の戦意低下*1」「ロシアの戦意高揚」「外国の支援意欲低下」を恐れて報じないだけでしょう。
 勿論「過去においても、多くの国で、多くの場合、死傷者数は恐らく報じられてこなかったであろう」とはいえ、ここまで戦争が長期化(2022年2月の侵攻から約3年)すると「このまま戦争を続けていいのか」という議論を始めるべきではないのか、そのためにも「『今月のA地域(あるいはA部隊)での戦死者はホニャララ人、負傷者はホニャララ人、B地域(B部隊)での(以下略)』のような詳細な形ではなく、『開戦から現在までで、死傷者数は約ホニャララ人』のようなアバウトな形でも死傷者数は報じるべきではないのか」という気はします。
 そもそもこうした態度は「自国兵士の死傷者数を報じないロシア」「いわゆる戦前日本の大本営発表」と何が違うのか。
 これらも「問題ない行為だった」のか。それとも「侵略軍(戦前日本やプーチンロシア)は悪だから死傷者を隠す事は許されないが、防衛軍(ウクライナ)は正義の立場だからやむを得ない」というのがムサイエワ氏や高世の立場なのか?
 あるいは「死傷者数が報じられたこと」で反戦運動が活発化し、米軍やソ連軍が撤退に追い込まれたベトナム戦争やアフガン侵攻との整合性はどうなっているのか。

◆喜田
 ロシアが侵攻する今、政府への批判はロシアを利する可能性があるということですね。バランスをどう考えますか。
◆ムサイエワ
 「戦時下では、人々もジャーナリズムに対して批判的になる。ある種の記事について見せない方がよいこともある、というのです。ロシア兵による性的暴力の告発に力を入れたリュドミラ・デニソワ氏が昨年5月に議会が指名する人権オンブズマンを解任された問題*2で、私はそれを体験しました」
 「私たちは取材の結果、彼女がロシア兵による性的暴力のいくつかのケースでウソをつき、国連児童基金UNICEF)の資金を不正に受け取っていたことをつかみ、報じました。彼女が告発したケースは多くが事実でしたが、そうでないもの*3もあったのです」
 「多くの人々がこの報道や報じた記者を強く批判しました。今はこれを報じるときではない、と。しかし、我々は事実と民主主義の価値を手に戦っています。私はこういうケースにおいてこそ、我々はロシアとは違うんだということを見せなければならない、と考えます」

 事実ならば、日本で言えば「慰安婦問題での吉田清治証言」のようなもんですが批判しないわけにもいかないでしょう。
 一方で「吉田証言をネタにした慰安婦違法性否定論」がデマなのと同様、この件で「ロシア兵の性暴力は1件も無かった」というのもデマでしょう(ロシア兵の性暴力については例えばロシアのウクライナ侵攻における性暴力 - Wikipedia参照)。
 なお、気になるのは「ウクライナ兵による性暴力の有無」ですね。
 ググったところ以下の記事がヒットしたので、「ロシアと同一視は出来ない*4」ものの、残念ながら「皆無」というわけでもなさそうです。
 そして「ロシアを有利に出来ない」という圧力で「黙らされてる面」がありそうですね。こうした問題をムサイエワ氏が報じてるのかどうか、報じてないとして認識してないのか、認識した上で「ロシアを有利にしたくない」と言う考えであえて報じてないのか知りたいところです。

ウクライナ紛争には「性暴力」が蔓延している 捕虜や民間人を屈服させるためレイプを奨励 | ニューズウィーク日本版 | 東洋経済オンライン2017.12.19
 ウクライナ政府軍も親ロシア派武装勢力も、捕虜や民間人を屈服させるためにレイプを奨励している。
(中略)
 親ロ派の支配地域では住民は武装勢力の横暴に逆らえず、性暴力の取り締まりなど望めない。一方、ウクライナ政府の支配地域でも性暴力事件で警察が捜査に乗り出すことは期待できず、せいぜい形式的な捜査が行われる程度だ。ウクライナ政府は兵士が犯した罪を不問に付しているとの批判も聞かれる。

 2017年の記事なので今は違うかもしれませんが、いずれにせよ事実ならば「ウクライナも性暴力について無実ではない」わけです。

14色のペン:女性兵士が語れなかった「性暴力」=牧野宏美(デジタル編集本部) | 毎日新聞2023.3.2
 昨年3月、証言を複数紹介しながら、女性志願兵が多かった理由などを識者*5に解説してもらう記事声をつないで:なぜ志願兵に?「戦争は女の顔をしていない」が今問いかけるもの | 毎日新聞を書いた。
 その際、気になりながらもどう解釈していいか分からず、取り上げなかった証言があった。語り言葉なので話はあちこちに飛ぶが、要約するとこんな内容だ。「ソフィヤ・K」と名乗る、衛生指導員。自身を軍の第1隊長の「戦争の間だけの現地妻」だったと明かす。
(以下有料記事なので省略)

 毎日新聞の牧野記者も「基本的にはロシア批判、ウクライナ擁護」とはいえ、こうした問題点を無視していいのかという思いからの記事かと思います。まあ、ならば「無料記事にして全文読めるようにして欲しい」気もしますが。
 おそらく「立場の弱い女性兵士が渋々現地妻にされた=性暴力」と言うことなのだろうと予想は出来ますが。

◆喜田
 侵攻後、ウクライナのテレビ局各局は「テレマラソン・合同ニュース」という取り組みを始めました。ロシアの情報戦に対抗し、国民のパニックを防ごうと、多くのチャンネルが一定時間、同時に同じ番組を放送しています。
◆ムサイエワ
 当初は私もいい考えだと思いました。しかし、時間がたつと、汚職などいくつかの重要なトピックを扱わなくなりました。
 戦争下のジャーナリズムが平和時のジャーナリズムと異なることは理解しています。しかし、テレマラソンは結果的に当局にコントロールされてしまっています。汚職を扱わないというのは正常ではありません。政府批判も聞かれず、私の友人の人権擁護活動家には『人々は、ウクライナの人権擁護活動家の発言をテレマラソンではなく、CNNで聞く』と言われます

 ウクライナの報道状況も「当事者がこのように批判する」わけで「さすがにロシアよりはマシ*6」でしょうが手放しで褒められる物でなさそうです。

 今年2月の『選択』にインタビューが載った。
◆ムサイエワ
 特に侵略者への抵抗の象徴であるべき大統領の批判には慎重にならざるをえない。選挙で選ばれていない大統領側近の巨大な権力、軍の人事などには疑問を持つが、大統領の正当性は傷つけてはならないという理解がある。それこそロシアが望んでいることだからだ。ゼレンスキー大統領への支持は、彼個人というよりは、大統領制度への支持だ。

 とはいえ、例えば「ニクソン大統領のウォーターゲート(批判世論に抵抗できず大統領辞任)」「尹錫悦大統領の戒厳令発動(憲法裁判所が大統領を更迭。また内乱容疑で刑事訴追)」レベルの問題行為があれば、ゼレンスキーを批判しないわけにもいかないでしょう。
 これは「ゼレンスキーにはウォーターゲートレベルの問題行為は未だない」とムサイエワ氏が評価してるのであって、「ロシアを有利に出来ない」として何があろうとゼレンスキー批判をしないわけではないと善意に理解したいところです。

◆Q
 昨年十月には報道の自由への脅威について告発しましたね。
◆ムサイエワ
 国際社会でのウクライナのイメージを悪化させる恐れもあって黙ってきたが、公にした。告発後、大統領府のオフレコ会見から外されたままだが、広告主らへの圧力は多少和らいだ。

 繰り返しますが、ウクライナの報道状況も「当事者がこのように批判する」わけで「さすがにロシアよりはマシ」でしょうが手放しで褒められる物でなさそうです。

*1:こうした配慮は明らかにあるでしょう。いかにロシアの侵略戦争とは言え、そうした戦意低下の恐れは否定できないでしょう。

*2:これについてはググってヒットしたウクライナ国会、人権オンブズマンを解任 国連ミッションが注意勧告(2022.6.1)を紹介しておきます。但し、記事に寄れば、デニソワ氏は「解任は不当」と抗議している上に、これ以外には関連記事がヒットしないため、解任についての評価は困難です。朝日記事は解任は正当な物という前提で話をしていますが。

*3:彼女の捏造と言うことか?

*4:このように書いておかないと「ウクライナも性暴力をやってるとしてロシアの性暴力を免罪したいのか?」と曲解するid:kojitakenという輩がいますので書いておきました。

*5:沼野恭子・東京外国語大教授(ロシア文学)のこと

*6:このように書いておかないと「ウクライナも『報道の自由』に問題があるとしてロシアの報道規制を免罪したいのか?」と曲解するid:kojitakenという輩がいますので書いておきました。