水泳の授業を取りやめるなどした小中学校が増えている。老朽化した施設の改修や維持には経費がかかる。年々暑さを増す夏は、水の中でも熱中症の恐れがある。これらの理由が授業を難しくさせているという。
これについては以前、拙記事産経新聞「学校プール廃止の動き」 - bogus-simotukareのブログ(2024.7.15)で触れました。
最近も以下の記事がありますので紹介しておきます。是非はともかく「プールでの実技授業が当たり前だった世代(俺はいわゆる団塊ジュニア世代(団塊世代の子ども)、氷河期世代*1で1970年代生まれ)」としては複雑な思いがあります。まあ、俺の両親(団塊世代)などは逆に「プールなどなかった」「川で泳いだ」なんて聞きますが。
岩手県滝沢市が中学プール授業を廃止へ…老朽化・欠席者増が要因、スポーツ庁は批判「続けるべき」 : 読売新聞2025.2.19
岩手県滝沢市は、新年度から市内の中学全6校で水泳の実技授業を廃止する。プールの老朽化に加え、コロナ禍以降に授業の欠席者が増えたことや熱中症のリスク、体と心の性認識のギャップへの対応などを理由とするが、スポーツ庁は「全国的に例がない。水泳は必修であり、続けるべきだ」と批判している。
小学校では水難事故防止の観点から25メートルなど一定の距離を泳げるようにするため、実技の授業は継続する。
思春期の生徒の声にも配慮 水泳の実技授業、公立中学で廃止相次ぐ:朝日新聞2025.3.21
水泳の実技授業をやめる動きが、全国の公立中学校で相次ぐ。学習指導要領上、水泳の実技は(ボーガス注:原則として)中2まで必修だが、熱中症リスクやプールの老朽化に加え、肌の露出を避けたい思春期の生徒への配慮などが理由だという。
静岡県沼津市も2025年度から、プールの老朽化などを理由に中学全17校で廃止する。愛知県大府市は2024年度、福井県鯖江市は2023年度に廃止した。代替策として座学の授業を行ったり、夏休みに希望者に外部講習を受けさせたりするという。
日本水連、文科省へ水泳授業の継続を要望へ プール老朽化などで全国的に実技廃止相次ぐ - 産経ニュース2025.4.9
日本水泳連盟は9日、東京都内で常務理事会を開き、教員の負担軽減や屋外プールの老朽化などで全国的に実技をやめる動きが相次いでいる水泳の授業について、文部科学省に継続を求めていく方針を決めた。地域のスイミングクラブとの連携や、室内プールを新設して複数校で授業を行う案などを提言する。
金子日出澄専務理事は「水難事故を防ぎ命を守るためにも水泳の授業は必要」と意義を語った。
社説:水泳授業の廃止 存続への工夫が先ではないか : 読売新聞2025.4.19
老朽化、熱中症、教員の負担増…相次ぐプール授業の廃止「管理コストもリスクも高い」学校の水泳授業の今後とは? | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け2025.4.23
◆記者
水泳の実技授業を取りやめる動きが相次いでいます。現在、学校における水泳の授業はどういった状況なのでしょうか。
◆福嶋尚子*2千葉工業大学准教授(以下、福島)
学校の水泳実技授業を廃止したこれまでのケースでは、プールの老朽化の問題が一番大きな理由でした。滝沢市の場合は、それに加えて生徒の欠席率やジェンダー対応の問題なども挙げています。
日本の学校ではどこも同じような時期に似たような構造のプールを作っていて、ほぼ同じタイミングで老朽化しています。さらに教員の多忙化や教員不足の問題、専門性が担保されているわけではない教員にリスクの高い実技授業を担わせている、という側面も残念ながらあります。
これらを考えたときに、今まで通り続けていくのはそもそも無理がある、というのが先に来ているのだと思います。そこで「水泳実技は絶対にやらなければいけない」と決められていればまた違う展開もあったのかもしれませんが、学習指導要領上はそこまで強い言い方をしていません。
◆記者
小学校や中学校の学習指導要領には「適切な水泳場の確保が困難な場合には水泳の実技指導を取り扱わないことができる」ともあります。
◆福嶋
学校にプールを備えることは必須ではなく、実技をやれるかやれないかは学校の事情にもよります。
「必要な実技がどこでできるか」「子どもたちに必要な泳ぎを学ぶということをどうやったら担保できるか」と考えたときに、必要に応じて民間のプールに移動したり、インストラクターに頼んだりするといった手段をとることも、学校の設置者の判断に委ねられているわけです。ただ、設置者である自治体としては判断が難しい部分も出てきます。たとえば学校同士の距離がすごく離れていれば、隣の学校の施設を借りに行くのが容易ではなくなるなど、自治体ごとの事情があります。
以前、函館市でバス移動のための運転手が確保できないために、市内の全小学校の水泳授業を中止した事例もありました。
◆記者
そもそも日本の学校で水泳授業が広まったきっかけは何なのでしょうか。
◆福嶋
1955年に起きた宇高連絡船*3「紫雲丸」沈没事故*4がきっかけだと言われています。島根、広島、愛媛、高知の4つの小中学校の子どもたちが修学旅行で乗船していて、多くの命が失われました。水難事故を少しでも防止するというモチベーションが働いたようです。ほどなくして東京オリンピックが開催され、スポーツにお金を投じる動きが、水泳だけでなくさまざまな場面でかなり見られたと聞きます。その一環で、補助金でプールを作って水泳授業を推し進める動きが一気に広がりました。
◆記者
ですが、現状では本来の目的と実態がかけ離れているのでしょうか?
◆福嶋
残念ながらそうです。(ボーガス注:体育の)教員免許を持っていることが必ずしも運動神経がいい証明ではないし、ましてや水泳指導ができる証明でもありません。中学校の教員ならともかく、小学校の教員は必ずしも体育や水泳に関して専門性が高いとは言い切れないわけです。
水泳が他の教科や競技と違うのは、非常に管理コストがかかり、リスクも高いという点です。誤って水を流出させてしまい、多額の損失を出してしまう事故も年に数件は起きています。
いざ事故が起きたときの重大性が他と比べてもまったく異なります。必ずしも専門性の担保されていない教員にそれだけの負荷をかけて児童生徒をリスクにさらすということは、本来の目的からかけ離れた実情にならざるを得ません。
「水の事故を防ぐ」「水に親しむ」といったことは不変の目的だとは思いますが、それが「これまで通りの水泳授業を維持すること」によってしか達成できないわけではありません。
◆記者
座学なども有用なのかもしれませんね。今後は各自治体の教育委員会などが主導して、地域ごとに工夫をしていくという方向になっていくのでしょうか。
◆福嶋
そう思います。今は夏の気温が高いですが、気温が高すぎるときに水泳授業を実施してしまうと熱中症のリスクがありますし、水の中でも熱中症は起こり得ます。水泳にお金をかけすぎると他の教科活動が貧困になってしまうこともあり得るので、全体を見なければいけません。
水泳の実技授業はあまりにもいろいろな面でコストがかかりすぎるのがネックだから、実技の廃止という判断が増えているのだろうと思います。
◆記者
水泳の実技授業を民間に委託する動きも見られます。水泳授業に関して官民を超えた対話が必要だとお考えでしょうか?
◆福嶋
民間委託によって教員の負担は減るし、児童生徒のリスクは少し解消されるとは思います。でも民間に全部頼らなければいけないような水泳授業をそもそも維持する必要があるのかというと、それも少し疑問です。
水の事故の怖さを間接的な形で学べるようにしたり、泳ぐことの楽しさをせめて小学校の間には経験できるようにするなど、さまざまな工夫は必要ですが、今まで通りの規模で、すべての学校で同様のやり方で維持するのは無理だと、多くの関係者は思っているのではないでしょうか。
相次ぐ水泳授業の廃止に危機感 日水連・鈴木大地会長「大変憂慮」 - スポニチ Sponichi Annex スポーツ2025.5.7
公立中学校で水泳授業の廃止が相次いでいる問題で、日本水泳連盟の鈴木大地*5会長(58)が7日、「学校水泳授業の現状と課題」と題したコメントを発表した。
コメントの中で同会長は、全国の小中学校のプール設置数が減少しており、文科省の定める学習指導要領で任意となっている実技授業が減少することを「大変憂慮している」とした。
同会長は水泳の実技授業継続に向けて、公営や民間プールの活用、民間水泳指導員の派遣活用を提言。「全ての児童の水泳体験機会の維持に向けて、その必要性を強く説いていく所存である」と強調した。
水泳授業が座学に? 公立中で実技廃止相次ぐ、猛暑やプール老朽化 - 日本経済新聞2025.6.18
プールでの水泳授業を廃止し、座学とする動きが全国の公立中学校で相次いでいる。老朽化したプールの改修費の捻出が難しいほか、熱中症リスクが背景にある。
【2025年】小中学校で水泳の授業が廃止?実技から座学へと変化|藤堂麗2025.6.25
2025年現在、日本全国で小中学校の水泳の授業が廃止されたり、座学に変更されたりする動きが加速しています。
以下の理由から多くの学校で「実技の中止」「座学への切り替え」が進んでいます。
1. プール施設の老朽化と維持費の問題
学校にあるプールの多くは1970~80年代に整備されたもので、老朽化が深刻です。大規模な改修や建て替えには数千万円から数億円が必要となり、財政面から断念する自治体が増えています。
また、管理・清掃・水道代・警備費などの年間維持費も高額で、限られた教育予算の中で水泳を優先しづらい状況が生まれています。
2. 教員の負担と人員不足
水泳の授業では、安全確保のために複数名の教員が必要です。しかし、教員の長時間労働や人手不足が深刻化している中で、プール授業の運営は現場の大きな負担になっています。
また、事故や熱中症のリスクもあり、教員の責任が重すぎるとの声も多く聞かれます。
3. 生徒側の変化:思春期・羞恥心・体調面の影響
中学生を中心に、「水着を着たくない」「肌を見せたくない」「生理中で参加できない」といった事情からプール授業の欠席率が高まっている現実があります。
例えば岩手県滝沢市では、ある中学校で水泳授業の欠席率が36%にのぼり、2024年から中学校での水泳実技を全面廃止するに至りました。
実際に水泳の授業を廃止、または座学に変更した自治体は全国に広がっています。
・岩手県滝沢市:市立中学校すべてで水泳実技を廃止し、体育館での水難事故防止の座学に切り替え。
・静岡県沼津市:老朽化したプールを閉鎖し、地域の公共プール利用へと変更。
・福井県鯖江市:中学校で水泳授業を取りやめ、座学形式の安全教育を導入。
・愛知県大府市、埼玉県羽生市、鴻巣市なども同様の対応を開始。
このように、都市部だけでなく地方都市でも急速に広まっているのが特徴です。
座学形式では、以下のような内容が取り入れられています。
・水の事故を防ぐための知識(離岸流、川遊びの危険など)
・緊急時の対応(心肺蘇生法、119番通報の方法)
・ライフジャケットの使い方や水辺でのマナー
・実際の水難事故の事例と反省点
*1:日本において1990年(平成2年)のバブル崩壊の影響による不景気によって就職難となった世代のことであり、一般に大卒者は「1970年(昭和45年)4月2日から1983年(昭和58年)4月1日まで」に生まれた世代であり、高卒者はは「1974年(昭和49年)4月2日から1987年(昭和62年)4月1日まで」に生まれた世代である(就職氷河期 - Wikipedia参照)
*2:著書『隠れ教育費:公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(共著、2019年、太郎次郎社エディタス)、『占領期日本における学校評価政策に関する研究』(2020年、風間書房)、『#教師のバトンとはなんだったのか:教師の発信と学校の未来』(共著、2021年、岩波ブックレット)、『教師の自腹』(共著、2024年、東洋館出版社)等
*3:岡山県玉野市の宇野駅と香川県高松市の高松駅との間で運航されていた「日本国有鉄道(国鉄)→四国旅客鉄道(JR四国)」の連絡船。1988年4月、本四備讃線(瀬戸大橋線)の開業で本州・四国間を列車で往来出来るようになったため、連絡船とホーバークラフトが運航を終了。高速艇は残されたが、旅客激減で1990年3月に休止。再開されないまま、翌1991年(平成3年)3月を以て、JR四国の宇高航路は正式に廃止された。宇高航路にはJR四国の宇高連絡船以外にも民間会社数社が参入していたが、2019年(令和元年)12月に四国急行フェリーが航路を休止したことで宇高航路は完全に終焉となった(宇高連絡船 - Wikipedia参照)
*4:死者168名。前年(1962年)に青函連絡船「洞爺丸沈没事故」(死者・行方不明者約1100名)が起きていたこともあって、長崎惣之助・国鉄総裁(元鉄道次官:1896~1962年)が引責辞任、後任には「鉄道院経理局会計課長」「南満洲鉄道(満鉄)理事」「鉄道弘済会会長」など鉄道関係の役職を歴任した十河信二(1884~1981年)が就いた(紫雲丸事故 - Wikipedia参照)
*5:1988年ソウル五輪で男子100m背泳ぎ金メダル。スポーツ庁長官、日本水泳連盟会長、アジア水泳連盟副会長、国際水泳連盟理事、アジア大学スポーツ連盟理事、国際大学スポーツ連盟理事など歴任。なお、参院東京選挙区に鈴木大地氏擁立を自民都連が決定 水泳金メダリスト、初代スポーツ庁長官 - 産経ニュース(2025.5.26)等で、2025年7月の参院選挙・東京選挙区で自民党から立候補予定と報じられた(鈴木大地 - Wikipedia参照)