高世仁に突っ込む(2025年8/18日分)

戦後80年の「石破見解」をめぐって⑥ - 高世仁のジャーナルな日々

 トランプ・プーチン会談は予想通りひどいものだった。

 停戦などの具体的成果が無かったという意味では確かにその通りでしょう。
 「ロシア軍の全面撤退(ウクライナ)」「曖昧にごまかしてるが全面撤退する意思がないらしい(ロシア)」ということで意見があまりにも違うことで予想の範囲内ではありましたが。

 「紛争の根本原因」というのは、つまるところウクライナが独立した主権国家であるという状態そのものであろう。

 高世の言うウクライナが独立した主権国家であるという状態そのものとはどういう意味なんですかね。
 さすがにロシアも「ウクライナ属国化」は諦めてるのではないか。
 プーチン発言は「『紛争の根本原因』とはロシアにとって何か?」という質問を前提に「ロシアに有利に話を持って行こうとするプーチンの交渉戦術」と見るべきでしょう。
 故意に「物言いを曖昧にし、相手から『どういう意味なのか?』と聞かれると自分のペースに持ち込もうとする」というのは交渉テクの一つでしょう。
 勿論「故意に曖昧な物言いをするな、そんな奴と付き合えるか」ということが日常では多く、だからこそ「明確な物言い」がされることも多いのですが、ウクライナ戦争の場合、2022年2月の侵攻から、今に至るまで「約3年半」と戦争が長期化*1してるため、米国、NATO諸国(英仏独など)、ウクライナも「故意に曖昧な物言いをするな、そんな奴と付き合えるか」をやりづらい。

 なぜプーチンの前だとあれだけ弱々しくなってしまうのか。何か弱みを握られてるんじゃないのと、ずっと言われてきたことが頭をよぎる。

 「弱み(醜聞)を握られてる」というよりは善意に理解すれば「うまくプーチンを懐柔してウクライナ戦争を早く終わらせたい(米国にとって戦争負担が重すぎる)」、悪意に理解すれば「終戦させて米露関係をよくして、ロシアのシベリア利権(石油や天然ガス)に米国が一枚噛みたい」ではないか。

 16日、17日と2夜連続のNスペ「シミュレーション」。批判が殺到している。
https://www.facebook.com/japandocs

 遺族の指摘で判明した、史実を正反対に歪曲したNスペ
 ドキュメンタリー班は別として、石井裕也*2監督はじめ、ドラマ班スタッフは「総懺悔」。関わったこと自体、恥ずかしいね。

 これは何かというと、先日このブログで紹介した「総力戦研究所」の飯村穣*3所長が、対米戦をやめさせようという意図で研究させたのに、ドラマでは反対に、対米戦「必敗」予測を出すのを必死で止めようと描かれ、遺族が抗議していることを指す。
 孫の飯村豊氏*4が激怒してNHKに抗議している。

 勿論、

ウィキペディアを参照)
石川達三
・『金環蝕』
 いわゆる九頭竜川ダム汚職事件 - Wikipediaがテーマ(疑惑の中心人物である池田勇人首相は寺田政臣首相、鹿島建設は竹田建設、福井県九頭竜川ダムが福岡県の福流川ダムなど、登場人物等は皆、仮名で登場)
城山三郎
・『官僚たちの夏
 主人公は通産省重工業局長、企業局長、事務次官を務めた佐橋滋がモデル(小説では風越信吾)
・『男たちの好日』
 主人公は昭和電工創業者の森矗昶(もり・のぶてる)がモデル(小説では牧玲睦(まき・れいぼく))
松本清張
・『月光』
 主人公は俳人の杉田久女(小説では須田不昂)、橋本多佳子(小説では羽島悠紀女)がモデル
・『菊枕』
 主人公は俳人の杉田久女(小説では三岡ぬい)がモデル
・『断碑』
 主人公は考古学者・森本六爾がモデル(小説では木村卓治)
・『石の骨』
 主人公は明石原人の発見者として知られる考古学者・直良信夫(なおら・のぶお)(早稲田大学名誉教授)がモデル(小説では黒津)
・『粗い網版』
 戦前の第二次大本教(小説では真道教)弾圧をヒントにした小説
・『黒い福音』
 1959年に起こったBOACスチュワーデス殺人事件 - Wikipediaをヒントにした小説
・『熱い絹』
 1967年に起こったジム・トンプソン (実業家) - Wikipedia(小説ではジェームス・ウィルバー)失踪事件をヒントにした小説
・『霧の会議』
 1982年に起こったロベルト・カルヴィ - Wikipedia(小説ではリカルド・ネルビ)変死事件(後に殺人と判明)をヒントにした小説
山崎豊子
・『花のれん』
 1958年上期直木賞受賞作。主人公は吉本興業創業者の吉本せいがモデル(小説では河島多加)
・『沈まぬ太陽
 日航機墜落事故が主要テーマ。主人公は日本航空(小説では国民航空)労働組合委員長だった小倉寛太郎がモデル(小説では恩地元)
・『運命の人』
 西山事件がテーマ。主人公のモデルは毎日新聞(小説では毎朝新聞)記者だった西山太吉*5(小説では弓成亮太)

など「現実を元にしたフィクション(その場合、登場人物は実在の人物名とは変える)」はありえますし、その場合「内容が実際と違うこと」もありえますが、今回の場合全くのノンフィクションドラマ、ドキュメンタリードラマであるかのように「実名(飯村穣氏など)」で登場人物を出した上に「事実を逆に描くこと(その結果、遺族を激怒させること)」に何の意味があるのか、理解不能です。
 これが「遺族(孫の飯村豊氏)の主張は間違いで、実は飯村穣氏はドラマ通りの行動(必敗予測を出すことに反対)をしていた。遺族の抗議の方が不当」というならともかく、高世記事を読む限りはそうではなさそうです。
参考

NHK戦後80年ドラマ「卑劣な軍人に描かれた」と遺族反発 対応も「小手先」と批判 - 産経ニュース2025.8.23
 NHKが16、17日に放送した戦後80年関連のドラマを巡って、登場人物のキャラクター設定にモデルとされた人物の遺族が反発している。
 番組はNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」。
 前・後編を16、17の両日午後9時から放送した。舞台は日米開戦直前に設立された首相直属の機関、総力戦研究所。メンバーとして召集された若手官僚らは、日米間の戦争では日本は必ず負けるとのシミュレーション結果を導き出すが、政府は聞き入れずに戦争に突入し予想通りの結末を招く、という史実に基づくストーリーだ。
 ドラマで研究所の所長はメンバーの自由な議論を阻害し、日本必敗の結論を覆すよう圧力をかける存在として描かれた。ただ、実際の所長だった飯村穣陸軍中将は、史料や関係者の証言などから、若手がのびのび議論できるよう後押ししていたとされる。飯村中将の孫で元駐仏大使の飯村豊氏は「誤った歴史が広まってしまう懸念がある。史実のドラマ化には超えてはならない一線があるはずで、歴史を扱う上での責任感が足りないのではないか」と訴えている。
 飯村氏は産経新聞の取材に対し「想像以上に祖父が卑劣な人間に描かれていて愕然とした」と指摘。さらにNHK側からは、ドラマ制作陣による映画化が計画されていると聞かされたといい、「祖父の名誉を侵害しており、同じ役柄の設定での映画製作は納得できない」と話している。
 産経新聞NHKに飯村氏が指摘する問題とドラマ制作経緯について質問したところ、NHKは「番組制作の過程の詳細についてはお答えしていません」と回答した。また、ドラマの脚本を担当した映画監督の石井裕也氏にも、史実と異なるキャラクターにした意図や今後の映画化の際の設定についてNHKを通じて尋ねたところ、「現状、NHKの回答のほかにお答えすることはありません」との回答があった。

 ドキュメンタリー部分で、なぜシミュレーションで「必敗」と出て首脳部にも伝えられたのに、日米戦に突っこんでいったのかを分析した専門家の意見は興味深かった。

 高世が紹介する専門家の意見(例えば、吉田裕*6一橋大学名誉教授は、『海軍が対米戦を前提に多額の軍事予算を長年、獲得*7していたため、今更「対米戦は必敗」とは言いづらかった』と指摘)には「ハルノート」が出てこないんですが、拙記事高世仁に突っ込む(2025年8/16日分) - bogus-simotukareのブログで書いたように対米開戦において「ハルノート」と言う要素は大きかったと思います。
 ハルノートの要求「日本軍の中国からの撤退、蒋介石政権の打倒断念(蒋介石政権を中国の唯一の正統政権と認めること:つまりは日本が後ろ盾になって樹立した汪兆銘政府の否定)」を呑まない限り「対米開戦」は不可避でしょう。
 そして日本はハルノートを呑まなかったわけです。
 勿論それは「ハルノートで米国は日本を挑発して戦争に持って行った」というウヨの「米国挑発説」という陰謀論(居直り)とは違います。
 米国は「日本はわが国に石油禁輸を継続されたら対中国戦争を実施できない。かといって、日本の敗北が確実なので、大国のわが国に戦争を仕掛けることなど日本には出来ない。日本はハルノート(中国からの軍撤退、蒋介石政権の打倒断念、汪兆銘政府の否定)を呑むしかない。呑めない要求ではないはずだ」と思い、日本は「ハルノートなど呑めるか、もはや戦争だ。日本一国なら対米戦は厳しいがわが国にはヨーロッパで快進撃を続けるドイツがついている。勝算は十分ある」となった。
 「日本はハルノートを呑むしかない。対米開戦なんか無理だ。無理な要求もしていない(米国)」、「こんな無理な要求が呑めるか。もはや戦争しかない。勝算は十分ある(日本)」という、日米の「判断の食い違い」が戦争をもたらした。
 高世が記事で書く「教訓」とは違いますが、外交交渉での「判断の食い違い」をどうなくすかが私見では「教訓の一つ」かと思います。 
 そしてこうした「判断の食い違い」が不幸を招くのは「外交交渉」に限らないし、政治分野にも限らない。
 我々の人生でも「あの人がそんな考えとは知らなかった。知っていたらあんなことはせず、もっと別の対応があり得た。あの人と険悪な関係(例えば上司との対立で会社退職、配偶者との対立で離婚など)にならずに済んだ」ということはあるでしょう。

*1:勿論、ウクライナ戦争(約3年半)より長い戦争も「ソ連のアフガン侵攻(1979~1989年まで約10年)」「イラン・イラク戦争(1980年9月~1988年8月まで約8年)」「第二次大戦(1939年9月のドイツのポーランド侵攻から1945年8月の日本の降伏まで、約6年)」「太平洋戦争(1941年12月~1945年8月まで約3年9ヶ月)」などありますが、「朝鮮戦争(1950年6月~1953年7月まで約3年)」など短い戦争もあり、ウクライナ戦争はやはりかなりの長期戦になったといえるでしょう。

*2:1983年生まれ。2010年公開の映画『川の底からこんにちは』でブルーリボン賞監督賞を、2013年公開の映画『舟を編む』で日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、毎日映画コンクール監督賞を、2017年公開の映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』で毎日映画コンクール脚本賞を、2023年公開の映画『月』、『愛にイナズマ』でブルーリボン賞監督賞を受賞(石井裕也 (映画監督) - Wikipedia参照)

*3:1888~1976年。陸軍大学校長、関東軍参謀長、総力戦研究所所長、 第5軍司令官、南方軍総参謀長、第2方面軍司令官、東京防衛軍司令官等を歴任

*4:1946年生まれ。ソ連大使館一等書記官、フランス大使館一等書記官、フィリピン大使館参事官、外務省経済協力局技術協力課長、大臣官房報道課長、米国大使館政務公使、フランス大使館次席公使、外務省経済協力局長、大臣官房長、インドネシア大使、フランス大使等を歴任

*5:1931~2023年。著書『沖縄密約:「情報犯罪」と日米同盟』(2007年、岩波新書)、『機密を開示せよ:裁かれる沖縄密約』(2010年、岩波書店)、『記者と国家 : 西山太吉の遺言』(2019年、岩波書店)等

*6:著書『天皇の軍隊と南京事件』(1985年、青木書店)、『昭和天皇終戦史』(1992年、岩波新書)、『現代歴史学と戦争責任』(1997年、青木書店)、『日本の軍隊:兵士たちの近代史』(2002年、岩波新書)、『日本人の戦争観』(2005年、岩波現代文庫)、『アジア・太平洋戦争』(2007年、岩波新書)、『現代歴史学軍事史研究』(2012年、校倉書房)、『日本軍兵士:アジア・太平洋戦争の現実』(2017年、中公新書)、『日本人の歴史認識東京裁判』(2019年、岩波ブックレット)、『兵士たちの戦後史』(2020年、岩波現代文庫)、『続・日本軍兵士:帝国陸海軍の現実』(2025年、中公新書)等

*7:一方で陸軍は対ロシア戦、対ソ連戦を前提に多額の予算を獲得