久間知毅氏に反論してみよう(政治家の世襲の件)

 日記を始めました。基本的にものぐさなので、他人のエントリへのコメントしかしないつもりですが、たまに気が向いたら記事を上げるつもりです。
 まずは、久間氏に「周回遅れ」呼ばわりされて不愉快なので、反論してみよう。*1(私とは全然価値観が違うようなので泥仕合になる恐れがあるが。そのときはそのとき考える)*2

【事の経緯】

痛いニュース(ノ∀`):民主・鳩山代表世襲が日本の政治をゆがめてきた。世襲の私が言うのだから間違いない」のはてブhttp://b.hatena.ne.jp/entry/blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1288305.html

久間氏は

「どこをどう突っ込んでいいのかわからないよ……/つーか、世襲の何が悪いんだ?/」と書いたので、私は次のようにはてブした。

「『世襲のお前が言うな』ならともかく『世襲の何が悪い』(例.id:hisamatomoki)には絶句/『世襲』=『利権の引継で汚い』『バカでも政治家の親族なら政治家になれるのは不公正』と思わないのか?」

また、次のようなメタはてブもつけた。

id:hisamatomokiは例のJSFの件でバカ認定したので今後積極的にdisろうと思う/追記*3:誤読ってあのブコメ世襲の何が悪いんだ?)は世襲容認としか読めません」

これに対する久間氏のブコメ

id:bogus-simotukareさん、『世襲だから』ってだけでどうこう言うのは職業選択の自由の問題が絡むから問題。あと、世襲でも能力があればいいっていう議論は、すでに何度もなされてる。はっきり言って周回遅れですよ 」

【で、私の反論】

100字制限のブコメという限界を考慮しても、率直にいって、久間氏は話を途中ですり替えていると思う。また久間氏の方こそ私のブコメがマトモに読めていないと思う。

まず第一に久間氏の最初のブコメは、「世襲に問題があるとしても、憲法上の問題があるから法律で制約できない」などと読めるだろうか?。*4
私には世襲には何ら問題ないとしか読めないが。*5
JSFの例の件もそうだが、詭弁にもほどがあると思う。

また、私は「利権の引継で汚い」と最初のブコメに書いているのだから、(私の主張の是非はともかく)私が「無能だから世襲はダメ」という立場とは違うこと(したがって「世襲でも能力があればいいっていう議論」は私への反論にならないこと)は明白ではないのか?。*6
(なお、私は「バカでも政治家の親族なら政治家になれるのは不公正」と書いたが「有能でも政治家の親族と言うだけで他の人間より政治家になりやすいという有利な立場に立てるのは不公正」と思う(法律で世襲制限することが妥当かどうかはさておき)*7政治家の親族は特権階級なのか?。「バカ」云々と書いたのはその方が話としてわかりやすいと思ったからだ)

【追記:8/5】
ブクマがついているのに気づいた!つけた方々どうもありがとうございます。(賛同できない意見もあるが)
なお、「久間氏はもしかしたらある点で私(や世襲批判派)の主張を勘違いしているのかもしれない」と思ったので一つだけ指摘*8
私(や世襲批判派)が問題にしているのは、いわゆる3バン(地盤、看板(知名度)、カバン(資金源))であり、政治家の親族は政治家になるなとは言っていない。(もっと早くはっきりと言ってれば良かったな、久間氏が後出しじゃんけんとか言いそうだ)
例えば小泉jrで言うなら、「親(小泉純一郎)と同じ選挙区で出るな」「同じ選挙区から出るなら親の人脈や後援会を一切使うな」(地盤)、「親の名前を宣伝で使うな」(看板)、「親の資金管理団体を引き継ぐな」(カバン)、それで選挙をやれ、実力があるならそれでも当選するはずだ、と言っているのである。(そして、そうした世襲批判派のうち「親と同じ選挙区で出る事」、「親の資金管理団体を引き継ぐ事」等を法律で禁止してもいいんじゃない、というのが法律制限派である)*9

なお、ブクマのうち、「国民がバカだから世襲が有利になるだけだ」という意見もあったが、「それでいいのか」「何かやるべきじゃないか」というのが世襲批判派(特に法律制限派)の問題意識なのでそれは全く反論になっていないと思う。*10

【追記:9/18】
以前読んだ、五十嵐仁氏(法政大学大原社会問題研究所所長、法政大学教授(政治学))の「政党政治労働組合運動」、「戦後政治の実像」、「現代日本政治」に世襲批判の文章があることに気づいたので参考までに紹介。有能かどうか「だけ」を世襲批判派が問題にしているわけではない事が分かると思う。

「『後援会は、代議士の政治的・肉体的生命をこえて自己保存を求める存在へと変容』し、その結果、後援会がまとまりやすい『二世』や官僚が後継者として登場するのである。(中略)後援会の運営や選挙活動のための資金活動は『構造的な政治腐敗を助長し』、後援会を維持するための『世襲』は『二世議員』の増大という弊害を生み出した。」(五十嵐「政党政治労働組合運動」78〜79頁)

「2003年4月13日、前職の当選無効による文京区選出都議の再選挙で一人の青年が当選しました。(中略)この背年の名前は鳩山太郎と言います。
(中略)父親が自民党、伯父が民主党の、それぞれ有力幹部ですから、どちらに行っても前途洋々たるものでしょう。(中略)ここに日本の政治の遅れと問題点が象徴的に示されていると考えるのは私だけでしょうか。」(五十嵐「戦後政治の実像」1〜2頁)

「『伊藤昌哉*11:佐藤さん、どうして、三木さんを推したのかなあ。
 金丸信:安西浩さん*12佐藤元首相、三木元首相といずれも縁戚関係)から口説かれたということですよ。』
(伊藤昌哉「日本の政治・夜の意思と昼の意思」88頁)

 金丸の言うとおりだとすれば、佐藤は閨閥によって動かされたことになる。*13ここにも日本の政治の後れがある。(中略)椎名裁定の真相は、前近代社会における伝統的正統性の残滓が未だ十分には払拭されていないということを、我々に教えているのではないだろうか。そしてそれは、二世・三世の議員や官僚を通じて、今も再生産されているのである。」(五十嵐「戦後政治の実像」150頁)

「立候補の自由があって誰でも議員になれるのだから、結果として近親者に議員がいても問題ないという意見があります。これは正論のように見えますが、誤っています。政治家を志した人がたまたま二世や三世だったという例はまれであり、逆に二世や三世だから政治家を志す、あるいは政治家となることを求められるという例がほとんどだからです。何故二世などが政治家を目指すのでしょうか。それは、普通の人にとって、政治家になるには多くのコストがかかるからです。世襲議員であればこのコスト(注:いわゆる3バンのこと)をかなり抑えることができます。(中略)たとえ、本人にその気がなくても、周りから勧められていやいや立候補することもあります。議員後援会を維持するための候補者が必要だからです。(中略)議員後援会は、(中略)利権の配分などの面で大きな役割を演じています。」(五十嵐「現代日本政治」124〜125頁)

「こうして、議員を中心とした利益共同体が存続していきます。世襲議員によって有能でやる気のある候補者が排除され、無能でやる気のない議員が生まれてしまうという問題も生じます。同時に、このような利益共同体が再生産され、既得権構造が維持され続けるという問題もあります。これでは、政治は変わりません。」(五十嵐「現代日本政治」126頁)

「一般庶民の生活がどうなっているのか、(中略)その実情をよく知っている人こそ、国会議員にふさわしいと言うべきでしょう。ところが、実際の国会議員には、小さいときからエリートとして育ち、庶民の生活に触れたことのない人たちが多すぎます。特に自民党世襲議員にはこのような人が目立ちます。」(五十嵐「現代日本政治」127頁)

【追記:9/19】
せっかくなので世襲法律制限論に好意的な内野正幸氏(中央大学教授(憲法学))の「民主制の欠点」(日本評論社)も紹介しておく。

「国会議員経験者と3親等以内の親族関係にある者は、国会議員経験者の当選したことのある選挙区から立候補できないようにすべきである。(中略)それは、結論的には、合理的な異なったあつかいとして合憲になる、とみるべきである。」(内野正幸「民主制の欠点」153頁)

*1:私も人のことを偉そうに批判できるほど立派ではないが「どこをどう突っ込んでいいのかわからない」(鳩山民主党代表に対する久間氏のコメント)だの「周回遅れ」」(私に対する久間氏のコメント)だの、自分を何様と思っているんでしょうね、久間氏は

*2:泥仕合になりそうだったらこの議論は打ち切る予定。8/5追記:久間氏が「相手にしない」そうなので泥仕合にならなかったことは良かったと思う

*3:久間氏が私のブコメを誤読だと言ってきたので

*4:なお「どうこう言う」とは「職業選択の自由」云々といっているから、法律で禁止するという趣旨のことだろう。まさか政党や政治家の申し合わせによる自主的な世襲自粛まで問題だなんて言わないでしょうね。

*5:なお、法律による世襲制限については合理性があるので合憲という立場を唱える学者も(数の大小はともかく)存在する。内野「民主制の欠点」153頁。少なくともああいう鳩山をバカ扱いしたブコメをつけられるほど単純に違憲と言えるような話ではない。また、私は世襲を法律で制限しても憲法上の問題はないんじゃないかという考えだが、最初のブコメでは、鳩山の世襲批判をただ切って捨てるのはおかしいと言う趣旨のことしか言っていない。勝手に「法律で禁止だ、問題だ」「人権侵害だ」と理解する久間氏はトンチンカンすぎると思う。

*6:そもそも、「有能/無能論」が世襲制限論の唯一の根拠と思っているらしい久間氏の理解が間違っている。

*7:追記:コメントでの久間氏の平等論は、カネ持ちと貧乏人をハンデ無しで戦わせて「平等だ」と言っているような物で全く賛同できない。

*8:しかし久間氏は「最強君」とか下品な罵倒を投げかけるのはやめたら?ブコメでバカ呼ばわりした私も良くなかったとは思うが。

*9:なお、私は世襲批判派なので、本当かどうか知らんが、親族が本田に入社するのを許さなかったという本田宗一郎(本田創業者)の伝説を本当ならとても偉いと思っている。

*10:こういう反論をする人は、本田の例の伝説も本当なら親族がかわいそう、職業選択の自由の侵害だと思うのだろうか?

*11:政治評論家

*12:東京ガス会長

*13:もちろん安西の口説きだけが理由ではないだろうが。

私が今までに読んだ本の紹介(不破哲三編)

 平凡ではありますが、私が今までに読んだ本(自分で購入し今も持っている本限定)を主な著者に限ってですが紹介してみましょう。(まあ、買ったはいいけど積ん読状態の本も多いんですが。本の紹介は今後も不定期で続ける予定)

不破哲三
 言うまでもなく日本共産党の要職を歴任した「共産党の顔」とでも言うべき存在。日本共産党の要職を歴任した上田耕一郎氏(故人)は実の兄です。*1
 私が持っている不破氏の著書は以下の通りです。
 「社会主義入門:『空想から科学へ』百年」、「『資本主義の全般的危機』論の系譜と決算」*2、「日本共産党に対する干渉と内通の記録(上)(下)」*3、「史的唯物論研究」、「科学的社会主義を学ぶ」、「北京の5日間」、「チュニジアの7日間」、「資本論全3部を読む(1)〜(7)」、「古典研究『議会の多数を得ての革命』」*4、「新・日本共産党綱領を読む」*5、「日本の前途を考える」、「21世紀の世界と社会主義:日中理論会談で何を語ったか」、「日本共産党史を語る(上)(下)」、「『科学の目』講座・いま世界がおもしろい」、「憲法対決の全体像」、「古典への招待(上)(中)(下)」*6(以上、新日本出版社)、「党綱領の理論上の突破点について」(日本共産党中央委員会出版局)、「社会進歩と女性」(日本共産党新婦人内後援会)*7、「私の戦後60年」(新潮社)、「マルクスは生きている」(平凡社新書
 この中には今は入手困難な物もありますが「私の戦後60年」(新潮社)、「マルクスは生きている」(平凡社新書)は大手出版社が出した物なので割と入手しやすいでしょう。「日本共産党史を語る(上)(下)」(新日本出版社)は歴史好きな人には「日本共産党史入門」として面白いのではと思います。失礼ながら教科書的な「日本共産党の80年」(本屋で斜め読みしたが私にはつまらなかったので買わなかった)*8よりこちらの方が読みやすくて面白い。
 不破氏の本の魅力の一つは「講演調なので読みやすい」*9といったところです。(こんなこと言うのでは本当の本好きとは言えないな。不破氏に限らず私の買う本にはそういうのが多い。)
 サンデー毎日の対談で中曽根康弘・元首相は「不破さんのような市民的で教養主義を備えた幹部が出てきて、その言動や行動で共産党のイメージを修正した。『これは強敵が現れたな』と思いましたね」と言っています。(まあ、かなりリップサービスもあるでしょうが)
 不破氏の本を読むと確かに「そうだよな」と思います。
参考)http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-07-07/2009070701_04_0.html

*1:上田氏の本も以下の本を持っています。
「変革の世紀」(新日本出版社)、「戦争・憲法常備軍」(大月書店)、「ブッシュ新帝国主義論」(新日本出版社

*2:共産党は1985年の党大会で党綱領から『資本主義の全般的危機』と言う規定を削除したがその理由は何かを説明したのが本書。

*3:副題は「ソ連共産党秘密文書から」となっており、いわゆるソ連派(志賀義雄をリーダーとする日本のこえグループ)の問題が取り上げられている。

*4:マルクスエンゲルスの主張は、『議会の多数を得ての革命』であり暴力革命ではないというのが本書の内容。今さら、そんな事を言わなくても日本共産党が暴力革命を目指していると思う人間はほとんどいないと思うが。

*5:共産党は2004年の第23回党大会で大幅な綱領改正を行っている。どこを綱領改正したのか、その理由は何かを説明したのが本書。

*6:マルクスエンゲルスの古典的著作を解説したのが本書。賢くないので解説内容はよく分からないが、マルクスたちが生きた時代のドイツ、フランス、イギリスの歴史が背景事情として説明されるので、その部分は面白い。

*7:本書は日本共産党新婦人内後援会が主催した不破氏の講演をまとめたもの。新婦人とは「新日本婦人の会」の略称である。

*8:でも「日本共産党の70年」など、それ以前の党史に比べれば読みやすいことも事実。本屋や図書館で「70年」を見たときは分厚さに絶句した。

*9:講演をまとめたものと、講演ではないが講演調で書いたものと両方がある。