新刊紹介:「歴史評論」7月号

・詳しくは歴史科学協議会のホームページ(http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/)をご覧ください。うまく紹介できないので多くにおいて、論文タイトルのみ紹介しておきます。
特集『教育・教育改革の危機と歴史教育の課題』
新自由主義改革と歴史教育の課題(近藤孝弘*1
■「特別の教科・道徳」の危険性と向き合う(神代健彦*2


■社会科歴史教育論から見た新学習指導要領(鈴木哲雄*3
(内容紹介)
 新学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」や「アイヌ文化の学習」を掲げていることに一定の評価をしている。
 なお、最近の研究成果として梅野正信*4『社会科歴史教科書成立史』(2004年、日本図書センター)、加藤章『戦後歴史教育史論』(2013年、東京書籍)が紹介されている。

参考

http://narui.blog.so-net.ne.jp/2014-08-19
■戦後歴史教育史論
 加藤章『戦後歴史教育史論』(東京書籍)読了。
 元上越教育大学学長、元盛岡大学学長で、社会科歴史教育の研究者である加藤章の、論文と講演会記録をまとめた本。
(中略)
 この本を読めば、日本の学校教育における、日本史の授業の変遷がよくわかる。
 今回初めて知ったのだが、終戦直後、アメリカGHQは、学校で日本史を教えることを禁じた。
 それまでの日本史は、皇国史観に基づいていて、記紀神話までも史実として教えていたのだ。
 日本の歴史教育学者たちは、皇国史観を払拭した、新たな日本史教科書を作るため、奮闘する。
 その様子はまるでプロジェクトXのよう。
 一般書と専門書の間ぐらいの本で、少々難しい部分もあったが、とても勉強になった。


■高校世界史のゆくえ(日高智彦)
(内容紹介)
 最近の研究成果として米山宏史『未来を切り拓く世界史教育の探求』(2016年、花伝社)、田尻信壹『探究的世界史学習の創造』(2013年、梓出版社)、『探究的世界史学習論研究』(2017年、風間書房)が紹介されている。

参考

http://zep.blog.so-net.ne.jp/2014-01-07
■田尻信壹『探究的世界史学習の創造』(梓出版社)
 本書の「おわりに」の記述では、高校における世界史授業の現状が的確に指摘されています。曰く「知識獲得型の講義授業と探究的学習とは二者択一の問題ではなく、両者のバランスを図りながら相互補完的に実施されるべきである」「探究的な学習単元は知識獲得型の授業とのバランスの上に実施されるべきであり、その頻度も学校や生徒の実態に応じて検討されなければならない」、と。知識獲得型の講義授業は、「現状ではやむなし」ではなく、「探究的学習を行う上で必要」であるという考え、私も同意見です。私がモンゴル帝国に関する授業で構想したことは、まさに田尻先生が述べておられる「探究による知識の成長」でした(全国社会科教育学会編著『中学校・高校の優れた社会科授業の条件』明治図書に収録)。この点で、講義ベースの授業記録である小川幸司先生の『世界史との対話』*5と、探究型の学習を提案する本書は、世界史授業における車の両輪なのではないでしょうか。


■「もやい直し」の経験を考える(坂本敦)
(内容紹介)
 吉井水俣市長(当時)の主張した「もやい直し」を歴史学上、どう理解するかという話ですが、まあ難しい話ですね。水俣病は未だ「過去の歴史になってない」からです。手放しで「もやい直し」論を評価することも難しいでしょう。

参考

■もやい直し(コトバンク参照)
 「もやう」とは船と船をつなぎ合わせること。「ばらばらになってしまった心のきずなをもう一度つなぎあわせる」という意味の造語で、水俣病被害者が提唱し始めたとされる。吉井正澄*6水俣市長が使うようになって広まり、水俣地域再生の合言葉のように使われている。

https://www.nishinippon.co.jp/wordbox/article/464/
西日本新聞「もやい直し」
 「患者とチッソの対立」のほか、「患者と市民のあつれき」「患者団体間の分裂」、またチッソの組合分裂がもたらした市民、地域間の亀裂など、水俣では長く対立の図式が重層を成していた。 水俣湾の埋め立て地が完成し、水俣病訴訟で和解勧告が出始めた1990年ごろから患者、市民双方に水俣病の解決と地域の再生を望む声が高まり、両者が共同で集会などを開くようになった。1994年に市長に就任した吉井正澄氏は、同年の慰霊式で市長として初めて「十分な対策がとれなかった」と謝罪。船同士をつなぎ合わせる「もやう」の言葉から「もやい直し」を掲げ、患者団体との融和や地域再生を積極的に進めた。

https://mainichi.jp/articles/20160306/ddl/k43/040/166000c
毎日新聞・「もやい直し」の今:水俣病公式確認60年 連続インタビュー3(JNC*7労組水俣支部長・松村英司さん(41))
 県外からチッソに入社して水俣市で20年近く生活してきた一人の市民として見た時、「もやい直し」が何を目的にどうやって進められ、どうなった時が「もやい直し」と言えるのか、よく分からないという印象だ。
 このキーワードが広く使われ始めた時の考え方は否定されるものではないと思うが、いろいろな人がそれぞれの解釈で動いてきたのが実態だと思う。だからバラバラに見える。行政の関係者には「もやい直し」の定義は何なのか、それをちゃんと市民に伝えているのかを聞いてみたい。

https://mainichi.jp/articles/20160307/ddl/k43/040/166000c
毎日新聞・「もやい直し」の今:水俣病公式確認60年 連続インタビュー4(フクダライズファーム代表取締役・福田浩樹さん(35))
 自分の親たちの世代では、対立というかナイーブな問題があったと思うが、僕たちの世代はそうした時代のことを自分の目で見ておらず、リアリティーが薄れてきていると思う。若い人たちで集まって話をする中で「もやい直し」という言葉が出てくることはほとんどない。「もやい直しをしなければいけない」という意識より、地域の過疎や子育て、教育、経済の方が目の前の課題になっている。
 被害者の方と接する場面でも、強く意識することはしない。


■歴史の眼「憲法と政治の相克:首相大権化した衆議院解散権の課題」(加藤一彦*8
(内容紹介)
 安倍の「加計森友隠し解散」を批判し、解散権に対する制約の必要性を主張している(また、解散権制約に触れるにおいて、いわゆる「69条限定解散説」とその結果、生じたいわゆる「なれ合い解散」や「苫米地事件(苫米地訴訟)」についても簡単に触れている)。ただし、「解散権に対する制約」を法的制約(憲法改正)とすべきか、「政治的制約にとどまるのか」など詳細については筆者は明確に意見を述べていない。
 現状において、九条改憲論に悪用される事への危惧、警戒があるとみられる。

参考

■なれ合い解散(ウィキペディア参照)
 1948年10月15日に第2次吉田内閣が成立した時、与党が少数派であり政権基盤が脆弱であった。そのため、吉田は解散総選挙をして政権基盤の強化をはかろうとした。しかし、日本国憲法第69条で内閣不信任可決による解散が明記されており、不信任案可決なしで解散ができるのかという問題が発生していた。
 吉田内閣は日本国憲法第7条第3号に衆議院解散の旨が記載されているため、69条所定に限定されず、不信任可決決議なしで衆議院解散ができると立場を取っていた(いわゆる7条解散説)。一方、野党は衆議院解散は69条所定に限定されるとし、不信任可決なしで衆議院解散はできないとの立場(いわゆる69条限定解散説)を取り、対立していた。
 当時の日本はGHQ施政下にあったが、GHQは69条所定の場合に限定する解釈を取った。そのため妥協案として与野党がともに内閣不信任決議に賛成して可決させた上で、衆議院を解散するという方法を取った。この時の解散詔書には、「衆議院において内閣不信任の決議案を可決した。よって内閣の助言と承認により、日本国憲法第六十九条及び第七条により、衆議院を解散する。」と記載された。
 このように、与野党のシナリオどおりに解散されたという経緯から、世間はこの解散を馴れ合い解散と呼ぶようになった。
 ただし「なれ合い解散」の次の解散である、1952年のいわゆる「抜き打ち解散」では吉田首相は7条解散説によって不信任案可決なしでの解散を強行した。この解散は「自由党内反吉田派」で、吉田の政権運営にことあるごとに抵抗する自由党鳩山一郎派に打撃を与えようとする目的であったとされる。
 なお、「抜き打ち解散」について野党・国民民主党*9(当時)の議員であった苫米地義三*10違憲無効を理由に、衆議院議員資格の確認と歳費請求を求めて裁判を提起した(いわゆる苫米地事件)が、最高裁大法廷は、高度の政治性があり裁判所の審査権外であること(いわゆる統治行為論)を理由に憲法判断をしなかった(いわゆる苫米地事件判決)。
 その後は7条解散説に基づく解散が特段の争いなく争いなく行われるようになる。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018020701374&g=pol
時事通信『解散権制約は不要=共産・小池氏』
 共産党小池晃書記局長は7日夜のBSフジの番組で、憲法改正によって首相の衆院解散権を制約する案について「(ボーガス注:加計森友隠し解散のような)党利党略の解散は問題だが、有権者がその解散に正当性があるかどうかを選挙で判断すればいい。改憲の必要はない」と指摘した。解散権の制約は立憲民主党が提唱している。

 

*1:著書『ドイツ現代史と国際教科書改善』(1993年、名古屋大学出版会)、『国際歴史教科書対話:ヨーロッパにおける「過去」の再編』(1998年、中公新書)、『自国史の行方:オーストリアの歴史政策』(2001年、名古屋大学出版会)、『歴史教育と教科書:ドイツ、オーストリア、そして日本』(2001年、岩波ブックレット)、『ドイツの政治教育:成熟した民主社会への課題』(2005年、岩波書店)、『政治教育の模索:オーストリアの経験から』(2018年、名古屋大学出版会)など

*2:著書『道徳教育のキソ・キホン:道徳科の授業をはじめる人へ』(編著、2018年、ナカニシヤ出版)

*3:著書『社会史と歴史教育』(1998年、岩田書院)、『中世日本の開発と百姓』(2001年、岩田書院)、『中世関東の内海世界』(2005年、岩田書院)、『香取文書と中世の東国』(2009年、同成社)、『平将門と東国武士団』(2012年、吉川弘文館)、『社会科歴史教育論』(2017年、岩田書院

*4:著書『和歌森太郎の戦後史:歴史教育歴史学の狭間で』(2001年、教育資料出版会)など

*5:2011年、地歴社

*6:水俣市議(1975〜1994年)、水俣市長(1994〜2002年)を歴任。著書『「じゃなかしゃば」 新しい水俣』(2016年、藤原書店)など

*7:チッソの後継会社

*8:著書『政党の憲法理論』(2003年、有信堂高文社)、『議会政治の憲法学』(2009年、日本評論社

*9:委員長が苫米地、幹事長が三木武夫(後に首相)という保守政党

*10:日本進歩党幣原喜重郎が総裁)、民主党芦田均が総裁)、国民民主党(苫米地が委員長)、改進党(重光葵鳩山内閣で外相)が総裁)、日本民主党鳩山一郎が総裁)、自由民主党に所属。片山内閣運輸相、芦田内閣官房長官など歴任

今日の産経ニュース(6/20分)(追記・修正あり)

■安倍*1首相が二階氏*2、麻生氏*3らと会食 総裁選で首相支持を再確認
https://www.sankei.com/politics/news/180620/plt1806200022-n1.html
 「加計森友疑惑発覚後」も恥知らずにも安倍支持を表明し続けた連中なので、今更驚きもないですが、よくもまあ安倍のような腐敗政治家を未だに支持できるもんです。いつまでも安倍政権が続くわけでもあるまいに。安倍なんぞトップに付け続ければ「長期的視点で見れば」自民党という政党がどんどん劣化していくと思いますけどね。


■韓国外相「日韓合意と無関係」明言 性暴力根絶イニシアチブで 河野外相は理解
https://www.sankei.com/politics/news/180620/plt1806200021-n1.html
 まあ「日韓合意」とは無関係ではあるでしょうね。ただし「審議会メンバーには慰安婦支援団体の幹部もいます」し、慰安婦問題とは全く無関係とはいえないでしょう*4(かつそういう意味のことは韓国外相も言ってないでしょう)。単に「この政策は日韓合意の内容に反するものではない」といっただけの話でしょうね。別に「慰安婦問題イコール日韓合意」ではないわけです。


■米の離脱で人権監視体制は? 日本は歴史問題で独力対応必要に 国連人権理事会
https://www.sankei.com/world/news/180620/wor1806200016-n1.html
 「は?」ですね。独力対応も何もいつ米国が「日本の歴史問題(産経の場合、靖国南京事件慰安婦など)」とやらで安倍を支持する立場に立ったんでしょうか?
 いずれにせよ米国脱退の理由は「人権理事会がイスラエル批判したから」などという無茶苦茶な理由だから話になりません。
 まあそれはともかく「産経や櫻井よしこあたりはまだしも」さすがに安倍自民も「慰安婦問題で批判するならこんな理事会やめる」とはならないし、中国も「チベット問題で批判するならこんな理事会(以下略)」とはならないわけです(「不当な批判だから従わない」くらいは言いますが)。いかにトランプが無茶苦茶かと言うことです。まあ米国が世界最大の経済、政治、軍事大国だからという理由が大きいわけですが。なお、「トランプの名誉のため」に言っておけば、「パレスチナユネスコ加盟」を理由とした米国の「ユネスコの分担金支出停止*5*6オバマ時代なので、こうしたイスラエルびいきについてはトランプや共和党だけが悪いわけではありません。

・理事会の最大の任務は、国連加盟国が各国の人権状況を定期的に議論する「普遍的審査」。13年の中国に対する審査で、米国は「人権活動家の拘束や家族への圧力停止」「チベット族ウイグル族など少数民族の保護」を勧告した。勧告に法的拘束力はないが、大きな圧力となる。
・昨年の対日審査では、「慰安婦に対する謝罪、補償」(中国)、「『性奴隷』を含めた人道に対する罪への対応」(北朝鮮)「次世代に歴史的真実を伝える努力」(韓国)といった勧告が記載された。

 人権理事会で中国が少数民族問題(チベットウイグル)で批判されると「人権理事会よくやった」「法的拘束力はないが政治的意義はある」、日本が慰安婦問題で批判されると「人権理事会は反日だ」「法的拘束力はないから無視すればいい」。産経のでたらめさにはいつもながら呆れます。しかし安倍政権なんぞ誕生しなければ人権理事会で慰安婦問題について手厳しく日本が批判されることもなかっただろうと思うと、安倍なんぞ支持するバカ日本人どものバカさにいつもながらうんざりします。


金沢市役所の4職員刺傷、無職男性を不起訴 理由は心神喪失、市長は「憤り」
https://www.sankei.com/west/news/180620/wst1806200093-n1.html
 この種の事件では仮に無罪判決が出るにしても、世論に配慮して起訴することが多いので意外です。
 よほど重病で有罪がほぼ間違いなくとれないと言うことでしょう。しかし市長が非常識ですね。
 感情的にはそうでしょうが、法律的には仕方がないし、かつこんな重病人はもちろん野放しになるわけではありません。病院に送られるわけです。そう簡単には退院できないでしょうね。


■【安倍政権考】籠池氏妻、弁護士の稲田朋美*7夫を「ろくな職業ではない」と“口撃”…朝日が触れない財務省交渉記録の中身
https://www.sankei.com/premium/news/180620/prm1806200005-n1.html
 もちろんそんなことは森友疑惑の本筋「安倍夫妻の不当な介入があったかどうか」に関係ないからあまり報じないだけの話です。一方籠池夫妻をネガキャンすることが「籠池は人間のくずだ、嘘つきだ、だから奴の安倍夫妻に関する証言も嘘つきだ、安倍総理は無実だ」として「安倍擁護につながる」と思う産経はそういうことをしたがるわけです。
 一時は産経も籠池を「素晴らしい愛国教育者だ」と天まで高く持ち上げていたのにずいぶんな掌返しです。
 そして一時的であるにせよ「名誉校長を昭恵が引き受けた」のだから籠池夫妻批判はかえって「安倍夫妻の名誉失墜につながる」とは産経は思わないわけです。
 つうか籠池が悪口雑言をしても、それを財務官僚が「無茶苦茶言わないでください」と一喝できないのも「安倍のご威光」なんですけどね。一般人が同じことしたら、たたき出されてるでしょう。


■狛江市庁舎内で「赤旗」勧誘禁止 「政治的中立疑われる」
https://www.sankei.com/politics/news/180619/plt1806190046-n1.html
 おいおいですね。明らかに共産党への嫌がらせでしょう。誰もそんなことで政治的中立なんか疑わないし、疑う方がおかしい。
 問題があるとしたら「加計森友的な不当な購読圧力の存在があるかないか*8」でしょうがそれは「不当な圧力がある場合は批判しやめさせる」つう方向性であって「一律勧誘拒否」は明らかに不適切でしょう。
 つうか加計森友レベルですら産経や自民が安倍を擁護するのなら、こんな勧誘は何一つ問題はないでしょう(もちろん皮肉のつもり)。
 つうかこれが「自民党機関紙の勧誘」なら産経も「ノープロブレム」でしょうね。


■【産経新聞創刊85周年】明治150年 維新を完結させた西郷*9 薩摩の「捨てがまり」後輩たちも受け継ぐ(客員論説委員 皿木喜久)
https://www.sankei.com/life/news/180620/lif1806200002-n1.html

 下野した後、故郷での悠々自適の生活を送っていた西郷が、なぜ政府軍と戦ったのか、その晩年には分からないことが多い。

 そもそも下野したのは大久保らと対立し、敗北したからです。悠々自適の隠居じゃない。
 一時政界引退を表明したが結局政界復帰した金大中大統領みたいなもんです。「このまま終わってたまるか」つう気持ちが西郷にはあったでしょう。
 そして西郷同様、政争(征韓論論争)に敗北して下野した江藤新平*10佐賀の乱を起こしてるし、乱ではありませんが、板垣退助*11後藤象二郎*12自由民権運動で政府批判です。
 また時期や下野理由が違いますが、同じく伊藤博文*13らと対立して敗北し下野した大隈重信*14自由民権運動です。そういう意味ではなぜ戦ったのかはある程度は解る。江藤のように不満があり、かつその不満は西郷においては板垣、大隈のような自由民権運動のような平和的形ではなく軍事反乱となったわけです(その不満が何かはともかく)。
 直接の乱のきっかけは西郷の部下の暴走ですが、西郷も「反乱など絶対にしたくなければ」、部下が暴走しようとも「お前らが決起したいならそうしろ、でも俺はしないぞ」で政府に恭順の意を示したでしょうし、そもそも部下も暴走しなかったでしょう。

 鹿児島には、自分たちは維新のため命をかけたのに、武士という特権を奪われ、禄も失ってしまったという士族たちの不満が渦巻いており、これが叛乱につながった。西郷は情において忍べずこれに乗せられたという説がある。維新後、専制を強める新政府に対する抗議だったという見方もある。
 だが王政復古や廃藩置県によって、藩や武士に自己犠牲を求め天皇中心の中央集権国家をつくった中心人物は西郷その人だった。ある程度専制的でなければ、改革はできないというかつての同志、大久保利通*15木戸孝允*16の心情も理解していたはずである。
 その西郷が天皇の軍隊である政府軍と戦う。矛盾といえば矛盾している。だが一方で、その矛盾を解消するための行動だったともいえる。つまり新政府への不満や批判を一身に背負いこみ、その自らが滅びることにより、生まれたばかりの国を守る。そのためには自裁ではなく、天皇の軍に討たれて死なねばならなかったのだ。
 西郷には「死に癖」ともいえる性格があった(澤村修治氏『西郷隆盛*17』)という。「国のために死ね」が口癖だった。だが命がけで維新を実現させ、戊辰戦争で先頭に立って戦っても死に場所は得られなかった。その西郷にとって西南戦争で命を捨てることで、彼なりに明治維新を完結させたのだろう。実際、この戦争を境に日本から内戦は消え、統一国家を取り戻した。

 文章の前半はある程度解ります。西郷自身が廃藩置県などの改革を進めていたはずではなかったのか、なぜ大久保批判するのか、西郷は一体何がしたいのか、つう話です。
 後半はさっぱりわかりません。結果的には西郷の死で士族反乱は収まりましたがそれは結果論でしかない。
 「ダライラマが反乱したら、中国に厳しい弾圧を受けて、チベットにいられなくなって、インドにトンズラして、かえって中国のチベット統治が進んだ。今や鉄道まで開通した」からと言って、「中国政府への不満や批判を一身に背負いこみ、ダライ自らが中国批判派チベット人と一緒に滅びる(?)ことにより、生まれたばかりのチベット自治区を守り中国を有利にしたかった」「ダライなりにチベット解放を完結させたかった」訳ではないのと同じです。
 単に西郷もダライも「先が見えていなかった」「大久保ら明治新政府毛沢東中国共産党に勝てると思っていた」、ただそれだけの話でしょう。
 西郷なんぞは「俺が立てば、土佐の板垣など他の連中も士族反乱に立ち上がって政府は収拾がつかなくなる」位に思っていたんじゃないか。
 まあ西郷もダライも周囲にろくでもない「西郷さん万歳」「ダライ猊下万歳」の取り巻きしかいなかったんでしょうね。西郷の場合、征韓論で大久保と決別したことがまずは最初の失敗でしょう。アレで西郷の周囲は、西郷信者ばかりになるわけです。 
 板垣や大隈は「先が見えてる」から政府批判するにしても武力反乱なんかしないわけです。

*1:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官を経て首相

*2:小渕、森内閣運輸相、小泉、福田、麻生内閣経産相自民党総務会長(第二次安倍総裁時代)を経て幹事長

*3:橋本内閣経済企画庁長官、森内閣経済財政担当相、小泉内閣総務相、第一次安倍内閣外相、自民党幹事長(福田総裁時代)などを経て首相。現在、第二〜四次安倍内閣副総理・財務相

*4:もちろん「女性への性暴力全般がテーマ」だそうなので慰安婦問題限定でもないですが、慰安婦問題が排除されてるわけでもないでしょう。

*5:例の南京事件資料ユネスコ世界遺産登録の時に産経はやれ「分担金支出停止」「脱退」だの放言しましたがさすがに安倍はそんなことしませんでした。「そんなことをするアメリカ」がいかにおかしいかと言うことです。しかも分担金支払い停止はオバマ時代なのでトランプだけが悪いとはいえず、アメリカのパレスチナ問題での政治的態度については絶望的な気持ちになります。

*6:なおユネスコ脱退にまで暴走したのはトランプ時代です。

*7:第2次安倍内閣行革相、自民党政調会長(第2次安倍総裁時代)、第3次安倍内閣防衛相を歴任

*8:他の自治体はともかく、共産党は一時期は狛江市政の与党(1996〜2012年の四期16年の矢野市長時代)でしたので俺も「与党時代に不当な圧力がなかった」とは現時点では断言はしません。ただし今は野党ですしそんな圧力があるとはとても思えません。セクハラ問題で市長が辞任し、共産の市政奪回の可能性が出てきたことでの先制攻撃でしょうか?

*9:参議、陸軍大将、近衛都督

*10:参議、司法卿

*11:参議、第2次伊藤、第2次松方、第1次大隈内閣内務大臣など歴任

*12:参議、 黒田、第1次山縣、第1次松方内閣逓信大臣、第2次伊藤内閣農商務大臣など歴任

*13:首相、貴族院議長、枢密院議長、韓国統監など歴任

*14:参議、大蔵卿、第1次伊藤、黒田内閣外相、第2次松方内閣農商務相、首相など歴任

*15:参議、大蔵卿、内務卿を歴任

*16:参議、文部卿、内務卿を歴任

*17:2017年、幻冬舎新書