私が今までに読んだ本の紹介:林博史「戦後平和主義を問い直す」(2008年8月刊行、かもがわ出版)

・著者は関東学院大学教授。著書に『BC級戦犯裁判』(岩波新書, 2005年)、『シンガポール華僑粛清―日本軍はシンガポールで何をしたのか』(高文研, 2007年)、『沖縄戦―強制された「集団自決」』(吉川弘文館, 2009年) などがある。
氏のHPは
http://www32.ocn.ne.jp/~modernh/
・本書は「戦後平和主義」について著者の考えを述べた物である。
・この本を取り上げようと思ったきっかけは、上田亮氏の以下のエントリである。

今こそ読まれるべき!忘れられた高橋哲哉戦後責任論』:上田亮の只今勉強中
http://d.hatena.ne.jp/uedaryo/20091127/1259313826

 上田氏によれば朴裕河は著書『和解のために』(平凡社)で「戦後日本は加害者としての自己認識から出発」と書いているそうだ。
 上田氏の誤読ではないのかと思う、にわかには信じがたいトンデモな認識である。
 上田氏も指摘しているが、むしろ日本の戦争認識の問題点はハト派、左派を含め、最近まで加害意識が弱かったことだと思うが。

・本書も日本では加害意識が弱いとしてその例として、映画「明日への遺言*1私は貝になりたい」を取り上げている。どちらも被害意識(「原爆落としたりアメリカだって同罪じゃないか」「BC級戦犯裁判は不公正だ」「上官の命令でやっただけだ」*2等)が強すぎ、殺された捕虜という被害者への思いがあまり感じられないというのである。
(「朝鮮人の兵士を登場させたり」「被告に他人の命を奪った事への苦悩を語らせたり」してこうした批判にある程度応えようとしたのがNHKドラマ「最後の戦犯」だろう)

・他にもいろいろ興味深い指摘があるがそれは説明できそうにないので省略。

*1:大岡昇平「ながい旅」が原作。第十三方面軍司令官兼東海軍管区司令官・岡田資陸軍中将が主人公。岡田は名古屋大空襲の際の米軍捕虜を処刑、戦後、捕虜虐待容疑に問われ処刑された。岡田は裁判では「無差別空襲は犯罪行為であり処刑は合法」と主張したが認められなかったようだ。
 しかし「無差別空襲は犯罪行為」ねえ。確かに正論だと思うけど、著者も指摘しているように同盟国・ドイツのゲルニカ空襲や日本の重慶空襲はどうなのって言わざるを得ない。岡田は下士官など下っ端ではなく陸軍最高幹部の一人である以上、中国での無差別空襲に責任無しとは言えないだろう。

*2:大体「上官の命令」というなら、「原爆投下」も決定した軍上層部はともかく、実際に投下した兵士は「上官の命令」に従っただけなので非難できなくなってしまう