私が今までに読んだ本の紹介:「金田一耕助の新たな挑戦」(平成9年9月刊行、角川文庫)

横溝正史賞受賞作家たち(佳作を含む)による、金田一耕助が活躍する短編集。
・収録作品は以下の通り。

亜木冬彦「笑う生首」
姉小路祐「生きていた死者」
五十嵐均「金田一耕助帰国す」
霞流一「本人殺人事件」
斎藤澪「萩狂乱」
柴田よしき「金田一耕助最後の事件」
服部まゆみ「髑髏指南」
羽場博行「私が暴いた殺人」
藤村耕造「陪審法廷異聞」*1

・どれも私にはなかなか面白かった。不満がないわけではないが。不満の一つは作品の多くが横溝的ではないと言うこと。いわゆる「横溝的なおどろおどろしさ」を感じるのは収録作品では生首殺人の「笑う生首」とバラバラ殺人の「萩狂乱」ぐらいである。「髑髏指南」に至っては犯罪事件は起こるが、それは殺人事件ではない。また、「生きていた死者」では人が死ぬが、どう見ても殺人ではなく傷害致死である(少なくとも計画的殺人ではない)。

・いくつか面白かった作品を紹介。

・五十嵐均「金田一耕助帰国す」
 「病院坂の首縊りの家」事件を解決し、日本を去った「はず」の金田一が、何故か帰国を決意。アメリカから日本へ向かう飛行機の中で殺人事件に出くわす。日本へ到着するまでに金田一先生は見事に事件を解決する。短時間で事件を解決するなんて金田一らしくないなあと思う。
 それはともかく、この小説で金田一は「1938年生まれ」だと言っている。しかし、ウィキペディアによれば金田一は「1913年生まれ」だそうだ。いずれにせよ、戦争に行き、ニューギニア終戦を迎えた金田一が「1938年生まれ」の訳がない(ネット上でもそう言う突っ込みがある)。単純ミスなのだろうがチェックしろよ、角川。

霞流一「本人殺人事件」
 「本陣殺人事件」のパロディ。霞氏はユーモアミステリ専門の方らしい。私は面白かったが、まじめな金田一ファンは腹が立つかもしれない。

・柴田よしき「金田一耕助最後の事件」
 金田一最後の事件は、もちろん「病院坂の首縊りの家」。しかしこの小説では「病院坂の首縊りの家」解決から日本を去るまでの間に別の事件を解決したことになっている。
 鬼頭早苗(「獄門島」)から息子のフィアンセが殺人の容疑者として警察に逮捕された、何とか無実を証明してほしいと頼まれるのだ。
 またも見事に事件を解決する金田一先生。しつこいが、短時間で事件を解決するなんて金田一らしくないなあと思う。

・羽場博行「私が暴いた殺人」
 「病院坂の首縊りの家」事件を解決し、日本を去った金田一がロスで探偵業を開いており、殺人事件を解決するという話(ロスで探偵業をやっていたら、消息不明にならないだろ、と思わないでもないが)。
 題名がある種のトリックになっている。この作品での話者(私)は金田一ではなく、金田一依頼人(秋倉)であり、秋倉の視点で話は進んでいく。「タイトルの私って秋倉のことだよな?」「何故、金田一ではなく秋倉が殺人を暴くんだろう?」、と思いながら読んで行くと最後に意外な落ちが待っている(本格ミステリを読み慣れている人間にとってはありがちな落ちかもしれないが私個人的には充分、意外だった)。

・藤村耕造「陪審法廷異聞」
 金田一が活躍する陪審ミステリ。

*1:なお、受賞作は以下の通り(名前は短編の掲載順)。亜木冬彦「殺人の駒音」、姉小路祐「動く不動産」、五十嵐均「ヴィオロンのため息の」、霞流一「おなじ墓のムジナ」、斎藤澪「この子の七つのお祝いに」、柴田よしき「RIKO」、服部まゆみ「時のアラベスク」、羽場博行「レプリカ」、藤村耕造「盟約の砦」