10月の日付のエントリで、紹介記事は12月の記事と日付が大幅にずれてますが連続更新の形にしたいので。
■スポーツ報知『猪木議員、北朝鮮訪問また「挑」戦ダァ〜』
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20131229-OHT1T00006.htm
以前も「張氏粛清後の状況を知るため早期に訪朝したい」と語っていた猪木氏がまた早期訪朝の意思を表明したという話です。
猪木氏曰く
猪木氏は11月に国会に無許可で訪朝し、登院停止30日の処分を受けた。今回は反省を生かし、1月下旬に予定される国会の召集前に、1週間ほどの予定で訪問する予定
だそうです。
■産経新聞『【北朝鮮拉致】今年も進展なし…どこへ行く北朝鮮 張氏処刑の影響は?』
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131231/crm13123112000007-n1.htm
小泉訪朝から11年も経ったのでさすがに産経も「成果がないこと」を認めざるを得ないのが皮肉です。日本が交渉しないから成果が出ないのですが、まあ、そういう理解は産経はないでしょう。
張氏の死刑について、北朝鮮の国営朝鮮中央通信が発表した翌日の12月14日、東京都内では、政府主催のシンポジウムが開かれた。北朝鮮や拉致問題に詳しい専門家を集めたイベント冒頭の基調講演では、東北アジア国際戦略研究所客員研究員の武貞秀士氏*1が張氏の失脚、処刑に触れた。
「圧倒的に権力を独占した金正恩*2が張成沢*3を切ったという極めて単純な事件だった」。武貞氏は守旧派と改革派の路線対立などはなかったとの見方を示した。
今後の日朝関係については「前の体制にとらわれない金正恩体制は拉致問題についても新しい姿勢で接するのではないか」と指摘。「『日朝の窓口はおれだ』という張成沢がいなくなったことで、日朝関係はむしろいい機会を迎えている」として、来年に安倍晋三首相と金第1書記の間で日朝首脳会談を開くべきだという提案をした。
・しかしこのシンポジウムってマスコミで全然話題にならなかったですよね。まあ、同時期に「特定秘密保護法問題」「猪瀬都知事(当時)の徳洲会疑惑」というビッグな話題があったとはいえ、昔だったらもう少し騒がれていたでしょう。どれほど拉致が風化したかと言う事です。
・武貞氏の分析の是非はともかく「早急に首脳会談すべき(出来れば来年の早いうちに)」という武貞発言には全く同感です。
武貞氏のような発言をしても「北朝鮮の手先」などという罵倒がないことは「昔に比べたらいいこと」です。小泉訪朝から11年経っても何の成果もないので少しは日本の政治状況もまともになったと言うことでしょうか。
まあ、武貞氏の経歴(元防衛庁研究員)がどう見ても「北朝鮮シンパなどではない」と言うことも大きいでしょうが。
【追記】
ただ武貞氏の名前でググったら『北朝鮮は武力で半島統一をめざす(仮題)』(2014年1月刊行予定、PHP研究所)なんて著書がヒットしてびっくり。どう見ても本のタイトルは「日朝首脳会談を開くべき」という主張と矛盾するように思うし、普通に考えて武力統一なんて目指さないでしょう。そんな力があるわけもない。武貞氏をどう評価したらいいのやら。
張氏を粛清した理由が記された判決文を何度も読んだという龍谷大の李相哲*4教授は(中略)「北朝鮮政権は本質的には何も変わっていない。(中略)悪い方向にいっている」「拉致問題を解決するには金正恩を動かすしかない」として、金第1書記を国際社会に告発することを薦めた。
無茶苦茶言わないで欲しいですね。何を理由に拉致問題で告発するのか。拉致が行われたのは祖父や父が権力者の時代であって彼はノータッチなんですが。それとも「国内の人権問題(いわゆる政治犯問題)」ですか。で、それと拉致と何の関係があるの?
大体そんなことしたら日朝交渉が出来なくなるでしょうが。「巣くう会」と似たり寄ったりの考えの人なんでしょうね。巣くう会サイトで見た覚えがないので巣くう会との直接の関係はないのかも知れませんが。
聖学院大の宮本悟准教授*5は(中略)「張成沢は日本に向けた窓口の一つではあった。拉致問題解決のために何か動いてくれたのかはかなり怪しいが、失った部分をどこかで埋める活動を始めるべきだ」と対話に向けた新たなチャンネルを探るよう提案した。
まあ、全く同感ですね。チャンネルは当然必要でしょう。
張氏の粛清が日朝関係や拉致問題に一定の影響力を与えたとの見方が多かった一方で、「張成沢の失脚は拉致問題にプラスにもマイナスにもならない」(初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏)という反応も見られた。
主張の是非はともかく佐々のどこが「北朝鮮専門家」なんでしょうか。
シンポジウムでは、日本政府が北朝鮮に対して実施している経済制裁についての議論も目立った。
静岡県立大の伊豆見元*6教授は基調講演で、制裁に一定の効果があることを認めたうえで、「ここ少なくとも10年の動きを見れば圧力あるいは制裁では拉致問題の解決を導くことができないのは明らかだ」と主張。交渉で結果を出すためには、「ギブ・アンド・テーク。すなわち北朝鮮と取引をしないといけない。『なんで北朝鮮に得になることを与えなければいけないんだ』というのは当然だが、取引をしない限り交渉で結果が出ないのは厳然たる事実だ」と話した。
さらに拉致問題だけでは北朝鮮を交渉の場に乗せることはできないとして、「大きな絵を描く中で拉致問題を解決に導くしかない。日朝国交正常化を目指す交渉を始める。その交渉がもし結果をもたらすのであれば、当然取引がベースになる。そういう点で(政府に)考えていただくことが必要だ」と指摘した。
伊豆見氏のような発言をしても「北朝鮮の手先」などという罵倒がないことは「昔に比べたらいいこと」です。小泉訪朝から11年経っても何の成果もないので少しは日本の政治状況もまともになったと言うことでしょうか。小生は伊豆見氏の「ギブアンドテーク論」「早期国交正常化論」には全く同感です。
これに対し、拉致被害者の支援組織「救う会」の会長で東京基督教大の西岡力教授は基調講演で、「私たちは圧力が効くと思っている。(中略)」と(中略)圧力の必要性を訴えた。
いつもの巣くう会発言、西岡発言で内容は「制裁万歳」です。まあ、わかりきったことではありますが。
興味深いのはこの記事において武貞氏の「早期首脳会談論」、伊豆見氏の「ギブアンドテーク論」「早期国交正常化論」、西岡の「制裁万歳論」、全て「そういう発言がありました」という客観報道だと言う事です。いつもの産経だと「武貞氏、伊豆見氏を罵倒し、西岡万々歳」ですがこの記事に限れば全くもって「客観報道」です。産経の考えは全く述べられていません。まあ、別途、阿比留や古森が書くコラム当たりで武貞非難、伊豆見非難、西岡絶賛があるかも知れませんが。
(注:増元)照明さんは安倍首相を信頼しているとしたうえで、「もう1年しか待てないと総理にはいいたい」と早期の解決を訴える。
ええ?って感じですね。俺だったら「もう待てない、何時になったら成果が出るんだ」と憤激してるところですが増元曰く「あと1年待てる」んだそうです。ドンだけ安倍に甘いんだよ、お前。
つうかこの記事は「2013年12月」の記事ですけど「来年の同じ頃(2014年12月)になって成果が出なくても」、増元は「あと1年だけ待つ」とかまた言い出すんじゃないですかね。で「あと1年待つ」が「安倍退陣まで続く(あるいはポスト安倍*7でも続く)」という笑えない事態になりかねない。
*1:著書『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(1998年、ベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(2001年、PHP研究所)、『金正恩の北朝鮮・独裁の深層』(黒田勝弘との共著、2013年、角川oneテーマ21)
*2:国防委員会委員長、朝鮮労働党第一書記、朝鮮人民軍最高司令官
*3:前国防委員会副委員長
*4:著書『満州における日本人経営新聞の歴史』(2000年、凱風社)、『朝鮮における日本人経営新聞の歴史(1881〜1945)』(2009年、角川学芸出版)、『金正日と金正恩の正体』(2011年、文春新書)、『朴槿恵の挑戦』(2012年、中央公論新社)。著書名を見る限り北朝鮮関係書籍は1つしかなくそれも玉石混淆で知られる文春新書(何せ文春新書からは南京事件否定論本『「南京事件」の探究』(北村稔著、2001年)がでている)。果たして李氏を「北朝鮮専門家」と呼べるのか疑問に思う。
*5:著書『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(2013年、潮書房光人社)
*6:著書『北朝鮮で何が起きているのか:金正恩体制の実相』(2013年、ちくま新書)
*7:誰がなるのかわかりませんが