新刊紹介:「経済」11月号

「経済」11月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

随想
■「職場に憲法戻る」
(内容要約)
イタリア自動車メーカーフィアット労働組合差別事件で労働組合側(金属産業労組FIOM)に勝訴判決が下ったという話。フィアットは「判決には従う」としながらも「判決に抵触しない形での組合潰し」を未だ画策しており戦いは当分続く。


■「大阪市民は、もう.黙ってへん!」(藤永延代)
(内容要約)
 WTCビル訴訟、橋下の特別秘書に対する訴訟(勤務実態が全く明らかでないため給与支給に違法の疑いがある)などさまざまな橋下への批判運動の紹介。今回の堺市長選惨敗を機に橋下一派の没落が早まる事を願ってやまない。


世界と日本
■「欧州各国の「熱い秋」」(宮前忠夫*1
(内容要約)
 欧州での緊縮財政・新自由主義派との闘争の紹介。

参考
赤旗
『欧州緊縮派が方針転換』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-02/2013050201_03_1.html
『緊縮策に違憲判断、ポルトガル 公務員削減法案』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-31/2013083107_03_1.html
『フランス 年金改悪怒りのデモ、4労組呼びかけ 180カ所・37万人』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-12/2013091207_01_1.html
ギリシャ 公務員48時間スト、無差別解雇もう限界 緊縮で悪くなる一方』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-20/2013092007_01_1.html
ポルトガル 全国の首長・議会選、緊縮推進の与党後退、不満渦巻く 社会・共産など躍進』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-10-01/2013100107_01_1.html


■「韓国の女性労働者の現実」(洪相鉉)
(内容要約)
・韓国の女性就業率は低く、また多くの女性は非正規労働である。男性との賃金格差も大きい。
・政府は女性就業率増加を目指しているが、政府の方策では「女性の非正規労働ばかりが増える事」が危惧される。


特集「原発ゼロとエネルギー転換」
■「原発撤廃の経済学:エネルギー転換の課題」(大島堅一*2
(内容要約)
・「原発の低コスト」とは「事故賠償費用」「廃炉費用」をネグった「虚構の低コスト」にすぎない。
 経済面だけ考えても原発は割に合わない。
・今後は再生可能エネルギーは一大産業と成るであろう。世界各国が再生可能エネルギーに重点を移しつつある理由には「原発の危険性」は当然あるが、「再生可能エネルギーの将来性」というビジネス的な面もある。にもかかわらず、原発推進固執し、再生可能エネルギーを軽視すれば、日本は再生可能エネルギー市場で後れを取る事になるだろう。


■「危機的な福島原発の汚染水問題」(本島勲)
(内容要約)
 政府の汚染水処理への批判。基本的に東電に任せる現在のやり方ではなく、政府が直接事故対策に乗り出す事が必要である。


■「再生可能エネルギーの普及に向けて:現状と課題を考える」(歌川学)
(内容要約)
再生可能エネルギーが普及していない現状を指摘した上で、普及を妨げる一因となっている制度の問題について、欧州の制度を参考にした上での改正を主張。


■「激変する世界のエネルギー事情:エネルギー大国へと変貌するアメリカ」(萩村武)
(内容要約)
『新刊紹介:「経済」1月号(追記・訂正あり)』(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20111215/5421309876)で紹介した『「シェールガス革命』で激変する石油・ガス市場』(萩村武)と大筋では変わらない内容。改めて「経済」1月号の感想を再掲する。

 従来、営業的にペイしないため、無視されていたシェールガスが技術革新によって、営業的にペイするようになったため、シェールガスの生産が2000年代から本格化し、それがエネルギー市場に大きな影響を与えてるという話らしい。
 シェールガスブームによって、原油天然ガスの価格は安定傾向にあり、またいわゆる「ピークオイル論(オイルがいずれ枯渇する)」と言う話も影を潜めた。こういう状況で「石油枯渇の危険性」や「低コスト」を理由に原発推進を唱えるのは常軌を逸しているだろう(ガスはCO2がどうのこうの言うやつがいそうだが、放射線の危険性を考えれば「CO2を出さない原発はエコ」とはとても言えないし、CO2の問題は別途解決すればよろしかろう)。
 ただしシェールガス開発に問題がないわけではない。たとえば
「1:水圧破砕法には大量の水を使うため、水資源の枯渇を招きかねない」
「2:水圧破砕法では特殊な化学薬品を使うため、それが地下水汚染など環境破壊の原因になりかねない」という批判がある。この点をどう評価するかという問題(問題を解決した上でシェールガス開発を続けるのか、原発のように問題の多すぎる技術としてシェールガス開発をあきらめるのか)は勿論ある。どっちにしろ原発が安全でないこと、今後依存していくべき技術とは言えないことにかわりはないが。


■「危険な原発輸出に走る安倍政権」(佐久間亮)
(内容要約)
赤旗記事の紹介で代替。

赤旗
原発輸出で2兆円、安倍政権 大企業のための「成長戦略」、福島事故の究明、収束もないまま』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-06-14/2013061401_01_1.html
原発輸出 高い代償、三菱重工に米側が巨額賠償請求、事故原因器を納入』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-22/2013082201_04_1.html


■「原発と避けられぬ被爆労働の実態」(萬井隆令*3
(内容要約)
 原発労働において「被ばく隠し」「偽装請負」「賃金のピンハネ」などの数々の違法行為が横行している事を指摘した上でそれについて政府や東京電力が責任を持って是正する事を主張。
 なお、こうした違法行為が横行していた事こそが「原発がまともなシステムとは言えない事」の証明であろう。また、こうした違法行為によってコストカットした事が「原発の低コスト」を支えてきたのでありそう言う意味でも「原発の低コスト」は虚構と言える。


■座談会「社会保障を壊すアベノミクス:消費税増税に根拠なし」(岡崎祐司、日野秀逸、三成一郎*4
(内容要約)
・副題は「消費税増税に根拠なし」だが、消費税問題に触れているとは言え、それがメインというわけでもないので適切な副題だったかは疑問。むしろ安倍の福祉路線についての総論的批判といえる。
・なお、アベノミクスを「単なる景気回復政策」「単なるリフレ政策」と見なせばアベノミクスの是非はともかく「社会保障を壊す」とは言えないだろうが座談会メンバーは「外見だけでも景気回復した事にして社会福祉破壊を飲ませるためのアベノミクス」「アベノミクスの景気回復論は『大企業支援のための法人税減税』及び『法人税減税のための福祉予算カットと消費税増税』が当然視されている」と理解しているため「福祉を壊すアベノミクス」ということになる。
・安倍の福祉政策を批判した上で一つのたたき台として、労働総研『社会保障再生への改革提言』『提言・ディーセントワークの実現へ』(いずれも2013年、新日本出版社)を紹介。

参考
赤旗
主張『社会保障改悪計画、安心壊すプログラム案 撤回を』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-23/2013082301_05_1.html
主張『社会保障と消費税、大義のなさはいよいよ明白だ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-22/2013092201_05_1.html
主張『年金・手当の削減、暮らしの現実を見ない暴走だ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-30/2013093002_01_1.html


特集「医療保障の再生へ:地域・現場からの視点」
■座談会「安倍「医療改革」との対決:国民皆保険を守る」(横山寿一*5、相野谷安孝*6、寺尾正之)
(内容要約)
 安倍の社会保障「改革」への批判という点では■座談会「社会保障を壊すアベノミクス:消費税増税に根拠なし」と内容は同じだが、■座談会「社会保障を壊すアベノミクス:消費税増税に根拠なし」が介護、年金、保育など医療以外にも触れているのに対し、「医療改革」批判に重点が置かれている。


■大阪「自治体キャラバンでみえた国保問題」(寺内順子)
(内容要約)
 大阪社会保障推進協議会が行った「自治体キャラバン行動(大阪府自治体との意見交換、要望活動)」の紹介。本論文では国民保険料の高額化が問題にされている。


■北海道「白老町立病院をなくさないで、署名運動広がる」(大渕紀夫)
(内容要約)
 財政悪化を理由とした白老町立病院の廃止、診療所化への反対署名運動の紹介。
 北海道新聞『7年間で23億円削減 白老町が財政健全化プラン 町立病院、運営は継続』(http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki/495484.html)によれば

小児科出張医による診察を週5日から3日に縮小するなど

ということでサービス低下が危惧されるし、また

同病院の存廃について、戸田町長は「1年間程度の経営状況を見極めながら、その後の方針を決定する」としている。

ということなので、まだ油断はできないであろうが署名運動により「病院廃止」という最悪の事態はひとまず避けられたと言えるのだろう。


■兵庫「健診・生活習慣病予防に取り組む尼崎市「ヘルスアップ戦略」」(野口緑)
(内容要約)
生活習慣病予防を目的とした尼崎市の「ヘルスアップ尼崎戦略事業」について担当課長の野口氏(尼崎市市民協働局ヘルスアップ戦略担当課長)による説明。

参考
ヘルスアップ尼崎戦略事業
http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kokuho/8583/index.html


■宮城「歯科医療調査が示す被災地の受診抑制」(井上博之)
 宮城県保険医協会の調査『被災者の医療費一部負担金免除に関する患者アンケート結果について』(http://miyagi-hok.org/?p=340)の紹介。被災地において「費用負担を恐れる事による受診抑制」が発生している事を指摘。被災地限定という形でアレ、「負担軽減措置を執らなければ受診抑制は減らず、病状の悪化を助長しかねない」と政府を批判。


■「減価償却費の即時再投下による機械設備増大現象」(林直道*7
(内容要約)
・筆者が著書『景気循環の理論』(1958年、三一書房)で論じた『減価償却費の即時再投下による機械設備増大現象』について改めて論じたもの。
・なお、筆者の主張の一部については山田欽一、山田克己『拡大再生産と固定資本の補填:定差方程式における『掛谷の定理』の応用』(一橋論叢46巻5号、1961年11月、http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/3427/1/ronso0460501210.pdf参照)と言う批判が後に出たと言う。
 しかしこの山田説については後に和田貞夫「『掛谷の定理』と更新投資の問題」(大阪府立大学経済研究37号、1965年8月、http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10466/1308/1/KJ00000091125.pdf参照)、塩沢由典*8『行列の反復と漸近収束』(BASIC数学1978年11月号)により山田説よりもむしろ林説の方が適切であるとの指摘がなされたという。


■「日本の研究体制の現状と課題」(榎木英介*9
■データで見る日本経済5「日本の科学・技術の現状」
(内容要約)
 日本の研究者支援の貧弱さを政府資料を基に指摘。

*1:著書『人間らしく働くルール:ヨーロッパの挑戦』(2001年、学習の友社)

*2:著書『原発のコスト:エネルギー転換への視点』(2011年、岩波新書

*3:著書『検証・原発労働』(共著、2012年、岩波ブックレット

*4:著書『日本の社会保障をどう再建するか』(2001年、新日本出版社

*5:著書『社会保障の再構築』(2009年、新日本出版社

*6:著書『医療保障が壊れる』(2006年、旬報社

*7:著書『強奪の資本主義:戦後日本資本主義の軌跡』(2007年、新日本出版社

*8:著書『市場の秩序学』(1998年、ちくま学芸文庫

*9:著書『博士漂流時代:「余った博士」はどうなるか?』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン