新刊紹介:「経済」6月号(追記あり)

「経済」6月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■巻頭言「国際家族農業年」
(内容要約)
・今年は国連が定めた「国際家族農業年」である。国連の「家族農業への評価」をどう考えるかはさておき、国連が「家族農業(小規模農業)に一定の価値を認めていること」は興味深い。
 「大規模農業化こそが善」とする傾向のある日本農政に求められる見地だろう。


■世界と日本
【14年度予算と消費税増税(村高芳樹)】
(内容要約)
 消費税増税はあくまでも「法人税減税」による税収減の穴埋めでそれ以上でもそれ以下でもないという批判です。いい加減財界中心、庶民軽視の租税政策をやめさせるべきでしょう。


【中国・社会保障制度の課題(平井潤一)】
(内容要約)
・まず中国のジニ係数(0が最低、1が最高で1に近づくほど不平等度が高い)が「0.473(政府発表)」と相当に高い事が指摘されます。「政府発表よりもっと高い」と言う説もあるようですが、かりに故意に甘い数値を出してるとしても「0.473」というのは決して褒められた数値じゃないし,中国も不平等の存在自体は「渋々だとしても」一応認めてるわけです。
・ではどうやって不平等を克服するのか。論文タイトルは「社会保障」ですがそれを離れて話をすればまず考えられるのは「内陸部経済のてこ入れ」でしょう。トウ小平*1の方針で「まず開発が容易な大都市部、海岸地域で改革開放をやる」ということで改革開放をやった地域はそれなりに豊かになったが内陸部は貧乏なので、予算の集中投下によるてこ入れが必要でしょう。
 第二にタイトルにもなっている社会保障制度の充実ですね。都市と農村では「年金制度などが別制度」なのでまずは統合することで都市と農村の格差をなくそうという試みを始めるそうです。


【韓国で鉄道民営化の攻防:ストライキで闘う労働者を大弾圧(洪相鉉)】
(内容要約)
 鉄道民営化を推進しようとする朴政権への批判です。特に「民営化の是非」よりは「労組の主張になど聞く耳持たない」とする朴政権の手法が批判されています。「中曽根内閣の国鉄民営化を彷彿とさせる」としており中曽根が実行した「民営化反対派(日本では主として国労)への差別処遇」の「韓国での再演」を危惧しているようです。


【東電再建計画の問題点(高橋文夫)】
(内容要約)
 「福島原発廃炉計画もろくに立てずに再建なんか出来るわけないだろう」と言う批判です。


特集「アフリカとグローバル経済」
■「アフリカの苦悩から世界を見る」(福田邦夫)
Q&A方式で書いてみる。Aは福田氏、Qは俺ちゃん設定。
Q「アフリカの苦悩と言いますと?」
A「1960年はアフリカの年と言われるほど、アフリカ諸国の独立が相次いだ年でした。しかしそれは残念ながらアフリカ人民の幸福には単純につながっていきません。」
「その理由として1)東西冷戦による米ソの介入や旧宗主国の介入、2)「絶対的権力は腐敗する」の2点を挙げたいと思います」
「まず1)について。その例としてコンゴ民主共和国のパトリス・ルムンバ首相*2暗殺、ブルキナファソのトーマス・サンカラ*3大統領暗殺があげられると思います。直接の実行犯はクーデタを起こした軍部ですが、どちらも旧宗主国コンゴの場合はベルギー、ブルキナファソの場合はフランス)が暗殺の黒幕であることは間違いないと思います。」

参考
【ルムンバ】
藤永茂*4ブログ「私の闇の奥」
『パトリス・ルムンバの暗殺(1)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/eb3c1e1a71c5ad23166e2751c2aa852c
『パトリス・ルムンバの暗殺(2)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/32c51dca3b87cdf23920e6dbaf23f8fb
『パトリス・ルムンバの暗殺(3)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/3331cb3f12846cccdccaa2d78cf37ffc
『パトリス・ルムンバの暗殺(4)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/c955f3e3b99590520a566f65e6ac482b
『パトリス・ルムンバの暗殺(5)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/4cc8de01674d87a002bf0f614616094a
『パトリス・ルムンバの暗殺(6)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/9653330068a638e1b82bd048ee75c88a
『パトリス・ルムンバの暗殺(7)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/12790a127ffcc1a7cc5e800b2a4e5033

【サンカラ】
私の闇の奥
『ブリクモンとサンカラ』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/260b048f7ee32c23f008174536afa878
『サンカラとブルキナ・ファッソ(1)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/c846a4e14876d9909b35efb87e48541e
『サンカラとブルキナ・ファッソ(2)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/42cffe99ca39e4fe9ce6ade4a417c172
『サンカラとブルキナ・ファッソ(3)』
http://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/c55d2380883b62b886a9aa707d622850
ジャン・ジグレール著『世界の半分が飢えるのはなぜ?』より抜粋
http://www1.vecceed.ne.jp/~kyusei/sub93.htm

【2014年11/1追記】
朝日新聞ブルキナファソでクーデター、軍が政権掌握を宣言』
http://www.asahi.com/articles/ASGB06R56GB0UHBI022.html?iref=comtop_list_int_n02
時事通信『コンパオレ大統領辞任:27年の長期政権倒れる−ブルキナファソ
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014103101119
 サンカラを暗殺し、27年に及ぶ独裁を続けたコンパオレ政権がついに崩壊しました。今後のブルキナファソ情勢、アフリカ情勢が注目されます。
【追記終わり】


「2の『絶対的権力は絶対的に腐敗する』はあまり説明の必要もないと思います。多くのアフリカ政権はいわゆる開発独裁の道を歩んでいきました。アジアもそうでしたが(例:フィリピンのマルコス、インドネシアスハルトなど)」
参考
福田邦夫『アルジェリア非情の歴史』
http://www.japan-algeria-center.jp/presen/jp/presen20130404j.html


Q「全くもって欧米先進国には人権を語る資格はありませんね。結局、『経済のほうが政治よりよっぽど現実(実状)に正直だ』(http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/1a7187cdeada28ece24c5aec214d9449)、つまり『金になるなら軍部クーデターだって支援するぜ』ってことなんでしょうか。小生も『金は大事だ』と思いますが軍部クーデターの支援なんて論外でしょう。
 しかもサンカラ暗殺時(1987年)はミッテラン大統領ですから「フランス社会党」って保守とどこが違うんだろうと呆れてしまいますね。そういえばチベット研究者、W大学教授の某女史も「エアバスを中国に売りやがって」とフランス社会党のオランドには憤慨していましたが。
 彼ら欧米先進国が中国やミャンマーなどを人権問題で非難するのも結局、利権でしかないんだろうなと思いますね。いや中国やミャンマーなどを擁護する気はないですが。
 それはともかくルムンバやサンカラはウィキペの記述やブログ『私の闇の奥』を見るだけでも面白そうなので機会があったら評伝でも読んでみたいと思います(あるか知らないが)。チベットのプンワンといい日本人があまり知らない世界の偉人(?)が結構いるもんだと思います。」
「しかしこうなるとアフリカの未来に絶望せざるを得ませんね」
A「その気持ちはわかりますが、『個人として革命家を殺すことはできても、その思想までは殺すことができない』というサンカラの熱い思いを受け継ぎたいものです。ペシミズムからは何も生まれないと思います」


■「ウラン開発と福島原発事故ニジェールを事例に」(佐久間寛)
(内容要約)
・日本がウランを輸入している輸入先は「1位:カナダ、2位:オーストラリア、3位:ニジェール、4位:ナミビア」である。この論文ではニジェールのウラン開発史が簡単に述べられている。
・1967年までニジェールの主要輸出品は落花生であった。これはフランスが「旧植民地であるニジェールの落花生について価格保障をしていたから」だが1967年に価格保障制度が廃止され事情が変わってくる。落花生に変わる輸出品となったのがウランだがそこにもフランスの影響が見られる。
・フランスで商業用原発が始めて稼働するのは1963年のことだが、フランスで「原発開発が本格化する」のは1973年の第一次石油危機以降のことである。1973年以降、フランス政府は「石油火力にかわるエネルギー」として、原発開発を積極的に進めていく。そしてニジェールでも1973年以降、ウラン輸出が本格的に進められていく。
ニジェール経済がウラン輸出に大きく依存していることは「福島原発事故後の脱原発の動き」と「それによるウラン価格の低迷」を考えると非常に問題があると言える。


■「多国籍企業と農業資源の収奪:ケニアにおける農業投資」(佐々木優)
Q&A方式で書いてみる。Aは佐々木氏、Qは俺ちゃん設定。
A「ケニアの農業というと何が思い浮かびますか?」
Q「無知なので思い浮かびませんがコーヒーですね。」
A「多くの方はそういうかと思いますが実はコーヒーがケニア最大の輸出農産物だったのは1980年代までなんです。1990年以降はコーヒー価格が低落傾向なこともあり、一番輸出額が多いのは紅茶で、二番目が園芸作物、三番目がコーヒーなんです。今日は園芸作物、特にその中心であるバラを取り上げたいと思います」
「バラはオランダの多国籍企業ケニアに進出し生産しているものです。オランダで生産するよりケニアで生産した方が費用が安く済むわけです」
Q「『農業資源の収奪』(論文タイトル)ということはそうした状況を先生は手放しでは賛美していないわけですね。それは何故でしょう」
A「先ず第一にバラは食べられないと言う事が上げられますね」
Q「小麦、大豆といった食料生産が減って飢餓を助長している疑いがある、そういうことですか?」
A「そうですね。そう言う意味ではバラに限らず『バイオエタノール燃料のための農産物生産』や『食品ではあるが嗜好品であるコーヒーや紅茶の生産』なども手放しで喜べる物ではないと思います。もちろん『作るな』という話ではないのですが」
「第二に多国籍企業が利潤の大部分を手に入れ、現地住民には分け前が少ないということがあげられます。企業というのは別に善意でやってるわけではありません。何らかの形で規制をかけなければ、『出来る限りケニアには技術移転しない』『現地住民を低賃金で長時間労働させる』『いつでも撤退が可能な契約にしておく』など大企業側に極端に有利な状況が出現するのは当然と言えるでしょう」


■「アフリカの通貨共同体:CFAフラン圏を中心に」(木田剛)
Q&A方式で書いてみる。Aは木田氏、Qは俺ちゃん設定。
A「フラン圏と言う言葉で何を思い浮かべますか」
Q「フランというとフランスの通貨ですから、フランスと『アフリカの旧フランス植民地(西アフリカ、中央アフリカ)』による通貨共同体」ということですか?」
A「まあそういうことですね」
Q「フラン圏のメリットとデメリットは?」
A「フランスにとってのメリットは西アフリカ、中央アフリカへの経済的影響力ですね。要するに西アフリカ、中央アフリカを原料の輸入先、製品の輸出先にすると言う事です。ただ経済のグローバル化によって、フランスの旧植民地における存在感も昔に比べれば落ちています。デメリットは通貨圏の維持にかかるコストでしょう。フランス経済に問題がなくても旧植民地経済に問題があればフラン圏の信用は落ちますからそれを阻止するためのコストがかかります」
「旧植民地側にとってのメリットは1)フランスから経済支援を受けられる、2)地域統合が進む、と言ったところだと言われています。ただ2)について言えば実は思ったほど地域統合は進んでいない。理由としてはA)政情不安、B)多くのアフリカ諸国は一次産品(鉱物や農産物)を欧米に輸出し、欧米から工業製品を輸入するという経済構造なので地域統合にあまりメリットがない,と言ったことが考えられます。地域統合を進めるにはA、Bの問題解決が不可欠です。デメリットとしてはフランスの経済政策介入でしょう。フラン圏の信用を守る為、旧植民地の経済政策にはフランスサイドが一定程度介入できるようになっています。」
「なお西アフリカでは2000年に西アフリカ通貨圏(WAMZ)が誕生し2015年の単一通貨ECOの導入と、それによるフラン圏の発展的解消」を目指しています。実際にECOが誕生するのか、誕生したとしてどんなものになるのかによりフラン圏の性格も左右されることになるでしょう」


■「エジプト軍の経済利権と多国籍企業」(山中達也
(内容要約)
 エジプト軍の経済利権を守るために軍部は「その動機はともかく、軍利権に何らかの形でメスを入れようとしたムバラク*5やムルシ」を打倒したのであり、それはおそらく「欧米政府や周辺アラブ諸国」の望むものでもあったろうというのが、山中氏の見立てです。
 要するに以前、『新刊紹介:「歴史評論」11月号(追記あり)』(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20131020/5210278609)で栗田禎子氏の論文を批判しましたが、栗田説と真逆にあるのが山中論文です。今も栗田氏ってこういう珍論を撤回してないんですかね。


■「アベノミクス1年の総点検:『経済大国』からの転落」(大槻久志*6
(内容要約)
 Q&A形式で書いてみる。
Q「アベノミクスについて批判的ご意見だとは思いますが、ご意見をお聞かせ下さい」
A「アベノミクスについて安倍政権は3本の矢として1)日銀の金融政策、2)公共事業の実施、3)成長戦略」の3つを上げています。この中で最もお粗末なのは3)成長戦略、でしょう。要するに小泉政権時代の構造改革の焼き直しに過ぎないからです。構造改革の是非はともかく、構造改革が景気回復に貢献するなどと言う理屈を1)や2)と比べ、安倍政権はまともに説明できていません。あげく『ホワイトカラーエグザンプション』などの労働改悪さえ、成長戦略にカウントしている始末です」
Q「1)日銀の金融政策、についてはどうでしょう」
A「日銀の金融政策によって一定の円安、株価高は実現できたと言えるでしょう。ただそれが景気回復に役立っているかとか、国民の所得を増やしてるかという問題は全く別問題です。円安は輸出企業にとってはありがたいでしょうが輸入品物価高騰は生活弱者の生活を直撃しています。株価高は企業の収益増には貢献してるでしょうがそれ自体は円安と違い輸出に有利な要因ではありませんし内需拡大にも役立っていません。」
Q「2)公共事業増については?」
A「日本の産業に占める公共事業のパーセンテージは昔に比べれば下がってるので過大評価は到底出来ないでしょう。公共事業が効果を発揮した時期は今と違ってもっと公共事業のパーセンテージは大きかったたわけです。むしろ介護分野などどう見ても供給が足りてない産業の育成でもすれば福祉も充実していいと思うのですが」


■「新しいエネルギー政策原論:原発に依存しない社会へ」(植田和弘*7
(内容要約)
 Q&A形式で書いてみる。
Q「原発廃止論については、『自動車だって排気ガスの問題などがあるがなくすわけにはいないではないか、原発も同じだ』と言う意見がありますが?」
A「それについては紙屋研究所原発と自動車』(http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20110409/1302306882)を読んで下さい。先ず第一に自動車には現時点では代替手段があまりありません*8が、原発には代替手段があると思います。第二に自動車の弊害と原発の弊害は比べものにならないと思います。第三に『電気自動車開発』など自動車については弊害をなくそうという動きがいろいろあります。一方原発はどうでしょうか?。放射性廃棄物を出さない原発などといった動きはないでしょう。そもそも技術的にそういうことは無理だと思いますが」
Q「原発は安価な電力だと未だに推進派は言ってるようですがどう思いますか」
A「それは事故時の賠償費用を見込まない事による『偽りの安価』だということは今回の事故で明白になったと思います」
Q「原発がないと電力が足りないという意見については?」
A「現在、原発稼働されていないが電力危機など起こってないわけです。明らかに『電力が足りない』論は事実に反します」
Q「原発を稼働しないと火力を稼働せざるを得ず、その結果、化石燃料の輸入増加で貿易赤字が拡大してるという主張については?」
A「2010年と2013年を比較すると輸入量、輸入金額はそれぞれ石油は0.98倍、1.51倍、石炭は1.03倍、1.09倍、液化天然ガスは1.25倍、2.03倍です。つまり輸入量を上回る輸入金額の増加があることがわかります。つまり、『円安などによる燃料価格の高騰』が主原因であり、それを原発を稼働しないから貿易赤字拡大だというのはデマでしかありません」

【追記】
 実は「原発を稼働しないと火力を稼働せざるを得ず、その結果、化石燃料の輸入増加で貿易赤字が拡大してるという主張」を社説その他で積極的にしているのは産経なのだが、その産経が「それは間違いだ」とする「植田氏と全く同意見の論説」を皮肉にも載せている。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140422/fnc14042203170001-n1.htm
【正論】貿易赤字論議めぐる2つの誤り 慶応大学教授・竹中平蔵
 第2の誤りは、貿易赤字原発停止−燃料輸入増によるとの見解だ。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏が提示する分析によると、過去3年間の貿易収支悪化の約3分の1はエネルギー価格上昇と円安が理由だ。エネルギーの輸入増ではなく、価格要因(円安と国際価格の上昇)である。

 産経の論理性のなさは今始まった事ではないがさんざん社説その他で「原発再稼働しないから燃料輸入が増えて貿易赤字が増えた、早く再稼働しないと国富が失われる」と宣伝しながら「貿易赤字の原因は燃料輸入増じゃない、円安とエネルギー価格の上昇だ、貿易赤字は再稼働の理由にならない」という文章を「書いたのは産経記者ではなく竹中氏とは言え」平気で載せるとはどういう神経をしてるのだろうか?


■【データでみる日本経済⑪】「消費の低迷と消費税増税
(内容要約)
統計データからは
1)消費税増税による駆け込み需要はさほどの物でなかったこと、
2)アベノミクスにより物価が上昇していること
3)一方で給与の上昇はほとんど認められないこと
4)そのためアベノミクスによる消費の増加が認められないこと、がわかる。
消費税増税はさらに物価を上昇させ、消費の低迷による景気へのダメージは避けられないであろう。


■「「核の時代」の真実に迫る:『オリバー・ストーンが語るもう一つのアメリカ史』の魅力」(藤岡惇*9
(内容要約)
オリバー・ストーンが語るもう一つのアメリカ史」はストーンが、歴史学者ピーター・カズニック*10の協力を得て製作したテレビドキュメンタリーであり、NHKBSで放送された。DVDボックス(全10巻)もでている。
内容は以下の通り。
第1話「第二次世界大戦の惨禍」(WORLD WARII)
第2話「ルーズベルトトルーマン、ウォレス」(ROOSEVELT,TRUMAN,&WALLACE)
第3話 「原爆投下」(THE BOMB)
第4話 「冷戦の構図」(THE COLD WAR 1945-1950) 」
第5話 「アイゼンハワー核兵器」(THE 50'S:ELSENHOWER,THE BOMB & THE THIRD WORLD)
第6話 「J.F.ケネディ 全面戦争の瀬戸際」 (JFK:TO THE BRINK)
第7話 「ベトナム戦争 運命の逆転」(JOHNSON,NIXON,&VIETNAM:REVERSAL OF FORTUNE)
第8話 「レーガンゴルバチョフ」 (REGAN,GORBACHEV,& THE THIRD WORLD:RISE OF THE RIGHT)
第9話 「 “唯一の超大国"アメリカ」(BUSH AND CLINTON:AMERICAN TRIUMPHALISM -NEW WORLD ORDER)
第10話 「テロの時代 ブッシュからオバマへ (BUSH&OBAMA-AGE OF TERROR) 」
なお、現在早川書房から、第1話から第3話についての書籍版も刊行されている。
・藤岡氏は「紙幅の都合で第1話のみ感想を述べる」としている。
 藤岡氏が興味深いとしているのはストーンの「ヘンリー・ウォーレス*11」に対する見方だ。
これについてはアマゾンレビューなどにもウォーレスについて触れたレビューがあるので紹介しておく。

もしヘンリー・ウォレスがアメリカの大統領になっていたら 2013/7/27
By daddy the kid
 NHKBSの「オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史」をみて、この本を買った。
 私は、この番組をみて、本を読むまで、ヘンリー・ウォレスというアメリカ副大統領について何も知らなかった。そして、聡明なフランクリン・ルーズベルト*12のあとに、なぜトルーマンのような凡庸な大統領が就任したのか、わかっていなかった。この本を読むと、帝国主義ファシズムと闘ったアメリカが、なぜ広島と長崎に原子爆弾を投下することになったのか、はじめて納得のできる説明を聞いた思いがする。
 フランクリン・ルーズベルトのもとで副大統領を1941年から4年間にわたってつとめたヘンリー・ウォレスはイギリスの帝国主義支配を嫌い、貧しい人々のためのニューディール政策を推し進めた進歩派の代表であった。彼は、1944年に病身で4期目の大統領選挙を闘ったフランクリン・ルーズベルトのもとで副大統領を務め、ルーズベルトを継ぐことが期待されていた。しかし、1944年の民主党大会で、選挙人の間では圧倒的な人気であったにもかかわらず、ミズーリ州選出のハリー・トルーマンが派閥人事で副大統領に選ばれる。ウォレスは核兵器の使用に反対した。
 戦争終結後も、ウォレスは商務長官として、冷戦の拡大に反対し、1946年9月にはマジソン・スクエアガーデンでソビエトとの「平和的競争」を提唱した。トルーマンは、ウォレスを解任し、以後赤狩り朝鮮戦争など冷戦が激化し、核戦争の危機が高まっていく。
 私は、これまで日本に核爆弾を投下したアメリカが戦後の日本に人権保障と平和主義を基調とする憲法をもたらしたのか、正確に理解することができなかった。しかし、このテレビ番組とそのもととなるこの本を読む中で、アメリカの中においても、戦争と平和、反動と人権が激しくせめぎ合っていたのだと言うことを実感することができた。

http://chikyuza.net/archives/69181
 もしルーズベルト大統領が1944年の4選出馬の時に、非常に狭量なハリー・トルーマンではなく、先見の明をもち論争をいとわないヘンリー・ウォレス副大統領を公認候補者リストに留めていたら、何が起こっていただろうか?
(中略)
 1945年4月にルーズベルトが死んだとき、もしトルーマンではなくウォレスが大統領になっていたら、日本への原爆投下はなく、おそらく冷戦もなかっただろう。

 「トルーマンではなくウォレスが大統領ならば原爆投下はなかったのではないか」というストーンの見解について素人なので評価は避けるがこうした「ありえたイフ」による思考実験は重要なことだと考える。いずれにせよ「原爆投下」が「必然」「不可避」ではなく「わざわざ選択されたもの」であることは間違いないであろう。


■「「グローバル都市」の経済構造:ニューヨーク市にみる」(中本悟*13
(内容要約)
 経済のグローバル化によって誕生するいわゆる「グローバル都市」の一例としてニューヨークを取り上げ分析。
 ニューヨークの特徴としては、
1)「脱工業化・サービス産業都市」ということがあげられる。ニューヨークの雇用の大部分を占めるのはいわゆるサービス産業であり、工業ではない。
2)貧富の格差の拡大も特徴としてあげられる。2013年のニューヨーク市長選では「格差縮小」をスローガンとしたビル・デブラシオ候補(民主党)が共和党候補をやぶったのもそうした格差の存在を前提して考えると不思議なことではないと思われる。


■「科学・技術の社会的存在形態と科学者の二重性」(木本忠昭)
(内容要約)
・「科学・技術は中立だ」と言う見方は一面的であると言える。確かに「科学・技術は中立」かもしれないが「どの科学・技術に集中的に予算投下するか」などといった問題は中立的ではない。
・「科学ではわからないことがある」というのは事実だがそれは「現状黙認」の正当化になってはならない。「水俣病水銀原因否定説」が「水俣病の拡大を招いた」ような、「為にする不可知論」ではないか、十分注意する必要がある。あくまでも目指すべきは「出来る限り科学的に解明し、その結果に基づき政策設定していくこと」だろう。


■「NHKの危機に市民が動く:会長・経営委員の罷免求めて」(小滝一志)
(内容要約)
筆者は「放送を語る会」(http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/)事務局長。「語る会」が行ったNHK籾井会長、長谷川、百田経営委員への批判や政府に彼らの更迭を求める運動について紹介されている。

参考
語る会声明『NHK籾井勝人会長の即時辞任を強く求めます』
http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/140100momii_jinin.html

*1:第一副首相、党副主席、党中央軍事委員会副主席、人民解放軍総参謀長などを経て国家中央軍事委員会主席、党中央軍事委員会主席

*2:モブツ陸軍参謀長により1961年に暗殺された。モブツは1965〜1997年まで大統領として独裁体制を敷いた。

*3:1987年にコンパオレ法相によって暗殺された。コンパオレは1987年に大統領に就任し2014年現在も大統領である。

*4:著書『アメリカ・インディアン悲史』(1991年、朝日選書)、『ロバート・オッペンハイマー:愚者としての科学者』(1996年、朝日選書)、『『闇の奥』の奥:コンラッド植民地主義・アフリカの重荷』(2006年、三交社)、『アメリカン・ドリームという悪夢:建国神話の偽善と二つの原罪』(2010年、三交社)など

*5:山中氏の見方ではムバラクは「軍利権は赤字を垂れ流してる」と言う新自由主義的観点から「軍を排除した上での民営化」など一定の「改革」を行う気だったらしい。

*6:著書「『金融恐慌』とビッグバン」(1998年、新日本出版社)、「やさしい日本経済の話」(2003年、新日本出版社)、「金融化の災い:みんなのための経済の話」(2008年、新日本出版社

*7:著書「環境経済学」(1996年、岩波書店)、「環境経済学への招待」(2002年、丸善ライブラリー)、「緑のエネルギー原論」(2013年、岩波書店)など

*8:全くないわけではなく電車や自転車などがある

*9:著書「サンベルト米国南部:分極化の構図」(1993年、青木書店)、「グローバリゼーションと戦争:宇宙と核の覇権めざすアメリカ」(2004年、大月書店)

*10:著書『原発ヒロシマ:「原子力平和利用」の真相』(共著、2011年、岩波ブックレット

*11:ルーズベルト政権農務長官、副大統領、トルーマン政権商務長官を歴任

*12:ニューヨーク州知事を経て大統領

*13:著書「現代アメリカの通商政策」(1999年、有斐閣)、「現代アメリカ経済分析」(共著、2013年、日本評論社)など