新刊紹介:「歴史評論」10月号(追記あり)

 特集記事はうまくまとまりそうにないので、まとまりそうな他の記事だけ紹介してみます。
 なお、目次については歴史科学協議会サイト(http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/)を参照してください。


■歴史の眼『新自由主義時代における地方国立大学の「ガバナンス改革」:本当に大学の自治は死んだのか?』(中澤達哉*1
(内容要約)
 筆者・中澤氏の経歴については、氏のサイト(http://nakazawa-fukui.com/career-2)を参照して欲しい。2015年4月より東海大学准教授の氏であるが、「2005年4月〜2015年3月」までは「国立福井大学准教授*2」」であり、中澤氏の言う「地方国立大学のガバナンス改革」とは中澤氏の勤務校だった福井大を意味している。
 なお、中澤氏の本論文は『【緊急シンポジウム】「大学ガバナンス改革」問題の歴史的位置―「大学の自治」と「学問の自由」の破壊の時代を考える:〔3月22日(日)〕 』(http://www.torekiken.org/trk/blog/event/20150322.html)での中澤報告を踏まえたものである。
 内容的には「教授会の学長選任権を奪う(理事会での選任とする)など、教授会権限を縮減し、学長や理事会の権限を強める」という形で文科省、大学当局*3がすすめるトップダウン型改革への批判がなされている。
 ただし
1)「教授会権限が完全に失われたわけではなく」学長の完全な独裁体制が成立しているわけでは必ずしもないこと
2)大学によって「トップダウン色の強弱」の違いがあること
を指摘し「大学自治は危機的状況にある」が失われたわけではないとする。
 筆者は
1)教授会自治は完全に失われたわけではなく教授会としてできる限りの異議申し立てをすること
2)教授会の力が制約された以上、今まで以上に教職員労組の役割が重要であり、教職員労組もできる限りの異議申し立てをすること
3)その場合、学生や保護者、大学OBなどできる限り広く連帯していくこと
を対抗策として指摘している。


■科学運動通信『吉見裁判の現状:「性奴隷」をめぐって』(加藤圭木)
(内容要約)
 慰安婦問題研究の先駆者として知られる吉見義明*4中央大学教授が次世代の党・前代議士「桜内文城*5」を名誉毀損で訴えた訴訟の報告。
 本裁判については以下のサイトを紹介しておく。

参考
■『YOSHIMI裁判いっしょにアクション!』
http://www.yoisshon.net/p/blog-page.html
 吉見裁判の支援団体のサイト。

【2015年1/20追記】
■産経『「慰安婦=性奴隷説は捏造」発言の桜内前議員、吉見教授に勝訴』
http://www.sankei.com/affairs/news/160120/afr1601200030-n1.html
 「安倍におもねってるのか」と疑いたくなる、呆れて二の句が継げない酷い判決ですが、吉見氏も当然控訴するでしょうし、そこでの勝訴を願いたいですね。まあこの判決結果で世界が「日本は裁判所も歴史州制主義に荷担するのか」「日本の裁判所は権力の走狗なのか」という衝撃を覚えたことは間違いないでしょう。
 いずれこの歴史評論でもこの判決への批判的論評が出るでしょう。そのときは小生なりにコメントしたいと思います。まあ、まずは翌日の赤旗&産経チェックですかね。


■書評『三谷孝著「現代中国秘密結社研究」(2013年、汲古書院)』(評者:丸田孝志*6
(内容要約)
 2011年になくなられた一橋大学名誉教授・三谷孝氏の遺稿を門下生がまとめたものとのこと。
 国民党や共産党を中心に論じる傾向があった従来の中国史研究においては「秘密結社(紅槍会、天門会、一貫道など)」に着目した三谷氏の研究は重要との指摘がされている(他にもいろいろ書いてあるがうまくまとまらないので省略)。


追想『阪東宏*7先生のご逝去を悼む』(山田朋子*8
(内容要約)
 2014年9月になくなられた「日本におけるポーランド史研究の草分け」である阪東氏(明治大学名誉教授)への追悼文章。

*1:著書『近代スロヴァキア国民形成思想史研究:「歴史なき民」の近代国民法人説』(2009年、刀水書房)、『ハプスブルク帝国政治文化史:継承される正統性』(2012年、編著、昭和堂

*2:正確には2005年4月〜2007年3月までが助教授でそれ以降が准教授

*3:中澤氏が批判しているのは福井大だが、基本的には「福井大のような国立大限定」ではなく、公立大や私立大も含む全ての大学に該当することだろう。

*4:著書『従軍慰安婦』(1995年、岩波新書)、『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(2010年、岩波ブックレット)など

*5:桜内は名誉毀損発言当時は維新の会所属であったがその後、次世代の党に移り、前回衆院選挙でめでたく落選した。

*6:著書『革命の儀礼中国共産党根拠地の政治動員と民俗』(2013年、汲古書院

*7:著書『ポーランド革命史研究:一月蜂起における指導と農民』(1968年、青木書店)、『ポーランド人と日露戦争』(1995年、青木書店)、『ヨーロッパにおけるポーランド人:19世紀後半〜20世紀初頭』(1996年、青木書店)、『世界のなかの日本・ポーランド関係:1931〜1945』(2004年、大月書店)、『ヨーロッパ/ポーランド/ロシア:1918〜1921』(2008年、彩流社)など

*8:著書『ポーランドの貴族の町:農民解放前の都市と農村、ユダヤ人』(2008年、刀水書房)