今日のロシアニュース(2020年1月26日分)

【主張】プーチン政権 身勝手改憲は看過できぬ - 産経ニュース
 身勝手な理由で改憲を要望する産経が良くもこんなことがいえたもんです。

 プーチン*1が下院に提出した改憲法案には、国際機関の決定が憲法に矛盾する場合、ロシアはそれを履行しないとする条文がある。たとえば、ロシアは自国の人権侵害について、欧州人権裁判所から多数の敗訴判決を受けている。

 まあ「何だかなあ?」ですね。
 ロシアが「国際機関の決定」とやらに従うべきかどうかは、「国際法の解釈」によるものなので、そうした改憲をすれば「常に当然に履行拒否でOK」と言う話ではないし、一方で現状のままなら「常に履行拒否できない」というもんでもないでしょう。

 中国は2016年、南シナ海での行動をめぐって仲裁裁判所から敗訴の裁定を受けながら無視している。

 これは明らかに嘘ですね。中国は無視はしていません。
 仲裁裁判所から敗訴裁定が出た。で中国は「そんなもん不当だ」と強がった(→と言っていいかと思います)。
 ただし、一方では「こういう裁定が出たのだから中国は判決に従った対応をしてほしい」というフィリピンのドゥテルテ*2政権に対し「フィリピンへの多額の金銭支援を約束」するなどしてうまく懐柔した。
 建前では「無視してる」かもしれませんが、本音では「無視できてないこと」は明らかです。
 どっちにしろこの件は「仲裁裁判所に訴えたフィリピン」と「訴えられた中国」の間である種の片がついています。
 なお、この仲裁裁判所裁定は、「浅井基文*3元明治学院大教授(元外務省中国課長)や矢吹晋*4横浜国立大学名誉教授など」が指摘していますが、少なくとも産経や日本にとっては手放しで支持できるもんではありません。
 浅井氏の指摘については
南シナ海問題に関する仲裁裁定|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ
南シナ海仲裁裁定の問題点(中国専門家の指摘)|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ
 矢吹氏の指摘については
南シナ海判決と沖ノ鳥島の運命 | ちきゅう座を紹介しておきます。矢吹氏には『南シナ海領土紛争と日本』(2016年、花伝社)という著書もあります。
 なぜ「手放しで支持できないか」というと、この裁定は、結論に至る理由を述べる部分で「人が住めないような場所は国際法上は岩であって島ではない」という判断を示しているからです。
 つまりこの裁定を支持するなら「日本が島と主張する沖ノ鳥島」は島ではなく、「岩だと主張する中国や台湾」が正しいことになります。
 「沖ノ鳥島」には明らかに人なんか住めませんので(そもそも満潮時にはほとんど水没するので、人が住めるようなスペースがありません。無理に、沖ノ鳥島をかさ上げするなど『満潮時でも水没しないようにした場合』でも『そのような行為は不当な脱法行為で法的には無意味→沖ノ鳥島は岩であることに変わりはない』と評価される危険性があります)。
 一方で「沖ノ鳥島を日本が島と言い続ける」気ならこの裁定について少なくとも「人が住めないような場所は国際法上は岩であって島ではない」という部分は批判しないといけない。ただし「人が住めなくても沖ノ鳥島は島だ、だから南シナ海仲裁裁判所裁定の島判断部分は間違ってる。しかしそれ以外の部分は正しい。だから結論は支持する」と思いつきで言っても「それ論理上、成立する考えなのかよ」「日本に都合の悪い部分だけ否定してるご都合主義じゃねえのか」つう批判は避けられません。そういうには相当、緻密な理論構築をしないといけない(そんな理論構築が実施に出来るのかどうかはともかく)。
 しかしこうした問題について日本政府も産経らウヨもまともに語ることはない。徹底的に逃げ続けごまかし続けるわけです。
 この件については裁定が出た当時に

岸田外務大臣会見記録 | 外務省
【香港フェニックステレビ 李記者】
 先日ですね,南シナ海に関しては仲裁判断がありました。外務大臣談話の中でですね,今回の仲裁判断には法的拘束力があるものだと,従うべきだといった内容がありました。日本側がこの今回の仲裁判断の中で,(ボーガス注:人が住めない場所は国際法上は岩であって島ではないという)島の判断も含めて支持をするということでしょうか。島の解釈を含めて,日本側が法的拘束力があるというふうにお考えでしょうか。
【岸田*5外務大臣
 まず今回の比中仲裁判断につきましては,国際法に基づいて平和的な解決を行う,法の支配を重視する,こういった考え方に基づいて重視をしてきました。そして国連海洋法条約の規定に基づいて仲裁判断,これは最終的であり,紛争当事国を法的に拘束するものであり,そして当事国は今回の仲裁裁判に従う必要がある,このように考えています。
 今申し上げたように,この最終的な判断,これは紛争当事国を法的に拘束するものである,このように考えております。
【香港フェニックステレビ 李記者】
 つまり日本側が今までも主張されましたように,沖ノ鳥島は島であると,ただこれについては台湾や中国が島ではないというふうに言っています。(ボーガス注:沖ノ鳥島が島だが今回の裁定も支持するというなら、日本の認識では)沖ノ鳥島に関しては人間が居住できるような環境,そして経済活動ができるようなものでしょうか。(ボーガス注:それとも、日本の認識では日本の沖ノ鳥島と今回の南シナ海紛争は性格が違うので、)今回のこういった仲裁判断には当てはまらないということでしょうか。
【岸田外務大臣
 まずですね,岩について何か具体的な定義というものはないと考えております。規定,国連海洋法条約第121条3など様々な規定がありますが,こうした規定にも,岩の定義というものはないと考えており,岩であるかどうかの解釈が確定しているとは言えないとは考えています。
 そしていずれにせよ今回の仲裁判断,これは沖ノ鳥島等の法的地位に関する判断ではありません。これは国連海洋法条約に基づいて,今次,仲裁判断に拘束されるのは,当事国であるフィリピン及び中国のみである,このように考えております。そして我が国としては,沖ノ鳥島国連海洋法条約上の条件を満たす島であると考えております。
朝日新聞 小林記者】
 沖ノ鳥島のことでまた質問なんですが,先ほど,大臣は,島や岩について具体的な定義はないと考えているとおっしゃられましたが,今回の判決では,島というか,そこに人が住めるかどうか,独自の経済活動が行えるかどうかという一定の基準を初めて示したと思います。拘束されるのは,あくまで中国とフィリピンだけなんですが,この基準を示した,この中身について,どう評価されていますでしょうか。
【岸田外務大臣
 まず,ご指摘の点は,基準を示したものだとは考えていません。121条の3にも「人間の居住,または独自の経済活動を維持することができない岩は,排他的経済水域または大陸棚を有しない」このような規定があるだけであります。そして我が国は,沖ノ鳥島については国連海洋法条約上の条件を満たす島であると考えています。我が国は1931年,内務省の告示以来,現在に至るまで,沖ノ鳥島を島として有効に支配をしています。かつ周辺海域に排他的経済水域等を設定してきており,我が国の実効に対して,近年までいかなる国からも異論が示されることはありませんでした。したがって,このような権限および同島の島としての地位,これは既に確立したものである。このように考えています。

というやりとりがあります。見て分かるのは「あの裁定での島の判断は結論に至る理由であって結論ではない」「この裁定は沖ノ鳥島についての裁定ではない*6」「とにかく日本は沖ノ鳥が島と思ってる。この判断は変わらない*7」の一点張りで、「香港のフェニックステレビ・李記者」や「朝日新聞・小林記者」の質問「人が住めない場所は島ではないという裁定の判断を日本政府は支持するのか?」から完全に逃げてると言うことですね。全く卑劣で姑息なこと、極まりない。実に安倍政権らしい卑劣さ、姑息さです。
 本来「仲裁裁定を支持する」と日本政府がいうなら李記者、小林記者のような突っ込みが来るのは当然予想されます。したがってそうした突っ込みにきちんと対応する気がないなら最初から「支持」なんて軽々しく口にすべきじゃない。ところが「南シナ海紛争では米国も日本ウヨも中国に批判的で、提訴したフィリピンに好意的だ。米国(安倍のご主人様)や日本ウヨ(安倍の支持層)を喜ばせるために安倍政権として明確に支持を表明しよう」という結論は安倍政権にとって「不動の結論」で動かせない一方、「裁定の島判断についてどう考えるか」について誠実に考えようとする気がないからこうなるわけです。
 浅井氏や矢吹氏は「裁定を支持すると言いながら、裁定の島判断についてどう考えるのか、逃げ続ける日本政府は卑劣だし、そうした卑劣さをほとんど追及しないマスコミ(安倍に怯えてる?)や野党*8は問題だ」と批判していますが全く同感ですね。
 また、この裁定は
1)「中国の領有権主張は否定した(正確に『中国が従来主張してきた領有権主張の根拠理論』を否定したのであり、別の理論構築をすれば中国の領有権主張が認められる可能性は一応あります)」ものの、「ならば島の領有権は誰にあるのか(フィリピン?、ベトナム?)」という結論を出してないこと
2)実は中国政府の領有権主張は中国共産党オリジナルではなく蒋介石政権時から主張されていたものであり、蒋介石政権を引き継ぐ台湾政府も中国政府と全く同じ領有権主張をしていたこと、そのため台湾政府も「不当裁定で従えない」といっていること、そうした台湾政府の態度について「台湾を批判したくない」産経らウヨが故意にネグってること(中国を批判するのなら台湾も批判すべきですし、台湾を批判しないのなら中国批判すべきではないが産経らウヨの態度は中国だけ非難というご都合主義)
を参考に指摘しておきます。

*1:エリツィン政権大統領府第一副長官、連邦保安庁長官、第一副首相、首相などを経て大統領

*2:ダバオ市長、下院議員を経て大統領

*3:著書『日本外交』(1989年、岩波新書)、『新しい世界秩序と国連』(1991年、岩波セミナーブックス)、『外交官』(1991年、講談社現代新書)、『「国際貢献」と日本』(1992年、岩波ジュニア新書)、『「国連中心主義」と日本国憲法』(1993年、岩波ブックレット)、『ここが問題新ガイドラインQ&A』(1997年、青木書店)、『茶の間で語りあう 新ガイドライン』(1998年、かもがわブックレット)、『中国をどう見るか?』(2000年、高文研)、『集団的自衛権日本国憲法』(2002年、集英社新書)、『戦争する国しない国』(2004年、青木書店)、『13歳からの平和教室』(2010年、かもがわ出版)、『ヒロシマと広島』、『広島に聞く 広島を聞く』(以上、2011年、かもがわ出版)、『すっきりわかる! 集団的自衛権』(2014年、大月書店)など

*4:著書『文化大革命』(1989年、講談社現代新書) 、『毛沢東周恩来』(1991年、講談社現代新書)、『中国人民解放軍』(1996年、講談社選書メチエ)、『朱鎔基:中国市場経済の行方』(2000年、小学館文庫)、『中国の権力システム:ポスト江沢民のパワーゲーム』(2000年、平凡社新書)、『トウ小平』(2003年、講談社学術文庫)、『尖閣問題の核心:日中関係はどうなる』(2013年、花伝社)、『習近平の夢:台頭する中国と米中露三角関係』(2017年、花伝社)、『中国の夢:電脳社会主義の可能性』(2018年、花伝社)など

*5:第一次安倍、福田内閣沖縄・北方等担当相、第二次、第三次安倍内閣外相を経て自民党政調会長

*6:そりゃそうですが、こうした裁定は当然ながら「判例」になります。沖ノ鳥島について仲裁裁判所やICJに持ち出されたらほぼ確実に「岩判断されるだろう」という見込みがつくわけです。

*7:沖ノ鳥島に人間が住めるわけがないので、この岸田外相答弁は事実上「裁定の島判断」を否定しています。しかし「何故、裁定の島判断を否定するのか」「否定した上で、中国敗訴の結論は支持するなんて事が論理的に可能なのか。可能というならどんな理屈で可能なのか?」などということについては明確に語らず岸田氏は逃げるわけです。

*8:残念ながらこの「野党」は俺の支持政党・日本共産党を含みます。