私が今までに読んだ本の紹介(山田和夫編)

山田和夫
 映画評論家。
 私が持っている山田氏の著書は以下の通りです。
 「映画芸術論」(啓隆閣)、「映像文化とその周辺」(清山社)、「私の映画大学」(合同出版)、「偽りの映像・戦争を描く眼」、「世界映画の発見」、「日本映画の歴史と現代」(新日本出版社
 ここでは、「戦争と映画」をテーマに、山田氏の主張をいくつか紹介したい。*1*2


【「映画芸術論」(啓隆閣)】
 ■小文「帝国主義軍隊を美化するアメリカ映画」。
 1966年に公開された娯楽映画「巨大なる戦場」「栄光の丘」。これらの映画がイスラエル「独立」戦争をネタにイスラエル万歳(全部アラブが悪い!)していることを、いくら娯楽映画でも許せないと批判。


【「私の映画大学」(合同出版)】
■映画評「皇帝のいない八月」*3(小林久三原作、山本薩夫監督*4
 自衛隊過激派のクーデター計画を巡る騒動を題材とした反戦映画(今の日本でこの種の映画は撮れるか?と思う。興行問題以前に、映画会社がびびりそうだ)。山田氏は高評価しているがどんな物なんだろう。機会があったら一度見たいと思う。
 なお、この映画について荒船清十郎行政管理庁長官(行政管理庁は今の総務省。以下、役職は全て当時)は、金丸信防衛庁長官に何らかの「検討」をすべきではないかと言ったそうである。(悪い意味で)自民党タカ派は昔から変わらないと思う(例.映画「靖国」に対する自民党タカ派の態度)。

■映画評「ディア・ハンター
 作品の中で、ベトナム軍兵士が米軍捕虜相手にロシアンルーレットをやる場面を「ベトナム戦争でそんな事実があったのか?」「あったとして、米軍の侵略戦争であることを押さえずにそういうことを描くのはけんか両成敗論、どっちもどっち論ではないか?」と批判(なお、筆者も指摘しているが本多勝一氏も同様の批判をしていたと思う)


【「偽りの映像・戦争を描く眼」(新日本出版社)】
■小文「戦争は『愛のドラマ』になった?−『動乱』の描いた愛」
 二・二六事件を題材にした映画『動乱』を批判。「最初、映画の原案となっていた『妻たちの二・二六事件』(中央公論社)の作者・澤地久枝が映画脚本に賛同できず、原案者から降りたこと」「澤地に批判されても仕方ない二・二六事件参加者万歳映画であること」を指摘。

■小文「戦争はカッコよくおもしろい」
 もちろん、「戦争はカッコよく面白い」と山田氏が主張しているわけではなく、戦争映画にはそういうイメージのものがあり、悪意がなくても問題ではないかという話。
 主に取り上げられているのはアニメ映画「宇宙戦艦ヤマト」である。山田氏には失礼ながら、「そんなアホな」と思ったが読み進めていき「まあ、それも分かるな」と少しだけ思った。*5

■小文「だれも戦争をやりたくなかった−戦争=宿命論のテクニック−」
 映画「二百三高地」(日露戦争が題材)、「大日本帝国」(日中戦争が題材)批判。「誰も戦争などやりたくなかったが仕方なかった」と言う描き方をしていることについて、日本は主体的に戦争への道を選んだのであり、決して不可避ではなかったと批判。

■小文「山本五十六は『平和主義者』だった−「海軍=善玉論など」のまやかし」
 映画「連合艦隊」批判。山本が日米開戦に反対したことを理由に、山本や海軍が平和主義者のように描かれていることについて、「山本は日米開戦反対を徹底できなかった(真珠湾攻撃の立案者は山本)」「山本の日米開戦反対は海軍の主流ではなかった」「山本が日米開戦に反対したのは勝てない戦争だから。勝てると思った日中戦争には反対しなかったのであり過大評価は適切でない」と批判。

■小文「みんな人間なんだ」
 テレビ東京12時間ドラマ「山本五十六」、映画「大日本帝国」批判。山本が部下に優しい人間だった、東条英機が愛妻家だったと描いていることを、私人として立派なところがあるからと言って、公人として正しい役割を果たしたとは言えないとして、問題のある描き方だと批判。

■小文「日本もひどいがアメリカも−『けんか両成敗論』の役割」
 「日本もひどいけどアメリカだって原爆投下とか東京大空襲とかひどいんだ」という描写について、戦争責任の相殺化ではないかと批判。

■小文「諸悪の根源は共産主義反共主義と『ソ連脅威論』−」
 統一協会出資、東宝製作の映画「仁川」(朝鮮戦争が題材)批判。「ソ連に問題ないとは言わない」が「戦争の原因は全てソ連」「俺たち悪くない」というのはいかがなものか、しかも出資が犯罪カルト「統一協会」とはどういう事か(一般人にとっては「統一協会」の方がよほど「脅威」だよ!)、と批判。
 しかし「ソ連脅威論」って懐かしいと言うか何と言うか。最近の若者に「ソ連脅威論」って言っても「何それ?」だろう。彼らは物心ついた時、ソ連はなかったのだから。私の物心ついた時、ソ連はあったが、ゴルバチョフ時代であり、脅威などそれほど感じなかった。

■小文「核戦争を描く2つの視点−『ザ・デイ・アフター』と『198X年』」
 『ザ・デイ・アフター』はアメリカで作成された反核映画。山田氏は基本的に高く評価している。
 一方、『198X年』(FUTURE・WAR・198X年)は東宝が作成した核戦争アニメ映画。ソ連の核の脅威から正義の味方アメリカが日本を守るという映画(また、「ソ連脅威論」か!)らしく「悪いのは全てソ連か!」「アメリカの核はきれいな核か!」という批判がされている。
(ただ作品の価値以前に、あまりにも政治色が強いと子どもは確実に引くと思う)


【「世界映画の発見」(新日本出版社)】
■小文「ハリウッドはテロと戦争をどう描いたか」
 ハリウッドの娯楽映画(「トップガン」とか)で、「アメリカの軍事行動は常に善」「アメリカに刃向かう奴らは悪」「悪は共産主義イスラム原理主義」と描かれる傾向があるのを批判。娯楽映画でもまずい、と指摘。(もちろん一方でハリウッドの反戦映画(「プラトーン」とか)もあるわけだが)


【「日本映画の歴史と現代」(新日本出版社)】
■小文「日本映画は戦争をどう描いてきたか」
 「プライド」などの戦争容認の極右映画だけが日本映画の戦争描写ではないという話。
 「人間の条件」(五味川純平原作、小林正樹監督)、「戦争と人間」(五味川純平原作、山本薩夫監督)、「ホタル」(降旗康男監督)などを紹介。

■小文「侵略と加害を否定した『プライド』」
 津川雅彦*6東条英機に「南京事件があったとは思えない」と無茶苦茶なことを言わせた右翼映画「プライド」(製作・東映)批判。(ちなみに、日本版ウィキペディアによれば、青年自由党(「プライド」に出資した東日本ハウスオーナーが党首の右翼政党)は事実上解散し、党員のほとんどがあの維新政党・新風に移ったらしい)

■小文「山根貞夫の『プライド』擁護論に答える」
 映画評論家・山根貞夫の小文「映画『プライド』を擁護する」への批判。

■小文「歴史偽造の『教科書』映画版『ムルデカ17805』を見て」
 「インドネシア独立は日本のおかげ」と言う右翼映画「ムルデカ」(製作・東宝)批判。*7

■小文「なぜいま『宣戦布告』なのか?」
 麻生幾原作の映画「宣戦布告」(製作・東映)批判。「北朝鮮のゲリラが日本に上陸したけど、有事法制がなくて」云々という右翼が泣いて喜びそうな映画らしい(北朝鮮が軍事攻撃するとしたら韓国だと思うが何故日本?)。拉致問題、核・ミサイル問題の解決には外交交渉が大事なのに北朝鮮を挑発するとは何事かと批判。

■小文「長編アニメ『えっちゃんのせんそう』」(有原誠治監督)
 児童文学者・岸川悦子氏が自らの戦争体験を元に書いた「えっちゃんのせんそう」を原作としたアニメ映画の紹介。監督の有原氏には他に、東京大空襲を題材とした戦争アニメ映画「うしろの正面だあれ」(海老名香葉子原作)がある。

*1:「戦争と映画」以外にも、いろいろ論じられているがとても全てに手が回らないので。

*2:なお、映画評は、実際に映画を見ないと何とも言えないことが多いが、ここは山田氏の主張をおおむね正当な物として話を進める(そうしないと話が進まないので)。

*3:なお、この映画が公開された1978年には栗栖弘臣統合幕僚会議議長が週刊ポストでいわゆる「超法規発言」(有事法制がないから超法規的措置を執るのもやむを得ない云々)を行い、世論の批判から更迭されている。

*4:多くの大作を残していることから、「赤いセシル・B・デミル(『十戒』などを監督したハリウッド大作の巨匠)」の異名を持つ映画監督(「赤い」は彼が日本共産党員だったため)。「皇帝のいない八月」以外の作品も、「ぺン偽らず・暴力の街」、「真空地帯」、「太陽のない街」、「人間の壁」、「松川事件」、「白い巨塔」、「華麗なる一族」、「金環蝕」(いわゆる「九頭竜川ダム疑惑」がモデル。ちなみにウィキペディアによればこの事件のキーマンの一人と言われた中林恭夫氏(元・池田勇人首相秘書官)は事件発覚後、マンションから謎の転落死をしている。何で日本では疑惑が発覚すると関係者の変死が良く起こるんだろう?)、「不毛地帯」、「あゝ野麦峠」など社会派作品が多い。俳優の山本學山本圭山本亘兄弟は彼のおい。

*5:山田氏によればヤマトのプロデューサー西崎義展は「ヤマト」のBGMに「軍艦マーチ」を使いたいと当初言ったそうである(右翼的な作品と誤解されかねないというスタッフの反対で取り下げ)。
 また、当時のサンケイ新聞の投書欄には「私の娘の友達は『ヤマトを見て国のためなら死んでもいいと思った』と言った」云々という「愛国万歳」投書が載ったことがあったという。

*6:「所属事務所とのしがらみで仕方なくやった」のならまだ少しは許せるが、他の「プライド」出演者と違い津川はガチの歴史修正主義者らしいので頭が痛い。

*7:「ムルデカ」とはインドネシア語で「独立」の意味。「17805」はスカルノらが独立宣言を発表した日・1945年8月17日を皇紀で表現したもの(2605年8月17日)。なお、例の津川先生がこの映画では今村均中将を演じているという。