新刊紹介:「経済」9月号

 「経済」9月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは9月号を読んでください)
■牧野富夫「雇用破壊・生活破壊と政治の責任」
(内容要約)
・雇用破壊、労働破壊は不況によって深刻になったことは事実だが、不況が主要因ではなく、新自由主義的な雇用政策が原因と考えるべきである。
・なお、新自由主義的な雇用政策は政府与党が推進した物であるが、野党も必ずしも当初より批判していた訳ではなく、注意が必要。(財界主流派には反省などないだろうが)*1

■紙智子参議院議員に聞く「農地法『改正』で問われる農業再生の課題」
(内容要約)
 農地法改正(企業の農業参入を容易にする)が自公民によって実施されたが、このような方策によって農業再生が可能とは共産党は考えていない。不幸にも「改正」されたが、共産党は今後も日本農業のために頑張る。

■特集「どうなる自動車産業
【丸山惠也「ビッグスリーの崩壊とトヨタ」】
(内容要約)
ビッグスリーGM、フォード、クライスラー)の経営が深刻になった最大の原因は、技術力で他国(特に日本)の自動車産業に敗北したからである。
・にも関わらず、ビッグスリーは、労働者削減によるコストカットという後ろ向きの改革しか実行できなかった。
ビッグスリーが今後どうなるかは世界の自動車産業に様々な影響を与えるであろう。
・昨今、日本の自動車会社ではリコール件数が増えている。日本の自動車産業は今、技術面で解決しなければならない重大な問題を抱えているのではないか?

【小栗崇資「世界不況と日本の自動車メーカー:トヨタ、ホンダ、日産の財務諸表に見る」】
(内容要約)
トヨタ、ホンダ、日産(日本版ビッグスリー?)ともに、不況が直撃し、経営は苦しい。(ホンダはついにF1撤退を表明した)
・特に厳しいのが、エコカー開発競争で、後手に回っている日産である。(トヨタハイブリッド車プリウス、ホンダはインサイトを投入したがそれに対抗できる物が日産にはない)

【伊藤欽次「自動車産業期間工解雇と派遣切り」】
(内容要約)
 自動車産業期間工解雇と派遣切りを「企業は雇用を守る気があるのか」と厳しく批判。
 企業に、雇用維持の努力を求めるとともに政府の対応を要求。

【森靖雄「自動車産業の不況と地域経済:トヨタ周辺地域を例に」】
(内容要約)
 自動車不況により、自動車城下町(トヨタの場合、愛知県下市町村)には、「地域経済の冷え込み」「失業問題」「法人税収の減」といった問題が発生するだろうから地元自治体と国は早急に対策を打つべきと主張。*2

■建部正義「金融危機下の日銀の金融政策」
(内容要約)
・金融政策の王道は金利政策であり、量的緩和は取るべきでない。
・金融機関保有株式の買い入れ措置もすべきではない。
・なお、一部で唱えられている政府紙幣発行論も支持できない。

■大塚秀之「GMの破産と労働者(下)」
(内容要約)
GMの破綻について、GM企業年金を手厚く保証したことが、原因の一つとする説がある。
・間違いではないかもしれないが、アメリカには公的年金制度がない以上、かなり一面的な批判だろう(全て従業員の自己責任でやれと言うのか?)。企業の年金負担を減らすためには日本のような公的年金制度を樹立する必要があるのではないか?
・いずれにせよ、今回の件で従来の企業年金は重大な転機に立っている(何らかの改革が必要だろう)

■企画「現代フランスと労働者」(第1回)
【浅田信幸「サルコジ政権とフランス外交」】
(内容要約)
サルコジ外交には評価できる点と評価できない点がある。
・評価できない最大の点は、核廃絶に対する冷淡な態度である。(ただし今後、サルコジ政権がどのような動きをするかは未知数)

【都留民子「『福祉国家』はゆらいでいるか:フランスの失業・貧困とその対策」】
(内容要約)
サルコジ政権は新自由主義的な福祉政策を推進しようとしており注意が必要である。
・ただし、フランスの労働運動、社会運動の力は強く彼の「改革」が順調に行くか疑問である。
・また、彼の「改革」が順調にいったとしても、(将来的にはともかく)当面は、日本よりもフランスの方がましなのである!*3

*1:1999年の派遣労働原則自由化には、共産党以外の全ての政党が賛成した。

*2:トヨタに限らず各社とも海外に生産拠点を移行しているので、不況がなくても、こういった問題は起こる恐れがあり、企業城下町の過剰な自動車産業頼みは問題な気がする。

*3:サルコジについて、あるフランス人(サルコジ批判派)は(「ナポレオン3世」が、資本家を最大の支持基盤としながら、労働者や農民の一定の支持もうまく取り付けたことから)、都留氏に「現代のナポレオン3世」と表現したと言う(適切な比喩かは議論の余地があるだろうが)。
 また、都留氏によれば、(1)サルコジは自分が目指すのは「デンマーク・モデル」(デンマークはどちらかというと新自由主義ではなく社民寄り)だと言っている、(2)サルコジは政府委員会等に、(どちらかというと)左寄りの人間(社会党幹部等)を登用することが少なくない、そうである。
 (これらが国民の反発を抑えるためのポーズか本心かはともかく)彼は少なくとも単純な新自由主義者(過労死は労働者の自己責任だというタイプの人間)ではないようだ。