私が今までに読んだ本の紹介:本多勝一「リーダーは何をしていたか」(1997年6月刊行、朝日文庫)

・著者は元・朝日新聞社会部記者。週刊金曜日編集委員
・本多氏の主要著書としては次のものがあげられる。
 いわゆる冒険もの:「カナダエスキモー」、「ニューギニア高地人」
 アメリカの黒人差別:「アメリカ合州国
 中国での日本の戦争犯罪:「中国の旅」、「南京への道」(もちろん他にもあるわけだが)
・「カナダエスキモー」、「ニューギニア高地人」を書いていたころは、極右からも温かい目で見られていた本多氏も「アメリカ合州国」、「中国の旅」、「南京への道」などがたたって、媚米反中な方たちから反日左翼扱いされるわけである(笑い)。
・本書の目次をまず紹介する。
 第一部:厨子開成高校北アルプス遭難
 第二部:航空高専中央アルプス遭難
 第三部:関西大倉高校の八ヶ岳二重遭難
 第四部:静岡体文協の八ヶ岳遭難
 第五部:ガイド付き登山の穂高岳遭難
 第六部:遺族たちの言葉(注:航空高専関西大倉高校、静岡体文協事故の遺族である)
 付録:最高級登山家たちの遭難

・著者は登山は「自主登山」と「引率登山」に分けられるとする。引率登山とはリーダーが初心者を責任を持って連れていくものであり、学校の部活やサークルの登山、旅行会社の登山ツアーなどがこれに当たる。(ちなみに本書の第一〜三部が学校の部活やサークルの登山、第四、五部が旅行会社の登山ツアーに当たる)
 「自主登山」は自己責任でいいが、「引率登山」は自己責任は許されない。リーダーには重い責任が課せられるのであり、場合によっては民事賠償責任や刑事責任(業務上過失致死)が発生する。リーダーが重過失で登山者を死なせるのは、無免許運転の観光バスが客を死なせたり、水泳教室のコーチが誤って生徒を溺死させたりするのと同じことだが、従来、十分、責任追及がなされていなかった、きちんと責任追及する仕組みを作るべきというのが著者の指摘である(もちろん無過失なら話は別だが、従来、山の事故の過失認定はマトモに行われておらず、重過失の場合も含め、全て自己責任で処理されていたというのが著者の認識)。ちなみに以前、しんぶん赤旗で熱心に取り上げられていた大日岳遭難事故訴訟(原告(被害者遺族)の勝利和解で決着)も引率登山事故の一例である(さすが赤旗、伊達に不破哲三が登山愛好家*1じゃないぜ!。共産の友好団体に労山(日本勤労者山岳連盟)があるだけのことはあるぜ!)。

【参考】赤旗・主張「大日岳遭難訴訟・学生の犠牲を無駄にするな」(かなり古いが)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-05-04/2006050402_01_0.html


 なお、著者は第一〜四部の事故ではリーダーに重大な過失があったと批判、幸いにも裁判でも原告(被害者遺族)が勝利している(勝利和解を含む)。
・第六部は3人の遺族の方の事故に関する想いが語られている。
・なお、これらの事故については報告書や追悼文集も出ているそうなので紹介。
 厨子開成高校
 厨子開成高校事故報告書刊行委員会「白いケルン:八方尾根遭難事故報告書」(非売品)

 航空高専
 東京都立航空工業高等専門学校山岳部OB会遭難対策本部「中央アルプス将棊頭山遭難報告書」(非売品)
 木曽駒ケ岳遭難裁判の記録刊行会「都立航空高専木曽駒ケ岳遭難裁判の記録」(れんが書房新社)
関西大倉高校:
八ヶ岳追悼登山実行委員会「ケルンへの思い:竹島徹君追悼文集」(白鳳出版社)
静岡体文協:
安本敏雄編「守れ山のルール:八ヶ岳遭難訴訟原告を支援した岳人たちの記録」(非売品)

・付録は本書にはいらない気もするが、著者としてはやみくもに登山事故をたたいているわけでないことを理解してもらうために載せたのであろう。
 付録では一流の登山家たち(植村直己氏、長谷川恒男氏、早坂敬二郎氏)の遭難事故について触れられている。
 一流の登山家でも事故にあうことはある、つまり、無過失(ないし軽過失)の事故もあると著者は認識していると言うことである。

*1:不破には「回想の山道―私の山行ノートから」(1993年、山と渓谷社)、「私の南アルプス」(1998年、山と渓谷社)と言う著書がある。私は読んだことはないが。