新刊紹介:「前衛」6月号

 「前衛」6月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは6月号を読んでください)

■「非核の日本、非核の世界」(不破哲三
(内容要約)
・今年3月に神戸市で行われた「非核神戸方式35周年記念」の集会での不破氏の講演の収録。
・鳩山政権が核密約の存在を認めたことは評価できる。
・しかし、岡田外相は、非核三原則の法制化を求める声に耳を傾けようとはしない。核持ち込みを今後も必要ならば続けるという意思の表れではないか。
・今年の5月にはNPT会合がある。そこで核廃絶に向け日本政府は積極的に動くべきである。

【参考】
非核神戸方式(ウィキペディアを参照):
 核兵器の港への持ち込みに対する神戸市の対応方針のこと。非核三原則自治体版。
 神戸市が神戸港に寄港する外国軍の艦船に核兵器を搭載していないことを証明する「非核証明書」の提出を義務付けるものである。1975年3月18日に神戸市議会が「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」を可決して以降行われている。
 採択後、フランス軍イタリア軍、インド軍などの艦船が証明書を提出して入港しているが、アメリカ海軍はこの方式を批判して神戸港には寄港の意志すら示すこともなかった。
 弱点として以下の点がある。 
1)運用面において神戸港に寄港する外国軍の艦船に書類提出を義務付けているのは神戸市港湾施設条例の規定に基づいているが、非核証明書提出などの非核神戸方式自体は市議会決議に留まり、条例で明記されたものではない。
2)非核神戸方式の運用も行政指導として機能しているのみで、文書に従い行政職員などが立ち入り調査をする権限はない。
3)国が非核三原則と安保条約に基づく事前協議制度を理由に非核神戸方式など不要と、長年、圧力をかけてきたこと(もちろん事前協議制度が事実上空文化しているからこそ非核神戸方式が誕生したのだが)。民主党政権の方針はよくわからないが。
 神戸港の他にも函館港、高知港、鹿児島港などで条例化を目指す動きがある。

■「憲法の目から安保改定五〇年目を考える――憲法を実現する政治の実現」(森英樹)
(内容要約)
オバマ政権の安保政策には評価できる面(例:核廃絶に対する態度。イラクからの撤退)と評価できない面(例:普天間基地問題。アフガンへの軍事力投入)がある。
・鳩山政権の安保政策にも評価できる面(例:核密約を認めたこと)と評価できない面(例:普天間基地問題)がある。

■「民主党政権の混迷とゆきづまりを解剖する」(小松公生)
■「いま政治を前にすすめる新しい政治の担い手はだれか」(高柳幸雄・中祖寅一)
(内容要約)
・鳩山政権の支持率は短命政権に終わった細川政権なみとなり、まさに危機的状況。
・こうなった理由としては以下のような「公約違反」「裏切り」があげられる。

普天間基地問題で「最低でも県外」と言っていたのに「県内移設」を言い出した。
後期高齢者医療制度即時廃止と言っていたのに先送りにした。
・「政治と金」の問題で自民と変わらないことを鳩山・小沢疑惑の対応で露呈した。など

・一方もはや自民はごめんという、国民の声は強い(だからこそ離党者が相次ぐ)
・こうした中、新党に期待する声もあるようだ(特に世論調査では「みんなの党」の支持率は高いようだ。他の党はそれほどでもないが)。その気持ちは分かるが、新党は「対米従属」「新自由主義(弱者切り捨て)」「復古主義(9条改憲、戦前賛美など)」「金銭問題」などでどこも自民、民主とかわらない政党である。そもそも、新党の代表は、渡辺氏(みんなの党代表、安倍・福田内閣行革相)、平沼氏(たちあがれ日本共同代表、小泉内閣経済産業相)、与謝野氏(たちあがれ日本共同代表、安倍改造内閣官房長官麻生内閣財務相)、舛添氏(新党改革代表、安倍〜麻生内閣厚労相)と、全て政府・与党の幹部だった人間である。どの面下げて改革者を名乗れるのか。
 また過去の新党ブーム(新自由クラブ日本新党など)が結局あだ花に終わったことも国民にはよくよく考えてもらいたい。
 小泉郵政選挙での自民党勝利を考えるとこうした新党の存在は軽視できない。改革者を名乗ってるし、一回投票してみようかと国民が考える危険性は否定できない。
 が、新党の問題点を訴え一議席でも共産の参院での議席を増やそうではないか。

【5/12追記】
・但し前衛を読む限り、共産が最も警戒しているのは世論調査によっては自民、民主に次ぐ第三位の支持率になることもある「みんなの党」(ワタミ党)のようだ。詐欺師小泉に郵政選挙で騙されるような低脳民族「日本人」だから、ワタミ党以外のミニ政党(社民、共産、国民新など)は議席減で下手したらワタミ入閣とかあるかもな(自虐)。そんな悪夢は見たくないけど。
改革クラブ」の看板の掛け替えと揶揄される「新党改革」や「野合新党」(反小泉のはずの平沼氏が明らかに反小泉ではない与謝野氏と手を組んだ上、元・小泉チルドレンの杉村氏を参院選にたてるのではこう呼ばれても仕方あるまい)「立ち枯れ新党」「ロートル新党」「シルバー新党」「古希新党」「敬老会」「老人クラブ」等と揶揄される「たちあがれ日本」は、あまり警戒してないようだ。世論調査によっては主要政党では支持率最下位だからな、この二党。
・また首長新党(日本創新党、橋下新党)も現時点では「みんなの党」程の脅威とは認定していないのかほとんど取り上げられていません。まあ橋下新党の場合は参院選出馬を今の時点では表明していないというのもありますが。
 後日、取り上げるとしてその時の切り口はもちろん「対米従属」「新自由主義(弱者切り捨て)」「復古主義(9条改憲、戦前賛美など)」でしょう。
 創新党の場合、幹部の一人、前横浜市長が博覧会失敗をほったらかしにして逃げたという切り口もありますね。

■座談会「普天間基地の無条件撤去・安保廃棄の世論を多数派に――普天間基地など全国のたたかいが切り開いた新たな情勢の変化」(今井文夫、千坂純、新倉泰雄、早坂義郎、有坂哲夫)
(内容要約)
平和運動家の皆さんによる座談会。
・最終目標は安保廃棄だが、それまでに「密約廃棄」「思いやり予算廃止」「日米地位協定改正」などすべきことがたくさんある、そうしたものは保守の方ともある程度共闘できるはずという指摘には共感。

■「社会保障拡充へ足を踏み出せない民主党政権――憲法25条にもとづく社会保障再生の道を考える」(谷本諭)
(内容要約)
民主党社会保障政策には生活保護母子加算の復活のような評価できるところもある。しかし全体的には評価できないところが以下の通り多すぎる。

後期高齢者医療制度即時廃止と言っていたのに先送りにした。
母子加算は復活したのに老齢加算を復活しなかった。
・診療報酬の大幅引き上げを選挙で約束しながら実施しなかった、など

■「消費税増税へ相呼応する民主、自民、財界――家計応援による経済危機打開こそ最優先」(木口力)
(内容要約)
・消費税増税に向け、民主、自民、財界が共同戦線を組んでいるがこれは何としても阻止しなければならない(民主が消費税増の検討を言い出したことは、もちろん、またしても公約違反の裏切りである)。
・以下、Q&A形式で突っ込み。
Q:ヨーロッパの方が消費税の税率は高いと言うが?
A:食料品非課税など軽減税率があるため、単純にそうは言えない。


Q:財政再建のため消費税が必要では?
A:税金には法人税所得税など様々な税がある。何故、他の税ではダメなのかきちんと議論すべきである。なお、共産は「逆進性」「国民の消費減→景気に悪影響」と言う観点から消費税増税には反対である。


Q:福祉のため消費税が必要では?
A:過去において、現実には消費税増税分は福祉には回らなかった。むしろ法人税所得税減税の穴埋めになったと見るべき。


Q:国際競争力のため「外国より高い」法人税の減税が必要では?
A:日本の法人税は、数々の免税措置等を考えると単純に欧米より高いとは言えない。むしろ低いと見る学者も存在する。また国際競争力は租税負担で単純に決まるものでもない。それに「国際競争力」の観点だけから法人税減税を決めるのは妥当ではない(例えば消費税の逆進性の問題なども考える必要がある)。

 
Q:法人税減税しないと企業が海外に出て行くのでは?
A:日本の法人税は、以前と比べ下げられているがそれで、海外進出にストップがかかったといえるデータはない。また、企業に対するアンケートによると企業の海外進出理由として上位にあげられるのは「安価な労働力」など「税負担」とは違う理由である。


■「「コンクリートから人へ」の公約に逆行――「国際競争力」の名で公共事業を推進する民主党政権」(高瀬康正)
(内容要約)
・「コンクリートから人へ」を打ち出した民主党だが、「国際競争力強化」の名目で公共事業を推進しており、スーパー中枢港湾プロジェクト、東京外環道など、無駄な公共事業にはほとんどメスが入っていない。

【参考】
赤旗「「個所付け」・民主党の「私物化」に批判噴出・国会に提出し審議せよ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-02-11/2010021101_04_1.html

■「メディアは国民の「知る権利」にこたえているか:一市民に立ち返って見た古巣(メディア)の今」(長谷川千秋)
(内容要約)
・筆者は元・朝日新聞大阪本社編集局長。
・全国紙がナベツネの大連立騒動をマトモに批判できなかったこと、普天間問題で沖縄の声をマトモに取り上げていないことなどを指摘。「そうした現状を変える必要がある」「沖縄基地問題を書くなら、沖縄の住宅に寝泊まりして爆音の酷さを体験してから書くくらいでないといけない。そう言う現場主義が今あるのか」等と批判。

■座談会「メディアの危機・ジャーナリズム再生の課題」
【「権力を監視、批判する役割からはずれた新聞の現状」(金光奎)
(内容要約)
普天間基地問題では沖縄の声無視、消費税問題では増税論一色ともはや日本の全国紙はまともなジャーナリズムとは言えない状態にある。

【新聞産業における経営危機とジャーナリズムの危機(阿部裕)】
(内容要約)
・日本の新聞の販売部数は長期低落傾向にある。電子媒体(ネット)に活路を見いだす動きが出ているが成功の保障はない。

【放送にとってのほんとうの危機とは何か(岩崎貞明)】
(内容要約)
・新聞に比べれば、テレビの経営は現時点ではまだ安定した状況にある。ラジオはかなり危ない状態にあるが。
・むしろ、目先の利益で番組作りをしているのではないかと言うことの方がテレビの危機だと考えている。ドラマやドキュメンタリーという手間がかかる割に視聴率が取りづらいものより、ギャラの安い若手お笑い芸人のバラエティーと言ったものばかりが増えていないか。

【「国民にとっての「しんぶん赤旗」の魅力と役割」(宮坂一男)】
(内容要約)
・筆者は赤旗論説委員
赤旗は商業メディアが取り上げたがらないテーマを取り上げるとして評価を受けている。最近も「パチンコ店へのATM設置問題」を大きく取り上げたことがそのように高く評価された。(全国紙は取り上げないか取り上げてもベタ記事程度)
 今後もそうした評価に恥じない紙面作りに努める。


■論点
【「国公法による政治活動規制は違憲」(岡田光司)】
(内容要約)
・東京高裁で無罪判決が出た堀越事件(国家公務員・堀越氏の赤旗号外配布を国家公務員法違反で逮捕起訴した事件)についての論評。
・ビラ配り時に身元を明らかにしたわけでもないのに、休日に公務員がビラ配りをしただけで何故「公務の中立性」が犯されるのか、起訴した検察、有罪判決を出した地裁、高裁判決批判する読売、産経はおかしいという批判。
・そもそも配布時に身元を明らかにしていたわけではない堀越氏を一見して公務員だと分かるわけがない。堀越氏を含む複数の人間に尾行を付け、あら探しをしていたとしか思えない。
・また、本当に犯罪行為だと思うなら堀越氏に配布行為をやめるようその場で指摘すべきだろう。そうしなかったと言うことが、政治運動潰しの違法捜査であることを物語っている。
・人権侵害だがそれ以前に金と人の無駄遣いだと思う。よほどの反共でない限り、刑事犯罪(特に凶悪犯罪)に金と人を使って欲しいと思うだろう。
・なお、この論文は法令改正について論じていないが一日も早く法令改正すべきだろう。またこの論文は触れていないが検察の上告を容認した千葉法相には怒りを覚える。

【「郵政民営化「見直し」は公的事業体としてこそ」(山下唯志)】
(内容要約)
・政府の郵政民営化「見直し」案は評価できない。共産は次の三点を見直しに不可欠と主張している。
・1)郵政民営化によって廃止された郵便貯金簡易生命保険ユニバーサルサービス義務の復活、2)分社化を辞め、一社体制に戻す、3)株式会社ではなく、元の郵政公社体制に戻す。

■暮らしの焦点
【「築地市場の土壌汚染地への移転は許されない」(清水ひで子)】
(内容要約)
・安全の観点から築地市場豊洲への移転には賛同できない。築地再整備を行うべきである。
・この問題での民主党の態度は裏切り以外の何物でもなかった。民主党は所詮石原与党に過ぎないことが明白になった。

■文化の話題
【美術:「新潟市美術館のカビ・クモ騒動」(武居利史)】
(内容要約)
・「新潟市美術館のカビ・クモ騒動」とは筆者や毎日新聞記事に寄れば次のようなもの。
・09年7月に展示作品からカビが、10年2月にクモなどが見つかり、文化庁が「奈良の古寺と仏像」新潟展を新潟市美術館で行うことに難色を示す。国宝、文化財文化庁が貸し出すことになっていたのだが、こんな杜撰な美術館にそんな危ないことは出来ない、美術品が損傷したらどうするのか、というわけである。
・結局、長岡市新潟県立近代美術館に会場は変更された。
・館長の北川フラム氏*1はこの問題で管理能力を問われ更迭され、当分、篠田昭・新潟市長が館長を兼任することとなった。
・何故このような事件が起こったのかを分析検討し、二度とこうした事態が起こらないようにする必要がある。
・なお、カビ・クモ騒動はさておき、筆者や毎日新聞記事に寄れば、結論の是非はともかく、以前から市長や北川氏の手法については「独断専行」という批判があったようだ。カビ・クモ騒動は「独断専行」が北川氏らのミスと結びついた上、それを誰も是正できず最悪の形になったと言うことかもしれない。

【参考】
毎日新聞新潟市美術館:カビ・クモ発生問題、新潟展、変更会場で開幕」
http://mainichi.jp/enta/art/news/20100424dde041040018000c.html

毎日新聞「記者の目:新潟市美術館の“かび”騒動=立上修(東京地方部)」
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20100414ddm004070146000c.html

【演劇:「戦争と侵略のもとでの人生を描く」(関きよし)】
(内容要約)
劇団民芸の「そしてナイチンゲールは歌う」(第二次世界大戦時のイギリスが舞台)、秋田雨雀・土方与志記念青年劇場の「太陽と月」(第二次世界大戦時の満州が舞台)の紹介。

【映画:「山本薩夫監督・生誕百年」(伴毅)】
(内容要約)
・今年は山本薩夫監督・生誕百年である。

【参考】
山本薩夫ウィキペディアを参照):
 日本共産党員であること、多くの社会派大作を残していることから、「赤いセシル・B・デミル(『十戒』などを監督したハリウッド大作の巨匠)」と呼ばれた。俳優山本學山本圭山本亘は彼の甥。ウィキペディアによれば、生前、「悪魔の飽食」(731部隊がテーマ)の映画化を計画していたという。

代表作)
 「暴力の街」:いわゆる本庄事件がテーマ
 「武器なき斗い」:山本宣治の生涯がテーマ
 「真空地帯」
 「太陽のない街
 「人間の壁」
 「白い巨塔
 「戦争と人間」
 「華麗なる一族
 「金環蝕」:いわゆる九頭竜ダム疑惑がテーマ
 「不毛地帯
 「皇帝のいない八月」
 「あゝ野麦峠

■スポーツ最前線
【「Jリーグ「手を使ったファウル」の克服」(和泉民郎)】
(内容要約)
Jリーグは今季から「手を使ったファウル」(ホールディング)を厳しく取ることにしている。フェアプレーという観点からも、面白い試合という観点からも、国際試合で勝てる選手の育成という観点からも喜ばしいことである。

*1:ウィキペディアに寄れば「フラム」は本名。ノルウェー語で「前進」の意味。アートディレクターとして国内外の美術展、企画展、芸術祭を多数プロデュースした業界の有名人だそうだ。