新刊紹介:「経済」6月号

 「経済」6月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは6月号を読んでください)

■巻頭言「農政転換」
(内容要約)
・戸別所得保障は評価できるが、日米FTA推進は評価できない。民主党政権の問題は農産物貿易の自由化を基本的に容認しているところにあると考える。

■世界と日本
【「EUサミット」(宮前忠夫)】
(内容要約)
EUサミットは5つの戦略目標で合意した。
・1)雇用率の引き上げ(69%→75%)、2)GDPに占める研究開発投資割合の引き上げ(1.9%→3%)、3)温室効果ガス排出量の1990年比で20%削減と再生可能エネルギー割合の20%引き上げ、4)退学率の引き下げ等による教育水準の向上、5)貧困の減少。
・これらの目標についてEU内の労組、環境団体などの多くは社会問題よりも経済成長を重視しているのではないかとして懐疑的である。

【「金融緩和下のデフレ現象」(桜田氾)】
(内容要約)
・金融緩和をして、大量の資金を市場に供給してもデフレから脱却できないのは、資金需要がないからである。
内需を拡大する必要がある。安くしすぎた法人税を元に戻し、徴収した法人税を国民に社会保障等の形で再分配するという方法が一案として考えられる。

■大特集「安保50年と日本経済」
《日米経済関係の実態》
【「軍事:日米軍事同盟と軍事分担の現段階」(小泉親司)】
(内容要約)
・グアム移転は沖縄の負担軽減と説明されてきたが実際には、アメリカの戦略に基づくもので、本当は負担軽減が目的ではない。結果的に負担が軽減されたとしてもそれは結果論にすぎない事に注意。
海兵隊アメリカの世界戦略のために置かれているのであり、日本防衛が目的ではない。アメリカの世界戦略が日本の国益に合致する保障はどこにもない。が、そう言う議論をしたくないから、鳩山政権は抑止力という日本防衛力とも取れるあいまいな言葉を使うのだろう。
・もちろん日本共産党アメリカの世界戦略は日本の国益に合致しないという立場。

【「沖縄:95年転機の沖縄経済「振興策」」(来間泰男)】
(内容要約)
・今から15年前の1995年、沖縄少女暴行事件が発生、大規模な県民抗議集会が行われた。橋本内閣はこの危機を打開するため普天間基地返還を打ち出す。しかし移設先の決着が付かずこれが現在の鳩山内閣にまで持ち越されてしまうわけである。
・政府は基地受け入れのための経済振興策(いわゆる「島田懇談会事業」*1「北部振興策」)を実施した。原発など迷惑施設を受け入れさせるための金のばらまきと言ういつものパターンである。
・これらの事業には成功例もあるが失敗例も多い。経済合理性ではなく、地元を黙らせるための金のばらまきに過ぎなかったからだろう。まともな沖縄経済振興策が求められる。

【「軍需:武器輸出三原則の緩和圧力 利権構造と軍産複合体」(井上協)】
(内容要約)
軍産複合体(防衛官僚、防衛族議員、防衛産業)は武器輸出三原則の緩和を狙っているが、平和主義という観点からそのようなことは許されるべきではない。
・武器輸出三原則の歴史的経緯は次の通り(ウィキペディアを参照)。三木内閣時代までは三原則強化の流れだが中曽根内閣以降は緩和の流れと言える。なお軍産複合体は一気に武器輸出三原則を撤廃することは難しいと見て、「例外規定を増やす」→「三木答弁をなくす」→「佐藤答弁をなくす」という流れをもくろんでいるようだ。
1967年(昭和42年)4月21日:
 佐藤栄作首相の衆議院決算委員会における答弁により、以下の国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。
 ・共産圏諸国向けの場合
 ・国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
 ・国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
1976年(昭和51年)2月27日:
 三木武夫首相の衆議院予算委員会における答弁により、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えられた。 
 ・三原則対象地域以外の地域についても憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
 ・武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。
1983年(昭和58年)1月14日:
 中曽根康弘内閣の後藤田正晴官房長官による談話で以下の解釈が付け加えられた。
 ・日米安全保障条約の観点から米軍向けの武器技術供与は武器輸出三原則の例外とする。
1993年(平成5年)3月31日:
 宮沢喜一内閣の河野洋平官房長官参議院予算委員会における答弁により、以下の解釈が付け加えられた。
 ・いわゆる汎用品(民間利用も出来る物品)は武器輸出三原則の例外とする。
・なお、軍産複合体の利権構造の「氷山の一角」が見えたのが山田洋行事件、特に秋山事件である。秋山直紀(日米平和・文化交流協会専務理事)は軍事商社・山田洋行*2などから得たコンサルタント料を所得申告しなかったとして脱税の罪に問われたが、「秋山が防衛フィクサーとしてどう動いたのか」など、防衛利権の本丸に捜査が及ぶことはなかった。
久間章生・元防衛相が彼の弁護をしたと言うだけでも、彼のフィクサーぶりがうかがい知れるが。しかし多くの政治家が批判を恐れ、今や彼と距離を置いているのに法廷で弁護するとは久間氏は「仁義にあつい」というべきか「脇が甘くて倫理観がない」というべきか)
・なお、山田洋行事件で名前が出た「福田康夫久間章生石破茂武部勤、玉澤徳一郎、瓦力額賀福志郎中谷元赤城徳彦前原誠司」は防衛族議員の一例(ウィキペディアを参照)。

【参考】
赤旗「武器輸出三原則見直し・防衛相発言、背後に財界、「国際共同開発」参加狙う軍需産業
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-02-13/2010021304_01_1.html

【「金融:日銀の対米協調行動 二つのエピソード」(建部正義)】
(内容要約)
・2つのエピソードのうち1つは以下の話である。
毎日新聞「無利子預金:「広義の密約」米連銀に1億300万ドル」
http://mainichi.jp/photo/archive/news/2010/03/12/20100313k0000m010025000c.html

毎日新聞「柏木−ジューリック文書」
http://mainichi.jp/word/news/20100313ddm002010081000c.html

 国民に無断で密約って、犯罪行為じゃないのかと思うが、日銀が進んでやったと言うよりは自民党、外務省、大蔵省に言われて断れずやらざるを得なかったという所だろうか。あまり日銀を責める気には私個人はならない。なお、こういう事があるから、「日銀の独立性」が一部で強く主張されるのであろう。

 もう1つのエピソードは、プラザ合意内需拡大せよという米国の要求に従い、長期間にわたり低金利政策を続け、結果としてバブルを放置したことは大きな不幸であったというのが筆者の認識のようだ。

【「金融:米金融資本の対日戦略と「日米協調」」(合田寛)】
(内容要約)
アメリカの日本への経済政策要望というと「年次改革要望書」がよく取り上げられるがそう言うのは昔からあるよというお話(例:中曽根内閣時代の日米円ドル委員会)。

【「金融:変革迫られるIMF・世銀と日本の役割」(吉川久治)】
(内容要約)
IMF・世銀には「新自由主義色が強い」「アメリカの意向が反映されすぎる」と言う問題点がありこれらは改革される必要がある。

【「医療:医療・保険の市場開放」(相野谷安孝)】
(内容要約)
アメリカの要望による「医療・保険の市場開放」の説明とそれに対する批判的評価。筆者はマイケル・ムーアが「シッコ」で批判したような医療の新自由主義化を危惧しているようだ。

【「郵政:アメリカの要求と小泉郵政民営化」(山下唯志)】
(内容要約)
アメリカの要望(もちろん日本金融業界の要望もあったが)による「郵政民営化」の説明とそれに対する批判的評価。筆者は今月号の前衛にも同様の文章を書いているのでそれも参照するとよろしいだろう。

【「労働:労働法制の規制緩和要求」(藤田宏)】
(内容要約)
アメリカの要望(もちろん日本経済界の要望もあったが)による「労働法制の規制緩和」(派遣労働の拡大等)の説明とそれに対する批判的評価。なお、悪名高いホワイトカラーエグザンプション残業代ゼロ法案)も元々はアメリカが要求していたことである(そして今もホワイトカラーエグザンプション導入をあきらめていないらしい)。

【「農業:農産物市場開放と日米FTA」(小倉正行)】
(内容要約)
アメリカの要望(もちろん日本経済界の要望もあったが)による「農産物市場開放(牛肉、オレンジ、コメが特に有名)」及びその流れにある日豪FTA、日米FTAの説明とそれに対する評価。
 筆者は自給率低下の恐れがあること等を理由に批判的である。

【「流通:米資本の参入と大店法の廃止」(青木俊昭)】
(内容要約)
アメリカの要望(もちろん日本経済界の要望もあったが)による「大店法大規模小売店舗法)の廃止」の説明とそれに対する批判的評価。アメリカは大店法による大規模小売店舗出店規制を廃止せよと求めており、これは日本の流通業界(郊外の大規模なアウトレットモールなど)にとっても望ましいことであった。
 2000年、大店法は廃止され新たにいわゆる「まちづくり三法」(「大店立地法大規模小売店舗立地法)」、「中心市街地活性化法」、「改正都市計画法」)が成立したが、規制の緩さから、中心市街地の空洞化等の問題を招いているのではとの批判がある。

【「航空:国産航空機開発をめぐって」(上田慧)】
(内容要約)
・日本においては、国産航空機開発は現時点では成功しているとは言えないと言う話。
・民間飛行機としてはYS11が日本初の国産飛行機として開発されたがあまり売れず、生産は打ち切りとなった。
・現在、三菱航空機によるMRJ計画(小型旅客機)がスタートしているが先行きは不透明。
・日本の軍用機も当初純国産予定だったF2が日米共同開発になったように、純国産と言える状況ではない(政治的問題プラス技術的問題?)。

【「建設:米木材輸入から建築基準法見直しに」(村松加代子)】
(内容要約)
アメリカの要望(もちろん日本経済界の要望もあったが)による1998年の建築基準法見直しの説明とそれに対する批判的評価。この時の改正は後に耐震偽装事件を引き起こすから批判も当然だろう。

【「企業:会社法改正=M&A推進のねらい」(大島和夫)】
(内容要約)
アメリカの要望による会社法改正(特に三角合併関係)の説明とそれに対する評価(難しくてよく分からん。なお筆者は三角合併解禁には必ずしも否定的ではないようだ)。アメリカが要求した三角合併解禁に対し、日本の財界が抵抗したという話には吹いた。本当に日本の財界はご都合主義極まりないな。

【「特許:知的財産権をめぐる米国の要求と日本の対応」(特許研究会)】
(内容要約)
アメリカの要望による知的財産権関係諸制度改正の説明とそれに対する評価(難しくてよく分からん)。知的財産権特許権著作権など)を強化することは、その権利を第三者が安価に利用することが難しくなる為、安易に良いことだと評価できないという点は理解できたが(しかもアメリカの要望だとアメリカばかりに都合が良いとんでもない代物になる恐れもあるわけだ。)。

【「IT:マイクロソフトとグーグルの情報占有体制」(井上照幸)】
(内容要約)
・現在、パソコンのOSはマイクロソフト(MS)の、サーチエンジンはグーグルの一人勝ち状態にある。今後も、この状況は当分変わらないであろう。こうした状況は望ましいものでなく注意が必要(しかも、MSやグーグルって「司法当局に独禁法違反の疑いで追及される」「ストリートビューがプライバシー侵害じゃないかと批判される」等、批判のネタに事欠かないしな)。

■「討論:国のあり方を問う:民主党政権の国家機構改革を問う・「事業仕分け」・公務員制度改革」(堤和馬、宮垣忠、晴山一穂)
(内容要約)
民主党事業仕分け公務員制度改革は小泉構造改革と方向性(新自由主義)と言い手法(ある種のパフォーマンス性)と言い大して変わらないと見るべき。そうしたものが国民の一定の支持を得ているところに警戒が必要(みんなの党の支持率が高いとか)。
民主党の言う「新しい公共」はNPOなどに仕事を丸投げし、行政が責任放棄するという方向に行く危険がある。
公務員制度改革というなら公務員の労働基本権や政治活動の自由の問題について論じる必要があるはずだ。また官製ワーキングプア問題も重要な問題だ。
社会保険庁職員の大量分限免職は労働者の権利保護上問題ではないのか。

*1:島田懇談会の正式名称は「沖縄米軍基地所在市町村に関する懇談会」。梶山静六官房長官の私的諮問機関として発足。島田晴雄慶応大教授(現・千葉商科大学学長)が座長を務めたためこう呼ばれた。

*2:軍事商社というのは、「不毛地帯」での鮫島(東京商事)と壱岐(近畿商事)の闘いを思い浮かべればいいのだろう。