新刊紹介:「前衛」8月号(追記・訂正あり)

 「前衛」8月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは8月号を読んでください)

■「菅政権の登場と参議院選挙の意義」(渡辺治
(内容要約)
・ただのマヌーバーだったかも知れないが、沖縄問題や消費税問題で一定の誠意を見せようとしたのが鳩山前首相だったと言えるだろう。早い段階から県外移設は公約ではないと言っていた岡田外相が首相だったなら確実にもっと早い時点で沖縄切りに動いていただろう。
菅内閣は鳩山政権にわずかながらあった反小泉的な物(反ネオリベ、反従米主義など)を全否定する本格的な「保守反動」政権である。菅の暴走を防ぐためには最低限、絶対に民主党参院過半数を与えてはならない。民主党参院過半数を得れば日本の未来は暗いだろう。
・そして、反ネオリベ、反ネオコンではない政党(共産など)には議席を増やしてもらわなければならない。民主への批判票が「みんなの党」など、保守新党に行かないよう全力を尽くして欲しい(保守新党が伸びると、菅が保守新党との連立を仕掛けてくることは間違いないので、菅民主党過半数割れしてもその意義が減少する)。

【追記】
・この渡辺論文には金光翔氏がエントリを書いているのでコメントしておく。
渡辺治「菅政権の登場と参議院選挙の意義」(『前衛』2010年8月号)」
http://watashinim.exblog.jp/11507937/

・金氏は渡辺氏が菅政権を「反動政権」と批判的に評価していることを高く評価しつつも、それ以前は渡辺氏は菅氏に割と好意的だった。菅氏が「消費税増税」「沖縄切り捨て」「高支持率の時に解散し、党首討論からも逃げるという卑劣な行為」を取らなければ判断は甘いままだったのでは、としている。随分厳しい物だ。渡辺論文には、内閣府参与として湯浅誠氏を登用するなど一部進歩的な面が見られたと、菅氏に一定の評価をした理由が書いてあり、ここまで金氏が渡辺氏を責めるのは酷だと思うが。
・金氏は渡辺氏が鳩山や小沢に甘いとしているがどれはどうだろうか?。渡辺氏は経済構造改革や、日米安保体制改変について鳩山、小沢は漸進主義(出来る限り、構造改革などで被害を受ける地方住民などにアメを与えながらやっていく)、菅は急進主義とし、そう言う意味で菅よりマシとしているのであって、鳩山、小沢をきっこや、世に倦む日日のように絶賛しているわけではない。
・正直、金氏の主張には評価できる面もあるが、アホかと言いたくなる点が多い。例えば金氏は「「よい大連立」と社民党」(http://watashinim.exblog.jp/11484206/)で菅政権の施策に影響を与えているのは、宮本太郎と山口二郎(いずれも北海道大教授、政治学者)とした上で、宮本、山口を批判している。ここまではまあいいとしても、「宮本は共産幹部だった宮本顕治(故人)の実子であり、共産も菅に協力するだろう」云々には呆れるしかない。
一応突っ込んでおくと、
「宮本は麻生政権時代から、安心社会実現会議という政府審議会の委員だった」(共産が宮本に好意を示すのなら麻生政権時代に既にやってるだろうが、もちろんやってない。百歩譲って共産が菅政権に好意を示したとしてもそれは宮本とは関係ないだろう)
「親(顕治氏)と子(太郎)の意見が明らかに違うのに子の意見に何故従う必要があるのか」
「そもそも顕治氏は故人であり、近年は病気で表舞台に立つこともなかったのに、党内においてそれほどの権威があるのか」
などと突っ込めるだろう。

■座談会「新しい政治の国民的探究のもとで・革新懇運動の本格的発展を」(小池潔、小松崎久仁夫、沢田博、浦田宣昭)
(内容要約)
革新懇運動の現状と課題についての討議。

(参考)
全国革新懇」(http://www.kakushinkon.org/

■「なぜ米兵犯罪は裁かれないのか」(吉田敏浩
(内容要約)
・「密約―日米地位協定と米兵犯罪」(2010年、毎日新聞社)を出版したフリージャーナリスト、吉田氏へのインタビュー。
・「なぜ米兵犯罪は裁かれないのか」
 それは「日本は原則として、米兵犯罪を裁かないと言う密約」(裁判権放棄密約)をアメリカと結んでいるからである。
・これについては、布施祐仁「日米密約・裁かれない米兵犯罪」(2010年、岩波書店)と言う本も最近出版されている。
・なお、問題はこれだけではない。現行の安保条約では米兵の公務中の犯罪は日本は原則裁けないことになっている。この規定自体、問題だが、米軍は身内をかばうため公務中でなくても公務扱いしている疑惑がある。
・なお、吉田氏による今、自衛隊ジブチで活動しているが、そこで結ばれた地位協定は日本が米国に押しつけられているのと同様の内容らしい(ググるとそういうエントリもいくつか出てくる)。今や日本は加害者の立場にもなり得る状況なわけである(マスコミもそう言うことを真面目に報道しろよ)。

■「民主党政権の「温暖化対策に原発推進」の危険性」(柳町秀一)
(内容要約)
民主党は温暖化対策としてCO2を排出しない原発の推進を唱えている。確かに原発はCO2を排出しないが危険な放射性廃棄物を排出するし、事故の危険性もある。むしろ、原発以外の発電(太陽光、風力、地熱など)を進めるべきではないのか。

■「官房機密費を巡る民主党政権の裏切り」(山下唯志)
(内容要約)
野中広務官房長官の暴露証言(政治評論家にも工作資金として機密費をばらまいたなど)などで疑惑が深まっているにも拘わらず、民主党政権は野党時代、公約していた機密費疑惑を調査しようともしない。酷い裏切りである。

(参考)
「使途不明の官房機密費、自公政権―総選挙2日後に2億5000万円、鳩山政権―すでに1億2000万円」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-11-20/2009112001_01_1.html

「官房機密費、調査して公表が当たり前だ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-11-26/2009112602_01_1.html

「機密費問題、全容解明はあいまいにできぬ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-02-15/2010021502_01_1.html

「機密費の情報公開要求、塩川議員が質問主意書
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-03-30/2010033002_03_0.html

「機密費公開“棚上げ”、塩川議員に答弁書、「1年かけて使途を検証」」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-04-03/2010040302_03_1.html

「野中氏機密費証言、世論の買収を究明すべきだ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-05-25/2010052501_05_1.html

「官房機密費使途示せ、塩川議員、菅政権に質問主意書
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-10/2010061002_04_1.html

「官房機密費・4、5月で3億円支出。塩川議員へ答弁書、使途公開を拒否」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-12/2010061202_04_1.html


■「教育無償化をめぐる党国会議員団の論戦」(宮本たけし)
(内容要約)
・面倒なので要約無し。宮本先生のHP(http://www.miyamoto-net.net/)の教育無償化関係部分見ればOK。既に別のエントリで紹介してるが、特に朝鮮学校関係の部分は泣けるね(さすが、共産)。差別に荷担した社民党は「弱者の味方」名乗るな。
 朝鮮学校以外を紹介してみよう。

「高校無償化法案の質疑、精神はよいが「そろばん勘定」が」
http://www.miyamoto-net.net//column2/diary/1268284171.html


今回の法案の私学の就学支援金の支給は36ヶ月、つまり3年に限られています。ですから、ある私立高校に入学して一年間通ったが学校になじめず中退、別の私立高校に入りなおした場合には、残る24ヶ月分しか支援金は出ません。
 (中略)
 なぜ、このような不合理な制度になってしまったのかというと、「厳しい財政状況」とか「公平性」というような「そろばん勘定」に流された結果です。
 (中略)
 基本は「高等学校修了までの費用は社会が負担する」というのが大原則であって、したがって「留年しようが中退しようが、別の学校に行き直そうが、高等学校の課程を修了するまでは公立・私立を問わず無償化する」というのが筋だと思います。また1年行って中退したら、その子にはあと24か月分権利が残っているとか、一つの学校に授業料を徴収しない生徒と徴収する生徒がいるとか、そんなことをやるほうがかえってコストがかかり、結局「そろばん勘定」にも合わなくなるのです。

それと、私立校は無償じゃない点も注意しないといけませんな。

赤旗「私立高校・無償化求め285万署名、高校生・父母・教職員、文科省に提出」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-22/2010062206_02_1.html

■論点
【「B型肝炎訴訟、国の解決引き延ばしは許されない」(菅野尚夫)】
(内容要約)
・要約というか赤旗の記事紹介。
B型肝炎訴訟、どこが「友愛」、解決引き延ばすな、国の態度に原告から怒り」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-05-15/2010051515_01_1.html

■暮らしの焦点
【「なぜ生活保護老齢加算復活が必要か」(吉田雄大)】
(内容要約)
・要約というか赤旗の記事紹介。
北九州市生存権裁判で上告、原告との面会拒み」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-26/2010062601_03_1.html

 「長妻昭厚労相は原告らに面会もせずに(北九州市に)上告させたことを心外に思う」(朝日健二副会長)と強く抗議しました。

 それが長妻クオリティ。

■メディア時評
【新聞:「全国紙は何を菅政権に求めたか」(金光奎)】
(内容要約)
Q「全国紙は何を菅政権に求めたか」
A「消費税増税
感想「もはやまともなジャーナリズムじゃない」「「消費税増税しかない」とデマを平然と垂れ流すとは日本の全国紙は「満州は日本の生命線」から全く成長がないと言うことなのだろう」

【テレビ:「大丈夫か?。地デジ完全移行まであと1年」(沢木啓三)】
(内容要約)
Q「大丈夫か?。地デジ完全移行まであと1年」
A「多分大丈夫じゃない」

■文化の話題
【映画:「ドキュメンタリー映画「弁護士・布施辰治」(児玉由紀恵)】
(内容要約)
・とりあえず布施の紹介。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2009-01-14/ftp20090114faq12_01_0.html
〈問い〉日本人でただ一人、韓国の建国勲章をうけた弁護士、布施辰治とは、どんな人ですか?(福岡・一読者)
〈答え〉布施辰治は、「生くべくんば民衆と共に、死すべくんば民衆のために」を座右の銘に、明治、大正、昭和の50年間を生きた弁護士です。
 1880年宮城県石巻市の農家に生まれた布施は、すでに30代で東京屈指のらつ腕弁護士として知られていました。しかし、トルストイの影響をうけて人道主義を貫こうと、1920年5月15日、40歳のときに「自己革命の告白」を公表。以後の弁護を「官権の人権蹂躙に泣く冤罪者」「財閥の横暴の枉屈に悩む弱者」「心理の主張を圧迫する筆禍舌禍の言論犯」「無産階級の社会運動の迫害」事件に限ることを宣言します。
 その宣言の3日後、布施は、東京市ストライキ事件で獄中にあった組合員に「卿らと苦汁を分けてのむ覚悟をもって弁護にあたる」という手紙を送ります。
 その後、布施は、虐げられた民―植民地朝鮮・台湾の民、廓にしばられている娼婦酌婦、貧しき借地借家人、労働者、小作人―の弁護に奔走。1921年には、自由法曹団を創立、1928年の最初の総選挙に労農党公認で新潟2区から立候補、日本共産党への大弾圧「3・15事件」などの弁護をし、弁護士資格をはく奪され、1939年、治安維持法違反で懲役2年の刑を受けます。
 第2次世界大戦の敗北で弁護士資格が回復されると、布施は再建された自由法曹団の顧問となり、三鷹事件松川事件メーデー事件などの弁護活動を精力的にこなし、1953年9月13日、73歳の生涯を閉じました。
 朝鮮のかかわりでいうと、布施は当初から韓国併合に反対で、1911年には「朝鮮独立運動に敬意を表す」という一文で検察の取り調べを受けます。1919年2月8日に起きた「独立宣言事件」で11人の弁護を引き受けたのが朝鮮人の弁護活動の最初といわれます。
 1923年4月、雑誌『赤旗』創刊号に「日韓の併合は、ドンナに表面を飾っても、裏面の実際は、資本主義的帝国主義の侵略であったと思う。…朝鮮民衆の解放運動に特段の注意と努力を献じる要ありと信じます」と書き、その後たびたび朝鮮に渡り、朝鮮共産党の弁護をしたりしました。
 こうしたことから、韓国政府は2004年10月、朝鮮独立運動に寄与した人物に与える「建国勲章」を、日本人で初めて布施に授与しました。
(喜)

〈参考〉布施柑治『ある弁護士の生涯』(岩波新書

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20100426bk0c.htm
『弁護士布施辰治』
大石進
出版社:西田書店
発行:2010年3月
ISBN:9784888665247
価格:¥2415 (本体¥2300+税)

■弱者への温かい視線
 足利事件無期懲役囚だった菅家利和さんが17年ぶりに無罪を勝ち取ったこともあり、冤罪への関心が高まっている。無実の人がなぜ犯行を「自白」するのか。本書を読んでその心理がかなり理解できた。まさにタイムリーな一冊だ。
 布施辰治は、明治末期から昭和の戦後にかけて活躍した敏腕の刑事弁護士である。布施を有名にしたのは1915年に起きた「鈴ヶ森お春殺し」。この冤罪事件で布施は拷問とトリックで一度は自白した被告を弁護し、見事に無罪を勝ち取った。翌年、布施は自白獲得の手段として、不当拘留の苦痛、スパイの利用、拷問、脅しすかしなどの八つを挙げ、すべての人は逮捕された瞬間に社会的弱者になる、と指摘している。
 その後、布施は弁護士の枠を超えて、社会運動家として多くの事件に関わっていくが、とくに植民地の人々との交流は感動的だ。関東大震災時の朝鮮人虐殺の真実の究明に尽力し、戦後も一貫して、朝鮮人関連事件の弁護を積極的に引き受けている。そこにはつねに、社会的弱者に対する温かい視線が感じられる。こうした布施の功績は韓国で高く評価され、2004年には日本人では初めて「建国勲章」を授与された。
 戦後の1949年、下山事件三鷹事件松川事件という怪事件が起こったが、布施の人生最後の大きな舞台が三鷹事件である。
 被告の竹内景助は、七回も供述内容を変えて犯行を「自白」したが、一審の無期懲役控訴審で死刑判決に変わると、以後は一貫して無実を主張する。
 布施と竹内の往復書簡には息をのむ。なかでも、竹内が自白に至る経緯を自ら綴った書簡は圧巻だ。これを読んだ人は、ほぼ竹内の無罪を信じるだろう。だが、途中で布施が死去し、竹内も死刑囚のままで没したため、事件は幕を閉じる。もし布施が生きていたら、竹内の運命は変わっていたのではないか――と想像すると、人間の命がかかった裁判の責任と重みというものを、改めて感じずにはいられなかった。

◇おおいし・すすむ=1935年、東京生まれ。「法律時報」編集長、日本評論社社長などを歴任。布施辰治は祖父。

評・黒岩比佐子(ノンフィクション作家)

 布施は韓国では「日本のシンドラー」と呼ばれてるらしい。日本人としてはあんな商売人と一緒にするなと言う気がしないでもないが。
 ちなみに甲賀三郎の代表作「支倉事件」(創元推理文庫「日本探偵小説全集」の「黒岩涙香小酒井不木甲賀三郎集」所収)に出てくる能勢弁護士は布施が、神楽坂署長・庄司は正力松太郎(愛称:ポダム)がモデルである(戦前ミステリ豆知識)。
 ちなみに話が思いっきりずれてるけど「日本探偵小説全集」は面白いので一読を勧めたい。ほとんど戦前ミステリで古いんだけど。

(参考)
映画「弁護士・布施辰治」公式サイト(http://www.fuse-tatsuji.com/
 布施辰治役は俳優の赤塚真人。

【演劇:わらび座ミュージカル「アトム」(菅井幸雄)】
(内容要約)
わらび座のミュージカル「アトム」(原作:手塚治虫)の紹介。振り付けがラッキィ池田だそうだ。まだ振り付け師やってるのか。完全にタレント化したと思ってましたよ。
・ちなみに、わらび座は以前、手塚の「火の鳥鳳凰編」をミュージカル化しており、NHK教育の演劇紹介番組「劇場への招待」で放送されている(4月23日(金)放送分)。

(参考)
「劇団・わらび座」公式サイト(http://www.warabi.jp/

■シリーズ「「韓国併合」百年と日本の進路」
【「日本による朝鮮の植民地化は「必然」であったのか」(朝井好夫)】
(内容要約)
・もちろん「必然」ではなく、朝鮮植民地化は日本が主体的に選んだ選択であり、「必然」として正当化することは出来ないというのが筆者の結論。詳しくは本論文を読んでください(特に甲申事変(金玉均らのクーデター)支援や閔妃暗殺は当時においても法的にも問題ではないだろうか?)
そもそも自然現象ならともかく、人間の行為に「必然」などないだろう。