【産経抄】9月22日(追記・訂正あり)

 加瀬英明*1と「元中国人」石平氏との対談集『ここまで違う日本と中国』を読むと、「目から鱗(うろこ)」の話ばかりだ。例えば「公」を大切にする日本と「私」しかない中国だ。お二人は「論語」にある「父親が羊を盗む話」をあげて説明する。
 ▼ある人が孔子に「友人は正直者で、父親が隣の人の羊を盗んだことを知ると、父親を告発しました」と語る。すると孔子は怒る。「何よりも、孝が大事だ。父親がどんなに悪いことをやっても、外に言ってはいけない」。石平氏は「孔子は公を無視している」という。
 ▼これに対し中国とは別の儒教を作り上げた日本人は「孝」よりも「公」に尽くす「忠」を重視してきたそうだ。何事か起きると、日本人が「相手に悪い」と思うのに対し中国人は「相手が悪い」と思う。明らかに「公」と「私」の精神の違いだろう。

 『「私」しかない中国』
 私しかなかったら中国であれ、どこであれ人間社会は成り立たないと思います。抄子も加瀬、石平コンビもアホかと。


 『父親がどんなに悪いことをやっても、外に言ってはいけない
 産経とそのお仲間も日本軍の戦争犯罪について似たようなことを言っていたと思いますけどね(笑)。
 それと日本の企業犯罪(建設談合とか)はこの典型(身内の悪事は外に言うな)じゃないんですか?。日本人の公の感覚が強いとは私は全く思いません。


 『何事か起きると、日本人が「相手に悪い」と思う』
 デマ記事書いても、自分の非を絶対に認めない産経は中国人なんですね、よく分かります。
 冗談はともかく、日本人だって非を認めない人間はいくらでもいるでしょうに?。
 酔態さらしながら、酒飲んでないと醜い言い訳をした故・中川氏とか、「消えた年金」や教育問題について政府与党・自民の責任をスルーして社保庁日教組が全部悪いみたいにいう自民支持者とかね。


 『日本人は「孝」よりも「公」に尽くす「忠」を重視してきたそうだ』
 孝だって重視してきたでしょ?。違憲判決が出た上、刑法改正で廃止されましたが、尊属殺重罰規定は孝の現れでしょう。介護疲れ、親からの性虐待、嫁・姑の争いなど、卑属に同情の余地のあるケースでも重罰なんですから。

 
・私は素人なので反論できませんが「中国の儒学と日本の儒学は違う」とか、加瀬、石平コンビの話はとてつもなく怪しい話だと思いますけどね。そもそも「朱子学」「陽明学」など様々な違いがあるのに、「中国の儒学が一枚岩」「日本の儒学が一枚岩」のように言うことも変だと思いますし。
 大体「主君に対する忠」=「公」なんですか?。親が常に正しいわけではないから「孝」が「公」でないのと同様、主君も常に正しいわけではないんですが。
 9月25日公開の時代劇映画「十三人の刺客*2についてどう思うか、抄子に聞きたいものです。
 暴君・松平斉韶*3に対する「君、君たらずとも臣、臣たるべし」という明石藩重役・鬼頭半兵衛の「忠」は「公」なのかと。むしろ「天下万民のため」と斉韶暗殺に動く「十三人の刺客のリーダー」島田新左衛門の方が「公」だと思いますが。
 あるいは忠臣蔵大石内蔵助たちの浅野内匠頭への「忠」(吉良邸討ち入り)とか。大石たちの「忠」は「公」(少なくとも徳川幕府の考える「公」)に反するから処罰されたわけです。ただし彼らの「忠」を全否定するわけにもいかないので斬罪ではなく切腹という名誉ある処刑がなされました。(ウィキペディアに寄れば、儒学者荻生徂徠切腹論が幕府に採用されたものの、同じ儒学者でも林鳳岡、室鳩巣、浅見絅斎は助命論を唱えたと言うことから分かるように日本儒学における「公」は抄子が言うほど簡単ではないように思います)
・本当に中国を知りたかったらまず「中国dis」ありきの石平など論外でしょうね(笑)。

【追記】
1)「本日の産経SHOWと阿久根政界NOW:目に鱗が張り付いたまま」(http://d.hatena.ne.jp/slapnuts2004/20100922/p1)にコメント。
 id:slapnuts2004氏は「元中国人が中国批判したら反中自虐でなくて正義の士か」的に皮肉ってますが確かに。日本人が日本批判したら反日自虐呼ばわりが産経ですから。自分に都合のいい批判は正義の士、都合の悪い批判は裏切りとか言ってdisる。
 ちなみに石平はウィキペディアに寄れば次のようなことを言ってるそうです。事実ならとうていまともな人間とは思えません。

石平(ウィキペディア


 いわゆる南京大虐殺については、『事実の検証は専門家に任せるが、自分の考えでは最低でも「犠牲者30万人」という数字は真っ赤な大ウソではないかと思う。おだやかな社会風土と伝統文化の中を生きてきた日本人は、完全に「虐殺の歴史」であった中国とは違って「虐殺」とは極めて縁遠い民族である。日本の歴史上、「天魔」織田信長などの、わずかな例外を除けば虐殺を好む権力者や血に飢えた為政者は見当たらないし、戦国時代に戦闘行為が行なわれたとしても、戦死者の数は知れたもので、権力闘争に負けた者の処分はせいぜい島流し程度であろう。時には謀反の首謀者が首をはねられる事はあっても、一族を皆殺しにするような「族誅」は皆無である。そんな民族がそのような大虐殺を行う発想などあるのか。中国が行っている南京大虐殺喧伝は日本民族を永遠に「殺人者」*4として断罪してゆくための悪意のプロパガンダであり、日本国家の名誉に対する恣意的な毀損ではないのか』というスタンスを取っている。

 南京事件はもちろん事実だし、日本人の歴史においても虐殺は珍しくないと思うが。大体、過去に虐殺の歴史がないからどうこう言ったらカンボジアポル・ポト虐殺はどうなるんだよ?。ポル・ポト以前のカンボジアに大虐殺の歴史なんかないだろ?
 すげえ頭が痛い。

もしかして、儒家は本当にそう言っているのかもしれません。でも、法家はそんなことを言っていないはずですが。そういう思想を持っている人がいても不思議ではありませんが、それが全てではないはずです。

言われてみれば確かに。儒家思想は中国の一大思想ですがそれが全てではありません。まあ、彼らの儒教解釈が正しいかどうか怪しいですが。

安全を保証できないからじゃないんですか?。反日感情が高まっている時期に学生に何かあったらどうするつもりなんですか。

ですよね。

2)id:jimusiosaka氏の紹介してくださったサイトにコメント。

http://12949602.at.webry.info/200712/article_24.html


 加地伸行*5の指摘にあるように、現代刑法(刑法105条、親族による犯罪に関する特例)では犯人または逃亡した者の親族がかれらのために匿ったり、証拠隠滅をしても刑を免除されることになっている(注:正確には「免除することが出来る」。実務上は免除が多い(あるいはそもそも起訴されない)のかも知れないが、当然に免除されるわけではない)。 

 刑の免除(犯罪は成立するが刑罰は与えない)なので、犯罪行為を正当化してるわけではないし、対象は親ではなく親族一般なので、根拠は儒教思想(孝)ではないでしょうけどね。加地氏のような中国研究者、儒教学者、あるいは法学者、日本史学者がどういってるかは知りませんが。少なくとも現行刑法が孔子的な考え(親子の情愛)を切って捨てていないことだけは確か。
 この刑法規定について加瀬、石平コンビは何というか?。
 親族間の窃盗は親告罪とすると言う刑法規定も似たような考えなのだろうと思います。

http://books.google.co.jp/books?id=aAc_IBjQNTQC&pg=PA261&lpg=PA261&dq=%E5%AD%94%E5%AD%90%E3%80%80%E7%BE%8A%E3%80%80%E7%9B%97%E3%82%80%E3%80%80%E5%AD%9D%E3%80%80&source=bl&ots=FTzAqgkEBQ&sig=6E4K3eWaajC57XFNmtsU1z3xVjQ&hl=ja&ei=lweaTLDpEIOGvAOPq9CcDQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CCkQ6AEwBA#v=onepage&q=%E5%AD%94%E5%AD%90%E3%80%80%E7%BE%8A%E3%80%80%E7%9B%97%E3%82%80%E3%80%80%E5%AD%9D%E3%80%80&f=false


 中国人研究者・張競氏(明治大学教授)の著書『「情」の文化史:中国人のメンタリティー』(角川選書)の紹介。「羊の話」は残念ながら一部しか読めないので、全文読むには図書館で借りるか買うしかない。
なお、この話には後日談があると言う。羊を盗むことは楚国では死罪なのだが、息子は「親を死なせたら孝に反する、私を父の代わりに死罪にして欲しい」と言い感銘を受けた楚王は父を許したという。
 父親が死罪になるかもしれないのに訴えるかと言ったらねえ。日本人でも躊躇しますよ。孔子発言はそんなに問題なのか?
 なお、張競氏は『恋の中国文明史』(現在、ちくま学芸文庫)で読売文学賞、『近代中国と「恋愛」の発見』(岩波書店)でサントリー学芸賞受賞ということで石平よりは信頼できそう。まあ、石平レベルの反中でないと産経的にはダメなのだろうが(毒)

*1:日本教育再生機構(八木グループ)代表委員、自由社つくる会教科書の発行元)取締役。つくる会と八木グループは対立していたように思うのだが?

*2:私は映画は9月25日公開の今回のリメイク版はもちろん、昔のオリジナル版も見ていませんが、テレビドラマ版(フジだったかな?)、小学館文庫の今回映画のノベライズ版、ビッグコミックに連載された今回映画のコミック版を見ていますので大体の内容は分かります。今回の映画については「三池監督のいわゆる三池節が炸裂してまずいことになってるんじゃないか」「今の若手俳優にまともな殺陣が出来るのか」と言った声もあるようですがどうなんですかね?

*3:あそこまで酷い暴君が現実にいたら、さすがに将軍の実の弟でも処罰されるでしょう。将軍が処罰に賛同しないどころか、老中職につけたいと言い出したので将軍に無断で刺客を送らざるをえないという話にはならないでしょう

*4:別に南京事件なくても中国侵略戦争自体が許されざる殺人行為なんだが。それに731部隊とか南京事件以外にいくらでも日本は中国人相手に残虐行為をやってるし、バターン死の行進とか中国人以外にも虐殺行為をやってるんだけどね。バカ丸出しだな。

*5:大阪大学名誉教授。専門は中国哲学史で儒教に関する著書多数。「つくる会」支持の産経文化人という所は気になるが専門分野で嘘は書かないと信じたい。