新刊紹介:「前衛」4月号

「前衛」4月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは4月号を読んでください)

■特集「強化される米軍基地・自衛隊いっせい地方選挙
民主党政権下の同盟強化の危険性と矛盾(竹下岳)】
(内容要約)
・1/20に行われたある講演会で、菅首相は「自衛隊員はいざというときは血を流す覚悟(いつからそんなことになったんだ?)で任務にあたっています。そう言う認識で私は日米同盟を深化させていきたい」云々と語ったという。菅首相自公政権をしのぐ対米従属タカ派路線をめざしていることは疑いないであろう。

【日米軍事同盟はアジアの平和の『公共財』*1か?:米軍基地撤去、日米安保破棄こそアジアの平和への貢献(千坂純)】
(内容要約)
・「日米軍事同盟はアジアの平和の『公共財』*2」と強弁する菅首相とマスコミ。彼らのイデオロギー宣伝の効果もあって最近の世論調査でも「日米安保で日本とアジアの平和が守られた」という回答は7割程度に達している。
 しかしベトナム戦争イラク戦争を見ても分かるとおりむしろ「日米軍事同盟はアジアの平和の『破壊者』」である。こうした考えをどこまで国民に広げていけるか、重大な課題である。

沖縄県民の総意をふみにじり「日米合意」押し付ける菅政権(赤嶺政賢)】
(内容要約)
・県知事選での敗北は残念だったが仲井真知事も日本政府の方針を受け入れているわけではない。今後も県外移設の実現をめざし頑張る。

【[佐世保]すさまじいまでの基地増強に安保を問う(山下千秋)】
【[岩国]艦載機移設、基地の拡充強化に反対するたたかい(藤本博司)】
【[愛知]九条生かす恒久平和の郷土づくりと日本共産党(林信敏)】
【[神奈川]米軍再編による基地強化と県民のたたかい(笠木隆)】
(内容要約)
・米軍基地問題岩国基地)、米軍再編に絡んだ自衛隊基地問題(愛知小牧基地)を抱える自治体での党議員候補者などからの決意表明。

【「抑止力」は日本をまもらない:北東アジアの平和をどう創るのか(川田忠明)】
(内容要約)
・抑止力論は「自己の軍事力が相手を上回らなければならず」、これが軍拡の際限ないエスカレートを生む。
・抑止力論が崩壊しない保障はどこにもない。自分は相手を上回る軍事力であり相手は歯向かわないと自分の側が理解していても「相手が『自分の方が軍事力が上』と理解する」「相手が『自分が歯向かったら酷い目に遭わされるだろうが、それでも構わない。もはやあの国の横暴には我慢できない』と自暴自棄になる」可能性は否定できない(戦前日本の対米戦争などそうではないのか?。なお筆者はそうした例として米ソがお互い「相手が引くはず」と相手の攻撃意図を当初、過小評価して戦争一歩手前になったキューバ危機を上げている)。その場合、抑止力論は崩壊し、相手の攻撃によって一定の犠牲は避けられないであろう。相手の攻撃意図や能力を客観的に把握できる保障はない(お互い相手を油断させるために攻撃意図や能力がないように装ったり、逆に相手を恫喝するために必要以上に攻撃意図や能力を誇張する可能性がある)。むしろ友好関係(貿易、文化交流など)の強化こそが、そうした攻撃意図を減少させることが出来るだろう(「友好関係の強化」成功例がドイツ、フランスの対立を解消したEUや、もともとは反共同盟的だったが今はベトナムも加盟したASEAN)。
・抑止力論は国対国の関係では一定の合理性があるが、テロ組織対国では合理性があるとは言い難い。政府の所在地と違い、どこにテロ組織があるかは普通分からないからである。米国がテロに苦しんでいるのはいい例である。

■「消費税増税阻止へ国民的たたかいの輪を」(梅村早江子)
(内容要約)
・消費税増税を阻止するための運動を強化しよう。そして菅内閣の消費税増税論を撤回させようではないか。

■「納税者のいのちまでも奪う税金滞納差し押さえ:徴税問題からみえる「構造改革」路線の破綻」(村高芳樹)
(内容要約)
 自治体による税金滞納差し押さえは病死や自殺という形で「納税者のいのち」を奪っている。滞納の原因は「払いたいが払えない」貧困であり安易な差し押さえはすべきでない。
 また社会保障の充実による生活応援や、税制の改革(逆進性の強い消費税増税ではなく累進課税の強化)が必要である。

参考)
赤旗
『高すぎる国保料(税)・強権的取り立てをただし、いのちと健康をまもる国保に』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-11/2011031105_01_0.html

『命と健康守る国保に・共産党が提言、志位委員長発表』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-11/2011031101_02_1.html

国保滞納、過酷な取り立てやめよ・参院予算委で田村議員質問、国の指導をただす』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-10/2011031002_02_1.html

大阪市国保滞納、学資保険差し押さえに待った・共産党の追及受け、市長が方針変更』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-01/2011030101_05_1.html

『強権的な徴税是正を、衆院委・佐々木議員ただす』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-24/2011022405_03_1.html

国保滞納差し押さえ倍増、分割納付中に、年金・子ども手当まで、生存権脅かす非道、06年度→09年度』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-07/2011020701_01_1.html

国保料“非道”差し押さえ、自公が号令・民主が拍車、共産党「国庫負担引き上げを」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-07/2011020703_01_1.html

国保税払えず・預貯金差し押さえ、子ども手当まで、共産党に相談相次ぐ、大分・宇佐市
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-09/2010110915_01_1.html

『「税金は保険金で」と自殺した業者、こんな徴税あるか、大門議員が告発・参院財金委、国税庁「現場を指導する」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-10-29/2010102915_01_1.html

『児童手当差し押さえ、税滞納理由・財務相も“違法”佐々木氏追及』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-04-18/2009041815_01_1.html

■「「子ども・子育て新システム」で保育はどうなるか」(村山祐一)
(内容要約)
 以下、紹介する赤旗の批判と内容はかなりかぶるので参照して欲しい。
『子育て「新システム」・子どもと保育に格差許さない』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-29/2010112902_01_1.html

『やめてよ・保育新システム、子育ての不安が増える』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-25/2010112510_01_1.html

『子育て新システム・保育の公的責任放棄、高橋議員・認可保育所増設こそ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-09/2011020901_03_1.html

■「比例定数削減で日本の政治はどうなるか」(橋本敦)
(内容要約)
 比例削減は、少数政党、少数意見を国政の場から排除しようという企てであり認めることは出来ない。身を削る努力というなら「政党助成金」を廃止すべきであるし、日本の議員定数は国際比較すると決して多くはない。また定数削減を認めるとしても小選挙区でなく比例ばかりが削減対象とされることもおかしい。

■「教師の苦しみ、困難と新しい連帯そして希望」(堤由紀子)
(内容要約)
赤旗連載記事『「学校はいま」第4部:先生が大変だ!」を担当した堤記者が共産党後援会で行った講演をまとめたもの。

■「[リポート]「地域主権改革」とナショナルミニマム:「構造改革」政治は図書館を疲弊させている」(小川一郎)
(内容要約)
構造改革路線は図書館では「予算削減による人員や蔵書の減少」「低賃金長時間労働で地位も不安定な非正規労働者の増加」といった問題状況を招いている。
 これを何とかして良い方向に変える必要がある(図書館のない地域もあるため、中学校区に1館をめざす。国による図書館のナショナルミニマムの作成、安心して働ける労働環境の構築、指定管理制度導入においてワーキングプアなど問題が発生しないようにすること(委託金額が安ければいいではダメだと言うこと)、現在司書のいない小規模図書館も多いことを考え、司書制度の充実など)。

■世界不況は終わったのか
【世界不況からの出口はどこに見出せるのか(高田太久吉)】
【金融恐慌後の資本主義をどう把握するか(大槻久志)】
(内容要約)
・細かい点には違いがあるが「今回の不況がネオリベラル経済政策の問題点をわかりやすい形で示したこと」「にもかかわらず財界はそれを改める気はなく、福祉国家をめざす運動を強める必要がある」という点はいずれの文章も共通している。

■論点
外資の水源林買収で明らかになった規制問題(高橋万里)】
(内容要約)
・水源林が買収されるのは林業では食っていけないからであり、どう「食える林業」を構築するかが大事。
 また、問題は(右派が騒ぐような)森林を「外資」が買うことではなく「森林に対する環境保護規制が弱いこと(乱開発が行われる危険がある事)」である。「外資」でなく「国内資本」なら無問題なわけではない。

【消防職員の団結権回復*3でこそ安心・安全は充実(松尾豊)】
(内容要約)
・日本はILO加盟国では「消防職員の団結権を認めない唯一の国」であり恥ずかしい。
消防職員の団結権は認められてしかるべきである。そうすることによって職員の待遇改善や、士気向上にも効果を発揮し、消防の安心・安全も充実するであろう。

■暮らしの焦点
【島根・大田市:市立病院守れと住民過半数署名(岸秀司)】
(内容要約)
・救急病院をやめてしまった大田市立病院への、住民の反対署名運動の紹介。市にも事情があるのだろうが市民の健康を考えれば何とか続行すべきではないか。

参考
読売新聞「現場は今<上>:大田市立病院救急指定取り下げ」
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shimane/feature/matue1270046136932_02/news/20100420-OYT8T00018.htm

■文化の話題
【写真:撮る、見せる、残す(関次男)】
(内容要約)
日本写真家協会の企画展「おんな−立ち止まらない女性たち−」(http://www.jps.gr.jp/jps60/)の紹介。

【音楽:オペラ字幕を考える(小村公次)】
(内容要約)
 「シンポジウム:オペラ字幕のありかたを考える」(http://www.tosei-showa-music.ac.jp/opera/operajinzai/20110126/index.html)の紹介。
 オペラ字幕には映画字幕と同様の「字幕自体の是非(字幕を見るのに一生懸命で映画や舞台が見れないなど)」、「字幕のクオリティの問題(誤訳や、誤訳ではないが表現が適切でないなど)」の2つの問題がある。
 ただこのシンポジウムの出席者の一人が、翻訳業界の大御所、先駆者で弟子も沢山いるとは言え、一部から映画字幕の問題点を指摘されている戸田奈津子というのはどうかと思うが(ただし誤訳批判を銘打った本は簡単にググっただけでも「特選誤訳・迷訳・欠陥翻訳」 (ちくま学芸文庫) など色々あるので彼女一人の問題ではないとは思うが)。

参考

ウィキペ「戸田奈津子
■戸田字幕に対する批判
 映画評論家の町山智浩戸田奈津子訳に対して、数々の「誤訳」が在ると指摘。また、アメリカの映画監督などから「戸田奈津子に日本語字幕をやらせるな!」とまでに言われているにも関わらず、日本の映画会社が戸田に日本語字幕をやらせ続ける事に対して、町山は『何故?』と疑問を呈している。 

ニコニコ大百科戸田奈津子」が明らかな誤訳としてあげる例
・情熱のプレイ:オペラ座の怪人
 原語はpassion-play。これは成句で、全てで「(キリストの)受難劇」を意味する単語であるが、passion playとハイフンを見ずに、またはハイフンの意味が分からずに訳してしまったようだ。
・わしは生命の創造主、秘密の炎に仕える者だ!:ロード・オブ・ザ・リング
 原文は「a servant of the Secret Fire, wielder of the flame of Anor!」
 原語にはない「生命の創造主」をつけたし、さらにSecret Fireとflame of Anorを混同している。なお、瀬田訳では「わしは神秘の炎に仕える者、アノールの焔の使い手じゃ!」となり、吹替版もこれに準じた。
・大尉から准将:パイレーツ・オブ・カリビアン
 原語はそれぞれ「Captain」と「Commodore」。大佐と准将である。
・66回の流産:リング
 正しくは66年の流産。
・ボランティア軍:スターウォーズ エピソードI
 原語はA Volunteer。「義勇軍」と訳すのが正しい。
・ネビュラ星雲:ギャラクシー・クエスト
 原語はklaatu nebula(クラードゥ星雲)。「Klaatu(クラードゥ)」は固有名詞であるが、戸田の訳だと「星雲星雲」となってしまう。
・キリル語:ハンティング・パーティ
 架空の言語をでっち上げる快挙を成し遂げた。もちろん正確な訳は「キリル文字」である。
・2ヶ月:13デイズ
 タイトル「13デイズ」はほぼ2週間。それをテーマにしているのに2週間を2ヶ月と勘違いしてしまう。

【美術:展覧会入場者数の二極化(朽木一)】
(内容要約)
 日本の展覧会は「有名画家の展覧会には多数の客が訪れる」がそうでない場合は客が来ないという深刻な二極分化状況にある。

■メディア時評
【新聞:党首討論をどう論じたか(金光奎)】
(内容要約)
・マスコミは党首討論の対象と成ったのは自民、公明だけであることは問題視しない点で許せない。また朝日新聞党首討論での「自民、公明、民主」の消費税増税論を紙面上でアシストしてることはまさに反国民的な行為である。

【テレビ:疲弊する番組制作の現場(沢木啓三)】
(内容要約)
民放労連とメディア総合研究所の現場労働者アンケートにより、放送労働者(特に下請け)が長時間・低賃金労働にあえいでいることが改めて明らかになった。

■スポーツ最前線
トムラウシ山遭難事故から何を学ぶのか」(井芹昌二)
(内容要約)
トムラウシ山遭難事故の教訓:
 低体温症の危険性が登山愛好者にあまり知られていなかった。低体温症予防の普及活動(防水、防寒。十分なエネルギー摂取など)が必要。
 事故が発生したツアーは中高年が多かった。中高年の登山の危険性と、事故防止についての普及活動が必要。
 事故が発生したトムラウシ登山はツアー登山であり、自主登山でないため登山者を一方的に非難できない。ツアー登山会社への(法律あるいは業界による)公的規制が必要ではないか。
 なお規制の弱い現状では残念ながら、当面はツアー登山については信用できる会社を選ぶ、各自の努力も必要だろう。ベテランはともかく初心者にそれを求めるのは本来酷ではあろうが。法律規制や業界の自主規制が出来ない限り、初心者はツアー登山に行かない(自己責任による登山あるいは、本当に自分が信用できる知人との登山。この場合とてもちろん注意が必要だろうが)のが一番正しいのかも知れない。それでツアー登山が衰退しても関係者の自業自得だろう。営業活動として、広告で募集して金ももらってる以上、会社の責任はやはり「知人、友人と登って起こった事故の場合における引率してくれた知人、友人の責任」と違い、客よりもかなり責任が重くなるのはやむを得ないことではないか。

参考「アミューズトラベル本社営業所の業務停止命令〜大雪山遭難事故のその後」
http://d.hatena.ne.jp/swan_slab/20110115/p1

■グラビア
ポリネシアの被曝者」(森住卓
(内容要約)
 なぜポリネシア被爆者がいるかと言えばフランスがそこで核実験しているからである。

*1:「米軍は公共財」という表現は橋本首相がはじめて使ったと言われる。表現の点でも民主党の安保政策は完全に自民党化している

*2:「公共財」という表現を使うのは抑止力論では自衛行為とは言えない海外派兵の説明がしにくいからだろう

*3:終戦直後は認められたが、いわゆる「逆コース」で後に剥奪された