新刊紹介:「前衛」9月号

「前衛」9月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは9月号を読んでください)

■「大震災・原発問題 日本共産党の役割をどうはたすか 国民の探求にこたえる強く大きな党に」(市田忠義*1
(内容要約)
・「原発問題での党の提言(脱原発)を実行に移すために強力な党を作っていこうぜ、大変だけど」「この間、赤旗値上げするっ言ったけど、強力な党を作るためにはやむを得ないこととご理解いただきたい。大変申し訳ないが」というのが主な内容。

■「3・11以後の政治の変化と日本の進路をめぐる対決点」(渡辺治
(内容要約)
・「311以降の政治の変化と日本の進路をめぐる対決点」としてまず原発問題が挙げられる。「政財官」「保守派」は一部(自民党河野太郎ソフトバンクの孫、スズキの会長など)を除いてこの期に及んでも原発推進を掲げたのであった。
・また震災復興を口実に財界が自らの野望(道州制導入、消費税増税など)を火事場泥棒的に実現しようとしていることも警戒が必要である。
・しかしこうした財界の野望は(原発問題が特にそうだが)国民の要望とはかけ離れており、実行すれば菅政権が次の選挙で敗北しかねず、菅政権はこれらの実行を躊躇している。しかし、自民党が菅政権から政権を奪取できるかは不明である。そこで浮上したのが財界主導による自公民大連立であった。ただしこの大連立は明らかな公約破りの上、「菅首相下ろし」(当然菅は抵抗する)が大前提であり、その点に実行の困難さが存在する。いずれにせよこうした策謀を許さない運動の構築が重要である。

■「震災復興と農漁業再生へのたたかい」(有坂哲夫)
(内容要約)
・農漁業再生に置いて重要なことは現場の声を聞き、住民合意で政策を進めていくことである。
 この点で、現場を無視し、政府が強行的に進めようとしている「水産特区」や「TPP加盟」については(内容的にも問題だと思うがそれ以前に手法の点で)批判せざるを得ない。
原発災害によって農作物を汚染された農家は甚大な被害を被っている。政府の責任できちんと賠償を行うとともに、二度とこうした悲劇が起きないよう今こそ脱原発すべきである。

■「大震災復興 安全・安心のまちづくりへの課題」(辻村定次)
(内容要約)
・政府の提言は「高台移転」を強調しているが、高台移転は「従来のコミュニティをスクラップすること」であり、手放しで評価できるものではない。「高台移転」はデメリットとメリットを慎重に検討し、住民の合意で進めていくべきである。

■「東京電力 電力「危機」で問われる社会的責任」(鈴木章治
(内容要約)
・電力危機の最大の原因は「福島原発事故」を招いた政財官の原発推進であった。二度とこのような電力危機を招かないためにも今脱原発が必要である。

■「中国を含む東アジアの平和をどう創るか 大震災後の情勢をふまえて」(川田忠明)
(内容要約)
Q&A形式で書いてみる。

Q「珍右翼が中国の軍事大国化を声高に叫んでいます。彼らのレイシズムまみれの反中国言論や、日本も対抗して軍事大国化せよとか、沖縄は中国の脅威を考えたら米軍の存在を我慢しろなどという主張には全く賛同できませんが、中国の現状にも「あれでいいのか」とかいろいろと複雑なものを私は感じます。どう理解したらいいでしょうか?」
A「中国が軍事大国化していると批判されても仕方ないような問題行動を時に取ることがあるのは否定できない事実であり、一定の批判は必要だと思います。ただし以下の点を指摘しておきたいと思います。
1)中国は少なくとも「中ソ紛争」「中印紛争」「中越戦争」のような大規模軍事行動をとったことは近年ありません。これは中国もそのような行動を取れば自国のダメージが大きいと理解しているからだと思います。また中国が南沙諸島問題を抱えていることは事実ですが、一方では東南アジアとの経済交流を積極的に進めています。
2)中国の脅威を語る前に、日本の自衛隊在日米軍も中国にとっては脅威なのだという理解が必要だと思います。
3)軍事対応をする事は日本に取ってもダメージが大きすぎます。中国の軍事大国化に対してどのような措置を執るにせよ軍事的対応のエスカレートは最悪の対応でしょう。
4)貿易、留学、文化交流など、日中間の交流をすすめ友好関係を強化することで、日中両国ともお互いに国内の軍事タカ派の政治力を抑え軍事的対応を避けることが出来ると思います。なお、日中友好に当たっては当然のことですが「つくる会」教科書のような反中レイシズム言論を許さない社会作りが大前提です。」


■「消費税増税の大連合と国民との矛盾」(梅村早江子)
(内容要約)
・政財官は「震災復興」を口実に消費税増税を進めようとしているが目的はさらなる大企業、資産家に対する減税である。また消費税増税は景気を冷やし、かえって震災復興を阻害する危険性がある。
むしろ今すべき行為は「累進課税の強化」である。

■特集 サンフランシスコ講和会議60年
【対米従属と戦争責任問題へのダブルスタンダードがもたらしたもの(吉田裕)】
(内容要約)
サンフランシスコ講和条約は日本の賠償責任について、規定せず、賠償問題についてその後の二国間交渉にゆだねた点で「日本に取って寛大な講和」であった。これは日本を「極東における反共の砦」とするというアメリカの意思が反映されたものであった。
 この結果、日本はいわゆる戦争補償問題を抱えることになるとともに、国民各層が加害責任を十分自覚できず、その後の右翼反動現象(つくる会教科書問題等)を招くこととなった。
 ただし不十分ながら、村山談話河野談話によりこうした状況に一定の修正があったことにも注意すべきである。

【安保条約・行政協定は国民の眼から何を隠そうとしたのか(明田川融*2)】
(内容要約)
サンフランシスコ講和条約3条によって、沖縄はアメリカの信託統治とされた。これはアメリカが「沖縄の軍事基地を自由に使いたい」が「アメリカ領土とすることによってアメリカ国内法が適用されることになるのは避けたい」という考えによるものと見られる。
・安保条約の締結に於いては、安保条約に書き込むと政治的紛争となる危険性のあるものについては、条約ほど目立たない行政協定や交換公文(岡崎・ラスク交換公文)とし、そもそも表に出せないような代物(例:核密約)は密約で処理するという方策がとられた。

【大学生とともに考える沖縄の戦後史 大学講義「平和教育学概論」における沖縄平和思想を学ぶ試み(山口剛史)】
(内容要約)
琉球大学教員である筆者が行っている大学講義「平和教育学概論」で行っている取り組みの説明。

■「首相主導―財界の政府機構再編戦略の展開」(山下唯志)
(内容要約)
民主党の政治主導は「小泉政権的な首相に権力を集中させ強権的に政治実行を図るもの」と考えられる。そのような考え方自体民主主義の観点から見て適切か疑問だが、菅政権が「新自由主義的性格」を強めつつある今、第二の「小泉構造改革」的な物が、第二の「経済財政諮問会議(財界の影響が強く反映された)」によってすすめられる危険性があり警戒が必要である。

■論点
【震災復興を口実にした国家公務員賃金引き下げの本質(高木晃人)】
(内容要約)
・今回の引き下げは人事院勧告を無視して行われたものであり、内容だけでなく手法の点で問題である。違法の疑いさえある。
・公務員賃金の引き下げは、民間賃金の引き下げにも連動しかねず、内容的にも愚策と言わざるを得ない。
 「公務員叩きで人気稼ぎ(この辺り、id:opemu氏が強く憤っておられる)」だの「震災を口実にすれば何でも許される」と思ってるのかも知れないがふざけるのも大概にすべきだ。

【ペルー大統領選―左派連合勝利の意味と新政権の課題(菅原啓)】
(内容要約)
・左派のウマラ氏が右派のフジモリ・ケイコ氏に勝利した最大の要因は「フジモリ元大統領」要因であろう。当初、ケイコ候補は「フジモリ元大統領の娘」をアピール、フジモリ人気で勝利を狙っていた。しかしフジモリ氏の「独裁問題」などが対立候補ウマラ氏やペルーを代表する作家バルガス・リョサ氏などから批判され、途中から「フジモリ隠し」を図るようになった。これがフジモリ元大統領支持者からも反フジモリ派からも支持を失う結果になった。
・ウマラ氏は左派であり、従来の新自由主義的政策に一定の見直しが行われることが期待される。ただし、ウマラ氏与党は議会では単独過半数を獲得しておらず、厳しい政権運営が予想される。

■暮らしの焦点
仮設住宅の現状と急がれる環境の改善(坂庭国晴)】
(内容要約)
震災の仮設住宅は必要数が供給されておらず、早急に良質の仮設住宅を供給することが求められる。

■文化の話題
【写真:写真展「プラハ1968」ジョセフ・クーデルカ(関次男)】
(内容要約)
プラハの春」をテーマとした写真展「プラハ1968」の紹介。

http://www.syabi.com/contents/exhibition/index-1353.html
 当館では、フォト・ジャーナリズム史に伝説として名を刻み、現在もパリとプラハを拠点に世界的な活動を続けるジョセフ・クーデルカの展覧会を開催します。
 1938年、チェコスロバキア(現在のチェコ)に生まれたジョセフ・クーデルカは、1968年8月に起こったワルシャワ条約機構軍のプラハ侵攻「チェコ事件」時、団結して兵士に抵抗した市民の攻防を写真におさめました。しかし、“プラハの春”と呼ばれる変革運動が終焉を迎え、ソ連が導く共産主義へと「正常化政策」が敷かれる中では、これらの写真は国家から許される記録ではありませんでした。
 そこで、これらの写真はプラハの写真史家とスミソニアン博物館の学芸員等の手によって秘密裏にアメリカへ持ち出され、当時のマグナム会長エリオット・アーウィットを経て、翌1969年「プラハの写真家」という匿名者によるドキュメントとして発表。写真家の名を伏せたまま、ロバート・キャパ賞を受賞しました。クーデルカがこの写真の作者であると名乗りを上げることができたのは1984年、彼の父親がチェコで亡くなった後のことでした。東西に分断された欧州や冷戦下の政治的状況を顕したこれらのエピソードは、20世紀の伝説となり、世界中のジャーナリストたちによって語り継がれています。
 本展覧会では、クーデルカが2008年に出版した『Invasion 68 Prague』より173点(予定)を出展。突然、街を埋め尽くした戦車に人力で立ち向かったプラハ市民の勇気ある記録をクーデルカの臨場感溢れる写真から振り返り、当時の市民に起きたことをいかに自身の身に引き寄せ、私たちの未来の歴史の糧とするかを検証するものです。


【映画:子どもたちの柔軟な思考・「ちいさな哲学者たち」(伴毅)】
(内容要約)
映画「ちいさな哲学者たち」の紹介。

http://tetsugaku-movie.com/intro.html
 “こどものための哲学” という研究がコロンビア大学教授マシュー・リップマンによって1960年代に初めて発表された。子供が元々持っている“考える力”を話しあう事でさらに高め、その後の認知力と学習力、そして生きる知恵へとつながってゆくことを唱えている。
 その考えのもとに、フランスのとある幼稚園で世界初の大きな試みが始まった。2007年、パリ近郊のZEP(教育優先地区)にあるジャック・プレヴェール幼稚園。そこでは、3歳からの2年間の幼稚園生活で、哲学の授業を設けるという世界的に見ても画期的な取り組みが行われていた。
 幼児クラスを受け持つパスカリーヌ先生は、月に数回、ろうそくに火を灯し、子どもたちを集める。みんなで輪になって座り、子どもたちは生き生きと、屈託なく、時におかしく、そして時に残酷な発言をもって色々なテーマについて考える。
 「愛ってなに?」、「自由ってどういうこと?」、「大人はなんでもできるの?*3」…。時には睡魔に襲われつつも、たくさん考え、たくさん話し合っていくうちに湧いてくる“言葉たち”。そして授業を通して、お互いの言葉に刺激を受け、他人の話に耳を傾けること、そして意見は違っても、自分たちの力で考える力を身につけてゆく。男女関係や、貧富の差、人種の問題などフランスならではの社会的テーマを語りあう子どもたち。試行錯誤しながらも、この画期的な取り組みを行う教師。そして、子どもたちとともに成長する家庭。
 そのすべてを通して、「人生を豊かに生きる力」、「子どもの無限の可能性」の大切さにあらためて気づかされる。いま日本の教育現場でも議論の対象になっている“考える力”とは。子どもたちに本当に必要なものとは何なのか? 新たな教育の試みによる、子どもたちの変化、成長、可能性、そして未来の教育を見守るドキュメンタリーが誕生した。

■メディア時評
【新聞:「原発ゼロ社会」と新聞の責務(金光奎)】
(内容要約)
 未だに、読売、日経、産経が原発建設推進を主張していることは非常識であり、批判せざるを得ない。
 過去、原発推進に荷担した過去があるため、どこまで信用できるか半信半疑だが、朝日、毎日が脱原発の方向に舵を切ったことは現時点では高く評価したい。今後の朝日、毎日の頑張りに期待したい。

【テレビ:政府と電力会社による恫喝と懐柔の歴史(沢木啓三)】
(内容要約)
原発タブーを日本に生んだ有名な事件として「プルトニウム元年」事件を紹介。二度とこのようなことが起きないようにする運動の構築が必要と指摘。

参考
kojitakenの日記「原発批判番組制作者が干された広島テレビ日本テレビ系列」
http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20110625/1308954425

■スポーツ最前線
「サッカー女子 さらなる高みへ始動」(呉紗穂)
(内容要約)
 なでしこジャパン優勝を機に、女子サッカー選手が安心してプレーに専念できる環境づくりが求められている。

*1:参議院議員、党書記局長

*2:著書『日米行政協定の政治史―日米地位協定研究序説』(1999年、法政大学出版会)、『沖縄基地問題の歴史』(2008年、みすず書房

*3:俺「できません」(きっぱり)