新刊紹介:「経済」12月号

「経済」12月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。

http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは12月号を読んでください)

■世界と日本
【ルフトハンザの定年協約(宮前忠夫)】
(内容要約)
・ルフトハンザ航空の定年協約(60歳定年制)について欧州司法裁判所は、ドイツ国内法は65歳までパイロットの勤務を認めており「EUの年齢差別禁止法規」に違反するとの判決を下した。
今回の判決は欧州企業や、(欧州に限らない)航空業界の定年制に大きな影響を与えるものとして注目される。

【中国の建設用地収用問題(平井潤一)】
(内容要約)
・中国では土地の収用を巡ってのトラブル(開発業者と癒着する地元政府高官の無茶な収容など)が多発している。土地収用は例外であり、原則ではないことを徹底すること、違法な収用が起きないような法制度の確立が求められる。


■特集「労働者の状態と日本社会」
【「今日の労働者状態をどうみるか」(伍賀一道)】
(内容要約)
日本の労働者状況の特徴として非正規雇用の増加が上げられる。また正規雇用も、長時間の低賃金労働が増加しており安定した労働とは言い難くなっている。

【座談会「不当解雇とたたかう労働者の連帯」(山口宏弥、松田隆明、生熊茂実)】
(内容要約)
不当解雇を争っている山口氏(日航不当解雇訴訟パイロット原告団長)、松田氏(ソニー労組仙台支部委員長)、量子の運動を支援しているJMIU(全日本金属情報機器労組)委員長の生熊氏による現状報告。

参考
赤旗
日航パイロット裁判、解雇の必要なかった、東京地裁 元管財人ら証人尋問」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-09-06/2011090605_01_1.html
「「整理解雇不可欠」は誤り、JAL不当解雇裁判 口頭弁論、醍醐東京大学名誉教授(会計学)が証言」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-09-27/2011092705_01_1.html
日航不当解雇、回避「不可能でない」、証人尋問で稲盛会長 東京地裁
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-10-01/2011100101_04_1.html
日航の退職強要 違法、契約客室乗務員雇い止め裁判、東京地裁判決」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-01/2011110101_04_1.html


【神奈川・最賃1000円求めて訴訟(福田裕行)】
(内容要約)
「現状の最低賃金金額は違法である」として行政訴訟を起こした神奈川労連の福田氏(労連副議長)による現状報告。


原発労働者の下請け構造:いわき市の生活相談から(渡辺博之)】
(内容要約)
共産党いわき市議である渡辺氏による原発労働者の状況報告。下請け労働者搾取によって運営されているという点だけでも原発は存続させるべきではないという批判。

【日本の階級構成はどうなっているか:2010年の国勢調査にみる(羽田野修一)】
(内容要約)
・統計からは「完全失業者、非正規雇用の増加」「自営業者の減少」が認められる。こうした状況には、いわゆる新自由主義経済政策が影響しているのではないかと思われる。


■「COP17と日本の責任:温暖化対策とエネルギー政策の転換を」(早川光俊)
(内容要約)
・COP17での削減目標は過去の削減目標をかなり上回るものでなければならない。しかしアメリカはそうした主張に否定的であり、日本はそうしたアメリカに対し、「アメリカも飲める目標でなければ」などと主張しており、批判せざるを得ない。
・日本政府はCOP16において「京都議定書の自動延長を支持しない」と主張したことは環境NGOなどから厳しい批判を浴びた。日本は「京都議定書に参加しなかったアメリカを何とかして入れるべき」と言う意味と釈明したが、具体策を出さないのでは「京都議定書潰し」と疑われ批判されても仕方ないだろう。
・CO2削減を口実に原発推進を唱える主張は支持できない。放射性廃棄物の処理問題など、原発は沢山の解決不能の問題を抱えている。むしろ推進すべきは、いわゆる再生可能エネルギーの推進である。


■「「ウォール街占拠」全米に波及:「格差拡大」に抗議する市民、労働者」(岡田則男)
(内容要約)
・米国民を「ウォール街占拠」に向かわせたものは「格差の拡大」「失業率の高止まり」であった。この運動が今後どのように展開されるのかが注目される。

■「現代アメリカのグローバル戦略とTPP」(井上宏
(内容要約)
・TPPはアメリカのグローバル戦略と密接に関わっており、参加する事が適切かどうか疑問である。にも関わらずTPP参加しか道がないかのように主張する野田政権は批判せざるを得ない。


■対談「高度成長への視座:シリーズ『高度成長の時代』(全3巻)から現代へ」(大門正克、柳沢遊)
(内容要約)
・シリーズ『高度成長の時代』(全3巻、大月書店)の編者である大門氏、柳沢氏の対談。
・『高度成長の時代』をまとめた理由の一つには高度成長期が「三丁目の夕日」「プロジェクトX」「官僚たちの夏」的な物(もちろん現在の不況から生まれるノスタルジーがそのように語られる理由の一つ)として語られる事への違和感があった。
・最近出版された高度成長期の研究書としては、次のようなものがある。
 武田晴人『高度成長』(2008年、岩波新書
 武田晴人他編『日本経済史5・高度成長期』(2010年、東京大学出版会
 原朗編『高度成長始動期の日本経済』(2010年、日本経済評論社
 武田晴人編『高度成長期の日本経済』(2011年、有斐閣
 これらの本は優れた研究書だが、経済史以外への言及が少ないように感じられる。その点、十分な研究かどうかは議論があるだろうが「高度成長が日本社会(日本人の意識や文化など)にどういう影響を与えたか」、つまり経済史以外に着目しようとした点がシリーズ『高度成長の時代』(全3巻)の特色と考えている。


■「統計でみる「構造改革」と国民生活5:長時間労働の歴史と現実」(鷲谷徹)
(内容要約)
・日本の労働時間は高度経済成長期においては人手不足を背景とした労働条件改善により減少を続けた。この減少が止まるのは高度成長が終わる1975年からである。
・日本の労働時間は1980年代後半に大幅にダウンする。これは日本の輸出攻勢に苦しむ米国から「日本の長時間労働はアンフェアだ」「時短をすれば内需拡大にもなる」と言う批判を受けたことがきっかけであった(この時、出されたのが有名な前川レポート)。ただし現在では再び労働が長時間化している。
・なお既に多くの論者が指摘していることだが、労働時間については事業所が報告する「厚生労働省・毎月勤労統計調査」ではなく、労働者本人が報告する「総務省労働力調査」によるのが適切である。厚生労働省調査と総務省調査では大きなずれがあるが、これは「労働時間を過少申告する動機のある事業所が過少申告している」とみなすべきである。
 そのように考えれば総務省・社会生活時間調査での労働時間に、「総務省労働力調査」の労働時間の方が、厚生労働省調査の数字より近い数字であることも当然のことと理解できる。
・失業者がいる反面、長時間労働による過労死者がいる日本の状況は異常である。長時間労働を、不払い残業の根絶等によってなくすことによって雇用を増やし、また労働者の健康を維持することが出来る。


■「新自由主義イデオロギーと「思想の商人」」(高田太久吉*1
(内容要約)
・「アメリカにおける新自由主義シンクタンク」という「思想の商人」についての簡単な説明と分析。
もちろん筆者は新自由主義に批判的だが、それよりも選挙の洗礼を受けたわけでもないシンクタンクが政治に大きな影響を及ぼすことを民主主義の観点から問題視している。

*1:著書『金融恐慌を読み解く』(2009年、新日本出版社