新刊紹介:「経済」5月号

「経済」5月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
大特集「マルクス経済学のすすめ2015」
■巻頭言「ピケティとマルクス
(内容要約)
 ピケティもマルクスも「格差」を問題にしており、ピケティが読まれると言う事は「マルクスの問題意識自体は今も重要なのだ」という話です。もちろん「解決策をどう見るか」はいろいろと議論があり得るわけですが。


1)どんな時代を生きているか
■特別対談「ブラックバイトが社会をむしばむ」(大内裕和*1 、神部紅*2
(内容要約)
・本号は「マルクス経済学のすすめ」だが、必ずしも「マルクスマルクス」してないことは、この特別対談のテーマでも明らかだろう。まあ、読み手として想定してるのがおそらく「大学生1年生」「社会人1年生」「定年退職1年生(定年になったから勉強でも始めるか)」ですからね。
大内氏、神部氏らは「ブラックバイト」の蔓延の理由として以下のようなことをあげている。
1)労働環境の悪化
 労働法制の規制緩和、労組組織率の低下などによる「労働環境の悪化一般」がブラックバイトの背景にはあるのであり、当然ながら「バイト労働者だけがブラックな訳ではないこと」が指摘される。
2)貧困学生の増加
 現在の学生は「親からの仕送り減少」「学費、生活費の上昇」などで生活が苦しい状態にありバイトは「レジャー費用を稼ぐためのいつでもやめられるもの」ではなく「生活を支える極めて切実なもの」となっている。
・解決策としては「労働環境の改善」「貧困学生の支援(たとえば有利子貸与型奨学金を大幅に無利子貸与や贈与型にかえていく)」などといったことがあげられるであろう。
・なお、メディアで報じられたのでご存じの方もいるかも知れないがこうした「ブラックバイト蔓延」を少しでも阻止するための試みとして神部氏、大内氏も関わっている「都留文科大学ユニオン」を紹介しておく。

参考
朝日新聞『ブラックバイト改善へ大学生が労組結成 都留文科大学
http://www.asahi.com/articles/ASH3C54ZHH3CUZOB00S.html
毎日新聞『ブラックバイト:都留文大の学生らがユニオン結成』
http://mainichi.jp/select/news/20150314k0000m040019000c.html


■「マルクスに教えてもらったこと」(長久啓太*3
(内容要約)
 マルクスに長久氏が「教えてもらったこと」、それは「実践活動には理論が大事だ」「そして、逆に実践に結びついてない理論に意味があるのか」ということである。要するに「哲学者たちは、世界を様々に解釈してきただけである。肝心なのは、それを変革することである」(いわゆるフォイエルバッハテーゼ)つうことであろう。


2)「資本論」から考える
■「剰余価値の生産、富と貧困の蓄積」(福田泰雄*4
(内容要約)
 「剰余価値の生産(搾取?)」はまあ「新技術の発明」とか、やり方は色々あるわけですが、今の日本で深刻なのが「長時間低賃金労働」のわけで、福田論文も主として「長時間低賃金労働の規制」にスポットが当たっています。


■「資本のもとで働く」(上瀧真生)
(内容要約)
・「資本主義社会」の重要ポイントは「資本家の元で働く労働者」が社会の大多数だと言う事です。
 自営業とか農業とかはメインではない。もちろんそれは必ずしも悪いことではないですが、「巨大な資本に労働者がこき使われる」という問題を生み出したわけです。それをどうするかというのがマルクス主義の重要テーマだし、「資本家にこき使われる恐れのある労働者一般」にとっても「マルクスの主張に賛同するかどうか」はともかく重要テーマであるわけです。


■「資本主義における儲けとは」(佐久間英俊)
(内容要約)
「資本主義における儲け(佐久間論文)」=「剰余価値の生産(福田論文)」ですので福田論文と内容がかなりかぶります。


■「アメリカの賃金格差:運動が地方と大企業を動かす」(洞口昇幸)
(内容要約)
 アメリカにおける最低賃金引き上げ運動などの「賃金格差是正」の動きの紹介。

参考
赤旗
■『米最低賃金 引き上げ またひとつ、ロス ホテル労働者15ドル超』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-27/2014092706_01_1.html
■『最低賃金時給15ドル、63%が賛成、米世論調査
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-02-01/2015020106_01_1.html
■『最低賃金36%アップ ⇒ 1470円、米・オークランド 労働者と家族に喜び、住民投票で決定 “地域社会よくなる”、今月から実施』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-03-04/2015030407_01_1.html
■『米マクドナルド 9万人賃上げ、運動の成果も「不十分」の声』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-04-04/2015040407_02_1.html


3)経済学をどう学ぶか
■「統計学マルクス経済学」(福島利夫*5
(内容要約)
 マルクスエンゲルスは理論構築をするに当たって、当時の英国統計調査を活用したし、統計学にもマルクス主義の潮流があるんだつう話です。福島論文でも紹介されてますが、まあ、小生も知ってる「マルクス系統の統計学者」としては大内兵衛*6、有沢広巳*7蜷川虎三*8なんかがいますね。まあ、彼らは統計学者というよりはかなりの程度政治色がありますが。


4)マルクス研究
■「マルクス・エンゲルスと人口問題(上)」(友寄英隆*9
(内容要約)
 今回はまずはマルクス・エンゲルス人口論は「マルサス人口論批判からスタートした」という話。ただ小生マルクス・エンゲルス人口論も、マルサス人口論も全く無知なので、今後の友寄論文でその辺り詳しく説明されることを期待したい。
 毛沢東が「マルクスマルサス批判を理由に」、出産制限に否定的態度をとり続けたこと、その後始末をトウ小平がする羽目になって有名な一人っ子政策が実行されたことぐらいしか知らない。


■「ブラック企業問題とは何か(上):安倍雇用改革との関連で」(小越洋之助*10
(内容要約)
 いわゆるブラック企業問題は自然現象ではなく「日本における労組組織率の弱さ」「政権与党による労働分野の規制緩和」が原因という指摘。当然ながら日本に比べ「労組組織率の比較的高い」「社民政党の力も比較的強い」ヨーロッパにおいては「ブラック企業がないとは言わないが」、日本とはその状況が大幅に違うと言っていい。
 安倍政権も「ホワイトカラーエグザンプションの導入」などによる「ブラック企業支援」の動きを露骨にしており今後の反撃が必要である。


■「異次元金融緩和の2年:リフレ政策の帰結」(小西一雄*11
Q&A形式で書いてみる。
Q「2%の物価上昇は達成できたのでしょうか?」
A「消費税増税など、金融緩和と関係ない『物価上昇』の影響を除けば2%目標に失敗したと見ていいでしょう。」
Q「ただ物価上昇は手段であって目的ではない。目的は『景気回復』ですがそれはどうだったのでしょうか?。」
A「設備投資にせよ、個人消費にせよ、消費税増税などさまざまな要因の影響で決してプラスになどなっていません。むしろマイナスなのです。それを株価上昇で『景気が良くなった』というのは詭弁も甚だしいと思います。雇用が増えたという声もありますがそのかなりの部分は低賃金不安定雇用の非正規労働者で手放しで喜べません。」

*1:著書『ブラック企業のない社会へ:教育・福祉・医療・企業にできること』(共著、2014年、岩波ブックレット

*2:首都圏青年ユニオン委員長

*3:岡山県労働者学習協会事務局長。個人ブログ(http://benkaku.hatenablog.com/

*4:著書『現代日本の分配構造』(2002年、青木書店)、『コーポレート・グローバリゼーションと地域主権』(2010年、桜井書店)など

*5:著書『労働統計の国際比較』(共著、1994年、梓出版社)、『格差社会の統計分析』(共著、2009年、北海道大学図書刊行会)など

*6:元法政大学総長。向坂逸郎九州大学名誉教授とともに社会党左派の論客として知られた

*7:元法政大学総長

*8:初代中小企業庁長官、京都府知事を歴任

*9:著書『「新自由主義」とは何か』(2006年、新日本出版社)、『変革の時代、その経済的基礎:日本資本主義の現段階をどうみるか』(2010年、光陽出版社)、『「国際競争力」とは何か:賃金・雇用、法人税、TPPを考える』(2011年、かもがわ出版)、『大震災後の日本経済、何をなすべきか』(2011年、学習の友社)、『「アベノミクス」の陥穽』(2013年、かもがわ出版)、『アベノミクスと日本資本主義:差し迫る「日本経済の崖」』(2014年、新日本出版社)など

*10:著書『終身雇用と年功賃金の転換』(2006年、ミネルヴァ書房)、『国民的最低限保障(ナショナル・ミニマム):貧困と停滞からの脱却』(共著、2010年、大月書店)など。個人サイト(http://e-kyodo.sakura.ne.jp/ogoshi/ogoshi-index.htm

*11:著書『ポスト不況の日本経済:停滞から再生への構図』(共著、1994年、講談社現代新書)、『資本主義の成熟と転換:現代の信用と恐慌』(2014年、桜井書店)など