新刊紹介:「前衛」11月号

「前衛」11月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/web_book/cat458/cat/
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは11月号を読んでください)
 
■「スターリン秘史――独ソ不可侵条約ポーランド分割」(不破哲三*1
(内容要約)
・連載の10回目。スターリンによる独ソ不可侵条約締結と「秘密議定書」によるポーランド分割*2が否定的に紹介される。


■「TPP交渉と安倍政権が抱える致命的弱点:年内妥結をゆるさない世論と共同を強め」(紙智子*3
(内容要約)
最近の赤旗記事で代替。

赤旗
『国民への約束は完全に反故にされた―TPPからの即時撤退を:JA全中・生協などの集会 志位委員長のあいさつ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-10-03/2013100304_01_1.html
日本共産党国会議員駆ける、紙氏が兵庫でTPP報告』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-29/2013092904_01_1.html
『共同広げTPP阻止、福岡でシンポ 紙参院議員ら訴え』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-24/2013092401_02_1.html
『攻めの運動でTPP阻止、官邸前アクション、紙・田村・吉良氏参加しあいさつ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-04/2013090415_01_1.html
『「TPP断固阻止!」、北海道・東北 JA組合長ら集う、紙議員あいさつ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-04/2013090403_01_1.html
『TPPより被災地復興を、仙台 宮城県民集会に2千人、紙議員あいさつ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-03/2013090303_01_1.html


■「一点共闘の同時多発的展開を呼び起こす安倍政権」(二宮厚美)
(内容要約)
 内容的には、きまぐれな日々『祝・橋下惨敗! 堺市長選で竹山修身市長が西林克敏を破る』(http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1319.html)やこのkojitaken氏エントリが紹介する広原盛明のつれづれ日記『堺市長選の政治的本質は何か、それは“自民党分裂選挙”すなわち「国家保守=橋下維新」vs「地元保守=大阪自民」の戦いなのだ、堺市長選の分析(その13)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(43)』(http://d.hatena.ne.jp/hiroharablog/20130919/1379537697)と同じである(共産党機関誌掲載論文なので広原氏やkojitaken氏に比べ、二宮論文は共産にかなり好意的ではあるが、それ以外は大きな違いはないと思う)。

 堺市長選にあらわれたこの新しい対決構図、すなわち「国家保守=ネオコン=開発保守」vs「地元保守=旧保守=環境保守」+「革新リベラル=共産・諸派」は、今後同様の問題を抱える全国各地に波及していくだろう。すでに沖縄では米軍基地問題をめぐって実質的な共闘が成立しているし、原発再稼働問題を抱える福島でもその兆候があらわれている。また北海道ではTPP問題を契機にして安倍政権と「地元保守」との対立が激化しており、「革新リベラル=共産・諸派」との連携が進んでいる。

という広原氏の一文が二宮氏の言う「一点共闘の同時多発的展開」の具体的説明である(二宮氏は「環境保守」などといった広原氏の使っている概念を使っておらず、細部で認識の違いはあるだろうが)。
 もちろん広原氏も二宮氏もkojitaken氏も「そうした共闘が広がりうる条件がある*4」としているのであって「自然に広がるという楽観論」に立っていない事(当然、共闘を実現していく工夫が求められる)は一応断っておく。
 なお、二宮氏の論文執筆時点では「堺市長選での一点共闘(大阪都構想反対)」は実現していたものの、結果は出ていなかった。二宮氏は「現職勝利と言う結果がでる事を期待」としているが、幸いにも維新は敗北し、「一点共闘の同時多発的展開」にとって喜ばしい結果となった。


■「「国防軍」創設でいかなる国家をめざすのか:安倍政権の本質と改憲志向の背景」(纐纈厚*5
(内容要約)
・内容要約にかえて纐纈氏関係の記事を紹介しておく。
 人民日報『良識ある日本の歴史学者:纐纈厚氏とその著書』
 http://j.people.com.cn/94473/7143612.html
 朝鮮新報『〈本の紹介〉領土問題と歴史認識 纐纈厚著』
 http://chosonsinbo.com/jp/2013/01/0116rn/
・纐纈氏も指摘しているが、問題は安倍自民党が「どういうもくろみの元に改憲を目指しているのか」といったところだろう。
 「靖国参拝」「河野談話否定論」などで中国、韓国、米国の反発を招き、改憲がしづらい状況を生んでいることを考えると「衆参の多数議席のために調子にのってしまい、口にすべきでない戦前肯定を放言」、つまり「まともな改憲構想などないのではないか」と言う疑念が否定できない(まともな改憲構想があったらそれはそれで嫌だが)。まさか「戦前を正当化した上で、戦前美化の障害になる日米同盟を破棄」というウルトラ極右路線を目指してるわけでもあるまい。


■「米空母の母港化40年と日米軍事同盟」(山根隆志)
(内容要約)
・横須賀の原子力空母母港化への批判。
 批判理由としては「憲法の平和主義の観点」「原子力事故の危険性」などがあげられる。

参考
米原子力空母いらない、母港化40年 住民ら2000人パレード、横須賀』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-23/2013092301_02_1.html


■「急速に普及する世界の自然エネルギー:低下する原発の比率」(坂口明)
(内容要約)
・ドイツ、イタリアなどの脱原発の動きを紹介。
・米国、フランス、中国と言った原発大国においても福島事故後、脱原発を求める世論が強まっている事を紹介。
・その上で、安倍政権の原発推進路線を批判。

参考
赤旗
『イタリア 原発復活計画を凍結、国民投票を求める声も』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-05-27/2011052707_02_1.html
『6万人原発“包囲”フランス』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2012-03-13/2012031301_03_1.html
『ドイツの原発廃止決断、“核技術もう使えない”』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-03/2012050301_07_1.html
原発関連建設を中止、中国・広東省 住民が反対運動』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-15/2013071507_01_1.html


■「ネットの可能性と政治革新――初のネット選挙で見えてきたもの」(田村一志)
(内容要約)
共産党のネット選挙での取り組み紹介。ネット選挙を「一つの有効なツール」と見なしながらもまだ手探り状態と言った感じ。
・なお、田村氏が指摘するように「ネット選挙を契機に現在のいわゆるべからず選挙が変えられれば」と言う思いには全く同感。

参考
赤旗『マスメディアが注目 共産党のネット選挙、党首・候補者の「拡散力」抜群』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-02/2013080202_02_1.html


特集『安倍「教育再生」とどうたたかうか』(1)
■「「教師」をめぐる政策動向とその帰結:二つの「現場」との関係で」(浪伊豆生)
(内容要約)
・特集『安倍「教育再生」とどうたたかうか』となっているが浪論文、田中論文とも、それほど「安倍批判的」ではない。というのも「安倍に特に目立つ問題(例:歴史教育での右翼的主張)」をとりあげているわけではなく「民主党政権時代にも存在した問題を取り上げている」からだ。
・たとえば浪論文で批判されているのは「現場の声を聞かずに上意下達的手法で行われる教育改革」であり、これは何も安倍の教育改革に限った話ではない。
 具体例としてあげられるものも「大阪市の公募校長制度」「民主党政権下の大学改革実行プラン(2012年6月)」と安倍政権と必ずしも関係ない。


■「生育条件の「貧困」化と子どもとともに生きる教育の哲学」(田中孝彦*6
(内容要約)
・田中氏の近刊、講座・ 教育実践と教育学の再生1巻『子どもの生活世界と子ども理解』(共著、2013年、かもがわ出版)を元に『生育条件の「貧困」化』(生活保護受給や児童虐待など)という現状を指摘し、その上で田中氏の「子どもとともに生きる教育の哲学」が述べられる。
・なお、田中氏個人は「教育の哲学」を考えるにおいて影響を受けたものとして、クラインマン『病いの語り:慢性の病いをめぐる臨床人類学』(邦訳、1996年、誠信書房)、ハーマン『心的外傷と回復(増補版)』(邦訳、1999年、みすず書房)、ブルーナー『教育という文化』(邦訳、2004年、岩波書店)をあげている。


■「オリンピック東京開催とこれからの課題をみる」(広畑成志*7
(内容要約)
 2020年東京五輪をよりよいものにするため
1)近隣諸国との友好関係の構築
2)環境破壊と財政破綻を招く大型開発はせずコンパクトな五輪を目指す事
3)IOC総会での安倍首相演説で国際公約と成った汚染水処理
を主張。ま、これらを理由に共産党は当初、招致反対を主張していたが招致が決定し「少なくとも現時点では」、「返上論」は現実的でないとの判断なのであろう。これを「日和った」と批判する方がいることは小生も承知しているが問題は「返上論とともに返上がかなわなかったときに備え平行して条件付賛成論、改善案を唱える」か「(現時点では返上論を唱えず)条件付賛成論、改善案のみを唱える」かどちらが論理的、倫理的かとか、戦術として有益かという話だろう。小生としては「返上実行が果たして政治的に可能か」「(改善に)どれだけの成果が上がるか」と言う問題があると思うので「とにかく返上論を唱える、返上できなくても唱える」と言う立場に立たない限り、現時点では一概に共産党批判は出来ないと考えている。


参考
主張
東京五輪2020、アスリートの願いにこたえて』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-10/2013091001_05_1.html
『NHK日曜討論・山下書記局長代行の発言』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-16/2013091604_03_0.html
『五輪 生活・環境と調和を、都議会 曽根議員が代表質問』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-26/2013092604_01_1.html


シリーズ 若い世代の困難とその打開のとりくみ
■「統計からみる子育て世代の家族と労働の現状」(井野和貴子)
(内容要約)
・統計データより母親の就業率が上昇している事が読み取れる。待機児童の増加の一因はこうした「就業女性の増加」にあると見られる。
・女性の就業率増加には「女性の就業意識の高まり」「育児休業制度の充実」など「女性の社会的地位の向上」といったプラス面がある。一方で「男性の低所得化」という要素がある事も否定できない。
 共働きでないと到底生活できないというマイナス面もある点に注意が必要。
・一方で未だに出産、育児による就業中断が存在している。


■論点
【被災者への医療・介護負担免除の復活めざして(天下みゆき)】
(内容要約)
 赤旗記事で代替。10/10告示、10/27投票の宮城県知事選においてもこの問題を争点とし、村井現知事を大いに批判していきたいとしている。

赤旗
宮城県25万人支援切り捨て、被災者医療費免除 3月まで』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-04/2013040415_01_1.html
『大震災2年6カ月 被災地は今 (1):医療支援打ち切りの宮城、受診控え広がる、年金2万 医療費1.7万円』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-11/2013091101_01_1.html
宮城県庁前 被災者訴え、医療・介護 一部負担金免除を』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-19/2013091904_02_1.html


那覇空港に第二滑走路は必要なのか(中村司)】
(内容要約)
 現状の民間機離発着では第二滑走路は必要ないのではないか、とした上で、「第二滑走路は軍民共用の那覇空港において自衛隊の離発着数を増やすためではないか」と指摘。「環境破壊の危険性」「事故増加の危険性」もあげ、第二滑走路の新設は必要ないと主張。

参考
赤旗『政府が沖縄振興基本方針、那覇空港第2滑走路を明記』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-12/2012051202_03_1.html
産経新聞『干潟への影響最小限に 那覇新滑走路で国交相
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130809/plc13080916540020-n1.htm


■暮らしの焦点「吹田市職員の公務災害を認めた画期的な地裁判決」(竹内力男)
(内容要約)
 赤旗の記事紹介で代替。

赤旗『ヘルパー公務災害 確定、大阪 補償基金が控訴断念』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-14/2013081413_02_1.html


■文化の話題
【映画:時代に流されず生きる―「少年H」を観る(児玉由紀恵)】
(内容要約)
 山中恒・典子『間違いだらけの少年H:銃後生活史の研究と手引き』(1999年、辺境社)を読んだ立場で言えば、制作サイドの善意は疑わないものの、あれを映像化するのにはやはりもやもやした思いが否定できない。


【演劇:東京芸術座「あわて幕やぶけ芝居―東京空襲三・一〇」(鈴木太郎)】
(内容要約)
 東京芸術座「あわて幕やぶけ芝居―東京空襲三・一〇」の紹介。

参考
東京芸術座公式サイト(http://www.tokyogeijutsuza.co.jp/


■スポーツ最前線「ブラインドサッカー、ピッチを自由に走る」(流目妙織)
(内容要約)
 2004年アテネパラリンピックから正式種目のブラインドサッカーの紹介。


■メディア時評
【新聞:「秘密保護法案」の危険(金光奎)】
(内容要約)
 秘密保護法案についての全国紙、地方紙の社説を分析。
・朝日、毎日、日経:
 批判的。保守の日経が批判しているところは興味深い。ただし全国紙は「多少の手直し」で政府方針を黙認するケースが少なくないため今後の記事に注意が必要。
・読売:
 「報道の自由に配慮する必要がある」としながらも法制定自体は支持。他紙に比べて極めて秘密保護法案に好意的。 
・産経:
 金光氏がコラム執筆している9/22現在、社説では秘密保護法はとりあげられていない。他紙が取り上げているのに取り上げていない事自体が明らかに「政府方針黙認」を示していると思われる。
・地方紙:
 批判的。北海道新聞福島民友新聞東京新聞中国新聞京都新聞琉球新報の社説を具体例として紹介。


【テレビ:テレビにほんとうに求められること(沢木啓三)】
(内容要約)
 タイトルだけでは何がテーマかわからないのでその点は感心しない。
 何がテーマかというと「藤圭子氏の自殺報道」である。「藤圭子氏の自殺報道を批判する」とでもした方が大変わかりやすい。タイトルは藤氏のご遺族に配慮したのかも知れないがそれは配慮としてはとんちんかんな気がする。わかりやすさの点ではせめて「日本の自殺報道を批判する」とでもタイトルをつけてほしかった。
 藤氏の自殺報道については既にネット上にも批判があり、そうした批判はかなり沢木論文とかぶるので内容要約の代わりにそういう批判を紹介しておく。要するに「ああした自殺報道は連鎖自殺を産みかねない*8」「遺族の心情を傷つけている」「センセーショナルに報道する割には彼女が精神病を病んでいたらしい事を全く報道しなかった事はいかがなものか*9」とかいったマスコミ批判である。

参考
藤圭子さんの自殺 テレビのニュース報道は、国際的な「ルール違反」だらけ』(水島宏明*10
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20130823-00027482/

*1:著書『スターリン大国主義』(1982年、新日本新書)

*2:なお、この秘密議定書ではバルト三国併合についても合意されていた

*3:参院議員、日本共産党農林・漁民局長

*4:非常に悲観的な人間においては「共闘が広がる条件がある」レベルでも楽観論であろうが

*5:著書『有事法制とは何か:その史的検証と現段階』(2002年、インパクト出版会)、『文民統制自衛隊はどこへ行くのか』(2005年、岩波書店)、『監視社会の未来:共謀罪・国民保護法と戦時動員体制』(2007年、小学館

*6:著書『子ども理解と自己理解』(2012年、かもがわ出版

*7:著書『終戦ラストゲーム―戦時下のプロ野球を追って』(2005年、本の泉社)

*8:沢木氏も指摘しているが過去にも岡田有希子とか連鎖自殺が疑われるケースがあるのにマスゴミも本当に懲りないと思う

*9:もちろん精神病というプライベートな問題はうかつに報道できないが、マスゴミの報道姿勢から見てそうした人権配慮があったとは思えないし、精神病について全然触れないのならセンセーショナルな報道をする事自体がおかしい、と沢木氏はしている

*10:著書『母さんが死んだ:しあわせ幻想の時代に』(1994年、社会評論社現代教養文庫)、『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』(2007年、日本テレビ