新刊紹介:「歴史評論」11月号

★緊急小特集『特定秘密保護法問題』
 詳しくは歴史科学協議会のホームページ(http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/)をご覧ください。興味のあるモノ、「俺なりに内容をそれなりに理解し、要約できたモノ」のみ紹介する。

■『秘密保護法をめぐる状況とその廃止運動の展望』(海渡雄一*1
(内容要約)
・筆者は秘密保護法批判運動にコミットしている弁護士。歴史評論掲載論文ではあるが
1)秘密保護法の秘密指定が恣意的になる危険性
2)情報保全諮問会議など、政府の設置した第三者機関は政府から独立しておらず第三者の機関の名に値しない
などといった法の問題点が指摘されている時事論文的な内容である。
 「展望」というタイトルではあるが特に展望は示されていない。
 「秘密法を恐れず政府に情報公開を求めたり、政府が隠している情報を暴いたりすること」「それに対し秘密保護法の罰則が適用された場合は裁判闘争で徹底的に争うこと」などで自然に展望は生まれてくるし、そうすることでしか展望は開けないという考えであろう。

参考
赤旗『国民とスクラム組み希代の悪法廃止へ、秘密保護法 山下書記局長が会見』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-15/2014101501_07_1.html


■『日本における秘密保護法制の歴史』(瀬畑源*2
(内容要約)
・戦前において秘密保護法が大きく変化したのは日中全面戦争に突入していった1930年台後半以降であることがまず指摘される。1937年の軍機保護法改正、1939年の軍用資源秘密保護法の制定、1941年の国防保安法の制定などがそれである。ただしこれらの秘密保護法は敗戦後のGHQ統治により効力を失った(小田中『国防保安法の歴史的考察と特定秘密保護法の現代的意味』(2014年、東北大学出版会)参照)。
・戦後、制定された秘密保護法としてはまず1952年制定の日米安保刑事特別法、1954年制定のMDA秘密保護法があげられる。戦後の秘密保護法は「日米安保関係」でスタートしたわけであり、今も「秘密保護法制」と日米安保は密接な関係にある。特定秘密保護法の成立を米国が「歓迎する声明をだした」のもそういうことである。
・その後、本格的な秘密保護法として中曽根*3内閣がいわゆるスパイ防止法案を提出するが野党やマスコミだけでなく自民党内からも批判意見*4が出たため挫折する。
・その後、本格的に「秘密保護法」の動きが浮上するのは仙谷由人*5官房長官を務めた菅*6内閣であった(後に仙谷の秘密保護法制検討方針を後任官房長官の枝野が引き継ぐ)。安倍首相*7の危険性に着目することは勿論重要であるが一方で「民主党政権特定秘密保護法的な思想に決して否定的ではないこと*8」「だからこそそうした民主党タカ派の存在に勇気づけられて安倍が法案を提出した側面があること」には注意が必要だろう。

参考

http://www.47news.jp/CN/201011/CN2010110801000074.html
共同通信『仙谷氏、秘密保全法制を検討 委員会を早急に設置』
 仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委員会で、中国漁船衝突事件の映像流出問題に関連し「国家公務員法守秘義務違反の罰則は軽く、抑止力が十分ではない。秘密保全に関する法制の在り方について早急に検討したい」と強調、検討委員会を早急に立ち上げる考えを示した。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-08-22/2011082202_01_1.html
赤旗主張『「秘密保全」法制、知る権利侵害する企てやめよ』
 政府の「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(座長・縣公一郎早稲田大教授)がこのほど、「秘密保全」の法制化を求める報告書を枝野幸男*9官房長官に提出しました。国民の知る権利を侵害する重大な提言です。
 報告書は「秘密保全」の対象を「国の安全」=軍事分野だけでなく、「外交」や「公共の安全及び秩序の維持」といった分野にまで広げ、罰則も懲役5年や懲役10年とする重罰主義をむきだしにしています。自民党政権が何度も成立をめざした「国家機密法」を先取りするもので、民主党政権の危険性があらわになっています。
 報告書は、昨年尖閣諸島沖でおきた中国漁船衝突事件の映像が海上保安庁から流出したことを受けて「秘密保全」の法制化が必要だとする仙谷由人官房長官(当時)の求めに応じたものです。映像を流出させた元海上保安官起訴猶予となりました。にもかかわらず政府が「有識者会議」の作業を続けさせたのは、映像流出問題が単なる口実にすぎなかったことを示しています。
 政府が「秘密保全」の法制化をめざすのは、日米両政府が2007年に結んだ「秘密軍事情報保護協定」(GSOMIA)を根拠にしたアメリカの要求が背景です。日米軍事一体化を強化・拡大するうえで日本に共有させている米軍の軍事情報を法律で保全させるためです。アメリカの要求に応えることで民主党政権の基盤を強める思惑も否定できません。
 防衛省だけでも法令で10万9千件(07年12月現在)の秘密が保全されています。国会でさえその全容を知ることはできません。重大なのは、軍事分野だけでなく、「外交」や「公共の安全及び秩序の維持」に関するものまで「秘密保全」法制の対象にしようとしていることです。外務省も「相手があるから」といって多くを秘密扱いにしています。警察も同じです。
 こうした行政措置による秘密も含めて罰則をつけて保全するのが「秘密保全」法制です。何でもかんでも秘密にし、「秘密保全」法制で国民が政治の内容を知ることのできない状況にするのは、憲法が保障する国民の知る権利の侵害そのものであり、許されません。
 報告書が秘密流出防止の「抑止力」は「法定刑を相当程度重いものとする」とのべているのも大問題です。日米相互防衛援助協定による秘密保護法は懲役10年が上限ですが、これを他の分野にも広げるというのです。国家公務員法の懲役「1年」では「抑止力も十分ではない」といっているのはそのためです。行政機関のもとで秘密情報にかかわる民間企業などの職員も重罰の対象になります。
 報告書は報道機関の取材について、「不当に制限するものではない」といいつつ、「刑罰法令に触れる」取材は処罰対象とのべています。政府が勝手に広い範囲で秘密対象を増やし、それを取材すれば、やり方次第で処罰するというのは取材の自由の侵害にあたります。
 戦前、政府・軍部が「軍機保護法」などでメディアや国民の目をふさいだことが侵略戦争につながりました。この戦前の誤りをくりかえさせないためにも、「秘密保全」法制の危険な企てを許さない声を大きくすることが重要です。


■『アメリカの機密指定制度と日本の法制』(三木由希子*10
(内容要約)
 アメリカの機密指定及びその解除制度を検討。もちろん米国にも様々な問題はある*11が米国と比べて、日本の秘密保護法制はあまりに問題がありすぎると批判する。

参考
情報公開クリアリングハウス
■【秘密指定制度日米比較①】秘密指定制度の違い、制度の目的
http://clearinghouse.main.jp/wp/?p=821
■【秘密指定制度日米比較②】秘密指定の区分・条件
http://clearinghouse.main.jp/wp/?p=824
■【秘密指定制度日米比較③】秘密指定権者と不適切な秘密指定
http://clearinghouse.main.jp/wp/?p=827


歴史科学協議会第48回大会「歴史における社会的結合と地域2」
・11/15、16に行われる歴史科学協議会第48回大会報告について各報告者が報告の意図や内容を簡単に説明。後日詳細な報告内容が歴史評論に掲載される予定なのでそのときに改めてコメントする。

【第1日目報告:テーマ「現代日本の「危機」と地域社会:平和・教育・生命(いのち)」】
■「ポスト高度成長期の地域政策と地域社会」(高岡裕之*12


■「なぜ教育委員会制度改革か?:地域から遊離し地域を支えない教育」(中嶋哲彦*13
(内容要約)
 タイトルから分かるように安倍政権下で行われた教育委員会制度改定(首長権限の強化と教委権限の縮小)がテーマである。こうした「教育改革」の目的とそれがもたらす帰結について論じる。


■「権威主義的「教育改革」と学校・地域:大阪の場合」(仲森明正)
(内容要約)
 橋下大阪市長率いる維新の会による「校長公募」などの「教育改革」について
1)何が目的か
2)何をもたらしているのか
3)どう対抗していくべきか
といったことについて論じる。ただし橋下維新に話を限れば各方面での挫折(例:堺市長選敗北)の累積で「もはや上がり目はなくなった」と見るべきだろう。もちろん「ポスト橋下」において「橋下の負の遺産」をどう清算していくかという問題はあるし「橋下という怪物」を生み出した政治構造(例えば事情はどうあれ自公や在阪メディアは当初、橋下応援団であった)がすっかり正常化したわけでもないのではあるが。


【第2日目:テーマ「地域社会の中の被差別民」】
■「近世和泉国におけるかわた村と地域社会:泉郡信太地域を事例に」(三田智子
■「カースト制度と不可触民差別」(太田信宏)
■「「穢れ意識」と図像分析:中近世ネーデルラントを中心に」(奥田真結子)


■科学運動通信「天武・持統天皇の真陵への立入り調査:宮内庁の情報公開が進む野口王墓古墳」(白谷朋世)
(内容要約)
 2014年2月に宮内庁の許可のもと、行われた野口王墓古墳(宮内庁によって天武・持統天皇の真陵とされている)の立ち入り調査報告。


■書評『須田勉*14著「日本古代の寺院・官衙造営:長屋王政権の国家構想」(2013年、吉川弘文館)』(荒井秀規)
(内容要約)
 評者曰く
1)「主タイトル:日本古代の寺院・官衙造営」と「副タイトル:長屋王政権の国家構想」にはズレがあるように思う。「日本古代の寺院・官衙造営=長屋王政権の国家構想」ではないと思うのだが?
2)また主タイトルに当たる内容は書かれていると思うが副タイトルに当たる物は書かれていないように思う。長屋王政権の政治から「日本古代の寺院・官衙造営」という面に焦点を当てたと言う事であろうがそれを「国家構想」と呼ぶことが適切か疑義を呈している。


■書評「西澤美穂子『和親条約と日蘭関係』(2013年、吉川弘文館)」(吉岡誠也)
(内容要約)
 ペリー来航のインパクトから従来「いわゆる開国史」は米国にスポットが当たりすぎていたとの理解から、「日蘭関係(日本・オランダ関係)」に注目している。


■書評「マーク・ガリキオ『アメリカ黒人から見た日本、中国:1895〜1945:ブラック・インターナショナリズムの盛衰』(2013年、岩波書店)」(小阪裕城)
(内容要約)
・「ブラックインターナショナリズム」とは「アメリカ黒人解放思想」のうち「海外との連帯」に展望を見いだす潮流とでも言う意味らしい。
・この潮流の多くは「ベルサイユ和平会議」に日本が「人種平等条約案」を提出したことにより「人種平等の国」とのイメージを日本に投影していた(日本ウヨが喜びそうな話ではある)。
 日本が「台湾や朝鮮」といった「植民地としている異民族」に対して平等であったとはとても言えないであろうがブラックインターナショナリズムはそうした側面については軽視していた。
 ただし少数ながら日本の植民地支配を批判するブラックインターナショナリズムも「米国共産党所属の黒人活動家」を中心に存在はしていた。
・こうした状況は「人種差別国家ナチスとの日本の軍事同盟(日独伊三国同盟)」や「日本の対米開戦」によって大きく変わっていく。日本のイメージは「人種差別国家」に転落することになる。
 そして日本に変わりクローズアップされるのがアジアの大国・中国であった。しかし当時の中国・蒋介石政権にとって黒人問題に深入りすることは対米関係を悪化させかねないことであり、到底できることではなかった。当時の黒人政治勢力蒋介石にとって南部に多い白人の黒人差別勢力を敵にまわしてまで連帯するほどの政治力はなかった。
 米国の支援を受けたい蒋介石にとっては日中戦争時代も国共内戦時代も「米中友好関係>越えられない壁>黒人差別問題」だったのである。
 今の米国にとって「中国進出米国企業の利益を守るため」には「米中友好関係>越えられない壁>チベット問題」であるのと同じ事と言えよう。


■『集団的自衛権行使を「容認」する閣議決定への抗議声明』
(内容要約)
pdfファイルが歴史科学協議会サイトにアップされているのでリンクを張っておく。
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/movement/kougiseimei_201409.pdf

*1:特定秘密保護法関係の著書に『秘密法で戦争準備・原発推進:市民が主権者である社会を否定する秘密保護法』(2013年、創史社)。そのほかにも『原発訴訟』(2011年、岩波新書)、『反原発へのいやがらせ全記録:原子力ムラの品性を嗤う』(2014年、明石書店)など著書多数。

*2:個人ブログ『源清流清』(http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/)。著書『公文書をつかう:公文書管理制度と歴史研究』(2011年、青弓社)、『国家と秘密:隠される公文書』(共著、2014年、集英社新書

*3:岸内閣科学技術庁長官、佐藤内閣防衛庁長官、運輸相、田中内閣通産相自民党幹事長(三木総裁時代)、総務会長(福田総裁時代)、鈴木内閣行政管理庁長官を経て首相

*4:なお中曽根政権時に批判意見を出し、安倍政権においても批判意見を出し評価を高めたのが村上誠一郎・元行革担当相である。一方、中曽根政権時に批判意見を出したのに安倍批判をしなかったことを追及され「スパイ防止法案と特定秘密保護法案は違う」と強弁し大いに評判を落としたのが谷垣前自民党総裁(現幹事長)である。村上氏の安倍批判については赤旗『自民・村上議員が批判、雑誌『世界』 憲法解釈変更は「禁じ手」』(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-11/2014041102_03_1.html)参照。谷垣氏の変節に対する批判としては赤旗『これは誰の論文?』(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-10-22/2013102214_02_1.html)参照

*5:鳩山内閣行政刷新担当相、菅内閣官房長官を歴任

*6:橋本内閣厚生相、鳩山内閣財務相を経て首相

*7:小泉内閣官房副長官官房長官自民党幹事長(小泉総裁時代)を経て首相

*8:脱原発などある種のリベラル性を持つ菅首相の下で秘密保護法制検討が推進されたことは深刻な問題であろう。

*9:鳩山内閣行政刷新担当相、菅内閣官房長官、野田内閣経産相を経て現在、民主党幹事長

*10:情報公開クリアリングハウス理事長。個人ブログ『情報公開にまつわる日々の出来事:情報公開クリアリングハウス理事長日誌』(http://johokokai.exblog.jp/)。

*11:問題があるからこそスノーデン事件のようなことも起こるわけである。

*12:著書『総力戦体制と「福祉国家」:戦時期日本の「社会改革」構想』(2011年、岩波書店

*13:著書『教育委員会は不要なのか:あるべき改革を考える』(2014年、岩波ブックレット

*14:著書『古代東国仏教の中心寺院・下野薬師寺』(2012年、新泉社)