「前衛」1月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/web_book/cat458/cat/
以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは1月号を読んでください)
日付は12/17ですが12/8〜13に書いています。
なお『総選挙、安倍暴走政治に痛打を』とは表紙に書いてありますが「総選挙的な記事」は特にありません。解散総選挙の実施があまりにも突然だったため記事で対応できなかったと言う事でしょう。通常の安倍批判記事です。別エントリでも書きましたが「痛打」どころか「自民議席増の可能性もある」と言うのには絶句します。今回の選挙結果は自民議席増もあり得ると考え、共産が1議席でも2議席でも躍進し今後「痛打を与えること」に期待するしかないのかもしれないと覚悟しています。
【追記】
安倍が安定多数議席を獲得したことは残念ですが「微減だがさすがに議席増ではなかったこと」はよかったことといえるでしょう。また「共産が21議席で議案提出権獲得」「沖縄4選挙区で非自民候補が全勝」ということも良かったと思います。
■グラビア「ビキニ被曝船・第五福竜丸との対話」(英伸三)
(内容要約)
第五福竜丸についてはご存じの方も多いでしょうがこうして改めて紹介されると核兵器の残虐性について思いを新たにしますね。
■「スターリン*1秘史:対日戦の終結」(不破哲三*2)
(内容要約)
・連載の第24回目。ソ連の対日参戦がネタです。まずソ連が参戦の見返りに「南樺太どころか全千島を領有すること」をヤルタ会談で米英仏に飲ませたこと、それを米英仏が飲んだことを無法行為だと不破は批判します。と同時にこうした国際情勢が全く読めずソ連参戦直前まで「ソ連を仲介役とした和平交渉」を夢想していた日本政府上層部の政治音痴を不破は批判します。
まあ、小生的には既に知ってることが多かったですが、この方面に知識のない方は一読するのもいいと思います。
■「マルクスの恐慌論を追跡する(下)」(不破哲三)
(内容要約)
前号の続き。不破が今年行った党員向け講演会「マルクスの読み方」のうち「恐慌論」について語った第2回講演をまとめたものである。
参考
赤旗
■『「理論活動教室」講師・不破哲三社研所長:第2講「マルクスの読み方」(1)(全3回):革命論はマルクスの理論の要』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-12/2014061209_01_0.html
■『「理論活動教室」講師・不破哲三社研所長:第2講「マルクスの読み方」(2)(全3回):追跡 マルクス「恐慌の運動論」』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-10/2014071009_01_0.html
■『「理論活動教室」講師・不破哲三社研所長:第2講「マルクスの読み方」(3)(全3回):『資本論』が解明した労働者階級の発展論』』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-11/2014091109_01_0.html
■『破たんした「基地押しつけ論」と撤去への道:沖縄米軍基地と知事選』(山根隆志)
(内容要約)
沖縄県知事選での翁長新知事誕生により政府の「基地押しつけ方針」は挫折を余儀なくされた。
この流れを大きくするためにも総選挙での自民議席の大幅減や、翁長支持派の衆院選沖縄選挙区での勝利を目指したい。
参考
赤旗
■『沖縄知事選 10万票差、翁長氏 新基地阻止へ決意、日米政府に民意伝える』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-18/2014111801_01_1.html
■主張『沖縄県知事選審判、県民の不屈の魂を示した勝利』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-17/2014111701_05_1.html
■『沖縄県議補選 比嘉(那覇)・具志堅(名護)氏当選、翁長与党 安定多数を獲得』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-18/2014111801_04_1.html
■『沖縄全4区 知事選の枠組みで共闘 「建白書」勢力VS新基地勢力、安倍政権に審判を、2014総選挙』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-30/2014113001_01_1.html
■主張『沖縄と総選挙、新基地おしつけ勢力に審判を』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-12-04/2014120401_05_1.html
■『公明党結党50年の裏面史(下):自民党補完勢力から戦争する国づくりへ』(小松公生)
(内容要約)
上中下の三部構成。前々回(上)が「公明党による憲法九条破壊(集団的自衛権容認)」、前回(中)が「主として消費税増税への荷担」、今回が「創価学会との上意下達関係」について論じる。なお、前回(中)も「自公の癒着」の説明として朝日新聞に連載された竹入義勝元公明党委員長の回顧録が紹介されている。
今回はそれプラス次の著作が「創価学会の上意下達関係」の証拠としてあげられている。
・福本潤一*3『創価学会・公明党「カネと品位」』(2008年、講談社)
・矢野絢也*4『黒い手帖:創価学会「日本占領計画」の全記録』(2009年、講談社)
・まず矢野氏曰く
「公明党の公約は学会の事前了解なしには公表できない」
「党大会での代表演説も、演説原稿について学会の事前了解なしには演説なんかできない」
「代表、幹事長(ただし竹入、矢野時代は委員長、書記長)も池田氏の意向を元に決まる。公明党で代表選挙が事実上、1度も行われたことがないのはそのためだ」
・次に福本氏曰く
「公明党に疑問を感じたので離党を申し出たところ裏切り者呼ばわりされた、『池田先生を何だと思ってるのか』と罵倒された」
まあ、「敵対者の発言」なので割り引く必要はあるかも知れないが、こうした批判に対して公明党、創価学会サイドがおよそまともに対応していないことは確かだろう。まあ、個人的には公明党の場合、「創価との上意下達」よりも「公約破り常習(自称「護憲の党」が安倍の憲法破壊行為容認など)」の方が問題なのだが。
★特集「戦後70年をどう迎えるのか」
■「第2次世界大戦をどうみるか」(宮地正人)
(内容要約)
宮地氏はいろいろ言われていますが小生が印象に残った点を箇条書きで書いてみます。
・まず宮地氏曰く、「日本人は国際連合=United Nations=連合国だ、と言う点をきちんとわかってないといかん。連合国が発展して国際連合になったんだ。だから当初は国連に日独伊は加盟していない」「日本が加盟したのは日ソ国交樹立でソ連が日本加盟に拒否権を発動しないことを約束した1956年のことだ」と。おっしゃるとおりでだからこそ
1)あの戦争で連合国の中心国家である「米英仏露中*5の5大国が常任理事国で拒否権がある(その是非はひとまずおきます)」
2)ほぼ死文化してるとはいえ国連憲章には敵国条項*6が存在してる
わけです。
つまりは論理上は「あの戦争を正当化したいなら国連にいてはいけない」し「国連にいたいならあの戦争を正当化出来ない」ということです。あの戦争を「枢軸国(日独伊)の侵略戦争」として否定した上に今の国際システムは成り立っている。そしてネオナチやネオファシストはいても、独伊は政府方針としてはあの戦争を肯定したりしないわけです。日本だけそういう「戦前を肯定しようとする」異常な男・安倍が宰相という笑えない事態にあるわけです。
・なんで日本で戦争責任問題の追及が弱かったか。それを宮地氏は「理由の一つは冷戦構造だ」としています。冷戦構造の中、「中国が共産化」したことによって米国は当初の「中国(蒋介石の中華民国)をアジアにおける反共の砦とする、そのためには『日本が左翼化しても困るが』日本の軍国主義勢力は徹底的に無力化する」と言う方向性を「日本を反共の砦化するためには軍国主義勢力の活用も仕方ない」と「岸信介(後に首相)、重光葵(鳩山内閣外相)、賀屋興宣(池田内閣法相)」といったA級戦犯容疑者(岸)、A級戦犯(重光、賀屋)すら政治活用する方向にシフトを切って行く。これに対して日本や海外に批判がないわけではなかったが弱かったと言う話です。
中国、韓国、東南アジアはまだ経済力が弱かったし、「日本からの支援のためにはつべこべ言うな」と独裁政治家(韓国の朴チョンヒや全斗煥、フィリピンのマルコス、インドネシアのスハルトなど)が戦争被害者の声を抑え込んでいた。
ところが次第に中国、韓国、東南アジアは経済力をつけていく。戦争被害者の声を抑え込んでいた独裁者たちも「冷戦崩壊の影響」もあってどんどん失脚していく。「被害国側が声を上げる条件」が整っていくわけです。日本ウヨ側は「1990年代に入ってから声を上げるようになったのは反日だ」云々といいますがそうではなくて「声を上げられない条件が排除されたから声を上げられるようになった」にすぎないわけです。
■「いまこそ「慰安婦」の授業を:戦争と加害を子どもたちに伝える」(管野美喜)
(内容要約)
安倍政権は慰安婦について教育の場から排除しようとしているが、「河野談話を踏襲している」以上彼らのそうした態度には道理はない。国連の人権委員会も「慰安婦違法性否定論(河野談話否定論)を撲滅するため学校教育など様々な場を通して慰安婦違法性否定論撲滅に日本政府は努めよ」という勧告*7を出してる以上、本来「授業しない理由はない」、むしろ大いに授業すべきなのだという話です。
吉田証言をネタにした否定論については河野談話や国連の報告書は吉田証言を根拠にしてないこと、吉田証言は「済州島での証言」なのでこの証言が信頼されていたときも、済州島関係で使われていただけであり、一方、慰安婦は東南アジアや中国にもいた(そしてそうした場所の慰安婦について吉田証言とは別の根拠で違法性が主張されている)のだから、そうした否定論は成り立たないと簡単に批判がされています。
参考
赤旗
■『歴史を偽造するものは誰か:「河野談話」否定論と日本軍「慰安婦」問題の核心』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-27/2014092704_01_0.html
★特集 安全、環境無視のリニア中央新幹線
■7都県リポート(下)
【静岡:自然破壊と乗客の安全放棄(酒井政男)】
【長野:美しい信州の自然と環境を破壊、観光にも影響(山口典久)】
【岐阜:住民の不安にまともに答えないJR東海(木下りつ子)】
【愛知:工事の過程に問題山積、大型開発推進に(佐々木朗)】
(内容要約)
前号、「7都県レポート(上)」では東京、神奈川、山梨が紹介されたがその続きである。
赤旗の記事紹介で代替。批判内容としては1)巨額の費用(JR東海の経営破綻や税金の大量投入の恐れ)、2)トンネル工事による地盤沈下、水枯れなど環境破壊の恐れ、など。
参考
赤旗
■主張『リニア環境評価書、不安と懸念は高まるばかりだ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-04-30/2014043001_05_1.html
■主張『リニア国交相意見、無謀な計画を後押しする異常』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-07-21/2014072101_05_1.html
■主張『リニア国交相認可、国民は着工を認めていない』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-20/2014102001_05_1.html
■さるのつぶやき『リニア口実の巨大開発で、住民のコミュニティーや歴史ある町並み、都営住宅を壊すな』(しんぶん赤旗・首都圏版 2014年9月3日付掲載)
http://saru.txt-nifty.com/blog/2014/09/201493-10f0.html
■「安倍政権がすすめる「戦争する軍隊」づくりの危険と矛盾」(竹内真)
(内容要約)
「戦争する軍隊づくり」てのは要するに「集団的自衛権」です。つまりは「戦争する国」といっても当面は「日米共同軍事作戦」であって「日本単独作戦」ではないわけです。「日本単独作戦」は当面起こりえないと言う点は喜ばしい点ではありますが「日米共同軍事作戦」は安倍政権も米国も「実行可能でさえあれば」いつでもやる気満々のわけで物騒この上ない話です。
参考
赤旗
■主張『集団的自衛権行使、「戦争する国」許さない党こそ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-28/2014112801_05_1.html
■主張『戦争する国づくり、「法案化ノー」示す重要な機会』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-12-07/2014120701_05_1.html
■赤旗まつりパネル討論「再稼働ストップ! 原発ゼロの実現を求めて」(神山悦子*8、向原祥隆*9、越後芳*10、笠井亮*11)
(内容要約)
赤旗まつり(11/1〜3)の最終日に行われたパネル討論「再稼働ストップ! 原発ゼロの実現を求めて」(神山悦子、向原祥隆、越後芳、笠井亮)の紙上掲載。詳しい内容の紹介は省略します。
■論点
【秘密を隠す秘密保護法:国会論戦で、改めて浮き彫りになったその危険】(山下唯志)
(内容要約)
赤旗の記事紹介で代替します。要するに「恣意的な秘密指定を阻止する仕組みが何一つない」と言う話です。
参考
赤旗
■『首相自ら秘密指定・監査、佐々木氏 「これで監視機関か」、衆院内閣委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-25/2014102502_01_1.html
■『秘密法 都合悪い秘密隠す仕組み、仁比議員 「指定もチェックも首相」、参院予算委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-05/2014110501_02_1.html
■『秘密法 恣意的指定防げず、衆院内閣委 佐々木氏が批判』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-12/2014111204_02_1.html
■『恣意的に秘密隠せる、秘密法 仁比氏「廃止しかない」、参院法務委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-15/2014111504_03_1.html
【DIOジャパンの錬金術“復興補助金商法”の闇】(山本眞直)
(内容要約)
赤旗と日刊ゲンダイの記事紹介で代替します。要するに復興補助金にたかった悪徳商法だったと言う事なのでしょう。
参考
赤旗
■『DIOジャパン、復興装い補助金目当てか』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-11/2014061115_03_0.html
■『DIOジャパン疑惑、内部資料が語る“錬金術”、補助金で人件費賄う』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-02/2014100201_03_1.html
■『復興補助 返還を請求、宮城 美里町、DIOに4000万円』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-11-20/2014112015_01_1.html
■日刊ゲンダイ『自治体が委託費返還請求 DIOジャパン女社長は応じるか』
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/newsx/155094
■暮らしの焦点
【障害者の65歳問題:なぜ介護保険優先で支援を打ち切るのか】(渡邊覚)
(内容要約)
65歳になると「障害者福祉サービス」から「介護保険」へ強制的に移行される問題がとりあげられています。そうした運用には合理性はなく、障害者福祉サービスが当然に継続されてしかるべきだと批判がされます。
参考
赤旗
■『障害者を年齢で差別しないで 介護保険優先は違憲 (上)』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-11-26/2013112614_01_1.html
■『障害者を年齢で差別しないで 介護保険優先は違憲 (下)』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-11-27/2013112714_01_1.html
■『介護保険移行で負担増、厚労省定期協議 障害者ら苦境訴え』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-09-20/2014092004_02_1.html
■『65歳過ぎても障害福祉OKに、介護保険移行で打ち切りなんて…、仲間が支援 運動実る、愛知・一宮市 舟橋一男さん(66)』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-10-27/2014102713_01_1.html
■文化の話題
【演劇:『法廷外裁判』劇団NLT】(水村武)
(内容要約)
劇団NLT(http://www.nlt.co.jp/)の『法定外裁判』の紹介。
参考
■山あり藤谷あり『劇団NLT「法定外裁判」 』
http://ameblo.jp/knockonwood/entry-11946421032.html
【美術:美術館のリニューアルと長期的な視点】(朽木一)
(内容要約)
・美術館リニューアルにおいては単なる震災対応ではなく、長期的な視点でリニューアルして欲しいと言う話。
・またDIC川村美術館がバーネット・ニューマン「アンナの光」を103億円で売却したことについて「経営難」という事情があるのだろうが、長期的視点でなんとか保有して欲しかったと指摘。
【音楽:未完のオペラの舞台上演】(小村公次)
(内容要約)
若くしてなくなり、あまり世に知られていなかったが最近再評価の機運が高まりつつあるというプロレタリア作曲家・吉田隆子*12(1910〜1956)の未刊のオペラ「君死にたもうことなかれ」(劇団銀河ラボ)の上演の紹介。与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」を晶子の友人で音楽教師の並木健一が音楽を付け、歌にするまでを描いたオペラとのこと。
参考
http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2013/03/nhk-3dfb.html
■松浦晋也のL/D『NHKの残念な音楽ドキュメンタリー』
(前略)
番組を見ていくと、どうやらこの番組は「忘れ去られた女流作曲家を初めて発掘する」という意図で構成されていることが分かってくる。ナレーションは「長く忘れ去られた作曲家、吉田隆子」と「忘れ去られていた」ことを強調する。
NHKの意図は明らかだ。そうしたほうがセンセーショナルに視聴者に訴えかけるので、そのように捏造したのである。実際には知る人が少ないだけであって、吉田隆子は忘れ去られていない。もっというならば、番組のディレクターやらプロデューサーやらが知らなかっただけなのだ。
(中略)
現在、吉田隆子が忘れ去られることなく、CDが出ているには理由がある。一時期、吉田隆子について音楽を習った経験を持つ音楽評論家の小宮多美江さんが、粘り強く資料を集め、評伝をまとめ、楽譜を出版してきたからだ。
(中略)
NHKというマスにアクセスできる媒体が、吉田隆子を扱った番組を製作するのはとても良いことだ。今まで吉田隆子の音楽を知らなかった人が、その豊かな音楽に触れることは素晴らしいことである。
でも、だからといって、彼女に「忘れ去られた作曲家」という事実と異なるレッテルを張って良いのか。そのやり口は卑劣であるし、番組を見る人に失礼だ。なによりもここまで長年にわたって努力してきた小宮多美江さんとその周辺の人々に対する侮辱である。
そういったNHKの蛮行は別として、吉田隆子の音楽はもっと広く聴かれるべき、質の高いものだ。
(中略)
小宮多美江さんを中心とした音楽批評家グループ「クリティーク80」が著した評伝「吉田隆子」(1992年音楽の世界社刊行)には、伊福部昭*13が序文を寄せている。
『未だ女性が作曲をするなどほとんど思いもよらぬ時代に「内容に於いては新しい現実を反映し、形式に於いては民族的伝統の上に立つ」と宣言し、また事実、社会性とイデオロギーを重視した彼女の実作活動は、当時の一般的な音楽潮流とは一線を画するものであった。
彼女は私より四歳年上であったが、ムソルグスキーを極めて高く評価し、また、民族的伝統を重視する点で見解が似ていたせいもあってか、よく話し合ったものであった。』(伊福部昭序文「吉田隆子」より)
もしも、クラシック音楽に興味を持つならば、「ヴァイオリンソナタ・ニ調」を是非聴いてほしい。まごうことなき傑作だ。
http://mydisc.cocolog-nifty.com/favorite/2012/09/post-2979.html
■日本の女性作曲家たち 〜吉田隆子の特集番組を考える〜
先日、NHKのETV特集で放送された『吉田隆子を知っていますか〜戦争・音楽・女性〜』という番組を見た。
わが国のクラシック音楽史における重要な作曲家の一人、吉田隆子(よしだ・たかこ、1910〜1956)に焦点を当てた番組で、彼女を「女性作曲家の草分け的存在」と位置付け、次のように紹介していた。
「大正・昭和の戦争が迫りくる時代、男性中心の音楽界で差別と闘いながら民衆のための音楽(プロレタリア音楽)を掲げ、同志らと音楽活動を行い、聴衆から喝采を浴びた。迫りくる戦争に抵抗し、思想犯として特高警察に4度も拘留され健康を害したが、その信念を曲げることはなかった。戦後、創作活動を再開するも、46歳の若さで亡くなり、死後は忘れ去られてしまった」
僕は、これまでいくつかのCDで吉田隆子の作品を聴き、書籍などを通して、その主な功績についても承知しているつもりだった。今回の番組は、彼女と交流のあった関係者の生の証言を交えながら、彼女の人となりを見つめた興味深い内容だったが、同時に、その取り上げ方にいささか違和感を感じたのも事実である。
そこで今回は、この番組で紹介された吉田隆子とともに、日本の女性作曲家について考えてみたい。
そもそも吉田隆子とは、どのような人物だったのか。以下、おおまかな略歴を示す。
陸軍学校校長や陸軍中将を歴任した吉田平太郎の5人兄弟の次女として、東京目黒で生まれる。兄には映画評論家として活躍した飯島正*14がいる。
日本女子大付属高等女学校に通いながらピアノを学ぶ。卒業後、ピアニストを志すも、やがて作曲に興味を抱き、橋本國彦や菅原明朗に師事。またフランス語学校の仲間とともに人形劇団プークの創設に加わり、その音楽を担当する。
新劇の影響で左翼思想に共鳴し、プロレタリア音楽同盟(PM)に参加、その活動の中で生涯の伴侶となる久保榮*15と知り合う。(彼はプロレタリア演劇同盟などの中心的存在であった)
彼女は、演劇用の付帯音楽や室内楽曲、歌曲などの作曲活動とともに、労働者や民衆のための音楽を志向し、独自の楽団「楽団創生」を設立。ムソルグスキーやバルトークなどの紹介に努めた。
太平洋戦争のころは、反戦運動により長期にわたり留置所に拘留されたことが原因で腹膜炎を起こし病臥。
戦後、病気が回復し、代表作となる『ヴァイオリンソナタ 二調』を作曲。
晩年は、交響曲や歌劇の作曲に取り組むが、1956年、ガン性腹膜炎のため逝去。享年46歳。
生涯に23曲の作品が残されている。
番組の後半では、彼女の集大成ともいえる『ヴァイオリンソナタ ニ調』が演奏された。このソナタは、番組内で「初演以来、忘れ去られた幻の曲」として紹介され、今回、東京音楽大学の協力で再演された折の映像(この番組の収録用か?)が流れた。しかし作品は、すでに10年以上前に荒井英治のヴァイオリン、白石光隆のピアノにより録音され、CDも発売されている。
・昭和のヴァイオリン・ソナタ選(ナミ・レコード)
このソナタは、伝統的な3つの楽章からなる作品。夫との共作であった演劇『火山灰地』の付帯音楽が引用され、第1楽章や終楽章では彼女の熱い情熱の吐露が随所に聴き取れる。また、「レント・ドロローゾ(ゆっくりと苦しげに)」と指示された第2楽章の中間部や、終楽章の後半に登場する日本風の叙情的なメロディーが印象的だ。
ドキュメンタリー番組の制作にあたっては、企画・構成力がとりわけ重要で、それを裏付けるための取材を重ね、番組を編集する。今回は1時間という制約の中で、十分に意を尽くすのは容易でないことは理解できるが、だからといって特定の価値観に縛られシナリオを構成することは、認知的バイアスがかかるおそれがあり、見る者に誤解を生じさせかねない。
今回、特に番組の随所にフェミニズム的、共産主義的な価値観*16に基づくと思われる表現がいくつも使われていることが気になった。
「日本に限らず世界の音楽界は、男女の差別が多い」
「女と男の新しい関係を模索」
「作曲は男、女はせいぜい演奏」
「男性社会の音楽界で差別と闘いながら生きた」
「虐げられし女性に捧げる音楽」云々。
差別との闘い、戦争との闘い、そして病魔との闘い…彼女の人生は闘いの連続であり、志半ばで倒れ歴史に埋もれた、そういうシナリオに基づいて番組を組み立てようとした意図は明らかだ。
こうしたストーリーの流れは、番組に何度も登場した小林緑*17国立音楽大学名誉教授の意図とも合致するのであろう。彼女はもともと「フェミニスト音楽研究者」を自認する研究者で、独自のジェンダー思想に基づいて、音楽界における女性差別と歴史に埋もれた女性作曲家をテーマに研究している人物である。
※詳しくは、彼女の著書やホームページ(http://www.news-pj.net/npj/kobayashi-midori/index.html)をご覧いただきたい。
(後略)
■スポーツ最前線「体操ニッポン男子の「現在地」」(辛仁夏)
(内容要約)
・内村航平*18と言ったベテランだけでなく、加藤凌平*19、野々村笙吾、武田一志、神本雄也、白井健三、谷川航、萱和磨、千葉健太と言った若手も有望であり当面日本男子は期待が持てるという明るい話。
■メディア時評
【新聞:沖縄県知事選結果と全国紙】(金光奎*20)
(内容要約)
「沖縄問題で政府の応援団=産経、日経、読売」、「それを批判=朝日、毎日、地方紙」といういつものパターンです。
【テレビ:解散・総選挙と政治報道】(沢木啓三)
(内容要約)
解散・総選挙後、「安倍政権の飴と鞭」が功を奏してか特にメディアは安倍政権批判しないがその中でもいくつか評価に値する放送があった。
たとえばTBS系列「ニュース23」では国分功一郎*21・高崎経済大学准教授をゲストに迎え「沖縄基地問題」「集団的自衛権」「原発再稼働」など問われるべき問題は数々あり、「消費税ワンイシューの選挙ではない」としていた。ただしそうした放送が数少ないのも残念ながら事実である。
またTBS報道特集で沖縄知事選問題を正面から取り上げていたのが印象に残った。沖縄最大のゼネコン・國場組の國場幸一会長*22が仲井真支持を表明する一方で、沖縄で一大企業グループを形成する金秀グループ(http://kanehide.co.jp/)の呉屋守将会長が翁長支持を表明したことを紹介、基地問題が単純な「革新対保守」ではなく「保守サイド」にも考えの違いがあることを指摘したことは評価出来る。
参考
赤旗
■『これでいいのか大手メディア、首相と会食 とまらない、社長に続き政治部長・論説委員長らも』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-11/2013041101_01_1.html
*2:スターリン関係の著書に『スターリンと大国主義』(1982年、新日本新書)
*5:創立時はロシアはソ連、中国は今の中華人民共和国ではなく中華民国ですが
*6:敵国条項が発動されることはまずありえないでしょうが、一方で安倍のような存在が日本で政治力を持つ限り敵国条項が国連憲章から正式に削除されることもないでしょう。おそらく中韓が反対するでしょうから。もちろんそれは「敵国条項を発動して日本に制裁したい」と言う話ではなく「俺達は日本をまだ完全には許していない」と言う政治的アピールでしょうけど。
*7:橋下大阪市長の例の暴言後、韓国が委員会に「日本は酷い」と直訴したことが原因だと俺は理解しています。まあ日本の自業自得ですね。安倍も明らかに河野談話否定派の訳ですし。なおこの勧告に対し「強制力はない」ととんでもない事抜かしたのが安倍政権です。何が河野談話踏襲か。
*11:共産党原発・エネルギー問題対策委員会責任者、衆院議員
*12:吉田隆子でググったところ田中伸尚『抵抗のモダンガール:作曲家・吉田隆子』(2014年、岩波書店)と言う本があるようなので機会があれば読もうかと思う。なお田中氏は音楽評論家ではなくその著書は『日の丸・君が代の戦後史』(2000年、岩波新書)、『靖国の戦後史』(2002年、岩波新書)、『憲法九条の戦後史』(2005年、岩波新書)なのでそうした観点からの著作ではあろう。それが悪いとは勿論言わないが。
*14:著書『名監督メモリアル』(1993年、青蛙房)、『映画のなかの文学・文学のなかの映画』(2002年、白水社)など
*15:劇作家。代表作「火山灰地」
*16:原文のまま。もちろん俺は「フェミニズムと共産主義を同一視するこのブログ主の価値観は明らかにおかしい」とは思う。フェミニストも共産主義者も「アホか」と激怒するだろう。
*17:著書『女性作曲家列伝』(編著、1999年、平凡社選書)など
*18:北京五輪体操個人総合銀メダル、ロンドン五輪体操個人総合金メダル
*20:著書『マスコミはなぜ権力に弱いか』(1994年、新日本出版社)
*21:著書『スピノザの方法』(2011年、みすず書房)、『ドゥルーズの哲学原理』(2013年、岩波書店)、『来るべき民主主義:小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(2013年、幻冬舎新書)、『哲学の先生と人生の話をしよう』(2013年、朝日新聞出版)など
*22:なお沖縄一区から出馬している國場幸之助候補(自民)は國場組創業者一族である。