新刊紹介:「経済」2月号

「経済」2月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
 http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
■随想「16春闘を思う」(西村直樹)
(内容紹介)
安倍が「ホワイトカラーエグザンプション高度プロフェッショナル制度)」の導入など労働保護法制の破壊を画策している今、春闘も「そうした安倍の野望に対決する物」出なければならないという話です。


■世界と日本
ポルトガル「左翼」新政権】(宮前忠夫*1
(内容紹介)
 総選挙による保守政権下野、左派政権(社民政権)誕生が取り上げられています。
 これは「ヨーロッパでの反緊縮運動」の成果と評価できますが、左派政権は「連立政権」の上、相対的には「保守を議席数で上回ってはいます」が圧倒的大差がついてるわけではないので今後の動向が注目されます。

参考
赤旗
■『ポルトガル 最賃5%上げ、新政権 「反緊縮」へ第一歩』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-12-24/2015122401_02_1.html


ミャンマー総選挙】(大村哲)
(内容紹介)
 選挙でのアウンサンスーチー派勝利で政権交代は確実ですがスーチーには以下の難問があります。
1)憲法では家族に外国籍の者がいる場合、大統領にはなれず憲法改正しない限り、スーチーは大統領には就任できない。しかし憲法改正には議会の75%の賛成が必要で「議会には25%の軍部枠」があるため改憲はほとんど不可能に近い。当面改憲によるスーチーの大統領就任は無理と思われるが、その場合、誰が大統領になるのかが問題になる。また「軍部枠25%」は「改憲問題に限らず」スーチーにとって厄介な代物であり早く廃止したいところである。
2)少数民族カチン族と軍部の戦闘はまだ終わっていない。これをどうやって終結させるか。

赤旗
■『ミャンマー 政権交代確実、大統領・軍司令官 スー・チー氏に祝意
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-11-13/2015111301_03_1.html


【常陽・足利銀行の統合】(桜田氾)
(内容紹介)
 茨城の常陽銀行と栃木の足利銀行経営統合を発表した。この統合が両行の経営にとどまらず、銀行業界にどのような影響を与えるかが注目される。

参考
東洋経済オンライン『常陽・足利統合で周辺地銀はどう動くのか:近隣の群馬銀や千葉銀の動向が次の焦点に』
http://toyokeizai.net/articles/-/90623


特集「2016年の日本経済をどう見るか」
■座談会「「アベ経済」を許さない:暴走政治から国民の生活と権利を守る」(小西一雄*2、今宮謙二*3、萩原伸次郎*4、寺沢亜志也)
(内容紹介)
アベノミクス批判については『新刊紹介:「前衛」2月号』(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20160117/5421309876)でも行っているので「内容がかぶる部分」については省略する。
・まず小西氏、今宮氏、萩原氏、寺沢氏から報告がされる。その報告を受ける形で討論がされている。
 報告の説明を簡単にしておけば、小西氏は「アベノミクスが賃金上昇や、GDP増加、輸出増加や設備投資増加をもたらさず(むしろこれらの数値は統計データでは横ばいや減少傾向にある)何ら景気改善効果をもたらしていないこと」を指摘。
 今宮氏は「量的金融緩和が景気を良くしてなどいないこと(株価高と円安それ自体は景気改善ではない)」「ただし量的金融緩和を打ち切ると反動で円高、株価安をもたらしかねないこと」「しかしいつまでも量的緩和(日銀による株式や国債購入)を続けると財政悪化になりかねないこと」が指摘される(基本的には今宮氏は量的緩和中止論なのだが反動円高、株価安の恐怖を考えると、それはおいそれとはできない、それなりの脱出戦略が必要という認識)。
 萩原氏はTPP批判。寺沢氏は「一部、他の三氏と主張がかぶるが」安倍政権が国民負担増(消費税増、社会保障削減)政策をすすめていることを批判、内需を高め、景気を改善させるためにも、国民負担を減らし(というか応能負担原則の立場で、『減らしすぎた法人税を増やす立場』で)「福祉や教育に支出を行う事」が必要だとしている。


■「沈み込む日本経済:アベノミクスの破綻と弊害」(工藤昌宏*5
(内容紹介)
 座談会での小西報告や『新刊紹介:「前衛」2月号』(http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20160117/5421309876)の山家論文でも指摘があるが「アベノミクスが賃金上昇や、GDP増加、輸出増加や設備投資増加をもたらさず(むしろこれらの数値は統計データでは横ばいや減少傾向にある)何ら景気改善効果をもたらしていないこと」を指摘。景気回復が実現しない大きな理由として座談会の寺沢報告同様、「安倍政権の内需軽視→その結果としての国民負担増加→内需のさらなる冷え込み」をあげている。


■「大企業は最高益:M&Aで再編・強化」(小栗崇資*6
(内容紹介)
 既に指摘したように「アベノミクスが賃金上昇や、GDP増加、輸出増加や設備投資増加をもたらさず(むしろこれらの数値は統計データでは横ばいや減少傾向にある)何ら景気改善効果をもたらしていないこと」は明白である。しかし統計データ上、「大企業の収益が増加していること」もまた事実である。
 安倍政権は「大企業の収益増」を理由に「アベノミクス成功」を宣伝し、そのことが「一時に比べれば落ちたとは言え」安倍政権の支持率が40%台にとどまりいわゆる「危険水域(30%台)」に落ちない理由でもある。
 何故そのような事態が起こるのか。
 先ず第一にその理由としては「海外市場(中国、東南アジア、欧米など)」があげられる。「海外での売り上げ(ただし輸出ではなく多くは現地生産のため、アベノミクス円安の効果はないと見られる)」や「海外でのM&A(企業買収)」などである。
 第二に「円安効果」である。円安によりたとえば「1ドル=100円」が「1ドル=200円」になれば*7「米国での売り上げを日本に持ってくれば」それだけで為替効果で収益は2倍になるわけである。
 また円安による外国人観光客の増加も大きいと見られる(いわゆる爆買いなど)。
 第三に「株価高効果」である。
 これらからわかることは全て「内需の増加とは関係ない」ということである(多くは外需)。当然ながら「外国の景気は日本には左右できない」のであり、「中国の景気減速」や「米国の金利上げ」などにより、それらは停滞する危険性があるわけである。


■「地域経済と小企業の役割」(藤田信好)
(内容紹介)
 赤旗記事の紹介で代替。

赤旗
■『中小商工業の力で持続可能な経済を、全国交流・研究集会』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-09-06/2015090601_03_1.html


■「軍事依存経済への道:暴走安倍内閣で対米従属が深化」(金子豊弘)
(内容紹介)
 武器輸出三原則の撤廃(原則武器禁輸から、武器輸出自由化)、防衛装備庁(従来の『自衛隊の武器開発、購入』にとどまらず企業の武器輸出を支援)の設置など安倍政権の「軍事依存経済政策」を批判。

参考
赤旗
■主張『防衛装備庁の発足、“軍産複合体”への歩み許すな』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-05/2015100502_01_1.html
■『武器輸出に貿易保険 政府が検討、“死の商人”を 税金で援護?!、損失に国の財政で穴埋めも』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-11/2015101101_01_1.html
■『宇宙軍拡 官民NPO推進、予算拡大 政府・与党に提言、トップは 元防衛事務次官
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-11-24/2015112401_01_1.html
■『補正予算案 軍事費、1966億円計上』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-12-19/2015121902_03_1.html
■『軍事研究“呼び水”6億円、16年度予算案 わずか1年で倍増』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-12-28/2015122801_02_1.html


■「TPP大筋合意:国会決議との整合性を検証する」(東山寛)
(内容紹介)
 政府のTPP合意について主に「国会決議無視」と言う観点から批判が行われている。

参考
赤旗『「大筋合意」 国会決議違反は明白、TPPからの撤退迫る 参院予算委 紙議員が追及』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-11-12/2015111201_01_1.html


■対談「シリア・難民問題を考える」(黒木英充*8、栗田禎子*9
(内容紹介)

http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2015/739.html
 このように見てきますと、シリア問題に関するアメリカとロシアの立場及び政策において、明らかにプーチン・ロシアに分があり、オバマアメリカはどう見ても支離滅裂な場当たり的対応しかしていないことが分かります。

と外交評論家・浅井基文氏(元外務官僚)は指摘しているが、黒木氏、栗田氏も「ロシアの行動はあくまでも国益判断によるものでロシアは正義の味方でもなんでもない*10」と断った上で「米国が画策するアサド政権転覆」に荷担しないロシアの態度を「シリアの混迷を阻止した現実的対応」「アサド政権打倒はISを利したであろう」として評価している。まさに「打倒アサドを叫ぶ馬鹿者(例:ウスラバカのid:noharra)」とは違うまともな認識と言えよう。


■「変容するキューバ経済・ラウル*11経済改革の3000日(上)」(新藤通弘*12
(内容紹介)
 ソ連崩壊(1991年)まではキューバは「生産した砂糖をソ連に高値で買ってもらう」という形で経済運営していたがソ連崩壊によりその経済システムは壊れてしまう(ソ連崩壊によるダメージはキューバに限ったことではなく、ベトナムドイモイも、北朝鮮の先軍主義も『ソ連崩壊ダメージ対応』と言う要素があるであろうが)。
 ソ連崩壊以降基本的にキューバはさまざまな経済改革を「中国の改革開放」「ベトナムドイモイ」など「共産国の成功した経済改革」をモデルに行っているわけだが、この論文ではラウル政権後の改革が取り上げられている。

参考
きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影
■『キューバ経済改革の行方① 経済モデル「刷新」始まる: ハバナ大学教授にインタビュー 中南米研究者・新藤通弘さん』
http://blog.goo.ne.jp/kin_chan0701/e/e8c159bf571d6246d063a89c21b6fe94
■『キューバ経済改革の行方② 米との国交回復の影響は: ハバナ大学教授にインタビュー 中南米研究者・新藤通弘さん』
http://blog.goo.ne.jp/kin_chan0701/e/e157275f0529260723d30af0f7efafd8
 2015年6月24日の赤旗に掲載された「新藤氏執筆の記事」の紹介エントリである。

NHKキューバ 社会主義経済から“改革開放”へ』
http://www6.nhk.or.jp/kokusaihoudou/lounge/index.html?i=140627
■CNN『経済改革進めるキューバ、国営レストラン9千軒を民営化』
http://www.cnn.co.jp/business/35054084.html

 
 

*1:著書『人間らしく働くルール:ヨーロッパの挑戦』(2001年、学習の友社)

*2:著書『資本主義の成熟と転換:現代の信用と恐慌』(2014年、桜井書店)など

*3:著書『国際金融の歴史』(1992年、新日本新書)、『金融不安定構造:基軸通貨ドル体制の動揺』(1995年、新日本出版社)、『投機マネー』(2000年、新日本新書)、『動乱時代の経済と金融』(2005年、新日本出版社)など

*4:著書『アメリカ経済政策史:戦後「ケインズ連合」の興亡』(1996年、有斐閣)、『通商産業政策』(2003年、日本経済評論社)、『世界経済と企業行動:現代アメリカ経済分析序説』(2005年、大月書店)、『米国はいかにして世界経済を支配したか』(2008年、青灯社)、『日本の構造「改革」とTPP:ワシントン発の経済「改革」』(2011年、新日本出版社)、『オバマの経済政策とアベノミクス:日米の経済政策はなぜこうも違うのか』(2015年、学習の友社)など

*5:著書『日本海運業の展開と企業集団』(1991年、文真堂)

*6:著書『アメリ連結会計生成史論』(2002年、日本経済評論社)、『株式会社会計の基本構造』(2014年、中央経済社)など

*7:話をわかりやすくするための数字でありさすがにアベノミクス円安もここまで急激な円安ではない

*8:著書『「対テロ戦争」の時代の平和構築:過去からの視点、未来への展望』(編著、2008年、東信堂)など

*9:著書『近代スーダンにおける体制変動と民族形成』(2001年、大月書店)、『中東革命のゆくえ:現代史のなかの中東・世界・日本』(2014年、大月書店)など

*10:もちろん「あくまでも国益判断によるもので正義の味方でもなんでもない」というのはアサド打倒を企む米国も同じであることを断っておく。

*11:キューバ革命指導者で国家評議会議長(大統領)兼閣僚評議会議長(首相)、キューバ共産党第一書記を歴任したフィデル・カストロの弟。国防相キューバ国家評議会第一副議長(副大統領)、閣僚評議会第一副議長(副首相)、キューバ共産党第二書記などを経て、フィデルの政界退任に伴い、国家評議会議長(大統領)兼閣僚評議会議長(首相)、キューバ共産党第一書記に就任。

*12:著書『現代キューバ経済史:90年代経済改革の光と影』(2000年、大村書店)、『革命のベネズエラ紀行』(2006年、新日本出版社