安倍晋三首相は北朝鮮の金正恩第一書記と会談し、拉致問題の解決に向けて、従来のアプローチとは違う「新たな発想」に基づいて交渉することで一致した。
一方で日本政府は、拉致被害者全員の帰国を目指す立場に変わりはないと強調している。
当然だ。拉致被害者は北朝鮮が違法に連行したものだ。拉致被害者全員の帰国を求める姿勢を崩すことは、主権の放棄にほかならない。
両首脳は3年前、「双方が受け入れ可能な解決策」を探ることで合意したが、拉致問題でそうした解決策が見いだせるか。拉致被害者全員の帰国の基本方針を踏み外す「新発想」は論外である。
安倍首相はまた、会談で「相手の国民感情を傷つける行動や発言は控えるべきだ」と注文した。今年、北朝鮮が「調査委員会の解散」を表明したことなどを指すものだ。今後の北朝鮮側の対応を慎重に注視すべきだ。
金正恩氏は日朝関係の深化には「経済が最も重要だ」と述べ、日本側は北朝鮮の産業振興やエネルギー開発など8項目の経済協力案を示した。しかし、北朝鮮が拉致交渉の進展をちらつかせる際には、必ず経済的実利を狙ってきた歴史を忘れてはならない。
現在の北朝鮮は核実験やミサイル発射で制裁を受け、投資や最先端技術を欲している。核実験やミサイル発射は拉致と同根の暴挙である。対朝の経済協力には慎重であるべきだ。
安倍首相は金正恩氏の訪日について、適切な時期を探る方針を示すにとどめた。妥当だろう。北朝鮮の核、ミサイル問題は好転の気配さえみえず、首相は、議長を務める今月の伊勢志摩サミットで対朝政策の協調を図る立場にある。
6月には外務次官級で拉致問題交渉を行うことを確認し、9月は安倍首相が訪朝して再び首脳会談を行う見通しだ。安倍、金正恩両氏は、2人で拉致問題を解決する意気込みを示し、そのためには「グローバルな視点」「未来志向の考え」が必要としている。
言葉は美しいが、交渉相手はしたたかである。腰を据えて日朝交渉に臨んでほしい。
元ネタ
■【主張】北方領土交渉 「新発想」でも原則堅持を
http://www.sankei.com/column/news/160508/clm1605080002-n1.html