最高裁判事国民審査では全員にバツをつける予定

最高裁裁判官の国民審査、投票棄権の権利について。 | ちきゅう座澤藤統一郎

 本日、総選挙の期日前投票を済ませた。小選挙区選挙では普段は支持しない政党の候補者に投票し、比例代表選挙では支持する政党の名を明記して投票した。

 「小選挙区=立民」、「比例=共産」でしょうか。「小選挙区が立民と自民の一騎打ち」の俺もそうなるかと思います。

 さて、最高裁裁判官の国民審査をどうするか。
 日本民主法律家協会のプロジェクトチームと23期弁護士ネットワーク合同での議論の結論は、下記のとおりである。
★選択的夫婦別姓に反対*1した裁判官(1)林道晴、2)深山卓也、3)三浦守、4)岡村和美、5)長嶺安政各裁判官)に「×」を!
★正規・非正規の格差是正に反対*2した裁判官(林道晴裁判官)に「×」を!
★冤罪の救済に背を向けた*3裁判官(深山卓也裁判官)に「×」を!
一票の格差を放置した裁判官(林道晴、深山卓也、三浦守、6)草野耕一、岡村和美各裁判官)に「×」を!
★裁判と裁判官を統制してきた司法官僚(林道晴、7)安浪亮介各裁判官)に、「×」を!
 以上が真っ当な判断なのだが、これをまとめて微修正を加味して個人的には以下の3案を考えた。
(1) 国民審査を、司法のあり方に対する国民の批判結集の機会として生かすために、全11裁判官に「×」を付けよう!
 そもそも、(ボーガス注:全員が)安倍・菅政権が任命した裁判官である。その人選・任命の経過もまことに不透明。安倍菅政権への批判と裏腹の問題として全11裁判官を不信任とすべきではないか。
(2) この間の判決内容を見れば、宇賀克也裁判官だけが憲法に忠実な真っ当な姿勢を貫いているではないか。宇賀克也裁判官までを他と一緒に「×」をつけてはならない。宇賀克也裁判官を除いて、他の10裁判官に「×」を付けよう!
(3) 制度の趣旨から見て、容認できない少数の裁判官に的を絞って「×」を集中すべきだ。それがインパクト強く、国民が三権の一角である最高裁を監視していると印象付けることができる。その意味で、林道晴裁判官に「×」を集中しよう!
 (2)案には、原爆症認定訴訟弁護団から無視し得ない反論がある。
原爆症認定集団訴訟で、昨年(2020年)2月、第三小法廷(裁判長宇賀克也、戸倉三郎、宮崎裕子、林道晴、林景一)から最低・最悪の判決を受けました。原爆症認定は、被爆者の疾病が放射線に起因すること(放射線起因性)、当該疾病が現に医療を要する状態にあること(要医療性)という2つの要件があります。主な争点は放射線起因性で、この間行政訴訟としては異例の9割の勝訴率で勝ち抜いてきました。そこで厚労省は、従来柔軟に対応してきた要医療性を厳格に審査するという戦術で対抗してきました。それも下級審では突破してきたのですが、最高裁で丸っきり厚労省の言いなりの判決を受けてしまったのです。
 具体的には、経過観察をしているだけでは要医療性を満たさない、として、手術後の経過観察を受けている被爆者の原爆症認定を否定してしまったのです。これによって原爆症認定集団訴訟の全面解決は極めて困難な状況に追い込まれました。この判決を主導したのは(ボーガス注:裁判長の)宇賀克也に間違いありません。以上の次第で私は宇賀克也*4に×を付けたい気持ちで一杯です(以下略)」
 この反論で私は大いに迷わざるを得なかったが、(ボーガス注:それでも宇賀氏は他よりずっとましと考え)結局は(2) 案で投票した。

 俺個人は「全員にバツの予定」です。

 なお、先輩弁護士から以下の意見のメールをいただいた。
「殆どの人は、分からないまま、投票用紙を受け取って、そのまま投票箱に入れています。投票用紙を受け取らないという選択肢があることを知りません。私個人では、投票依頼の電話をするときに、必ずそのことを話しています。『分からない人は、投票用紙を受け取らないで良いです』ということを、選管に徹底するように申し入れした方が良いのではないでしょうか。私は、いつも投票所に行ったとき、そこにいる職員に、そうして下さいと申し入れているのですが、まるで意味が分かっていないのか、無視されます。」
 本日、同じ経験をした。確かに、「殆どの人は、分からないまま投票用紙を受け取ってそのまま投票箱に入れて」いる。これは看過しがたい。
 現場の職員に、「これでは棄権の権利が無視されるのではないか」と語りかけたら、上司と思しき人が出てきた。あらためて、「どの裁判官に×を付けるべきか分からない人は、どうすれば良いの?」と聞くと、「『投票したくない』と申し出ていただけたら、投票用紙を預からせていただきます」という答だった。
 「そういう投票棄権の選択肢があると言うことは、予めお知らせしないんですか。以前は、そういう掲示もあったはずですが。」と聞くと、「そういうお知らせをするように指示は受けていません。過去のことは存じません」とのこと。
「とすると、現実には投票棄権の選択は難しいのじゃありませんか?」
「私たちは棄権の選択があることを想定していません」
「それがおかしい。あなただって、11人の裁判官の一人ひとりについて、信任すべきかすべきでないか、自信をもって判断できますか。判断に自信のない人に、結局裁判官信任の結果となる投票をさせるのはまちがっていませんか」
「結局あなたは、棄権したいと言うことですか」
「いや、私は棄権しません。でもこのような投票者の意思がゆがめられる国民審査のあり方がおかしいと思う」
「では、そういうご意見があったということは、選管に報告しておきます」
 これで、私の「抗議」は打ち切り。しょうがないから、その場の人に呼びかけた。
「皆さん、最高裁裁判官の国民審査で誰に×を付けてよいか分からない方は、棄権ができます。投票用紙の受け取りを拒否するか、投票用紙を職員に返還してください。なんにも書かない投票用紙を投票箱に入れると、全部の裁判官を信任したことになってしまいますから気を付けてください。むしろ、よく分からなければ、最高裁を監視しているという意味を込めて全部×を付けてください」

1)投票用紙を受け取って、白紙のママ投票すると信任扱いになる
2)棄権したければ用紙を受け取り拒否する必要がある
ということを広報しない選管は澤藤氏が非難するように酷いですね。
 おそらく「信任された」という構図を作り出したい(与党・自民の意向?)がために「大量の棄権を産みたくない」のでしょうが。
 「業務負担」と言う意味では「選管にとっても受け取り拒否してくれた方が有り難い」のでそう広報しない理由は「大量の棄権を産みたくない」というふざけた理由としか理解できません。

*1:「夫婦同姓強制を合憲と判断した裁判官」の方がより適切な表現でしょう。厳密に言えば「合憲判断」は「別姓反対」とは違います。

*2:『非正規への退職金不支給』を差別として訴えた、いわゆる『東京メトロコマース訴訟』での原告敗訴のこと

*3:大崎事件」再審請求却下のこと

*4:東大教授(行政法)。著書『行政手続法の理論』(1995年、東京大学出版会)、『国家補償法』(1997年、有斐閣)、『政策評価の法制度』(2002年、有斐閣)、『情報公開と公文書管理』(2010年、有斐閣)、『判例で学ぶ行政法』(2015年、第一法規)、『行政法概説III:行政組織法/公務員法/公物法(第5版)』(2019年、有斐閣)、『個人情報の保護と利用』(2019年、有斐閣)、『行政法概説Ⅰ:行政法総論(第7版)』(2020年、有斐閣)、『マイナンバー法と情報セキュリティ』(2020年、有斐閣)、『行政組織法の理論と実務』(2021年、有斐閣)、『行政法概説II:行政救済法(第7版)』(2021年、有斐閣)など(宇賀克也 - Wikipedia参照)