漢方薬を全否定する高橋氏も「間違いのような気がする」

けっきょくこれらの本を読めば、本多勝一氏の東洋医学の本など根本から崩壊してしまう(高橋晄正氏の著書) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
 上記記事を読んでの感想です。
 勿論、本多氏や彼が傾倒した怪しげな人物「境某」を擁護する気はない。
 ただし、

クソニンジン - Wikipedia
 伝統的な中国医学では解熱に利用される。1967年に始まった中国人民解放軍の軍事プロジェクトにおいて、クソニンジンのエーテル抽出物がマラリアに驚異的な効果をもたらすことが発見され、1972年にはその主要な有効成分としてアルテミシニンが同定された。
 なお、アルテミシニンの発見者である屠呦呦は、抗寄生虫薬イベルメクチンの発見者であるウィリアム・セシル・キャンベル、大村智*1と共に、2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。

アルテミシニン - Wikipedia
 ヨモギ属植物は、漢方薬として、千年以上前から皮膚病やマラリアなどさまざまな病気の治療に用いられてきた。1960年代にベトナム戦争に出兵して多数のマラリア患者を出した中国人民解放軍により、マラリア治療薬の調査がおこなわれ、屠呦呦らが率いるチームによって、1972年にクソニンジン(黄花蒿)の葉からアルテミシニンが発見された。

【21-03】【現代編3】屠呦呦~中国初の科学関係ノーベル賞の受賞者 | SciencePortal China林幸秀*2
 漢方薬の研究者であった屠呦呦に大きな転機が訪れたのは1969年、政府によるマラリア特効薬の開発プロジェクトへの参加である。
 マラリアは、熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症であり、高熱や頭痛、吐き気などの症状を呈し、悪性の場合は意識障害や腎不全などを起こし死亡することもある。以前は中国でも海南島雲南省、広西省、広東省等の南部の地域で、マラリアは主な死因の一つだった。
 1960年代に入って徐々に本格化*3したベトナム戦争において、中国はソ連とともに北ベトナムの同盟国として軍事的な支援を行った。この北ベトナムでもマラリアは兵士や一般庶民を苦しめる病気であり、従来から特効薬として用いられていたクロロキンでは原虫に耐性が出始めていた。そこで中国は、自国民の治療だけでなく同盟国の北ベトナムを支援すべく、関係機関にマラリアに対する新薬開発を命じたのである。
 マラリア新薬の開発を命ぜられた機関の一つが国務院の中医研究院であり、そこに発足したプロジェクトチームのリーダーに指名されたのが屠呦呦であった。
 1969年にチームが発足すると、屠呦呦は約2,000の伝統的な漢方の調剤法を調べた。その過程で1971年にヨモギの一種「黄花蒿」(日本名ではクソニンジン)から抽出された物質が、動物体内でのマラリア原虫の活動を劇的に抑制することを突き止めた。翌1972年に屠たちはその純物質を取り出し「青蒿素」と名付けた。この青蒿素はマラリアの新しい特効薬として活躍し、後に欧米でも認められて「アルテミシニン」と呼ばれた。
 屠氏は2015年に、日本の大村智博士らとともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞理由は、マラリアに対する新たな治療法に関する発見であった。
 膨大な人口を擁し、歴史・文明の長さでも世界有数である中国であるが、近代科学技術における最高栄誉であるノーベル賞受賞者はそれほど多くない。
 中国人で初めてのノーベル賞受賞は、1957年の楊振寧李政道両博士による物理学賞の受賞であり、受賞理由は素粒子物理学におけるパリティについての洞察的な研究であった。ただ、楊振寧李政道両博士は中国本土で生まれ大学までの教育も本土で受けたものの、その後の大学院教育や研究は米国のシカゴ大学フェルミ*4博士の下でなされ、新中国建国以前に渡米していたため両博士のノーベル賞受賞時の国籍は中華民国であった。楊振寧李政道両博士の受賞以降も中国系の研究者がノーベル賞を受賞しているが、香港、台湾などの出身であったり、米国移民の子孫であったりして、新中国の国籍での受賞はなかった*5。2015年の屠呦呦の受賞は、このような状況を打破する快挙であった。

と言う話を考えれば「漢方薬」には西洋医学的、近代医学的検証に耐えうる「効果が認められる物」もあるのではないか。高橋氏*6のような「漢方薬を全否定」も「間違い」ではないか。
 勿論「効果があるかどうか」評価するにはそれなりの「まともな研究が必要なこと」は当然ですし「そうした手続き」を「境某」が取ってないことは明白ですが。
 そうしたまともな研究の一つが、ノーベル賞を受賞した屠呦呦の「クソニンジン研究」だったわけです。

*1:北里大学特別栄誉教授、東京理科大学特別栄誉博士。著書『ストックホルムへの廻り道:私の履歴書』(2017年、日本経済新聞社)、『イベルメクチン』(編著、2021年、河出新書)など。なお、大村氏については以前拙記事韮崎大村美術館に行ってきた - bogus-simotukareのブログ(2016.2.28)で取り上げました。

*2:科学技術庁研究開発局宇宙政策課長、科学技術庁原子力局政策課長、文部科学省科学技術・学術政策局長、内閣府政策統括官(科学技術政策担当)、独立行政法人宇宙航空研究開発機構副理事長、独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェローなど歴任。著書『理科系冷遇社会:沈没する日本の科学技術』(2010年、中公新書ラクレ)、『科学技術大国中国』(2013年、中公新書)、『中国科学院』(2017年、丸善プラネット)、『中国の宇宙開発』(2019年、アドスリー)など

*3:トンキン湾事件を契機とした米軍のいわゆる『北爆』が1964年です(トンキン湾事件 - Wikipedia参照)。

*4:1901~1954年。1938年にノーベル物理学賞を受賞。フェルミに由来する用語は数多く、熱力学・統計力学フェルミ分布、フェルミ準位、量子力学フェルミ粒子、原子核物理学のフェルミウム(元素名)の他、フェルミ推定や「フェルミパラドックス」にその名を残している(エンリコ・フェルミ - Wikipedia参照)。

*5:中国人・華人のノーベル賞受賞者 - Wikipediaによれば化学賞の「李遠哲(1986年)」「ロジャー・Y・チエン(2008年)」、物理学賞の「サミュエル・ティン(1976年)」「スティーブン・チュー(1997年)」「ダニエル・ツイ(1998年)」「チャールズ・カオ(2009年)」

*6:1918~2004年。著書『新しい医学への道』(1964年、紀伊国屋新書)、『漢方の認識』(1966年、NHKブックス)、『現代医学概論』(1967年、東京大学出版会)、『社会のなかの医学』(1969年、東京大学出版会)、『アリナミン』(1971年、三一新書)、『くすり公害』(1971年、東京大学出版会)、『食品公害のしくみ:合成殺菌料AF-2をめぐって』(1974年、東京大学出版会)、『市民のための科学的な見方考え方』(1983年、三一新書)、『漢方薬は効かない』(1993年、ベストセラーズ)など(高橋晄正 - Wikipedia参照)