産経が「伊藤野枝没後100年」記事を掲載したことに驚く(2023年8/29日分)

人気高まる伊藤野枝の生涯 没後100年イベント開催 - 産経ニュース

 関東大震災直後の戒厳令下、憲兵隊に虐殺された無政府主義者で作家の伊藤野枝。既成の道徳や結婚制度にとらわれず、自由な生き方を追求した生涯が改めて注目され、人気が高まっている*1
 9月16日に没後100年*2を迎えるのを機に、9月24日には東京都内で「伊藤野枝大杉栄*3没後100年記念シンポジウム 自由な自己の道を歩いて行こう」が開かれる。

 人気高まる伊藤野枝の生涯 没後100年イベント開催:北海道新聞デジタル
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 人気高まる伊藤野枝の生涯|【西日本新聞me】
ということで他紙(北海道新聞東奥日報青森県)、河北新報宮城県)、下野新聞(栃木県)、新潟日報北日本新聞(富山県)、富山新聞(石川県の北国新聞系列)、京都新聞愛媛新聞西日本新聞(福岡県))にも同じ記事が載ってるので「通信社の配信記事」のようですが、ウヨの産経でこういう記事が載るとは意外です。
 なお、このシンポですがググったところ、

伊藤野枝・大杉栄ら没後100年記念シンポジウム「自由な自己の道を歩いて行こう」 - 岩波書店
日時:2023年9月24日(日)13:00開始~17:30終了予定
講演:森まゆみ*4(作家)「『青鞜*5』時代の伊藤野枝」13:10~14:10 
   鎌田慧*6ルポライター)「大杉栄・自由への疾走」14:10~15:10
コメント:加藤陽子*7東京大学教授)15:30~15:50
     岡野幸江*8人間総合科学大学講師)15:50~16:10
     梅森直之*9早稲田大学教授)16:10~16:30
フリートーク:登壇者全員 16:40 ~ 17:20
司会:田中ひかる*10明治大学教授)
参加費:1800円

だそうです。
 また最近では

風よ あらしよ - Wikipedia
 吉川英治文学賞(2021年)を受賞した村山由佳の同名小説(2020年、集英社)をドラマ化。NHKBS8Kで2022年3月31日に放送。NHKBSプレミアムとNHKBS4K*11で2022年9月4日から全3回で放送。
◆キャスト*12(なお、脚注(俳優の経歴)はウィキペディアを参照)
伊藤野枝(婦人解放活動家、文筆家):吉高由里子*13(幼少期:湯本柚子)
大杉栄 (思想家、後の野枝の内縁の夫):永山瑛太
平塚らいてう(婦人解放活動家、文筆家。戦後、日本婦人団体連合会初代会長、世界平和アピール七人委員会初代委員*14): 松下奈緒*15
・神近市子(婦人解放活動家、ジャーナリスト、大杉の愛人、戦後、社会党衆院議員):美波
・村木源次郎 (アナキスト(伊藤や大杉の同志)。伊藤、大杉暗殺への報復として福田雅太郎*16・関東戒厳司令官を襲撃、裁判中に獄中で病死):玉置玲央*17
・和田久太郎(アナキスト(伊藤や大杉の同志)。伊藤、大杉暗殺への報復として福田雅太郎・関東戒厳司令官を襲撃、無期懲役で服役中に自殺):金井勇太*18
・堀保子(社会運動家、大杉の内縁の妻):山田真歩*19
甘粕正彦憲兵大尉。伊藤、大杉虐殺事件で禁固10年。出所後、満州映画協会理事長。敗戦直後に自殺):音尾琢真*20
辻潤(思想家、翻訳家、野枝の前夫):稲垣吾郎*21

が伊藤を取り上げたとのこと。
 『風よあらしよ』についてはググってヒットした以下も紹介しておきます。
伊藤野枝の生涯描き吉川英治文学賞受賞/『風よ あらしよ』作家:村山由佳さん・・・今日の赤旗記事 - (新版)お魚と山と琵琶湖オオナマズの日々2021.5.31

山村由佳著「風よ あらしよ」 « 日本共産党 山口県議会議員 藤本かずのり2021.6.22
 5月31日のしんぶん赤旗日刊紙の「月曜インタビュー」に作家の村山由佳さんが登場し、女性解放運動家の伊藤野枝を描いた新著「風よあらしよ」について述べていました。
 村山由佳さんの「風よあらしよ」を読んでいます。650ページの大作です。今、100ページ程読み終えたところです。
 村山さんは、数年前に他界した父にこの作品を読んでほしかったとこう語ります。
 「シベリアに4年間、抑留されていた父は、収容所でのつらい体験もよく話してくれました。ずっと『赤旗』を愛読していたんですよ。その父から受け継いだ戦争の記憶があったからこそ、野枝の人生にひかれたんだと思います。これからも野枝ならどうするか考えながら、怒るべき時には怒り、発信していきます」
 作家・村山さんのこれからの「怒る時には怒り、発信」に大いに注目していきたいと思います。
 関東大震災のわずか15日後の1923年9月16日に、大杉栄伊藤野枝憲兵隊構内で虐殺されました。改めて惨い死だと痛感します。二度とこのような時代の再来は御免だと痛感しています。

 共産支持者として「伊藤と大杉を主人公にした小説がNHKBSでドラマ化できるんなら、『播州平野』(宮本百合子の自伝的小説、宮本顕治、百合子をモデルにした人物が登場)もNHKBSでドラマ化できるんじゃね?」感がありますがやはり難しいのか?
 また最近の伊藤を取り上げた著書としては以下を紹介しておきます。

【刊行年順】
瀬戸内寂聴『美は乱調にあり:伊藤野枝大杉栄』、『諧調は偽りなり:伊藤野枝大杉栄』(以上、2017年、岩波現代文庫)
 他にも寂聴には左派活動家を取り上げた評伝として『余白の春:金子文子*22』(2019年、岩波現代文庫)、『遠い声:管野須賀子*23』(2020年、岩波現代文庫)の著書があります。
◆栗原康*24『村に火をつけ、白痴になれ:伊藤野枝伝』(2020年、岩波現代文庫
◆栗原康編『伊藤野枝セレクション』(2023年、平凡社ライブラリー)
 栗原氏についてはググってヒットした
「村に火をつけ、白痴になれ」栗原康著|日刊ゲンダイDIGITAL2016.6.22
栗原康さんインタビュー(1)恋愛やセックスにルールなんてない…大杉栄と伊藤野枝の生き方から | ヨミドクター(読売新聞)2016.7.29
栗原康さんインタビュー(2)いざとなったら何とかなる。やっちまえ!…大杉栄と伊藤野枝の生き方から | ヨミドクター(読売新聞)2016.8.8
栗原康さんインタビュー(3)資本主義と恋愛至上主義と…大杉栄と伊藤野枝の生き方から | ヨミドクター(読売新聞)2016.8.13
【書評】作家・畑中章宏が読む 『死してなお踊れ 一遍上人伝』栗原康著 「アミダ。最高。オレ、仏」(1/2ページ) - 産経ニュース2017.3.19
 評者の畑中氏には『柳田国男今和次郎:災害に向き合う民俗学』(2011年、平凡社新書)、『「日本残酷物語」を読む』(2015年、平凡社新書)、『天災と日本人:地震・洪水・噴火の民俗学』(2017年、ちくま新書)、『廃仏毀釈』(2021年、ちくま新書)、『関東大震災・その100年の呪縛』(2023年、幻冬舎新書)、『宮本常一』(2023年、講談社現代新書)等の著書がある。
奨学金なんかこわくない! 「学生に賃金を」完全版 栗原康著:東京新聞 TOKYO Web2020.6.7
サボる哲学 労働の未来から逃散せよ 栗原康著:東京新聞 TOKYO Web2021.8.22
アナキズム研究者が説く「サボるコツ」「我慢しない生き方」 “正気の狂人”大杉栄に学べ|日刊ゲンダイDIGITAL2022.5.5
を紹介しておきます。

 また伊藤、大杉が支持したアナキズム無政府主義)については最近の著書として以下を紹介しておきます。

【刊行年順】
◆森元斎*25アナキズム入門』(2017年、ちくま新書)
 森氏についてはググってヒットした
思想としての九州を追う 『国道3号線 抵抗の民衆史』 | 毎日新聞2020.9.5
今週の本棚・著者:森元斎さん 『国道3号線 抵抗の民衆史』 | 毎日新聞2020.10.17
国道3号線 抵抗の民衆史 森元斎(もとなお)著:東京新聞 TOKYO Web2022.9.13
を紹介しておきます。
◆松村圭一郎*26『くらしのアナキズム』(2021年、ミシマ社)

 なお、「伊藤についての著書、ドラマ」を未読、未見でこんなことを言うのも「我ながらどうか」と思いますが、「彼女の生き様」には「ある種の魅力*27」を感じますが、とはいえ「アナキズム無政府主義)」と言う思想は失礼ながら、所詮「夢想」ではないのか。「政府が歴史的に果たしてきた有害な面(例:戦前日本の国家主義)」を考えれば「無政府」という概念は俺にとって「魅力的ではある」のですが、「現実性がある」とは思えない。
 NPO、宗教団体(一部は慈善活動に従事)など「非政府組織」の価値を認めるにしても、それは「アナキズム」とは意味が違うでしょう。

*1:とはいえ、勿論「鬼滅の刃」等のような「一般的なブーム」とは言いがたいでしょうが。「一般的なブーム」なら日本も「安倍長期政権」などなく「もう少しまともな国だった」でしょう。まあ「左派、リベラル派限定」でも「伊藤再評価」は「いいことだ」とは思いますが。

*2:憲兵隊による虐殺であり、同時に殺された「内縁の夫」大杉栄の命日でもある。

*3:「ら」とは大杉と共に殺された甥・橘宗一(6歳)のことなのか、はたまた川合義虎(民主青年同盟(民青)の前身にあたる日本共産青年同盟(共青)の委員長)、平沢計七ら亀戸事件(1923年9月3日)の犠牲となった左派活動家たちか?、あるいは「その両方」か?

*4:1984年10月に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊、谷中・根津・千駄木(いわゆる谷根千)を人気スポットにさせた(なお、「谷中・根津・千駄木」は、2009年8月10日発行の93号、および同号に収録できなかった記事による特別編集の94号で終刊した)。谷根千関係の著書に『谷中スケッチブック』(1994年、ちくま文庫)、『不思議の町・根津』(1997年、ちくま文庫)、『千駄木漱石』(2016年、ちくま文庫)等。伊藤関係の著書に『42人の大正快女伝:断髪のモダンガール』(2010年、文春文庫)、『「青鞜」の冒険:女が集まって雑誌をつくるということ』(2017年、集英社文庫)、『伊藤野枝集』(編著、2019年、岩波文庫)、『聞き書き関東大震災』(2023年、亜紀書房

*5:伊藤以外では神近市子(戦後、日本社会党衆院議員)、野上弥生子(作家、文化勲章受章者)、平塚らいてう(戦後、日本婦人団体連合会初代会長、世界平和アピール七人委員会初代委員)、山川菊栄(戦後、初代労働省婦人少年局長。社会党幹部で社会主義協会代表の山川均の妻)、与謝野晶子歌人)等が参加(青鞜 - Wikipedia参照)

*6:著書『大杉榮語録』(編著、2001年、岩波現代文庫)、『大杉榮・ 自由への疾走』(2003年、岩波現代文庫)等

*7:著書『徴兵制と近代日本:1868-1945』(1996年、吉川弘文館)、『戦争の日本近現代史征韓論から太平洋戦争まで』(2002年、講談社現代新書)、『戦争の論理:日露戦争から太平洋戦争まで』(2005年、勁草書房)、『シリーズ日本近現代史(5) 満州事変から日中戦争へ』(2007年、岩波新書)、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(2016年、新潮文庫)、『とめられなかった戦争』(2017年、文春文庫)、『天皇と軍隊の近代史』(2019年、勁草書房)等

*8:著書『平林たい子』(2016年、菁柿堂)等

*9:著書『初期社会主義地形学(トポグラフィー):大杉栄とその時代』(2016年、有志舎)

*10:著書『ドイツ・アナーキズムの成立:「フライハイト」派とその思想』(2002年、御茶の水書房)、『社会運動のグローバル・ヒストリー』(編著、2018年、ミネルヴァ書房)、『平和学と歴史学アナキズムの可能性』(共著、2020年、三元社)、『アナキズムを読む:〈自由〉を生きるためのブックガイド』(編著、2021年、皓星社)、『社会運動のグローバルな拡散』(編著、2023年、論創社)等

*11:地上波でないのはやはり右翼への恐怖があるのか?

*12:左翼と言うこともないでしょうが、まあ極右ではないのでしょうね。「津川雅彦」みたいなウヨはこの種のドラマには絶対に出ないでしょう。

*13:1988年生まれ。2008年の主演映画『蛇にピアス』で日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞新人賞などを受賞。2014年上期、NHK連続テレビ小説花子とアン』でヒロイン「村岡花子」に抜擢され、同年12月31日放送の『第65回NHK紅白歌合戦』で紅組司会を務めた。2024年放送予定のNHK大河ドラマ『光る君へ』で、主人公の紫式部役を演じる。

*14:平塚以外は植村環(日本YWCA会長)、茅誠司(東大名誉教授)、下中弥三郎平凡社創業者)、上代たの(日本女子大学長)、前田多門(東久邇宮、幣原内閣文相)、湯川秀樹(京大名誉教授)

*15:1985年生まれ。2010年上期のNHK連続テレビ小説ゲゲゲの女房』(NHK)に「漫画家水木しげるの妻」をモデルにした人物として主演し、ブレイク

*16:1866~1932年。参謀本部次長、台湾軍司令官、関東戒厳司令官等を歴任。神兵隊事件に関与した安田銕之助陸軍中佐は女婿。安田元久学習院大学名誉教授(日本中世史:1918~1996年)は孫

*17:1985年生まれ。映画『教誨師』(2018年公開)で死刑囚「高宮真司」を演じ、2019年、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞

*18:1985年生まれ。1998年、映画『ズッコケ三人組 怪盗X物語』の一般公募オーディションに合格し、三人組の一人ハカセ(山中正太郎)役でデビュー。2000年、山田洋次監督映画『十五才 学校IV』の主役に抜擢

*19:1981年生まれ。2014年上期のNHK連続テレビ小説花子とアン』でヒロイン「村岡花子吉高由里子)」と同期の女流小説家「宇田川満代」役を演じてブレイク

*20:1976年生まれ。1996年に森崎博之安田顕、戸次重幸、大泉洋と共に演劇ユニット「TEAM-NACS」を結成

*21:1973年生まれ。1988年、中居正広木村拓哉森且行(後に脱退しオートレーサーに転身)、草彅剛、香取慎吾とともに男性アイドルグループ『SMAP』を結成。2010年、映画『十三人の刺客』で、暴君・松平斉韶役を演じ毎日映画コンクール助演男優賞を受賞するなど高い評価を得る。2016年、SMAP解散。2017年9月、草彅剛、香取慎吾とともにジャニーズ事務所を退所。2017年10月、草彅、香取と新事務所「CULEN(カレン)」(代表はSMAP元マネージャーの飯島三智)を立ち上げる。2020年、主演映画『半世界』(2019年公開)で高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞

*22:1903~1926年。いわゆる朴烈事件で無期懲役判決。宇都宮刑務所栃木支所で服役中に獄死。2018年11月17日、韓国政府より日本人としては2人目になる大韓民国建国勲章(愛国章)が追叙された(なお、1人目は2004年に追叙された布施辰治弁護士)

*23:1881~1911年。大逆事件連座し死刑判決

*24:東北芸術工科大学非常勤講師。著書『現代暴力論』(2015年、角川新書)、『アナキズム』(2018年、岩波新書)、『死してなお踊れ:一遍上人伝』(2019年、河出文庫)、『アナキスト本をよむ』(2020年、新評論)、『サボる哲学』(2021年、NHK出版新書)、『大杉栄伝:永遠のアナキズム』(2021年、角川ソフィア文庫)、『はたらかないで、たらふく食べたい(増補版)』(2021年、ちくま文庫)、『大杉栄セレクション』(編著、2023年、平凡社ライブラリー)等

*25:長崎大学准教授。著書『具体性の哲学:ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(2015年、以文社)、『国道3号線:抵抗の民衆史』(2020年、共和国)、『もう革命しかないもんね』(2021年、晶文社)等

*26:岡山大学准教授。著書『所有と分配の人類学:エチオピア農村社会の土地と富をめぐる力学』(2008年、世界思想社)、『うしろめたさの人類学』(2017年、ミシマ社)、『はみだしの人類学』(2020年、NHK出版)、『旋回する人類学』(2023年、講談社)等

*27:彼女に限らず、「韓国民主化金大中」「反アパルトヘイト闘争のネルソン・マンデラ」等、信念に生きた人間一般に感じる魅力ですが