新刊紹介:「前衛」1月号(追記・訂正あり)

 「前衛」1月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは1月号を読んでください)

■公開連続セミナー「マルクスは生きている:第1回・大学時代にマルクスが必読な理由」(不破哲三
(内容要約)
・東大駒場キャンパスで行われた不破氏の講演の収録。第2回は次号に収録。
・不破氏が資本主義には少なくとも3つの災厄(貧困と格差、恐慌、環境問題)があるとして何らかの改革が必要と講演したことは興味深い。もちろん不破氏の場合、「導きの糸」はマルクスの訳だが、問題意識を同じくする人とは出来る限り協力していくというのが不破氏の立場だろう。

■水戸正男「国民運動の発展が情勢を切りひらく」
(内容要約)
・総選挙で野党勝利、自公下野は新たな情勢を作り出している。
・しかし、以下のような問題があり楽観視は出来ない。
 後期高齢者医療制度廃止について民主党は先送りの立場を示している。
 行政刷新会議事業仕分けには本当のムダ(軍事費、公共事業等)に切り込まず、必要なモノ(福祉、教育等)へ不当に切り込んでいる疑いが強い。
 新政権に消費税増税の動きがある。
 財界がCO2削減方針や派遣規制の動きに対して巻き返しを狙っている。
 沖縄の基地県外移設について岡田克也外相が否定的な発言を繰り返している。
・政治の変革には国民の運動が何よりも大切である。(筆者は「財界中心」「日米安保絶対」の立場を「2つの政治悪」と表現している)

赤嶺政賢沖縄県民の願い=”基地撤去”の立場でアメリカと交渉こそ」
(内容要約)
・基地県外移設こそが沖縄県民の願い。民主党岡田克也外相の態度(県内移設もあり得る)は県民の願いを踏みにじるモノであり許せない(公約違反でもある)。
・1/24投開票の名護市長選での勝利がまず大切。候補者統一が出来たことは良かった。
(当初、共産党は比嘉靖氏の擁立を目指していた。共産曰く、基地移設問題に対する稲嶺進氏(前・市教育長。民主、社民、国民新党沖縄社会大衆党が擁立)の態度が曖昧だったからだそうである。しかし、政策合意が出来たため稲嶺氏での一本化が成立した。現職の島袋吉和氏(自民、公明)との一騎打ちの見込み)

■佐々木勝吉「新政権『25%削減』中期目標の確実な達成に何が必要か」
(内容要約)
・新政権が麻生政権と違い、CO2削減に積極的なことは評価できる。
・『25%削減』を実現するためには次のことが必要であろう。
 産業界と政府との間で公的協定を結び、削減を義務化する。ヨーロッパで一定の成果を上げている方策である。
 エネルギーは化石燃料(石油、石炭、天然ガス)から、いわゆる再生可能エネルギー太陽光発電風力発電水力発電地熱発電など)に移行する。
 国内排出量取引制度の導入。
 環境税の導入。

■渡辺健「狂いが生じた財界戦略」
(内容要約)
・財界(特に日本経団連)は御手洗体制の元、自民党べったりの立場をとり続けた。今回の民主大勝に財界は混乱状態にある。
・とは言え財界も手をこまねいているわけではなく注意が必要。行政刷新会議メンバーなどには財界人がいるのだから。

(例)
行政刷新会議メンバー
稲盛和夫氏:
京セラ名誉会長。民主党自由党の合併を斡旋したと言われる小沢一郎民主党幹事長に近いと言われる財界人。
茂木友三郎氏:
キッコーマン会長。経済同友会終身幹事。21世紀臨調共同代表。行政支出総点検会議(福田康夫政権)座長。

日本郵政社外取締役(留任)
奥田碩
トヨタ自動車相談役。元・日本経団連会長。元経済財政諮問会議議員。
西岡喬
三菱重工相談役。奥田経団連時代の日本経団連副会長。

■特集「『居場所』:連帯、成長、行動への確かな力」
 巧く、内容が要約できなかったのでタイトルのみ紹介。
・斉藤嘉久「生きづらさに深くこたえ、民青同盟の前進へ」
中西新太郎「若者の生活や経済的な困難と『声に出せない』苦しさ」
佐貫浩「子ども・青年の傷つきの場としての学校を組み替える」

 若者の生きづらさをどう解決するかがこの特集のテーマである。「民青同盟」云々はちょっと手前味噌の気もするが(笑い)。
 なお、赤旗Q&Aに『民青同盟の「居場所の力」とは?』(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-12-05/2009120512_01faq_0.html)があるので参考までに紹介。

■論点
【「無謀な大規模開発を狙う大阪府庁舎移転」(小松ひさし)】
(内容要約)
・筆者は日本共産党大阪府議。この論文は橋下徹大阪府知事が強行しようとしている府庁舎移転計画を「税金の無駄遣い」「交通アクセスが移転予定地は悪すぎる」と批判している。
・移転は否決されたもののWTC(ワールド・トレーディング・センター)ビルの買収予算は通過した。賛成した会派には怒りを覚える。橋下府知事が再度、移転案を提出する恐れがありいささかの油断も出来ない。*1

【「研究を弱体化させる農林水産技術会議の廃止」(小倉正行)】
(内容要約)
・新政権は農林水産技術会議の廃止を打ち出している。しかしコレは農業の軽視ではないのか?。小泉構造改革的な目先の利益しか考えていないのではないのか?
・農林水産技術会議は農林水産省設置法に根拠があるため、法改正の必要がある。会議廃止の法改正案が提出されたら廃案を目指し共産党は全力で闘う。(さすが、建設的野党!。感動した!)

■暮らしの焦点
【「多重債務者問題の解決にいま何が必要か」(本多良男)】
(内容要約)
・まずは改正貸金業法の完全施行が必要。竹中平蔵氏ら一部の人間は、「かえって闇金が蔓延する」「貸し渋りが増える」などとデマを飛ばし施行延期を唱えているが全く許し難い。(竹中氏らは恥という言葉を知ればいいのに)
・多重債務の背景には貧困がある。セーフティーネット生活保護、低金利の公的融資など)の充実が必要。
・もちろん闇金など違法行為の捜査当局による撲滅も必要。
・近年、債務過払いを解決するという弁護士と債務者の間でトラブルが多発している。債務者の誤解もあるが、悪質な弁護士がいることも事実であり、弁護士会の適切な懲戒が期待される。また、トラブルが発生しないよう、弁護士会によるガイドラインの整備も考えられる。

■文化の話題
【美術:日本初のケントリッジ個展(北野輝)】
(内容要約)
・日本初のウィリアム・ケントリッジ展覧会の紹介。詳しくは下のサイト(京都国立近代美術館)を参照。
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2009/376.html

■スポーツ最前線「女子フィギュアスケート:技術、芸術性を高めて挑む」(辛仁夏)
(内容要約)
浅田真央*2キム・ヨナの2強を中心に選手紹介(2強の他に、日本女子の有力選手として安藤美姫中野友加里村主章枝鈴木明子を紹介)。

【3/3追記】
この記事で紹介された選手の結果は次の通り。
キム・ヨナ:金メダル
浅田真央:銀メダル
安藤美姫:5位
鈴木明子:8位(オリンピック女子フィギュア日本代表は以上の3人のみ)

なお、以下の産経記事によると中野友加里選手は今期限りで現役引退の意向だという。
産経新聞「【フィギュア】中野が引退へ 故障で世界選手権も欠場」
http://sankei.jp.msn.com/sports/other/100303/oth1003032127006-n1.htm

■メディア時評
【新聞:普天間問題と日米会談をめぐって(金光奎)】
(内容要約)
沖縄県民集会をベタ記事でしか報じない全国紙には呆れる。筆者曰く、産経に至っては報道すらしなかったらしいが(沖縄無視が半端ないな、産経。産経はいつもみんなの期待を裏切らない!)。
・全国紙のうち朝日、毎日は沖縄への配慮を求めているが、この二紙にしても県外移設を強く主張しているわけではない。地方紙の良識(北海道新聞信濃毎日新聞中国新聞琉球新報沖縄タイムス)とはえらい違いである。
 特にヒドイのが筆者曰く「今年中に決着しろ」(もちろんアメリカの言いなりで)と言う読売だそうである。着々と進む、読売の産経化?。

【テレビ:司法に切り込む二つの番組(沢木啓三)】
(内容要約)
東海テレビ(フジテレビ系)の「検事のふろしき」と中京テレビ(日本テレビ系)の「法服の枷:沈黙を破った裁判官たち」の紹介。
・「検事のふろしき」をつくったチームは過去にも、再審請求がなされている名張毒ブドウ酒事件*3をとりあげた「重い扉」「黒と白」、犯罪被害者の遺族でありながら死刑反対運動に関わる原田正治氏を取り上げた「罪と罰」や光市母子殺人事件を取り上げた「光と影」などで意欲的なドキュメンタリーを作成しているとして注目されているという。
・「検事のふろしき」では「検事」の日常生活を軽いタッチで描いたモノ。検察の協力を得ている以上、検察批判は特にない。検察万歳モノと誤解される恐れがあるわけで、筆者に対し製作サイドは「普段、報道されない検察の日常を描くことはそれ自体に意味があると思った」旨、語るとともに、そのあたりの悩みを口にしたという。(過去の作品を考えれば検察万歳の立場の人間ではないだろうが。ちなみに筆者曰く警察には広報課があるのに検察にはそうしたモノはないらしい。次席検事イコール広報担当とのこと。へえ。)
・「法服の枷」は、長沼訴訟で自衛隊違憲の判決を出した福島重雄氏、戸別訪問禁止の公職選挙法規定を違憲とする判決を出した安倍晴彦氏ら、最高裁に逆らったがためにひどい目にあわされる判事たちが主人公である。本当、最高裁判所ってのは最低だな!*4

■本棚
【牧俊太郎「司馬遼太郎坂の上の雲』なぜ映像化を拒んだか」(近代文藝社)】
・書評によれば著者は司馬が映像化を拒んだ理由は、晩年、「坂の上の雲」に違和感を感じていたからではないかと見ているようだ。歴史学の進展もあり、過去の自らの著作に違和感を覚えながらも、ファンの気持ちを考え、絶版にするわけにもいかず、もやもやしたモノを司馬は感じていたと言うことだろうか?

【宮川彰「『資本論』Q&A・222問」(ほっとブックス新栄)】
・わかりやすく面白いQ&A本だったら買ってみようと思う。そのうち、美和書店にでも並ぶだろう。

■シリーズ「『韓国』併合百年と日本の進路」
【荒井信一「『保護国化』から『併合』へ」】
(内容要約)
・筆者は歴史学者、日本の戦争責任資料センター代表。著書に「戦争責任論」(岩波現代文庫)、「空爆の歴史」(岩波新書)等がある。
・日本の韓国『保護国化』から『併合』に至る過程の説明と評価。

■小野秀明「『自然弁証法』の自然観と現代科学の探究(下):『小林・益川理論』への道」
(内容要約)
・12月号「『自然弁証法』の自然観と現代科学の探究(上):20世紀の物理学の画期と湯川、坂田理論」の続き。

四.小林・益川理論と六元クォークモデル

 1964年に発見された「CP対称性の破れ」を説明した理論が、1973年に発表された小林・益川理論(この功績で、小林、益川は2008年ノーベル物理学賞を受賞)である。この理論で、小林、益川はクォークが6つあると仮定すれば「CP対称性の破れ」は説明できるとした。当時クォークは6つもあることは確認されておらず大胆な理論だったと言える(6つ目のクォークが実際に確認されたのはこの論文によれば1995年)。

*1:橋下みたいなバカを知事にしてるなんて大阪は最悪だな。まあ、私の住む関東も石原慎太郎都知事松沢成文神奈川県知事、森田健作千葉県知事、上田清司埼玉県知事、山田宏杉並区長、中田宏・前横浜市長と、歴史修正主義を支持するなどのトンデモが多いので人のこと言えないが(自爆)。

*2:日本のエースだそうだ。へえ、知らなかった。

*3:名張毒ブドウ酒事件については江川紹子名張毒ブドウ酒殺人事件・六人目の犠牲者」(新風舎文庫)を参照。ちなみに、この本のアマゾンレビューはまともなのもあるけど、星一つで江川を「カルト信者」信者呼ばわりしてるのがあるのには呆れた。だからアマゾンレビュー嫌いなんだよ。バカじゃねーの。

*4:福島氏には「長沼事件・平賀書簡」(共著、日本評論社)、安倍氏には「犬になれなかった裁判官」(NHK出版)と言う著書がある。