新刊紹介:「前衛」4月号

 「前衛」4月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
 http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは4月号を読んでください)

■寺沢亜志也「日本経済のゆがみをただす道はどこにあるか」
(内容要約)
・大企業のみが儲かり国民には利益が回ってこない、それが今の日本経済のゆがみである。
・この状況を変えるには、「企業に内部留保をはき出させること」(法人税増税)、「非正規から正規への雇用の転換」(労働者派遣法の抜本改正)、「下請けイジメの是正」が必要である。

■上脇博之「小沢氏の政治資金問題が問う企業・団体献金禁止と政党のあり方」
■三浦誠、山本豊彦「民主党・小沢氏をめぐる事件・疑惑を追う」
(内容要約)
・どちらも小沢氏の疑惑に対する批判(政治・団体献金の廃止問題等についても若干触れているが)。政治資金収支報告書虚偽記載、水谷建設ヤミ献金疑惑、西松建設「天の声」疑惑と言った疑惑は徹底追求されてしかるべき。もちろん鳩山脱税疑惑、小林北教組疑惑の追及も大事。
・なお、三浦、山本論文(二人ともしんぶん赤旗記者)から一部興味深いところを引用。

 ヤミ献金疑惑について、一部の識者などから疑問の声が出ているので少し触れておく。
 ヤミ献金を渡した当事者が水谷建設元会長の水谷功受刑者であると誤解して、水谷受刑者の過去の事件での証言などに触れ、信ぴょう性が低いなどと言っている。証言の信ぴょう性は、過去の犯罪歴ではなく、事件の具体的事実に即して議論されるものであることは言うまでもないが、そもそも「赤旗」日曜版は、水谷受刑者のみの証言によって報道しているのではない。日曜版の記事では、ヤミ献金を渡した当事者は水谷建設幹部であると書いている。取材源の秘匿のために詳しくは言えないが、日曜版編集部はこのヤミ献金の授受に直接かかわった水谷建設関係者への取材にもとづいて疑惑を指摘している。
 同時に二回目と陣中見舞いとしてのヤミ献金の授受には、水谷建設幹部以外の第三者も同席していた。この第三者は、関西地方に本社がある建設会社の社長で、水谷建設幹部の依頼を受け、この幹部を大久保被告に紹介した人物である。水谷建設幹部が大久保被告と議員会館や料亭などで会った際にも同席していたことがあった。
 これらの水谷建設関係者の証言は、ヤミ献金授受の疑いが濃いことを示している。

 小沢氏の疑惑を追及する日本共産党にたいして、一部で「司法権力の片棒担ぎ」などと攻撃する議論がでている。このような議論は的外れであるばかりか、結局、疑惑追及をやめろといっているにひとしく、金権政治擁護に通じるものだ。
 一連の「赤旗」報道について最後に大手新聞社の幹部の話を紹介させていただきたい。


「うちも含めて今回の小沢問題について多くのマスコミは動揺しながら報道していた。鳩山内閣の支持率が高い時には、躊躇した。しかし、「赤旗」や共産党民主党政権への見方がはっきりしていたこともあり、最初からきちんとしたスタンスを持って鋭く、正確な報道をしていた。取材力も含めてすごい新聞だと思った。」

■座談会「「核兵器のない世界」へ世論の発展を」(小松民子、土田弥生、西川香子、来住新平、川田忠明)
(内容要約)
 5月に開催されるNPT再検討会議を前に平和活動家の皆さんが討論。オバマ核廃絶演説、それに対するノーベル平和賞で、核廃絶運動には追い風が吹いている。これをどこまで成果に出来るか、平和運動の力量が問われている。
・鳩山新政権の核廃絶問題を巡る態度が気になるところ。

■《シリーズ》安保改定50年―日本の異常をただす
【本秀紀・名古屋大学教授に聞く「50年目に問う憲法と安保の相克」】
小沢隆一「軍事同盟のないアジアをどう展望するか」】
(内容要約)
・安保の存在が憲法と矛盾する政治(米軍基地被害など)という不幸な日本の現実を生んでいる。この状況をどう変え、アジアとの信頼関係を気づいていくか、日本の民主主義の真価が問われている。

■筒井晴彦「公務員の労働基本権の国際基準はなにか」
(内容要約)
ILOは公務員の労働基本権に関し次のような勧告を行っている。日本政府はいい加減勧告に従ったらどうなのか。
※消防職員に団結権を付与すること
※地方公務員労組における登録制度を修正すること
※公務員労組が専従役員の任期を自ら決定できるようにすること。
※「国家の運営に直接関与しない公務員」にスト権を付与すること
※労働基本権を剥奪されている職員への充分な代償の手続きと機関を設立すること
※スト権の行使に対し民事、刑事罰を科さないよう法令を改正すること

■山口富夫「マルクスエンゲルスと現代を結ぶ歴史的探究」
(内容要約)
不破哲三氏の新著「マルクス・エンゲルス革命論研究」の紹介。

■金子豊弘「国際的な金融取引税創設へ強まる動き」
(内容要約)
・投機を抑制するための国際的な金融取引税(いわゆるトービン税)創設についての動向の紹介。

■対談「日本経済の健全な発展への道」(山家悠紀夫、大門実紀史
(内容要約)
・山家氏は第一勧銀、神戸大学教員を経て、現在、在野のエコノミスト。大門氏は共産党参議院議員
・内容は小泉構造改革とそのバックボーンである親自由主義批判。かなりの部分が本号の寺沢論文とかぶる。
・なお、山家、大門両氏とも鳩山氏は当初、小泉改革を絶賛していたとして、民主党への監視の目をゆるめるなと警告している。

■論点
【本吉真希「シベリア抑留への補償と謝罪をただちに」】
(内容要約)
・一日も早いシベリア抑留者への国としての謝罪を補償を行うべきだとする内容。民主党は野党時代「シベリア抑留者救済法案」を出しているのだから出来ないことはないはずである。

【6/2追記】
・全会一致で法案は成立したようで喜ばしい。喜ばしいのだが、だったら何故、民主が野党時代に出した法案に反対だけして修正案も出さなかった自公、と批判せざるを得ない。

【はむろおとや「新段階を迎えた難病対策」】
(内容要約)
・政府の難病対策の充実を求めるという内容。鳩山政権の2010年度概算予算では当初100億円の予定が75億円と削られたのを巻き返しで100億円維持させたそうである。運動の大切さと鳩山民主党の冷たさがよく分かる。

■くらしの焦点
【萩原量吉「シャープ亀山第一工場売却が示す企業誘致の失敗」】
(内容要約)
・筆者は共産党三重県議。
三重県補助金までつけて誘致した亀山第一工場をシャープはペイしないとして、県に対する相談もせずに中国企業CECパンダ」に売却することを決定した。
・シャープ誘致を共産は意義に乏しいのではないかと批判していたがシャープの勝手な撤退によりその正当性が皮肉かつ不幸な形でだが証明された。
・県はまずシャープに補助金の返還を求めるべきである。

■メディア時評
【新聞:消費税増税を賛美・容認する新聞(金光奎)】
(内容要約)
・日本の新聞の多くは全国紙であれ、地方紙であれほとんどが消費税増税を政府に煽っている。何という品格の低さよ。

【テレビ:テレビ局の経営難と放送現場の労働実態(沢木啓三)】
(内容要約)
・日本のキー局の収入は厳しい状況にある(特にTBSがひどいという)。多くの局が放送外収入(映画などのコンテンツビジネス、汐留シオサイト、赤坂サカス、六本木ヒルズなどの不動産事業)で何とか苦境をしのいでいる状況にある。
・このような中、コストカットのため、放送局でも派遣など非正規労働者が増えている。
・しかし、その結果、様々な問題(番組制作のノウハウが巧く継承されないなど)が起こっているのではないか。

■文化の話題
【音楽:「ロサンゼルスの〈エル・システマ〉」(小村公次)】
(内容要約)
ベネズエラの音楽教育運動〈エル・システマ〉で育った指揮者のグスターボ・ドゥメダル(ロサンゼルス・フィル音楽監督)がロサンゼルスで〈エル・システマ〉流による音楽教育を行い一定の成果を上げているという話。

【美術:「縄文のビーナスたち」−「国宝・土偶展」(北野輝)】
(内容要約)
東京国立博物館で2/21まで開催されていた「国宝・土偶展」の紹介。

【写真:「カメラに平和への思い託して」(関次男)】
(内容要約)
・浅見裕子氏の写真集「白線流し」(JRP*1出版局)の紹介。

参考「ウィキペディア白線流し」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E7%B7%9A%E6%B5%81%E3%81%97
白線流しとは毎年、卒業式の日に卒業生たちが学帽の白線とセーラー服のスカーフを一本に結びつけ川に流す行事。例年ならば3月1日に岐阜県高山市にある岐阜県立斐太高等学校*2において、学校前を流れる大八賀川において行われ、70年以上の伝統をもつ。
 白線流しという行事が全国的に知れ渡ったのは1992年3月29日にフジテレビで放送された「別離(わかれ)の歌〜飛騨高山の早春賦・『白線ながし』〜」であった。同年に卒業式を迎える斐太高校3年G組の生徒達を追ったドキュメンタリー番組である。*3

■スポーツ最前線
【武田祐一「大相撲・どうなる組織改革」】
(内容要約)
朝青龍の引退劇について。一般人への暴力行為は許されるものではないと朝青龍を非難した上で、協会の対応にも問題があったのではないかと批判(以前から色々と批判されていた朝青龍を早い段階でちゃんと指導しておけばこんな事にはならなかったのでは?、という意味)。
貴乃花親方の理事当選について。一門の談合で選挙結果がやる前から分かっている状況が変わったことは評価できる。しかし、貴乃花親方の力量は未知数であり(と言うか改革を叫ぶだけで彼の具体策は不透明だった)、協会がどう変わるかはまだ何とも言えない(協会が彼の改革を受け入れるかという問題もある)。
 たぶん、貴乃花親方の理事当選とは関係ないと思うけど協会は彼の理事当選後にこんな事やってネットで「差別」と非難浴びてるしねえ(その非難は私も当然だと思う)。

はてなブックマーク帰化でもダメ、外国力士「1部屋1人」徹底通達:大相撲:スポーツ:YOMIURI ONLINE(読売新聞)」
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.yomiuri.co.jp/sports/sumo/news/20100223-OYT1T01095.htm

宮地正人国立歴史民俗博物館前館長に聞く「未来を見つめるために近現代史を学ぶ」】
(内容要約)
・「日本近現代史を読む」(新日本出版社)の監修者である宮地氏へのインタビュー。

■シリーズ「『韓国』併合百年と日本の進路」
山田朗日露戦争とはどういう戦争だったのか(上)」】
(内容要約)
日露戦争においてイギリスの存在は重要である(イギリスは日本を極東の憲兵として利用するため日本の側に立った。日英同盟の締結はそう言う意味がある)。
・イギリスはまず日本が発行した戦争国債を買ってくれた。また日本の主力戦艦はイギリス製である。またイギリスは英仏協商を結び、フランスがロシア全面支援をしないよう露仏協商にくさびを打った。こうした協力があって日本はロシアに勝てた。
・ただしイギリスも善意でやってるわけではないので、日本海海戦勝利後、アメリカとともに講和斡旋を始めることとなる(日露引き分けみたいな形で片をつけた方が日本、ロシア双方に恩が売れる)。
・なお、後にイギリスは英露協商を、日本は日露協約を結ぶので別にイデオロギー的にロシアと対立しているわけではなく、もろにパワーポリティクスの論理である。

■後藤寛「ビラ配布は国民の権利―最高裁判決の不当性」
(内容要約)
・政治ビラ配布を住居不法侵入で有罪とした最高裁判決(しかも大法廷じゃなくて小法廷!)への批判。

レッドパージ反対全国連絡センター第5回総会でのあいさつ
市田忠義「名誉回復、国家賠償の要求実現に全力」】
【橋本敦「一日も早く歴史のあやまちを正す日を」】
(内容要約)
レッドパージ反対全国連絡センター第5回総会でのあいさつ紹介。最高裁レッドパージ訴訟で冷たい態度をとり続けたのは、最高裁マッカーサーの命令に従い、裁判所職員のレッドパージを実行した共犯者だったからであるという指摘は重要だと思う。
レッドパージについては塩田庄兵衛「レッドパージ」(新日本新書)、三宅明正「レッドパージとは何か」(大月書店)、平田哲男「レッドパージの史的究明」(新日本出版社)などが詳しい)

参考
市田忠義HP「レッドパージ反対全国連絡センター第5回総会でのあいさつ」
http://www.t-ichida.gr.jp/html/menu1/2009/20091117155943.html

歴史の過ちを正す日を/レッドパージの勝利めざして・橋本敦弁護士【兵庫民報】
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/138.html

*1:日本リアリズム写真集団(http://www.jrp.gr.jp/)の略称

*2:もちろん、浅見氏は斐太高の卒業生

*3:後にフジでドラマ「白線流し」が作成されるが場所は長野県松本市に変更されている。