新刊紹介:「経済」5月号

【前振り】
・「経済」は「科学的社会主義経済誌」を名乗っていることから分かるように、マルクス経済学には好意的で、過去にも何度かマルクスを前面に出した特集を行っています。
(詳しくはバックナンバー紹介を参照:http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/backcopies/

(例)
経済2005年10月号
小田実*1×上田耕一郎*2対談」
経済2004年1月号
鶴見俊輔*3×上田耕一郎対談:縦横に語るマルクス主義とプラグマチズム」
経済2003年1月号
特集「21世紀の『資本論』研究」
経済2002年10月号
特集「『日本資本主義発達史講座』*470周年」
経済2002年6月号
特集「新メガ*5の研究」

・特にこの時期(4月。但し雑誌の号数は5月号ですが)は大学入学シーズンと言うこともあってか、「マルクス経済学のすすめ」を銘打った企画がなされることが多いです。
(もちろん「経済」の読者対象は大学生だけではありませんし、どれほどの大学生が読んでいるか分かりませんが)
(例)
経済2009年5月号
大特集「マルクス経済学のすすめ」
経済2008年5月号
大特集「マルクスの経済学のすすめ」
経済2003年5月号
マルクス没後120年・総特集「21世紀にマルクスを読む」

参考「マルクス Bon appetit!」http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/blog/
・なお、「ネットの「立ち読み」コーナー」(http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/blog/?p=474)によれば、5月号のうち「目次」と「平野喜一郎さんに聞く 今こそ!『資本論』」(計11頁分)だけは「立ち読み」が出来るという。
個人的には、「大学教員・研究者22人からの経済学のすすめ」から11頁分の方が様々なタイプの文章が読めて良いと思うが(平野氏の文章が悪いとは言わないが、合わない方もいると思うので、22人の研究者の方の様々な文章を紹介した方が良かったのではと思う)。

【本論】
 以下、私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは5月号を読んでください)
「経済」5月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

■大特集「マルクス経済学のすすめ 2010」
【大学教員・研究者22人からの経済学のすすめ:「私が薦める三冊」つき】
(内容要約)
 22人の方のおすすめの3冊を解説抜きで紹介(22人が紹介された本がだぶる場合は、最初にその本を紹介した方のみ紹介。なお、中には「本」といえない「論文」もあるが)
 また、マルクスについて書いた著書がある方は参考にその著書も紹介する。

・足立浩氏
マルクス「賃労働と資本」「賃金・価格・利潤」(大月書店)、エンゲルス「空想から科学へ」(岩波文庫他)

・有井行夫氏:
著書「マルクスの社会システム理論」(有斐閣
おすすめの本
マルクス資本論」(新日本出版社他)、「ユダヤ人問題によせて」(マルクスエンゲルス全集(大月書店)収録)、ドーア「誰のための会社にするか」(岩波新書

・一ノ瀬秀文氏
門井文雄「理論劇画・マルクス資本論」(かもがわ出版)、河上肇「第二貧乏物語」(新日本出版社)、山田盛太郎「日本資本主義分析」(岩波文庫

井上宏
犬丸義一・山田敬男「社会発展史」(学習の友社)、井上宏「現代企業の労働と管理」(ミネルヴァ書房)、「多国籍企業とグローバル戦略」(中央経済社

・岩佐茂氏
マルクス「経済学・哲学手稿」(岩波文庫他)、「ドイツ・イデオロギー」(エンゲルスとの共著、新日本出版社他)

上田慧
レーニン帝国主義論」(光文社古典新訳文庫他)、ユシーム「インナー・サークル」(東洋経済新報社)、上田慧「巨大企業体制の再編成」(横田編「アメリカ経済を学ぶ人のために」(世界思想社)収録)

・岡田知弘氏
吉野源三郎君たちはどう生きるか」(岩波文庫

・金子貞吉氏
重田澄男「資本主義を見つけたのは誰か」(桜井書店)、井村喜代子「現代日本経済論」(有斐閣)、高田太久吉「金融恐慌を読み解く」(新日本出版社

・後藤康夫氏
内田義彦「資本論の世界」(岩波新書)、ジジェク大義を忘れるな」(青土社

・小西一雄氏
久留間鮫造・玉野井芳郎「経済学史」(岩波書店)、モスト著(マルクス改訂)「マルクス自身の手による資本論入門」(大月書店)

佐藤博明氏
トーマス・マン「トニオ・クレエゲル」(岩波文庫)、エンゲルス「家族・私有財産及び国家の起源」(岩波文庫他)、都留重人「市場には心がない」(岩波書店

・高原一隆氏
香山リカ「10代のうちに考えておくこと」(岩波ジュニア新書)、安斎育郎「だまし博士のだまされない知恵」(新日本出版社)、宇沢弘文内橋克人「始まっている未来」(岩波書店

・永山利和氏
エンゲルス「猿が人間になるにあたっての労働の役割」(国民文庫)、永山利和編「政策づくりに役立つ自治体公共事業分析」(自治体研究社)

・尼寺義弘氏
著書「ヘーゲル推理論とマルクス価値形態論」(晃洋書房
おすすめの本
ルソー「人間不平等起源論」(岩波文庫

・長谷川義和氏
森岡孝二「貧困化するホワイトカラー」(ちくま新書)、久留間健「資本主義は存続できるか」(大月書店)

・日野秀逸氏
著書「マルクス・エンゲルスレーニンと協同組合」(本の泉社)
おすすめの本
エンゲルス「反デューリング論」、「イギリスにおける労働者階級の状態」(新日本出版社他)

・福島利夫氏
エンゲルスフォイエルバッハ論」(岩波文庫他)、堤未果「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書)、森岡孝二「働きすぎの時代」(岩波新書

・藤岡惇氏
アイスラー「ゼロから考える経済学」(英治出版)、ブラウン「プランB3.0」(ワールドウォッチジャパン)、スティグリッツ「フリーフォール」(徳間書店

・保立道久氏
ブローデル「歴史入門」(中公文庫他)、大塚久雄「共同体の基礎理論」(岩波書店

・前畑雪彦氏
久留間鮫造「価値形態論と交換過程論」(岩波書店)、「増補新版恐慌論入門」(大月書店)、久留間鮫造編「マルクス経済学レキシコン・貨幣1−5」(大月書店)

・宮川彰氏
著書「『資本論』第2・3巻を読む」(学習の友社)、「再生産論の基礎構造」(八朔社)
おすすめの本
野崎昭弘「詭弁論理学」(中公新書)、飯田経夫「経済学の終わり」(PHP新書

・屋嘉宗彦氏
著書「新版マルクス経済学と近代経済学」(青木書店)
おすすめの本
ウェーバー社会主義」(講談社学術文庫)、井村喜代子「世界的金融危機の構図」(勁草書房

なお、このほかにも以下の本が有益な本として紹介されている。

不破哲三マルクスは生きている」(平凡社新書
・見田石介「資本論の方法」(大月書店)

【「「資本論」を学ぶ5つの心得」(金子ハルオ)】
(内容要約)
・5つの心得のうち4つはうまく説明できそうにないので1つだけ紹介。
・心得その2:
「賃労働と資本」「賃金・価格・利潤」はマルクス本人が書いた「資本論」の入門書として、使える。

■座談会「崖っぷちの仲間とともに 孤立のり越え、政治を動かす」(須藤武史、木村俊二、大門実紀史
(内容要約)
・須藤氏は首都圏青年ユニオン所属で「今、洋麺屋五右衛門と裁判で争っています」と座談会で語っている。つまり最近、勝訴した方ですね。

参考:赤旗洋麺屋五右衛門に残業代支払い命令・東京地裁・バイトの働かせ方悪質」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-04-08/2010040801_02_1.html

・木村氏は札幌ローカルユニオン「結」書記長。大門氏は日本共産党国会議員。お互いの経験を元に派遣法の抜本的改正等、「ルールある経済社会」を作るための取り組みを訴えている。

■工藤晃さんに聞く「世界経済危機分析の視角:新著『資本主義の変容と経済危機』によせて」
(内容要約)
・今回の経済危機の直接の原因は金融バブルの崩壊である。金融バブルが再発しないよう一定の規制が必要である。

■新刊紹介
 紹介文を一部引用する。

【「東京12チャンネル闘争」編集委員会「非正規時代への伝言・財界テレビと闘う」(東銀座出版社)】
 まず前振り。東京12チャンネルとNET(日本教育テレビ、今のテレビ朝日)は、元々教育専門局だったため視聴率が取れずすさまじい赤字状態だった。そのため、「教育専門局から一般局に変更」するとともに、東京12チャンネルは日経グループが、NETは朝日グループが経営に本格的に乗り出すことによって、経営が改善されたのである。

1966年3月、(中略)財界(日本科学技術振興財団)の肝いりで開局した東京12チャンネル(現・テレビ東京)で、人員整理はしないと定めた労働協約を破って強行された、182人の労働者に対する指名解雇。本書は4年の闘争で16名の社員の解雇撤回・職場復帰と、契約社員1名の契約解除撤回を勝ち取った闘いのドキュメントです。
 (中略)
 大企業による不当な解雇が横行する現在、この戦いは今日性ある「伝言」として立ち現れてきます。

【日野秀逸「民主党の医療政策は」(自治体研究社)】

 後期高齢者医療制度廃止の先送りなど、民主党政権の重大な公約違反が明らかになった現在、「いのちと健康の大運動」が重要であり、その運動の前進に多くの示唆を与えてくれます。

■日本の空はどうなるか(下)
【「空港はなぜ乱造されたのか」(山田明)】
(内容要約)
・一部文章を引用。なお、結局乱造された理由は「利権」なんだろうね。そして、乱造を推進するシステムとして空港建設の特別会計などがあって、今すぐ改正する必要があると。なお、本論文では、入手しやすい最近の空港問題の著作として、森功血税空港」(幻冬舎新書)をあげている。

 なぜ地方空港が乱造されてきたのか。「読売新聞」(2010年1月23日付)は日航の経営幹部OBの「需要のあるところに空港を造ったんじゃなくて、空港を作るために需要を創り出したんだから」という体験を紹介している。東北地方のある空港建設に携わった時のこと。はじき出した需要予測は「国内線は年15万人、国際線は最大で年5万人」。ところが、当時の運輸省の幹部から面罵された。「ばか野郎、こっちは空港を作るための数字がほしいんだよ。80万とか100万で持ってこい」。

・ムダな空港を二度とつくらないのは当然だが、つくってしまった空港をどうするかも重大な問題である。廃港にするにせよ、存続させた上で何とか黒字にするにせよ厄介な問題ではある。

【「アメリカのオープンスカイ戦略と日本」(河原葵)】
(内容要約)
・うまくまとめづらいが、オープンスカイ戦略(航空事業の自由化)自体はサービス向上につながる可能性があるので大筋では支持するが、最近問題になった「スカイマークの不祥事」のようなことが起こらないよう、注意が必要というのが本論文の結論だろうか。

■山口孝さんに聞く「大企業の内部留保と経済危機」
(内容要約)
・ベタではあるが大企業はに内部留保をもっと社会に還元すべきという批判。

■質問・疑問に答えます「需給ギャップとは何か?」(工藤昌宏)
(内容要約)
需給ギャップとは需要と供給のギャップのこと。たとえば需要が供給を上回っている場合は、需給ギャップはプラスとなり好景気(なお、好景気もあまり度が過ぎるとインフレになるという問題がある)。逆の場合は、需給ギャップはマイナスになり不景気になる。需給ギャップをどうコントロールするかと言うことは経済政策の問題の一つである。

*1:故人。作家。べ平連や九条の会など市民運動でも活躍

*2:故人。日本共産党幹部。同じく党幹部の不破哲三氏は実の弟

*3:哲学者。べ平連や九条の会など市民運動でも活躍

*4:野呂栄太郎服部之総羽仁五郎・平野義太郎・山田盛太郎らを中心にマルクス主義理論家を結集して発刊された日本の資本主義の総合的研究。『講座』の執筆者は俗に「講座派」と呼ばれた。(ウィキペディアを参照)

*5:メガは「マルクス・エンゲルス全集」の略称。従来のメガ(旧メガとも呼ばれる)はソ連の影響力が強いときにソ連主導で編集されたため問題があるとの認識の基現在編集されているのが新メガである