新刊紹介:「経済」10月号

 「経済」10月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは10月号を読んでください)

■巻頭言「呪縛の言葉」
(内容要約)
・取り上げられている呪縛の言葉は「抑止力」。純粋な「抑止力」などないというのは全く当然の指摘。軍事力が「抑止力」になるか「侵略力」になるかは意思の問題であるから。
 また抑止力というのは相手の軍事力より上回っている必要があるため、それは結果として軍拡競争を産むことにもなりかねない。長い目で見れば外交努力による軍縮こそが王道である。

■随想「禁演落語と国策落語」(柏木新)
(内容要約)
禁演落語と国策落語の紹介。こうした行為は愚行であり、これだけでもあの戦争がまともなモノではなかったことは明白だろう。

【参考】
赤旗「よみがえる「禁演落語」、戦時中に封印「心に留めてほしい」、立川談之助さん全席公演へ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2009-09-24/2009092414_01_1.html

東京新聞「戦時下自粛・供養の『はなし塚』、禁演落語大いに笑う」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20100901/CK2010090102000027.html

とだ九条の会blog「「禁演落語」と「国策落語」」
http://toda9jo.no-blog.jp/network/2010/09/post_1ad6.html

■世界と日本
【「出口の見えない米国経済(合田寛)】
(内容要約)
 米国経済の不況からの出口が見えない中、オバマ政権は輸出増をもくろみ円高・ドル安容認の態度を取っている。こうしたアメリカの態度に日本がどのような態度をとれるかが問題である(アメリカ様の言うとおり円高・ドル安って良いですよねとか言われても困ると言うこと)。

被爆65年の世界大会(大野ひろみ)】
(内容要約)
 今年の原水禁世界大会にはパン・ギムン事務総長がメッセージを寄せるなど、今までになく反核世論が盛り上がっていると言えるだろう。困難は多いが、少しでも核廃絶を前進させたい。

【日銀新政策への疑問(桜田氾)】
(内容要約)
・日銀は成長分野への低利貸出制度を新設したが、成長分野への貸出は既に民間金融機関(大銀行など)がやっており、日銀が手を出す必要があるか疑問である。むしろ、銀行が貸し渋っている中小零細企業への貸出を充実させるべきである。

■特集「民主党政権1年、経済・財政の焦点」

【対談「財界・民主党政権の戦略と対決構図」(二宮厚美、岡田知宏)】
(内容要約)
参院選での民主党敗北は消費税増税への反発であったと見るべきである。しかし、それがいわゆる新自由主義批判になっていないこと(みんなの党の躍進など)は問題であり、社民勢力の一層の奮起が期待される。
・地方における新自由主義的なモノとしては、大阪の橋下、名古屋の河村、阿久根の竹原などががあげられる(手法がポピュリズム的なところも似ている)。まあ、竹原のはかなり劣化した代物で新自由主義者・ポピュリストでも公然と賛意を示しているのは橋下ぐらいだと思うが(その橋下ですらさすがに全面支持はしていない)。

【「だれのための「成長戦略」か」(渡辺健)】
(内容要約)
・菅政権の成長戦略は「大企業の収益が一番」であり、そのためには国民を犠牲にしてもかまわないと言う小泉路線と同様のモノであり批判せざるを得ない。

【「後期高齢者医療制度は、なぜ廃止しかないのか」(湯浅健夫)】
(内容要約)
・老人差別医療制度である後期高齢者医療制度はいったん廃止し、元の制度に戻すべきである。
・改革は必要だがその場合、弱者に十分配慮することが必要。保険料は応能負担を原則とすべき。また国と企業の負担割合を引き上げるべし。

【「労働者派遣法の抜本改正・次期国会で早期実現を」(生熊茂実)】
(内容要約)
派遣労働者を救うための派遣法の抜本的改正が必要。
・具体的には
登録型派遣の26専門業務の見直し(現在では専門業務とは言い難い)
製造業派遣の禁止(民主党改正案は常用型を例外としているがこれでは救われる労働者が極端に少なくなる)
派遣と正社員の均等待遇、などである。

【「保育制度「改革」と民主党政権の一年」(村山祐一)】
(内容要約)
民主党の保育制度「改革」は新自由主義路線による「安上がりの保育」をめざしている(保育所の最低基準の廃止など)。しかしそうしたものが「安いが劣悪な保育」と「優れているが高額な保育」の二極化にならない保障はなく支持することは出来ない。そもそも日本は、保育にかける公費が諸外国と比べてきわめて少ないのであり、どんな政策をとるにせよ大幅な予算増額が前提である。

【「公債累積の原因者はだれか・「建設公債主義」批判」(安藤実)】
(内容要約)
建設国債赤字国債の区分は「赤字国債なら問題だが、建設国債なら無問題」と言った間違った考えを蔓延させた。区分は廃止すべきである。
・本論文に寄れば、当初、政府は、利用料(国鉄の鉄道収入など)を取ってるので、税金ではなく、利用料で国債償還が出来、国民に被害を与えないから建設国債は問題はないとしていた。しかし、後には利用料を取らない物にまで建設国債を発行し、その理由を、建物は資産として売却する事が出来るからと説明をまるっきり変えてしまったという。

【「法人税減税、二つの論点を検証する」(垣内亮)】
(内容要約)
Q1)日本の法人税は高いのか?
A1)税率は高いが課税ベースの問題があるため、それを配慮して算出するとむしろ納税額は安いと考えられる。

Q2)法人税減税しないと経済に悪影響が出るか?
A2)
悪影響が出る論1「減税で企業収益が増えれば国際競争力が高まる」
反論1
 企業競争力は、税負担の問題で単純に決まるモノではない。

悪影響が出る論2「減税で企業収益が増えれば国民の賃金も上がる」(トリクルダウン論)
反論2
 企業収益は小泉政権時代にあがっていたが賃金は上昇しなかったという事実によってこの主張が間違いであることは明白。

悪影響が出る論3「減税しないと企業が海外に流出する」
反論3
 企業は、海外進出の理由を「安価な労働力」などとしており税負担の問題を主たる理由とはしていない。

■特集「どうする日本の雇用」(3)

【「労働と「人間の尊厳」」(牧野広義)】
(内容要約)
・日本の労働社会においては労働者の「人間の尊厳」が保障されているとはとても言えない(典型的には過労死)。我々は労働社会において「人間の尊厳」(ILOのいうディーセント・ワーク)を実現させる必要がある。

■研究余話1「丙午の統計異変」(柴田徳衛)
(内容要約)
丙午の年(最近だと1906年、1966年)は出生数が少ない(特に女の子の出生数が少ない)という割と有名な話がテーマ。この年に生まれた女の子は不幸になるという迷信があるため、避妊や中絶が増えるからだと考えられている。
ちなみに次の丙午は2026年。そのときにはこんな迷信はなくなっていると思うがどうだろう?

丙午(ウィキペディア)から一部引用


 江戸時代前期に、井原西鶴の『好色五人女』で有名となった八百屋お七が丙午の生まれだといわれていたことから[注1]、江戸時代中期以降には、この年生まれの女性は気性が激しく、夫を尻に敷き、夫の命を縮める(男を食い殺す)、死後「飛縁魔」という妖怪になるという類の迷信が信じられるようになった。1846年(弘化3年)の丙午には女の嬰児が殺害(間引き)されたという話が残っている。
 明治時代以降もこの迷信は続き、1906年明治39年)の丙午では、前年より出生数が約4%減少した。生まれた女児の出生届を前後の年にずらして届け出ることもあったという。一方、この年に生まれた小説家・坂口安吾は、本名は丙午を意味する炳五という名を付けられ、親類から「男に生まれて良かった」と言われたという話を文章に残している。この1906年生まれの女性が結婚適齢期となる1924年大正13年)頃からは迷信を否定する談話や、縁談が破談となった女性の自殺の報道などが相次ぎ、丙午生まれの迷信が女性の結婚に影響したことが伺われる。夏目漱石は1907年に発表した小説『虞美人草』において、主人公の男を惑わす悪女、藤尾を『藤尾は丙午である』と表現している。


[注1]実際には戊申の生まれという説が有力。