新刊紹介:「経済」9月号

「経済」9月号の詳細については以下のサイトをご覧ください。興味のある記事だけ紹介してみます。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/

■巻頭言「経済成長と大学改革」
(内容要約)
 安倍政権は「成長戦略の柱の一つ」として「世界ランキングトップ100に日本の大学を10校以上入れる」としているが、そのためにはまず絶対的に足りない大学予算の大幅増や、それによる研究者の待遇改善が不可欠である。それなしでは安倍政権の戦略は画餅に終わらざるを得ないだろう。


■世界と日本
【エジプトにおける新展開(栗田禎子*1)】
(内容要約)
・モルシ大統領退陣の直接の原因は「軍部クーデター」だが、その背景には「モルシとそのバックにあるムスリム同胞団」への「世俗派の批判」があったことに注意が必要。世俗派の批判に乗る形で「モルシ排除」をすることが「自己の利益」と軍部が理解したからこそクーデタは実行されたのであって、世俗派の批判がなければ軍部はクーデタに動けなかったろう。
「世俗派の反発を無視し、イスラム化を強行し、彼らの抗議行動を招いた」モルシやムスリム同胞団への批判を無視し、「世俗派=軍部の手先」であるかのように理解するのは正しくない(そもそもモルシ批判派には「軍部クーデタ支持勢力」もいるが、「軍部クーデタ」を批判するグループもある)。
 もちろんそのことは「世俗派のモルシ批判があるからクーデタは正しい」と言う意味ではない。
・今後の事態収拾は極めて難しい。「軍部クーデタが正しい」わけはないが「モルシのやり口が正しいわけ」でもない。である以上、軍部政権の継続は論外であるが、「モルシ派(イスラム同胞団)の単純な復権」が望ましいわけではない。第三の道が目指されるわけだが、それを軍部もモルシ派も望まない中、「第三の道」を作り出すことは難事業である。


原発からの撤退決断を:問題だらけの原発再稼働申請(高橋文夫)】
(内容要約)
 赤旗の記事紹介で代替する。

赤旗
主張『「エネルギー計画」、「原発ゼロ」の決断こそ先決だ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-03/2013080301_05_1.html
主張『原発再稼働申請、安倍政権と一体の“やらせ”だ』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-09/2013070901_05_1.html


サーベラスの西武TOB:株式会社の社会的性格と投資規制の必要性(柴田努)】
(内容要約)
赤旗の記事紹介で代替する。

赤旗
『5路線と球団存続を、西武に埼玉4市長が要望』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-04-05/2013040504_02_1.html
『西武5路線の存続を、塩川議員 国交相に要求、衆院委』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-19/2013051915_03_1.html


特集「ファンドと現代社会」
■「ファンドと昭和ゴム事件:野中言論抑圧裁判の争点と意味」(徳住堅治)
■「学問と研究発表の自由への新たな攻撃」(長田好弘)
■「ファンドによるスラップ訴訟に思う」(野中郁江*2
(内容要約)
・野中郁江明治大学教授が、東京都労委に提出した鑑定書「アジアパートナーシップファンド(APF)がもたらした昭和ゴムの経営困難について」と、雑誌「経済」2011年6月号に発表した論文「不公正ファイナンス昭和ゴム事件」についてAPFが、名誉毀損であるとして5500万円の損害賠償を求めた訴訟について論じている。
・徳住論文について。徳住氏はこの訴訟の被告側(野中教授側)弁護士として、野中氏の「APFの行為は架空増資、有価証券報告書虚偽記載、(昭和ゴムへの)特別背任に当たる疑いがある」と言う記述は「真実ないし、真実と信じるに相当する正当性がある」として名誉毀損には当たらないとしている。
・長田論文について。長田氏は日本科学者会議役員として、日本科学者会議が行った野中氏への支援活動について論じている。
・野中論文について。自らは名誉毀損をしたとは思っていないし、論文を掲載した「経済」編集部ではなく野中氏のみを訴訟対象にしたことはAPF側の主観においても「この訴訟はいわゆるスラップ訴訟(嫌がらせ訴訟)」ではないのかとAPFを批判している。


特集「子育て支援策を問う」
■「待機児問題の三つの障壁とその対策」(村山祐一*3
(内容要約)
・3つの課題として1)「待機児童をどう定義するか」、2)「保育所をどう整備するか」、3)「保育所運営費の保護者負担についてどう考えるか」をあげている。
・1)定義の問題について。基本的には入所を希望するものは「待機児童」と見なすべきであり、「保育ママ」などを理由に待機児童から除外する一部自治体の対応は適切ではない。
・2)保育所整備について。諸外国と比べ、日本の保育所整備予算は極めて少なく、まずは予算の拡充が求められる。
・3)運営費の保護者負担について。子どもを安心して出産できるるようにするために保護者負担を出来る限り少なくする事が求められる。また現在、公的負担は「国が1割、自治体は7割程度」となっているが、これでは「財政負担を恐れて自治体が保育所設置に消極的になる」事が危惧される。国負担を増やしていく必要がある。


■「保育制度改革と子ども・子育て支援新制度」(伊藤周平*4
(内容要約)
・安倍政権は横浜市の「待機児童ゼロ」を高く評価し、「横浜方式を全国に広げたい」としている。
 しかし
 赤旗
 『横浜市が「待機児童ゼロ」、無理なつめこみ保育も 「自宅で求職」など除外』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-21/2013052115_02_1.html
 『横浜市 待機児「ゼロ」を考える』(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-22/2013052203_01_1.html)が指摘するように横浜市の「待機児童ゼロ」は手放しで評価するにはかなりの問題があると思われる。
安倍総理は「成長戦略スピーチ」(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html)において

3年間抱っこし放題での職場復帰支援
3年育休

をアピールしている。しかしこれについて、小池晃同志(党政策委員長)が

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-05-27/2013052702_03_1.html
育児は女性のものですよという極めて古色蒼然とした育児観、価値観を押し付けるもの

ではないのかと批判しているように、少なくない人間が「安倍政権の子育て支援」について旧態依然の育児観があるのではないか、と疑問視している。


■「子ども・子育て支援法下での学童保育の課題」(石原剛志*5
(内容要約)
 近年の子育て支援についてのマスコミ報道ではもっぱら「保育園・幼稚園の問題(施設の増設や補助金の支給による安価な利用料の実現など)」が議論されがちだが「小学校低学年児童」を対象とした「学童保育」の問題も重要だという話。待機児童の存在や、狭隘な施設など、「保育園や幼稚園」で問題にされることは「学童保育」でも問題となっている。


■「日本の自動車産業は空洞化するか(上)」(坂本雅子*6
(内容要約)
・(上)では「日本自動車産業」において国内生産が減少し、海外生産が増加している事実が指摘されるが、それについての分析は特にない。
・次号以降に掲載される(下)において「現状を自動車生産における産業空洞化と見るべきかどうか」「産業空洞化とするならその原因は何か?」「解決策は?」といったことが論じられるのだろう。


■座談会『TPP・「攻めの農業」批判――日本農業再生と家族経営』(河相一成*7、村田武、有坂哲夫)
(内容要約)
・そもそも「TPP反対」だったはずが「攻めの農業」ってどういうことやねんという批判。
・また「攻めの農業」として出てくるのは「農業の大規模化」「(農業の大規模化を実現するための)農業への株式会社参入」「6次産業化(農産物を作るだけでなくそれを加工業や観光産業などと組み合わせて高収入をねらう)」など、麻生政権以前から自民党政権が主張、推進してきた政策に過ぎず、新味は全くないし、それが「TPPから農業を守ることにつながる保障」もない。


■「だれのための「成長戦略」か:アベノミクス批判」(渡辺健)
(内容要約)
 アベノミクスで景気回復できるかどうかも疑問だが、「大企業の法人税減税と、それとセットの消費税増税」「ホワイトカラーエグザンプション導入画策」「ワタミ氏の参院議員候補擁立」などでわかるようにアベノミクスとはあくまでも「大企業の利益を最大化する政策」でしかない。そのような政策はたとえ景気回復に成功したところで「生活が良くなったという実感のない景気回復」「格差拡大を伴う景気回復」でしかない。そのような政策は到底評価できない。「累進課税の強化」「最低賃金のアップ」「再分配政策の強化」といった政策による「国民生活の改善」をともなって始めて景気回復策は意味があると言えるだろう。


■「国際価値とは何か:一国の枠を超えた価値規定を考える」(岡田清)
(内容要約)
・「国際価値」というのは『科学的社会主義経済誌』を標榜する月刊『経済』らしいマルクス資本論解釈のお話である。小生、「資本論」を1度も読んだことがないので話がさっぱりわからないのだが、一応要約してみる。
・「資本論」1巻第6篇第20章「労賃の国民的相違」において、マルクス
「今まで一国内の経済を前提に価値法則について論じてきたが、国際的に議論する場合は国によって労働価値が違う*8ので、今までの議論には一定の修正が必要だと思う」と言う趣旨のことを書いているらしい。問題はマルクスが「修正が必要だと思う」で終わりにしてしまい、*9「具体的な修正案」を書かなかったため、後々のマルクス主義者が頭を悩ますことになるというお話である。
 いろいろな解釈が紹介されているわけだが良く理解できないので、後で論文名、著書名だけ紹介して詳しい説明は省略する(もちろん非マルクス経済学の立場に立てば、この問題は「マルクス経済学の欠陥」とでも理解されるのだろうが)。


参考
・木下悦二『資本主義と外国貿易』(1963年、有斐閣
中川信
『世界市場と価値法則1:国際間における搾取について』(大阪市立大学「経済学雑誌」65巻2号(1971年))
『世界市場と価値法則2:国際間における価値法則のモディフィケーションについて』(大阪市立大学「経済学雑誌」65巻5号(1971年))
『国際貿易論:世界市場の構造と動態』(久保新一氏との共著、1981年、有斐閣大学双書)
『世界価値論序説(1)』(大阪市立大学「季刊経済学研究」17巻4号(1995年))
『世界価値論序説(2)』(大阪市立大学「季刊経済学研究」18巻1号(1995年))
・村岡俊三『マルクス世界市場論:マルクス「後半の体系」の研究』(1976年、ミネルヴァ書房)、『グローバリゼーションをマルクスの目で読み解く』(2010年、新日本出版社


■広告
・明神勲『戦後史の汚点・レッドパージGHQの指示という「神話」を検証する』(大月書店)というのは面白そうだったら購入しようかと思う。
参考
赤旗『レッド・パージ、政府は共同実行者、研究者の明神氏が証言』
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-11-17/2010111715_06_1.html


・岩波の広告が載っていてびっくりする。岩波の広告なんて見たことがない気がする。てっきり「民主党万歳」の岩波は「共産党支持者が多いであろう」月刊「経済」の読者など対象にしていないのかと思っていたが。

*1:著書『近代スーダンにおける体制変動と民族形成』(2001年、大月書店)

*2:著書『現代会計制度の構図』(2005年、大月書店)、『国有林会計論』(2006年、筑波書房)

*3:著書『「子育て支援後進国」からの脱却』(2008年、新読書社)

*4:著書『保育制度改革と児童福祉法のゆくえ』(2010年、かもがわ出版

*5:著書『学童保育と子ども・子育て新システム:子どもたちの放課後はどうなる?』(共著、2011年、かもがわブックレット)

*6:著書『財閥と帝国主義三井物産と中国』(2003年、ミネルヴァ書房

*7:著書『現代日本の食糧経済』(2008年、新日本出版社

*8:中国やベトナムは賃金が安いが日本は高いというような話か?

*9:もちろん、マルクスも神様じゃありませんので