新刊紹介:「前衛」10月号

「前衛」10月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。

http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは10月号を読んでください)

■特集「今日の学術・大学問題の焦点」
【学術は何をし、いかにあるべきか・「日本の展望・学術からの提言2010」のめざすもの(広渡清吾)】
(内容要約)
「日本の展望・学術からの提言2010」(http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/tenbou/teigen.html)の策定に関わった日本学術会議メンバー・広渡氏(専攻・ドイツ法学)に策定の経緯や策定内容についてインタビュー。

【「法人化」7年目の国立大学の危機(進藤歩)】
(内容要約)
国立大学は法人化後、年々交付金が削減され経営は苦しい状況にある。
この状況は変えられなければならない(交付金の大幅な拡充)

【高等教育における無償教育をどうすすめるか(細川孝)】
(内容要約)
日本政府は国際人権A規約13条2項の留保を撤回し、高等教育無償化の方向へ進むべきである。

【[若手研究者からの報告]人文・社会科学系大学院生の視点から(長瀬次郎)】
(内容要約)
若手研究者による、苦しい状況の報告。
なお、苦しいのは若手だけでなく、大学教員全体が厳しい立場に置かれつつあるという指摘は重要だと思う。

【競争的環境と雇用不安定化の下でのポスドク問題(浜田盛久)】
(内容要約)
ポスドク問題の当事者による現状分析。就職先も考えずにドクターを増やしたのは無責任というのは同感。しかし、現にポスドクがいる以上、その就職は国がきちんと面倒を見るべきであろう。財政危機を理由に削減された研究予算を増額するだけでも、問題の解決に資するだろうという指摘には同感。事業仕分けで学術振興会の特別研究員事業が大幅削減されようとしたこと(反対運動で撤回ないし当初削減額よりは大幅に改善されたようだが)に筆者が怒りの言葉を述べていることには「やはり、事業仕分けとは共産の批判通りの代物か」と思わざるを得なかった。

【大学危機打開の展望を示す日本共産党の提案(改正充)】
(内容要約)
「大学の危機打開へ、「学問の府」にふさわしい改革をすすめる日本共産党の提案」(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-04/2010060404_03_0.html)の説明。
 具体的には
 国立大学への交付金の大幅増額
 私立大学助成の大幅増額(国私格差を減らす方向で)
 高等教育の段階的な無償化に踏み出す
 給付制奨学金の創設と貸与制奨学金の返済条件緩和、など。

■「崩れ始めた「二大政党」・国民との矛盾と危険」(中祖寅一)
(内容要約)
民主党参院選で敗北したのは「自民政治を変える」と言いながら「消費税問題」「普天間問題」「政治と金問題」で自民と何ら違わないことを露呈したからである。
・しかし民主の敗北は自民の復活には至っていない。国民は自民も民主もノーという立場と言える。
・こうした事態を乗り切るため、民主は自民との大連立を仕掛ける可能性がある。要注意である。

■「中小企業を投機に巻き込むデリバティブ取引に規制を」(丸井龍平)
(内容要約)
・融資をしている中小企業に銀行がデリバティブ取引を勧め、中小企業に被害を与える事例が続出している。中小企業にとって融資銀行のすすめを断ることは困難であり、押しつけ販売の疑いがある。何らかの規制が必要である。

■特集「世界の構造変化の今」
【EUの「ルールある経済社会」づくりの諸契機・欧州統合の原点と今日をみる(小島良一)】
(内容要約)
EUが紆余曲折はありながらも、アメリカ型新自由主義とは違う経済体制をめざし一定の成果を上げていることを評価。

【世界経済危機と米国経済覇権のゆくえ・米国の覇権はどのように揺らいでいるのか(萩原伸次郎)】
(内容要約)
・世界経済危機以降、米国の経済覇権が維持されるか、それとも衰退の方向に向かうかはオバマ政権が米国のいわゆる「双子の赤字」問題を解決できるかどうかにかかっている。

【世界金融経済危機と中南米諸国の政治経済統合(吉川久治)】
(内容要約)
世界経済危機以降、南米諸国は政治経済統合を進め、アメリカからの自立を図っている。
そうすることにより
1)「アメリカの裏庭」扱いされず、米国から自立した外交を行える
2)アメリカが不況でもその影響を食い止めることが出来る、からでらう。

■「革命論研究への道ひらく2冊の古典選集」(山口富男
(内容要約)
不破哲三氏が編集したマルクス「インタナショナル」、エンゲルス「多数者革命」(ともに新日本出版社科学的社会主義の古典選書」シリーズ)の紹介。
 なお、マルクス「インタナショナル」、エンゲルス「多数者革命」と言う名前の本があるのではなく、「インタナショナル」、「多数者革命」についての論文を不破氏がセレクトしてまとめたモノであることに注意。
 またマルクス「インタナショナル」、エンゲルス「多数者革命」となっているが、収録論文の分量が多い方の名前を便宜的に著者名にしただけであってマルクス「インタナショナル」の中にエンゲルス論文が、エンゲルス「多数者革命」の中にマルクス論文があることにも注意。

■「権利をもつ人間としての子ども・「子どもの権利条約」第3回国連子どもの権利委員会審査を傍聴して」(石井郁子)
(内容要約)
・「子どもの権利条約」第3回国連子どもの権利委員会審査についての報告。
 要約が難しいので赤旗記事紹介。

赤旗「過度な競争主義改めよ、日本政府に3回目の勧告、国連子どもの権利委員会」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-27/2010062714_01_1.html

■「生物多様性の危機とその克服に向けて・COP10と危機の科学的評価」(鷲谷いづみ
(内容要約)
・今年は国連国際生物多様性年であり、愛知県名古屋市ではCOP10生物多様性条約第10回締約国会議)が開催予定であるが、日本国内でこの問題については関心は低いと指摘。生物多様性の現状と課題を説明。
・詳しくは鷺谷「生物多様性入門」(岩波ブックレット)も参照して欲しいとのこと。

【参考】
日本学術会議生物多様性保全と持続可能な利用」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t90-1.pdf

赤旗「主張:生物の多様性、豊かな自然まもる共同強め」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-08-23/2010082301_05_1.html

■論点
【今度こそ国の責任で30人学級の実施を(平野厚哉)】
(内容要約)
文科省「今後の学級編制及び教職員定数の改善について(提言)」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hensei/005/1296296.htm)は現行の40人学級を引き下げるべきとしている。今こそ「国の責任で30人学級の実施」をすべきである。民主党は先の参院選で少人数学級の実施を公約した以上(30人学級かどうかはともかく)学級引き下げを実施すべきである(なお、文科省が計画しているのは35人学級)。

【和平の障害―イスラエル、ガザ封鎖(松本眞志)】
(内容要約)
イスラエルガザ地区封鎖はハマスの軍事攻撃を口実としているが明らかにハマス以外も巻き添えにしており許されない。国際社会(特に欧米)はイスラエルを強く批判すべきである。
・一方でハマスの無謀な軍事攻撃も非難されてしかるべき。

■暮らしの焦点
【「霊感商法刑事摘発、追いつめられる統一協会」(柿田睦夫)】
(内容要約)
統一協会霊感商法が次々と刑事摘発を受けている実態をレポート。しかしまだまだ摘発は甘い。さすが与党・自民党の政治家とズブズブの関係だっただけのことはあるな(今後は現与党・民主に手をのばそうとしてるようなので注意が必要)。
・根本的には
末端だけでなく幹部連中を詐欺罪で捜査当局が追及
文化庁統一協会の宗教法人格を剥奪すること、が必要だろう。
・日本のマスコミももっと統一協会を批判すべきだし、統一協会とズブズブの政治家(安倍晋三とか)は非難されてしかるべきである。

■メディア時評
【新聞:曲り角にある「八・一五」(金光奎)】
(内容要約)
8月15日の社説紹介
・産経:菅政権閣僚が靖国参拝しないことを非難、参拝しろと主張。政教分離原則違反の主張であり論外。
・読売:菅政権閣僚が靖国参拝しないことを嘆き、閣僚が参拝(?)できる非宗教の施設が必要と主張。しかし武道館の追悼式で何が悪いのか?
・朝日:「昭和システムとの決別」というタイトルであり平和主義への思いが感じられない。
・日経:あの戦争はアメリカを敵に回したことが悪かった、日米同盟は重要と主張(←オイオイ)。

 平和主義の観点で評価できる社説は全国紙では毎日だけ。むしろ地方紙の方がまとも。

【テレビ:当事者が書き綴った番組改変事件(沢木啓三)】
(内容要約)
永田浩三氏(武蔵大学教授、元NHKプロデューサー)の著書「NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白」(柏書房)の紹介。機会があったら読んでみたい。
・なお、分かると思うが一応断っておけば番組改変って安倍、中川先生が圧力かけた疑いが濃厚な例の件ね。

■文化の話題
【美術:史上最高額作品への反応をめぐって(朽木一)】
(内容要約)
ピカソの絵が史上最高額101億円の値をつけたことへのマスコミ(芸術マスコミを除く)の興味本位報道を嘆く筆者。まあ、でも「マスゴミ」なんてそんなものですから(毒)

【参考】
朝日新聞ピカソの絵画、101億円で落札・芸術作品の世界記録」
http://www.asahi.com/culture/update/0505/TKY201005050065.html

【音楽:文化政策を考える(小村公次)】
(内容要約)
・マルテル「超大国アメリカの文化力」(邦訳・岩波書店)の紹介。

【写真:「五木に生きる」老夫婦を追う(関次男)】
(内容要約)
・写真集「しかし、五木に生きる」(山下俊雄・JRP出版局)の紹介。

■スポーツ最前線
【「プロ野球選手の肖像権の行方」(辻口信良)】
(内容要約)
・まず、選手会側が敗訴した肖像権訴訟について説明。
最高裁判決が出た以上、(それが不当判決だとしても)それを踏まえた戦い方(野球協約16条の抜本的改正をめざすなど)が求められるとしている。もちろん今後の方針は選手会が顧問弁護士さんなどと話し合いながら決めていくのだろう。
・法律に詳しくないけど何か感情論で言えばとてつもなく球団側に有利で不当な判決の気がするけどね。