新刊紹介:「前衛」8月号

「前衛」8月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは8月号を読んでください)

■特集「原発依存から脱却したエネルギー政策への道」
原発から撤退のすみやかな決断を:国民的な討論と共同を広げよう(笠井亮*1)】
原発撤退と自然エネルギーへの転換は可能(吉井英勝*2)】
(内容要約)
共産党原発からのすみやかな撤退、自然エネルギーの本格的導入を国民的討論と合意をよびかけます」
http://www.jcp.or.jp/seisaku/2011/20110612_genpatsu_teigen.html
についての説明。
 今回の福島事故で「地震津波大国日本では、諸外国以上に原発撤退が急務であることが判明した」との理解の元、我らが共産は、ついに「5〜10年以内の原発撤退」というプランをご提案したわけである。「5〜10年以内」とは「今すぐ全廃は無理」だが、「あまりにもロングスパンでは意味がない」との判断によるご提案である。もちろん「4年で可能」とか「11年必要」とかいうご議論に対し、形式的に「5〜10年以内でないとダメ」と言う意味ではない。
 で、その場合大切なことは、リンク先にも書いてあるが単に原発を辞めるだけではなく「自然エネルギー*3の本格的導入と、低エネルギー社会の実現(エネルギー浪費型社会からの転換)」が必要なわけである。


脱原発・脱化石*4をめざすドイツに学ぶ(遠州尋美*5)】
(内容要約)
脱原発は大事だが、その場合、温暖化防止のため、脱化石でなければならないのは言うまでもない。自然エネルギーの本格的導入が必要。その点で参考になるのが日本同様、原発大国でありながら、脱原発、脱化石をすすめるドイツであろう。
 ドイツの手法で参考になるものとしては例えば日本でも電力会社支配脱却の有効な手法と主張される「発送電分離」や「固定価格買取制度」(←意味がよく分からないので、余裕があればあとでよく調べる予定)があげられる。


脱原発をすすめ、温室ガス25%削減は可能(上園昌武)】
(内容要約)
原発なしじゃ温室ガス削減は無理」なんてことはない。炭素税導入とか再生エネルギー推進とか、欧米各国が実施している政策を日本は全然してないのだからという話。


【「地下資源文明」からの脱却(池内了*6)】
(内容要約)
「地下資源」、つまり「化石燃料(石炭、石油、天然ガス)」に依存した文明(筆者の言う「地下資源文明」)は限界が来ており、再生エネルギーの推進が急務という話。


■「震災復興をめぐる対抗軸:東日本大震災地域再生の基本方向」(岡田知弘)
(内容要約)
・震災復興においては地元住民の意見を聞くことが何よりも大事であり「上からの改革」(例:道州制の導入)などは、やってはならないことである。


■「復興計画の問題点と今後のあり方を考える:高台移転の評価を中心に」(中山徹
(内容要約)
津波から人命を守ることは大事だが、「高台移転」は従来の住民の生活拠点をスクラップし,ゼロから別の生活拠点をつくると言うことであり、安易に支持することは出来ない。
可能ならば、従来の生活拠点での復興が望ましい。
高台移転の実行は最低限「住民の同意を得ること」と「従来の生活拠点をスクラップし,ゼロから別の生活拠点をつくることによって発生する弊害を是正すること」が必要である。


■「大震災下の農業・食料とTPP」(真嶋良孝)
(内容要約)
TPPによる農業自由化は、食糧自給率のさらなる低下を招きかねず反対である。
いずれにせよ震災復興をTPP導入の口実にすることは「TPP導入が復興になるとは限らない」と言う意味でも「TPPがなくても復興は可能」と言う意味でも「TPPの是非」に関わらず許される主張ではない。


■「『基地国家・日本』と安保の構造」(山根隆志)
(内容要約)
核密約など、日米安保体制の異常性に対する批判。

参考
赤旗
「「日米密約」 必要なら核再配備、笠井氏 新合意の疑惑追及、衆院委」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-05-26/2011052602_03_1.html
「米兵・「公の催事」での飲酒は「公務」、依然日本に第一次裁判権なし、見直し協議 2年間まとまらず、赤嶺議員が追及」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-24/2011042404_03_1.html
「外務省 密約文書隠しで虚偽答弁、共産党追及 米軍の自由出撃密約、入手しながら「入手せず」、外交文書公開」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-19/2011021901_01_1.html
「「密約文書隠し」 外交文書は語る、外務省「想定問答」まで作成、共産党調査に危機感」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-02-19/2011021902_01_1.html


■「総力戦体制と戦後社会、『福祉国家』」(高岡裕之
(内容要約)
・高岡氏の著書『総力戦体制と「福祉国家」―戦時期日本の「社会改革」構想』(2011年、岩波書店)についての説明。高岡氏の理解では『総力戦体制論者』は日本における福祉国家のルーツを『総力戦体制』と見なす者が少なくないがそれは正しいのかと言うのが執筆動機。
 なお、高岡氏によるとこうした見方がでる理由の一つは小泉親彦(ウィキペ曰く「陸軍省医務局長。厚生省の設置に貢献。近衛、東条内閣で厚生大臣。戦後、戦犯容疑者としてGHQから出頭要請を受けるが拒否し、自決」)の存在があるという。
 しかし、高岡氏によると戦前の厚生政策は小泉や軍の意思が単純に反映されたわけではないようだ。
・結論。戦前において福祉国家的な構想が出たことは事実だが、それは必ずしも「総力戦」を前提としたわけではなかった(そもそも日中戦争初期においてはあの戦争が総力戦となると見ている者は少なかった。中国をなめているからこそ「国民政府を相手にせず」声明も出るわけである)。
 総力戦体制のために福祉国家が構想されたわけではなく、戦争とは関係なく構想されていた福祉国家構想が戦争に取り込まれた(戦争状況に対応しようとした)と見るのが適切である。そして、戦前の福祉国家構想の多くは実現しないまま挫折した(戦前日本はある種の先軍国家だったため予算が軍事偏重だった)。戦後の福祉国家構想は単純に戦前のそれと線でつなげるものではない。


■「総力戦体制下の恩賜財団愛育会と『異常児保育』:戦時下障害者問題への一視点」(河合隆平)
(内容要約)
・1934年、前年の皇太子(現天皇)誕生を記念して恩賜財団愛育会が設立された。1938年には財団内に母子保育に関する研究機関「愛育研究所」が設立された。愛育研究所は障害児教育(当時の言葉では異常児教育)も研究対象としていた。
どこまで本心か(時局に会わせただけかも知れないが)はともかく障害児教育について研究所は「障害児であっても適切な教育を行えばお国のために活躍できる人材にすることが出来る」とその意義を語っている。
・残された記録に寄れば1941年には今まで(障害児に無理にやらせても意味はないという判断で)やっていなかった「宮城遙拝」をやっている。戦争という時代の波は確実に障害児教育にも押し寄せていたと言えるだろう。


■「揺れる大地の歴史を探る:過去2000年に日本列島を襲った地震津波の歴史」(寒川旭*7
(内容要約)
 筆者が取り組んできた地震考古学についての説明。

■座談会「核兵器廃絶へ 地域・自治体ぐるみの運動に」(田中章史、中島絹子、平井昭男、紙谷敏弘、渡部雅子、岩渕尚)
(内容要約)
原水禁世界大会を前に活動家の皆さんによる活動報告と今後の決意表明をテーマとした座談会。

■論点
オスプレイ配備を許さない「沖縄のマグマ」(亀山統一)】
(内容要約)
要約が難しいのでそれにかえて赤旗の紹介。一言だけ言えば「オスプレイ反対」は米軍基地反対や日米安保反対とは一応別問題と言うこと。なぜならオスプレイは事故の危険性と騒音の悪化が危惧されており、保守派でも諸手を挙げて賛成できる代物ではないからである。それは逆に言えば、そんな代物を押しつけようとする日米両国政府が沖縄をバカにしていると言うことでもあるだろう。

参考
赤旗
主張「オスプレイ配備、墜落と爆音への不安が募る」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-07-07/2011070701_05_1.html
オスプレイ配備・辺野古「移設」反対、沖縄各議会 相次ぎ決議」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-07-02/2011070201_03_1.html
オスプレイ沖縄配備、宜野湾市長・知事が質問状、騒音・事故のデータ要求」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-06-28/2011062802_03_1.html
オスプレイ 部品に欠陥、米国防総省報告「任務遂行率低い」」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-01-26/2011012601_03_1.html


SHOP99名ばかり店長」事件で全面勝利判決(笹山尚人)*8
(内容要約)
要約が難しいのでそれにかえて赤旗その他の紹介。
参考
赤旗
「店長は「名ばかり管理職」、残業代など支払い命じる、東京地裁立川支部
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-06-01/2011060101_02_1.html

http://www.seinen-u.org/shop99.html
SHOP99「名ばかり店長」裁判勝訴についての声明(2011年5月31日、首都圏青年ユニオン
 2011年5月31日、東京地裁立川支部において、首都圏青年ユニオン組合員の清水文美さんが原告となり、SHOP99を運営する株式会社九九プラスを訴えた裁判において、原告の判決が言い渡された。
 判決は、清水さんがSHOP99の店長として勤務していた状態について、労働基準法の認める管理監督者にはあたらないとして、時間外賃金44万8376円と付加金20万円の支払いを株式会社九九プラスに対して命じた。また、判決は、清水さんのうつ病の原因はSHOP99に勤務中の長時間労働にあり、会社は安全配慮義務を怠ったとして、100万円の慰謝料を認めた。
 首都圏青年ユニオンは、この判決を原告の主張をほぼ全面的に認めた勝利判決として評価するものである。株式会社九九プラスと100%出資の親会社である株式会社ローソンは、この判決を真摯に受け止め、株式会社九九プラスが控訴しないよう強く求めるものである(注:会社側は控訴せず判決は確定した。「控訴しても勝てない」or「仮に勝っても世間の厳しい批判はかわらず、かえって傷が深くなる」と言う判断によるのだろう)。
 清水さんは、高校卒業後、8年間のアルバイト生活を経て、「正社員になりたい」という気持ちからハローワークで見つけたSHOP99の正社員求人に応募し就職した。入社して半年もしない内に事実上の店長となり、慣れない仕事のなかで長時間労働を強いられることになった。店長職となると、商品管理、売上げ管理、アルバイト管理まで一人でやらなければならない。24時間営業の店舗でのトラブルがあると、深夜でも店舗にかけつけなければならなかった。シフトに入れるアルバイトが組めなければ自分で入って働くしかなかった。そのなかで、異常な長時間労働を強いられることとなった。SHOP99では、新入社員であった清水さんにまともな研修すら受ける機会も与えずに異常な長時間労働に従事させた。ひどい時には4日間で80時間以上の労働に従事し過労死ラインを超える労働時間だった。清水さんは「店長業務を下ろしてほしい」と相談したが会社は「業務内容は変わらないぞ」と述べ負担を減らすような措置は行われなかった。
 清水さんは、「会社の燃料のように働かされた」という。燃えたぎる会社のエンジンに放り込まれて燃えかすしか残らないような働き方を強いられたからだ。そうしたなかで、うつ病を発症し、SHOP99を病気休業した。
 清水さんの年収は300万円だった。「名ばかり管理職」をめぐる裁判闘争でも、もっとも年収の低い部類に入ると思われる。こうした年収で過労死ラインを超える労働時間を強いられ、さらに管理監督者にさせられていたわけであり、SHOP99の異常性はきわだっている。会社側の主張にのっとって時給を割り戻し計算すると時給724円となり最低賃金を割り込んでしまうほどの低賃金・長時間労働だった。
 清水さんは、病気休業後、首都圏青年ユニオンに加入し、株式会社九九プラスに対して長時間労働に起因するうつ病の責任を追及するたたかいを開始した。労災申請は認定されたが、会社側は団交でも責任を認めずに裁判闘争に入っていった。
 今回の判決は、清水さんの闘病しながらのたたかった重要な成果であり、私たちは清水さんが立ち上がったことを誇りに思う。そして、多くの方の支援を受けて、この勝利判決を勝ち取ったことを誇りに思うものである。
 清水さんは、いまでも薬を飲みながら生活をしている。就労そのものが医師の判断によって止められてもいる。清水さんは病気が治癒した際には、株式会社九九プラスに復職したいと希望している。清水さんが病気治癒後に復職できる労働環境を整え、清水さんが復職できるまで、首都圏青年ユニオンは最後までたたかう決意である。
 いま、清水さんのように、年収200万円から300万円程度で長時間労働を強いられている、「低処遇正規社員」「周辺的正社員」とよばれる正社員が特に若年層で増加している。「ブラック企業」という言葉も流行語になっている。今回の判決は、こうした劣悪な労働条件で働く多くの労働者に勇気を与えると確信している。清水さんは「普通に働くということがどうしてこんなにたいへんなのか」と言った。ほんとうに、この社会はおかしなことになってしまっている。首都圏青年ユニオンは、異常な長時間労働に苦しむ多くの労働者とともに、あたりまえの働き方を取り戻すために奮闘する決意である。

■暮らしの焦点
岡山県津山市、米軍機低空飛行で土蔵全壊、広がる住民の怒り(大野智久)】
(内容要約)
津山市で無茶な低空飛行をやり住民の土蔵をぶっ壊した米軍(しかし謝罪も賠償もしてないらしい)とそれを容認する政府への批判。

参考
赤旗
「爆音直後に土蔵全壊、岡山・津山 米軍2機低空飛行」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-06/2011030601_02_1.html
「岡山・米軍機低空飛行問題、即時中止・賠償求めよ、平和委、県に申し入れ」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2011-03-10/2011031004_01_1.html

■文化の話題
【映画:是枝裕和監督の最新劇映画「奇跡」(児玉由紀恵)】
(内容要約)
是枝裕和監督の最新作「奇跡」の紹介。「九州新幹線の宣伝映画ですね、わかります」。

参考
『奇跡』公式サイト
http://kiseki.gaga.ne.jp/

【美術:叙事詩「骸骨ビルの庭」の劇構造・劇団文化座公演(関きよし)】
(内容要約)
劇団文化座の「骸骨ビルの庭」の紹介。

参考
劇団文化座「骸骨ビルの庭」
http://bunkaza.com/theater/gaikotsu/gai.html

■メディア時評
【新聞:被災地の地方紙は何を訴えるか(金光奎)】
(内容要約)
・被災地の新聞に比べ全国紙はと言う嘆き。特に産経、読売が「菅政権潰しと言う政争」と「屁理屈による原発擁護」に狂奔している様にお怒りのご様子。


【テレビ:『地デジ化』、まだ課題は残されている(沢木啓三)】
(内容要約)
・東北三県が7/24のアナログテレビ打ち切りの対象外となったことはひとまず良かった。しかし、その他の地域で順調に地デジ化が進んでいるとは言えず、混乱の発生が危惧される。


■スポーツ最前線
「陸上 世界を視野に普及・育成」(尾縣貢)
(内容要約)
日本陸連専務理事の筆者による陸連の取り組みの紹介と今後の抱負。

*1:日本共産党衆議院議員。著書『政治は温暖化に何をすべきか』(2008年、新日本出版社

*2:日本共産党衆議院議員。著書『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』(2010年、新日本出版社)、『震災復興の論点』(共著、2011年、新日本出版社

*3:水力、風力、潮力、太陽光、地熱、バイオマス

*4:正確には脱「化石燃料」(石油、石炭、天然ガス

*5:著書『低炭素社会への選択―原子力から再生可能エネルギーへ』(2010年、法律文化社

*6:著書『私のエネルギー論』(2000年、文春新書)

*7:著書『秀吉を襲った大地震地震考古学で戦国史を読む』(2010年、平凡社新書)、『地震の日本史―大地は何を語るのか(増補版)』 (2011年、中公新書

*8:著書『人が壊れてゆく職場』(2008年、光文社新書)、『労働法はぼくらの味方!』(2009年、岩波ジュニア新書)