「経済」11月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.shinnihon-net.co.jp/magazine/keizai/
以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは11月号を読んでください)
■随想「林政資料を追って」(香田徹也)
(内容要約)
・最近林野庁地方局(営林局)14局のウチ、7局が廃止になったがその際多くの文書が廃棄された(一部は大学などによって所蔵されたが)。廃止の是非(筆者は批判的なようだが)はともかく、廃止時に何とか、文書保存の措置がとれなかった物か。今後はこの教訓を生かして欲しい。
・戦前の御料林に関する資料は林野庁ではなく、宮内庁所有であり、しかも一般に公開されていない。宮内庁から林野庁に移すなり、宮内庁所有のままでもいいので公開するなりすべきである。
(1937年までの御料林については「帝室林野局50年史」(1937年)である程度分かるが、1937〜1947年の御料林についてはその種の資料がないため分からないことが多い)
■「財界と野田政権」(金子豊弘)
(内容要約)
野田政権が露骨に財界よりのスタンスを取ってることを指摘し、警戒を呼びかけている。
参考
赤旗「野田政権が狙う「国家戦略会議」、財界主導型へ回帰」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-09-09/2011090902_03_1.html
■特集「3.11が問う国のあり方」
【座談会「3.11で露呈した日本資本主義の矛盾」(岡田知弘*1、石川康宏*2、鳥畑与一*3、米田貢*4、増田正人)】
(内容要約)
・震災復興に当たっては「トップダウン」ではなく「ボトムアップ」の計画が求められる。震災復興を口実にしたTPP、道州制導入論は火事場泥棒も同然で許されない。
・原発からの撤退が急務であることを今回の事故は示した。どのような工程表で撤退するかは議論の余地はあるが、財界、自民など
の継続論は支持できない。本気かどうかはともかく、石破・自民幹事長など一部から核兵器保有能力に絡めて原発存続論が出たことは論外である。(もちろん座談会参加者は石破発言が本気かどうかではなく、そう言う暴言を平然として恥じないことを問題にしている)
【追記】
座談会のうち、石川氏発言部分については、氏のサイト(http://walumono.typepad.jp/1/2011/10/28-1.html)で読むことができる。
【脆弱な生活再建の土台:社会保障による生活再建の思想(唐鎌直義)】
(内容要約)
被災地での生活再建案としていくつかの具体策が上げられている(もちろんたたき台である)。
1)ハウジング・ファースト(住宅の確保が第一に解決すべき問題)の思想にたつ
2)被災地失業手当の創設
従来の失業手当よりも金額や支給期間などでより手厚い手当を創設する。
3)公的就労事業の充実
4)被災地を生活保護特区とし、生活保護の受給期間、要件などを従来のものより手厚くする。
5)給付制の被災地特別奨学金制度の新設
なお筆者は奨学金制度は被災地に限らず、貸与ではなく原則、給付制にすべきとの立場に立っている。
6)医療の早急な再建
・なお、被災地に限らず、社会保障は社会の安全機能として重要であるという理解が必要である。社会保障の財源は法人税、所得税を中心とすべきである。消費意欲を冷やし景気に悪影響を与える点、逆進性(貧乏人の方が負担が重い)の点から消費税を財源とすることは適切でない。
【持続可能な産業構造の展望(藤田実)】
(内容要約)
まず重大事故が発生すると地域経済に大きな被害をもたらす原発からの脱却が急務である。もちろん原発にかわるエネルギーとしては当分の間はともかく将来に渡っても、化石燃料に頼ることは温暖化の観点から望ましくない。いわゆる再生可能エネルギー(地熱発電、太陽光発電、風力発電など)への移行を進めていく必要がある。
【「水産特区」問題の源流:「漁業権」の学際的検討から(川崎健*5)】
(内容要約)
岩手県「水産特区」論への批判。「水産特区」により漁業を発展させていくという構想は何ら根拠のあるものではなく、従来の漁業権に否定的な水産特区構想は、漁協が守ってきた漁場環境を悪化させかねないとして批判。また岩手県の話の進め方を、漁業関係者を無視した反民主主義的な手法と批判。
【九電力*6体制の成立と外資導入(梅本哲世*7)】
(内容要約)
・戦前国家事業だった電力は戦後、分割民営化された。その理由にはいろいろなもの*8が上げられるが、筆者は大きな要因として電力事業への外資導入論を上げている。分割民営化は外資導入に有利という理解である。
(この問題について最近の研究文献としては、橘川武郎『松永安左エ門』(2004年、ミネルヴァ書房)、中瀬哲史『日本電気事業経営史』(2005年、日本経済評論社)がある)
・電力会社への外資導入においては日本開発銀行(開銀)が大きな役割を果たした。開銀を仲介者として1950年代に世界銀行(世銀)の借款が行われた。世銀は融資返済のため、電力事業に様々な条件(経営合理化や電気料金値上げなど)をつけた。従来、電力は輸出産業と違い、国内事業と言うことで、余り注目されていないが、電力事業に外資が与えた影響を分析する必要がある。
■「10問10答:歴史的な円高・ドル安をどう見るか」(建部正義*9)
(内容要約)
Q1:ドル安の背景には何があるか?
A1:ドル安は輸出に有利と言うことでアメリカがドル安を容認していることが大きな背景としてある。
Q2:米国債の格付け引き下げはニクソンショックにも匹敵するという見方があるが?
A2:ニクソンショックはシステムの大幅変更であったが、格付け引き下げはそれほどのものではない。今後の米国政府の政策等を見極める必要がある。
Q3:ユーロ安について
A3:ギリシャの経済危機などによるユーロ安の解決にはかなりの時間がかかると思われる。ギリシャ等を今更EUから排除するわけにも行かず、中長期的な計画で財政再建を目指すしかないと考える。
Q4:ドル安やユーロ安について、新しい基軸通貨が生まれるのか?
A4:当面はドルやユーロに変わる基軸通貨は存在しないと考える。ただし現状のままでいいわけではなく、一つの問題解決策として、今後もドルやユーロに変わる基軸通貨を主張する論は出るだろうし、そうした論を支持しないとしても何らかの対応が求められる。
Q5:為替投機の規制が必要ではないか?
A5:世界的にそう言う声は高まっておりいわゆるトービン税の導入などさまざまな案が論じられている。
Q6:円高対応策について
A6:円安に持って行くための政策も重要であるが、一方、円高でもダメージが小さくなるよう、内需の拡大も重要である。現状は余りにも輸出に傾斜している。
Q7:日本の財政赤字が余り問題視されないのは?
A7:その理由としては日本の国債の大部分が国内で保有されていることが上げられる。そのため当分はギリシャのような危機は起こりえず、過剰に不安になる必要はないが、赤字国債の存在自体は望ましくないことは事実である。
Q8:財界が円高で6重苦と言ってるようだが、それはどういう意味でどう理解すればいいのか。
A8:6重苦とは、「円高」「高い法人税」「厳しすぎる温暖化対策」「TPPの推進の遅れ」「原発停止による電力不足」「柔軟性に欠ける労働法制」である。
しかしこれらの認識には明らかにおかしいものがあり、とても支持できない。
たとえば「法人税」は国際的に見て高くないし、「温暖化対策」も諸外国に比べ格段に厳しいわけでは全くない。「労働法制」も諸外国に比べ日本が厳しいとは必ずしも言えない(たとえば多くのヨーロッパ諸国にある解雇規制法が日本には存在しない)。「原発を停止」しなければ最悪第二の福島事故なのに電力不安を理由に原発再稼働を求めるなど常軌を逸している。
Q9、Q10は内容がかなりQ6とかぶるので省略。
■「世界のウラン鉱産業の実相」(高橋文夫)
(内容要約)
・世界のウランはウラン・メジャーと呼ばれる「カナダ原子燃料公社」「フランスのアレヴァ」「カザフスタン原子力開発公社」「オーストラリアのリオチント(ウランだけでなく、銅や鉄鉱石も扱う大手鉱業会社)」「ロシアのARMZ」の5社が支配している。
・日本も過去人形峠でウラン採掘をやっていたが採算が合わないと言うことで撤退している。
・ウランはいわゆる「原発ルネサンス」で最近高値だったが、今回の福島事故で値が下がっている。
■「統計でみる「構造改革」と国民生活4:家族形態の変容と家計の変化」(天野晴子)
(内容要約)
・統計からは最近、「夫婦のみの世帯」「単身世帯(一人暮らし世帯)」が増加していることが読み取れる。要するに「晩婚化」「少子化」ということであろう。
・単身世帯で深刻なのは高齢者単身女性の問題である(高齢者単身男性がどうでもいいという話ではもちろんない)。女性は一般に男性よりも低賃金で生活難に直面する危険性が高いからである。
(女性の低賃金という意味では、若い単身女性やシングルマザーなどの問題も忘れてはいけない)
・これらの状況(少子化、晩婚化、シングルマザー等)を改善する政策が求められている。
■コラム「電力制限」
(内容要約)
・原発が稼働停止したもののの夏の電力危機を乗り切ることができた。もちろん様々な努力によって電力危機を何とか乗り切ったわけだが、これによって原発必要論は虚構であることが明らかになったと言える。今こそ脱原発の方向に進むべきである。
■研究余話1「降ってわいたドイツ留学」(林昭)
(内容要約)
・1961年、「M君(筆者の先輩)が、東ドイツ留学する予定だったが個人的な事情でそれが無理になった。約束を破ると相手との信義に反し、あとあとの学術交流に支障が出るから君に行って欲しいのだが」と恩師・上林貞治郎大阪市立大学教授に頼まれた筆者のどたばた話。
当時は海外渡航は自由ではなく、手続きが大変厄介であった。
また、「4〜5年は向こうに行ってもらう」との上林氏の発言から、急遽、恋人との結婚式を挙げることになったという。
参考
上林貞治郎(1908年12月16日〜2001年4月14日:ウィキペ参照)
経済学者。
1908年、大阪府堺市の商家に父・栄吉と母・コウの長男として生まれる。
堺市立熊野小学校、大阪市立第一商業学校(のちの天王寺商業)、大阪高等商業学校(のちの大阪商科大学高商部)を経て、1932年、大阪商科大学第一期生として、主席で同大学を卒業。
1932年、大阪商科大学大学院に入学。1933年に同大学副手となり、助手、講師嘱託を経て、 1939年に高商部教授、 1941年に助教授へと昇進した。1942年以降、極秘裏にマルクス主義研究会を組織し、帝国主義侵略戦争反対の研究と普及の活動を開始した。これをきっかけに、大阪商大は第二次大戦中、最も大きな反戦地帯の一つに成長した。
1943年3月以降、治安維持法違反のかどによる弾圧が始まり、同年5月逮捕され(世にいう大阪商大事件)以後2年半にわたって拘禁された。1945年10月、治安維持法廃止の占領軍指令に基づいて釈放され、大学へ復帰。それ以後、大阪商大教授、新制大阪市立大学(大阪商大の後身)教授、経済学博士となり、同大学院も担当した。
1960年にはフランス、ドイツ、ソ連へ在外研究員として出張。パリ、ミュンスター、モスクワ、ベルリンでの各種国際学術会議に出席。1971年には日本経営学会理事会の推薦で日本学術会議経営学研究連絡委員として、スイスのサガン・カレン大学における国際経営学大会に出席。
1972年大阪市立大学定年退職後は、専修大学経営学部教授、大阪経済法科大学客員教授を務めた。
大学・学会以外でも、日本科学者会議、関西勤労者教育教会、勤労者通信大学、日本チェコスロバキア協会、日中友好協会、日朝協会、大阪平和を守る会、憲法改悪阻止大阪府各界連絡会議など多くの民主的団体の活動に関与した。とりわけ、日本・ドイツ民主共和国(東ドイツ)友好協会に心血を注ぎ、同会副会長、同会大阪支部会長などを務めた。
晩年は、住みよい堺市をつくる会(代表委員)、日本共産党大阪府第5区後援会(会長)を始め、堺の文化をそだてる市民の会、いずみ親子劇場、大阪保育・学童保育専門学院、泉州看護専門学校、新協建設友の会(会長)など、地域の運動に力を傾けた。
著書
『企業及政策の理論』(伊藤書店、1943年)
『生産技術論』(三笠書房、1951年)
『日本工業発達史論』(学生書房、1953年)
『現代企業における資本・経営・技術』(森山書店、1958年)
『ドイツ社会主義の成立過程』(ミネルヴァ書房、1969年)
『大阪商大事件の真相;大阪市大で何が起こったか』(日本機関紙出版センター、1986年)
『ドイツ反ファシズム抵抗運動史』(大阪経済法科大学出版局、1989年)
*1:著書『地域づくりの経済学入門』(2005年、自治体研究社)
*2:著書『現代を探究する経済学』(2004年、新日本出版社)
*3:著書『略奪的金融の暴走―金融版新自由主義がもたらしたもの』(2009年、学習の友社)
*4:著書『現代日本の金融危機管理体制』(2007年、中央大学出版部)
*5:著書『イワシと気候変動―漁業の未来を考える』(2009年、岩波新書)
*6:北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力のこと
*7:著書『戦前期日本資本主義と電力』(2000年、八朔社)
*8:たとえば当時、日本最強の労組ともいわれた電気産業労組(電産)の力をそぐ事が狙いという説もある
*9:著書『貨幣・金融論の現代的課題』(1997年、大月書店)、『金融危機下の日銀の金融政策』(2010年、中央大学出版部)