新刊紹介:「経済」2021年11月号

「経済」11月号について、俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
世界と日本
◆米軍のアフガン撤退(西村央)
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

主張/アフガン政権崩壊/報復戦争の誤りから教訓学べ2021.8.18
 日本は戦争の当事国でした。報復戦争にあたって米国から「ショー・ザ・フラッグ」(旗幟〈きし〉鮮明にせよ)と迫られた当時の小泉純一郎政権は、テロ特別措置法を急いで成立させ積極的に応じました。イージス艦、補給艦などの自衛艦をインド洋に派遣し、洋上給油で米軍などを支援しました。
 報復戦争の失敗が明確になった今、日本は米軍の無法な戦争に加担した誤りを認め、憲法第9条に基づいて国際紛争の解決に貢献する本来の姿に立ち返らなければなりません。

主張/報復戦争と日本/米国追従の海外派兵と決別を2021.9.12
 当時の小泉純一郎自公政権は、米国の報復戦争を無条件で支持し、在日米軍基地からの出撃を容認したのはもちろん、海上自衛隊護衛艦で「警戒監視」を名目に横須賀基地を出港した空母キティホークの護衛を脱法的に行いました。
 報復戦争はテロを拡散し、戦争の拡大を招く。
 このことを痛切な教訓にして、米国追従の海外派兵路線と決別する政治への転換が急がれます。


◆急速な中国の少子化・高齢化(平井潤一)
(内容紹介)
 中国の少子高齢化については
1)いわゆる一人っ子政策の影響という「中国特有の影響」
2)経済大国は一般に少子高齢化が進むという問題
という双方の理由があるとみられる。少子化克服としてはやはり「出産や育児の負担軽減」が重要であろう。
 なお、中国で「三人まで出産可」として出産制限緩和の動きがあること「それ自体」は「思惑が何であれ」、『出産の強制』につながらない限り素直に喜びたい。


◆韓国EC企業クーパンの闇:コロナ禍での長時間・過重労働(洪相鉉)
(内容紹介)
 副題の通りであり、クーパン『コロナ禍での長時間・過重労働』が批判されています。
「過労死」起きた韓国のクーパン大邱物流センター、仕事が増えても労働人員は減らした : 政治•社会 : hankyoreh japan2021.2.22


◆デジタル庁の発足(山本陽子*1
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
主張/デジタル法施行/個人情報保護の逆行を許すな2021.8.31
デジタル庁いらない/発足日に市民団体 「個人情報が一網打尽」2021.9.2


特集「日本の産業・復活の課題(上)」
◆停滞・衰退する日本の産業・経済:日本の産業構造はどうなっているのか(村上研一*2
(内容紹介)
 日本の「GDPの伸び率」「賃金上昇率」の低さを指摘。日本の景気が悪いこと、そしてそれは、「日本の政財界」が労働者賃金をコストとしか認識せず、労働者賃金を低く抑えることで内需を犠牲にしていることが大きな一因であることが批判的に指摘されます。


◆EVブーム、半導体不足に直面する自動車・同部品産業(久山昇)
(内容紹介)
 副題にもある自動車業界、自動車部品産業界における「EV(電気自動車)ブーム」「半導体不足」について論じられています。
 半導体不足の原因としては「供給不足要因」として、1)コロナ禍による生産ラインの混乱、2)米中対立(米国が中国半導体企業を制裁対象にしたことで中国企業の供給を受けられなくなり、他で埋める必要に駆られたがうまくいかなかった)、「需要増加要因」として、3)自動車のEV化などがあげられています。
 なお、EVブームと言っても日本の場合、「最大手トヨタ」はEVに消極的(むしろハイブリッドに積極的)と見られており、「日本の自動車メーカーすべて」がEVに積極的なわけではありません。一方、ホンダはトヨタに比べ「EVに積極的」と見られています。
 久山論文でもその点は指摘されているが、意外にも

◆「最大手」トヨタのこうした「EV開発に消極的な態度」が日本の自動車産業におけるEV自動車開発に大きく影響する可能性がある
◆EVについて「消極的なトヨタ」と「積極的なホンダ」は、EV自動車の行く末が、今後の経営に大きく影響する可能性がある(もちろん現状ではトヨタがナンバー1ですが、EV事業が大きな売り上げを確保するようになればホンダのナンバー1があり得る)

という『事実の指摘』にとどまっており、共産党の準機関誌的雑誌*3とはいえトヨタ批判が展開されてるわけではありません。
 それどころか、

◆確かにEVそれ自体はCO2を排出しないが生産ライン全体(EV生産で発生するCO2)*4で考えると、EVの方がハイブリッドよりエコと言えるかは疑問で慎重な判断が必要*5

などとしてトヨタの主張に「一定の理解」すら示しています。
【参考:EV自動車に消極的なトヨタ

トヨタの逆張りEV懐疑戦略は成功するのだろうか? - 明日香壽川|論座 - 朝日新聞社の言論サイト2021.9.15
 2021年9月9日に日本自動車工業会豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が記者会見で、「一部の政治家からは全て電気自動車(EV)にすればいいという声を聞くが、それは違う」「政府の温暖化対策目標は日本の実情を踏まえておらず、欧州の流れに沿ったやり方だ」と述べた(朝日新聞2021年9月9日)。
(中略)
 周知のように、現在、世界中でEVシフトが加速度的に進んでいる。
(中略)
 日本でも、2021年4月に、ホンダがグローバルで売る新車を2040年までに全てEVと燃料電池車(FCV)にする目標を打ち出している。
 一方、トヨタは「ハイブリッドもEVも扱う全本位戦略」をとっており、これは実質的にはハイブリッドへの逆張り戦略とも言える。米国でのトランプ政権時代、トヨタ三菱自動車GMなどと一緒に政権側について、カリフォルニア州が厳しい排ガス規制を独自に設定するのを阻止しようとした。これに対して、フォード、ホンダなどは、反トランプを鮮明にして、カリフォルニア州の規制強化を支持した。
(以下は有料記事なので読めません)

自民・河野氏とトヨタ社長が火花?!「電気自動車だけでない」発言に「誤った戦略にならないよう」と返す(志葉玲) - 個人 - Yahoo!ニュース2021.9.21
 トヨタ豊田章男社長は自民党総裁選を念頭に「一部の政治家からは、『すべてを電気自動車にすれば良いんだ』という声を聞くこともあるが、それは違うと思う」と発言。これに対し(ボーガス注:トヨタ社長の言う『一部の政治家』の一人に該当すると見なされて)コメントを求められた河野太郎*6が「戦略が誤ったものにならないように(自動車メーカー)各社に努力していただきたい」と返す場面があった。
(中略)
 内燃機関(主にガソリンエンジン)と電動モーターを併用することで、CO2排出削減に貢献してきたハイブリッド車ではあるが、「2050年カーボンニュートラル」が国際的な目標となっている中で近い将来に販売できなるということだ。これは日本の自動車メーカー、特にプリウス等、世界に先駆けてハイブリッド車を開発、販売してきたトヨタとしては面白くない状況であろう。
(注)
 日本の一部報道では「原料調達から製造、走行の過程で排出されるCO2は電気自動車よりハイブリッド車の方が少ない」との主張*7もあるが、その前提となっているデータが古いことや火力発電中心の現在の日本の状況だからこその試算であり、再生可能エネルギー普及と共に、状況は大きく変わるとの指摘もある(マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか? - EVsmartブログ(2020.3.9)参照)


脱原発・脱炭素と電力産業(谷江武士*8
(内容紹介)
 日本において「脱原発、脱炭素」を訴える市民団体の「希望」ほどではないものの、「福島事故」「温暖化防止協定」などの影響もあり、日本においても「脱原発、脱炭素」が一定程度進んでいることが紹介されている。


◆日本のデジタル化とIT産業(藤田実*9
(内容紹介)
 日本において「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」ほどの「IT大企業」が存在せず「デジタル敗戦」と言う言葉さえあることが批判的に論じられている。


◆ハイテク覇権と日本の半導体産業(小林哲也
(内容紹介)
 ファーウェイ(中国)、サムスン(韓国)、TSMC(台湾)など海外の半導体企業に比べて日本の半導体企業が売り上げなどで後れをとっていることが批判的に論じられている。


◆日本の流通産業と「ネット通販」(佐々木保幸*10
(内容紹介)
 コロナ禍の中、ネット通販の売り上げが拡大しているが、
赤旗
主張/楽天の送料強制/大手IT企業の身勝手を正せ2020.2.25
楽天、偽造「鬼滅」枕に関与/中国企業の販売を代行2021.6.8など様々な問題点があることが指摘されている。


◆新たな「森林・林業基本計画」を考える:「グリーン成長」の特徴と問題点(佐藤宣子*11
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。
森林の健全育成に逆行/田村氏 経営管理法案を批判2018.4.18


◆「人新世」と唯物史観(上):マルクスエンゲルスは、地質学をどのように研究したか(友寄英隆*12
(内容紹介)
 『新書としては空前のブームとなった』マルクス経済学者である斎藤幸平氏大阪市立大学准教授)の著書『人新世の「資本論」』(2020年、集英社新書)などを契機に一部で注目されている「人新世」概念、あるいはこの概念とマルクス主義との関係について友寄氏の見解が述べられている。
 なお、『人新世』でググる
地球に人類が爪痕残す…「人新世」はどんな時代? : 科学・IT : ニュース : 読売新聞オンライン2021.5.9
(社説)「人新世」 地球の限界を考える:朝日新聞デジタル2021.8.2
等がヒットし、また、斎藤氏の著書以外にも

◆篠原雅武『人新世の哲学:思弁的実在論以後の「人間の条件」』(2018年、人文書院
大村敬一*13、湖中真哉*14『「人新世」時代の文化人類学』(2020年、放送大学教材)
◆篠原雅武『「人間以後」の哲学:人新世を生きる』(2020年、講談社選書メチエ)
◆柿埜真吾『自由と成長の経済学:「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』(2021年、PHP新書)

と言った著書の存在が解り、この概念が日本においてかなり普及していることがうかがえる(なお、これらの著書を俺は未読ですし、友寄氏がこの論文でこれらを紹介しているわけではないことを指摘しておきます)。
 友寄氏はこの概念が
1)

人新世 - Wikipedia
 オゾンホールの研究で1995年のノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン(1933~2021年)らが2000年に提唱し、国際地質科学連合で2009年に人新世作業部会が設置された。

という「比較的新しい概念」であり、その概念について定説がなく、論争があること(当然、マルクスエンゲルス存命中にはこうした概念は存在せず、彼らが『人新世』概念をどう評価するかは不明)
2)その登場経緯からして「社会科学の概念」というよりは「地質学の概念」と言う性格が強いことから、「人新世」概念を「経済学」など、社会科学分野に導入することについては非常に慎重な態度である。


◆異次元リスクの財政金融問題:いまこそ税財政の民主的再構築を(山田博文*15
(内容紹介)
 いわゆる「異次元金融緩和」が批判的に論じれらている。
参考
赤旗
異次元緩和をやめよ/大門氏“正常化踏み出せ”2019.5.14
主張/異次元緩和の継続/ゆがんだ金融政策は転換せよ2020.9.23


◆新版『資本論』の完結に寄せて(天野光則*16
(内容紹介)
 新版『資本論』の完結の意義について論じられていますが、小生の無力のため、詳細な紹介は省略します。


◆角瀬(かくらい)保雄*17先生を偲んで(中川雄一郎*18
(内容紹介)
 角瀬氏への追悼が述べられていますが、小生の無力のため、詳細な紹介は省略します。

*1:日本共産党国会議員団事務局員

*2:中央大学教授。著書『現代日本再生産構造分析』(2013年、日本経済評論社)、『再生産表式の展開と現代資本主義』(2019年、唯学書房)

*3:共産党関係者(不破元委員長など)の論文が掲載されることが多いとは言え、前衛や赤旗と違い経済は『機関誌』ではありません。

*4:ただしこれは当然、推計値にならざるを得ませんが

*5:これについては、例えば、そうした『ハイブリッドの方がエコ』主張を批判する記事だがマツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか? - EVsmartブログ(2020.3.9)参照

*6:第三次安倍内閣国家公安委員長、第四次安倍内閣外相、防衛相、菅内閣行革等担当相を歴任

*7:これについては久山論文も指摘しており、こうした論について、はっきりと賛同はしない物の「こうした指摘があるため、EV礼賛論、ハイブリッド批判論が手放しで評価できるか疑問」と久山氏は主張しています。

*8:名城大学名誉教授。著書『キャッシュ・フロー会計論』(2009年、創成社)、『東京電力原発事故の経営分析』(2017年、学習の友社)

*9:桜美林大学教授。著書『日本経済の構造的危機を読み解く』(2014年、新日本出版社)、『戦後日本の労使関係』(2017年、大月書店)

*10:関西大学教授。著書『現代フランスの小売商業政策と商業構造』(2011年、同文舘出版)

*11:九州大学教授。著書『地域の未来・自伐林業で定住化を図る』(2020年、全国林業改良普及協会)

*12:著書『「新自由主義」とは何か』(2006年、新日本出版社)、『変革の時代、その経済的基礎』(2010年、光陽出版社)、『「国際競争力」とは何か』(2011年、かもがわ出版)、『大震災後の日本経済、何をなすべきか』(2011年、学習の友社)、『「アベノミクス」の陥穽』(2013年、かもがわ出版)、『アベノミクスと日本資本主義』(2014年、新日本出版社)、『アベノミクスの終焉、ピケティの反乱、マルクスの逆襲』(2015年、かもがわ出版)、『「一億総活躍社会」とはなにか』(2016年、かもがわ出版)、『「人口減少社会」とは何か:人口問題を考える12章』(2017年、学習の友社)、『AIと資本主義:マルクス経済学ではこう考える』(2019年、本の泉社)、『コロナ・パンデミックと日本資本主義』(2020年、学習の友社)など

*13:放送大学教授。著書『カナダ・イヌイトの民族誌』(2013年、大阪大学出版会)

*14:静岡県立大学教授。著書『牧畜二重経済の人類学:ケニア・サンブルの民族誌的研究』(2006年、世界思想社

*15:群馬大学名誉教授。著書『国債管理の構造分析』(1990年、日本経済評論社)、『金融大国日本の構造』(1991年、みずち書房)、『金融自由化の経済学』(1993年、大月書店)、『国債がわかる本』(2015年、大月書店)など

*16:千葉商科大学名誉教授

*17:1932~2021年。法政大学名誉教授。著書『現代会計基準論』(1995年、大月書店)、『非営利・協同と民主的医療機関』(2000年、同時代社)、『企業とは何か:企業統治と企業の社会的責任を考える』(2005年、学習の友社)など(角瀬保雄 - Wikipedia参照)

*18:1946年生まれ。明治大学名誉教授。著書『イギリス協同組合思想研究』(1985年、日本経済評論社)、『キリスト教社会主義と協同組合:E.V.ニールの協同居住福祉論』(2002年、日本経済評論社)、『社会的企業とコミュニティの再生』(2005年、大月書店)、『協同組合のコモン・センス』(2018年、日本経済評論社)など。個人サイト中川雄一郎・TOPページ