今日の産経ニュース(9/14分)その1(アボット豪州首相辞任)(追記・訂正あり)

 アボットの辞任を残念がる産経の物言いがあまりにも異常だと思うので突っ込んでみます。
■【南シナ海問題】「埋め立てなどは非生産的な外交政策」ターンブル豪首相、中国に自制要求
http://www.sankei.com/world/news/150921/wor1509210063-n1.html

 ターンブル氏は、南シナ海での中国の危険な行動によって「周辺のベトナムなどが米国の支援を求め、西太平洋で米軍の存在が増大する結果になり、中国が本来求めるものとは反対の結果を招いている」と分析。中国自身のためにも行き過ぎた行動をやめ、領有権問題を平和的に解決すべきだとの見解を示した。

というターンブル発言からは彼が「中立的な立場による平和的な解決を目指す豪州」を現時点ではアピールしようとしていることが伺えます。産経のような中国封じ込め論じゃないわけです。


■【豪首相交代】国防相に初の女性 新内閣発表、日本の潜水艦推す前任を更迭
http://www.sankei.com/world/news/150920/wor1509200032-n1.html
 何つうか産経が「これは日本外しだ」と思わせたがってるようです。実際どうか分かりませんけど。
 まあ、前も書きましたけど、日本が採用されれば「ターンブルの嫌がらせに勝った」、されなかったら「ターンブルの嫌がらせに負けた」と産経は言い出すんでしょうね。たぶん「日本が勝ったから日本外しなどないフェアな勝負だったと思う」とか「負けたが日本が不当に酷い目にあわされることはなくフェアな勝負だったと思う」とか書かないでしょうね。


■オーストラリア新首相、親族に中国共産党元幹部? 「中国寄り」に国内から懸念 通信網構築に中国企業の参入前向き
http://www.sankei.com/world/news/150919/wor1509190054-n1.html
 結局「ターンブル*1は中国の手先なんだよ!」と言うところに行っちゃうのが産経のようです。

 台湾メディアなどによると、問題の人物は新首相の長男アレックス・ターンブル氏(33)の義父にあたる91歳の人物。アレックス氏は北京に語学留学中、この人物の娘イボン・ワン氏と出合い、2012年に結婚した。義父は文化大革命の最中に米国で学び、中国に戻った後は中国共産党の研究所に勤め、政府に提言していたという。
(中略)
 これにアレックス氏は「でたらめ」と反論。義父は上海で江沢民*2国家主席と親交があったものの、共産党や軍で役職を持ったことはないと強調した。

 「ターンブルの息子」の「義理の父(妻の父)」が中国人で中国政府と一時関係があった*3なんて、ターンブル本人にすれば「知らんがな、言いがかりやないか」「お前らそのうち、『お前の長男が北京に留学して中国人女性と結婚したこと自体問題』とか言い出すんと違うのか、それ中国人差別と違うのか?」「就任直後で政策もろくに実施できない今の時点で『中国の犬』レッテル貼って潰そうとは卑怯やないか、アボットの差し金か?」て不快感で一杯でしょう。

 しかし、ターンブル首相自身は豪州で進められているブロードバンド網の構築計画に関し、治安当局の反対にもかかわらず中国企業を参入させることに前向きとされ、中国が回線を細工して容易に機密情報を盗めるようになりかねないとの懸念が広がっている。

 詳しい事情が分からないので「ああ、そうですか」としか言いようがない。
 仮に「参入が問題だとしても」
1)入札に厳しい条件付けしてスパイ行為ができないようにするのならともかく最初からスパイ扱いで入れないのは法的にまずいのと違うか?
とか
2)スパイ防止策をがっちり固めた上で中国企業が参入した方が経済活性化にええ*4のと違うか?
とかターンブル的にはそういう話でしょう。

 アボット政権下で進められてきた、日独仏が名乗りを上げる次期潜水艦の共同開発計画に関しても、ターンブル首相の意向が早くも反映された。
 計画をめぐっては、独仏の企業が南部アデレードでの現地生産をうたうのに対し、日本案は機密保護の観点から現地生産に消極的だが、アンドリュース国防相は17日、国内生産が望ましいとの見解を表明した。

 「独か仏の企業」なんだからこれは中国は多分関係ないでしょう。まあ、うがった見方すれば「親中国的観点から日本外したい。日本以外ならどこでもいいけど、それ公言すると日豪関係的にまずいから国内雇用持ちだして日本以外(一番可能性が高いのが独か仏)採用しよう」と疑えるのかも知れません。実際産経はそう言う印象操作してターンブルをネグってますが産経の主張は根拠レスですからね。
 「ぐちゃぐちゃ文句言う前に日本がターンブルの指摘に配慮して豪州の国内雇用*5に配慮すればええんと違うか(つうかアボットならそう言う国内雇用についての指摘なかったつう根拠そもそもあるのか?)」と思いますね。いや俺は武器輸出、それも「日中関係を悪くしかねない武器輸出」には「ハト派親中派」として否定的ですんで、日本が採用されないことはむしろ願ったりかなったりですが。ただそう言うこととは関係なく向こうが「国内雇用に配慮せえ」言ってるのにそれ公然と無視しようとしたあげく、「ターンブルの言いがかり」扱いする産経はおかしいでしょうよ。まあ、日本の軍需企業は実際にはターンブルの主張に応じて「国内雇用に配慮する」と思いますけどね。それで日本が落札できるか知りませんけど。落札できたら「ターンブルの嫌がらせに勝った」、できなかったら「ターンブルの嫌がらせに負けた」と産経は言い出すんでしょうね。


■【安保法成立】豪外相歓迎「日本との安保協力を促進することはオーストラリアの優先事項」
http://www.sankei.com/world/news/150919/wor1509190044-n1.html
 産経的には「ほっとした」とでも言うところなんでしょうか。別に「外交問題ではなく経済問題でのアボット失脚」なので不思議でもないんですが。
 まあ、小生的には残念ですね(残念というと言い方が適切でない気もするが、後の文章で俺の言いたいことは分かるかと思う)。もちろん「外国にとって日本の民主主義などどうでもいい」「自衛隊の海外展開が豪州の利益になる*6と思えば支持する(これは米国や英仏と言ったNATO諸国もそうですが)」と言えばそうなんでしょうが、こう公然と「安倍の反民主主義行為、非立憲行為」を美化されるとむっとしますね。不愉快になる。
 とは言えこの「安保協力」には少なくとも「中国封じ込め」なんて物騒なもんを入れる気はさすがに豪州にはないでしょう。安倍に適当に調子あわせてたらしい前任者アボットだとその辺り、適当に調子あわせて安倍が勘違いという恐ろしいこともあり得ますが、ターンブルにはそういう無茶はしないでほしいところです。


■ターンブル豪首相が就任 経済政策立て直しが急務

http://www.sankei.com/world/news/150915/wor1509150058-n1.html
 アボット前首相の支持率低迷の大きな要因となった経済政策の立て直しが、当面の最重要課題となる。
(中略)
 経営感覚に優れた新首相への期待感もあり、15日の外国為替市場では、下落傾向が続いていた豪州ドルが対米ドルや日本円で一時、2週間ぶりの高値をつけた。
 豪統計局が今月上旬に発表した4〜6月期の国内総生産(GDP)は、前期比0・2%増と、1〜3月期の同0・9%から減速が鮮明になった。失業率は6%台で高止まりし、労働組合が基盤の野党・労働党が支持を得やすい状況が続く。

 アボット辞任を残念がるトンデモ記事とは違いまともな記事です。「なるほどアボット失脚もそれなりの理屈があるのだ」ということがわかります。

 豪州経済の減速の主因は、最大の輸出相手国である中国が予想を上回るペースで資源需要を減らしていることだ。主力の鉄鉱石輸出価格は昨年、約50%も下落した。

であるのなら、産経の反中国記者が「ざまあ中国」と叫んだ中国景気低迷により「産経が褒め称える」「産経曰く安倍首相の朋友」アボットは失脚したという皮肉なことになります。


■【豪首相交代】日本政府高官も「知らなかった…」と驚愕 安倍首相と「ウマが合う」朋友の降板に戸惑い
http://www.sankei.com/politics/news/150915/plt1509150009-n1.html
 向こうも「馬が合う朋友扱い」されても苦笑いでしょう。産経が勝手に「朋友認定」してるのには他にもインドのモディ首相などがいますが。
 中国みたいにリップサービス*7で「老朋友」*8と言うのならともかく産経や安倍政権はガチで「朋友」と言ってるらしいところが滑稽です。
 まあまともな政権なら「朋友」と呼ばれることはオーストラリアにとっていいことですが、「まともでない安倍政権」に「君らオーストラリアはアボット首相を先頭にして、安倍首相の反中国封じ込めに協力してくれるんだよね?。なら朋友だ」なんて評価されることがオーストラリアにとって「国益かどうか」ははなはだ疑問です。後継首相がどういう人か知りませんが「何だよ、中国封じ込めに協力しねえのかよ」「安倍首相に対する態度もアボットより冷たい」「中国に対する態度が媚中で許せねえ」「もうオーストラリアは親日国家でも朋友でもねえ」と評価された方がむしろオーストラリアの国益じゃないかと思います。


■【豪首相交代】安倍首相の「最高の友」降板 中国を「抗日戦の同盟者」としたターンブル氏就任で日豪蜜月どう変わる?
http://www.sankei.com/world/news/150915/wor1509150006-n1.html
 産経は「中国もオーストラリアも日本と闘った連合国だ」て知らないんでしょうか?。「美味しんぼ」のオーストラリア編でも読むことをお勧めしたいですね。登場人物のジュディ(後に団一郎夫人)が「私は日本人が好きになれない。なぜなら彼らは過去にオーストラリアでしたことを全然知らないからだ」なんて発言を確かしてますから。

「抗日戦の同盟者」

というのはただの事実の指摘に過ぎず反日でも何でもないですが。
 まあ前任者アボットが安倍におべっか言いまくってたとして、「後任者はそう言うことしなくなる」かもしれませんが産経が心配するような反日なんてないでしょう。まあ、「朴チョンヒ時代や李登輝時代」は親日国家扱いしていた韓国の朴クネ政権や台湾の馬英九政権すら安倍靖国参拝を批判したり、AIIB参加表明したりするだけで反日認定する産経ですから、ターンブル氏も反日認定するかも知れませんが。

豪州のある研究者は「当面は新政権が続く」との見方を示す。

 そりゃ「当面は続く」でしょうね。「安倍のようなよほど酷い首相」ならともかく、「1ヶ月後は別の首相でした」なんてそんな政情不安定じゃオーストラリア国民も外国政府も困ります。

 アボット政権で外交を担ってきたビショップ氏は、アボット氏に反旗を翻したが副党首に再選され、ターンブル氏の片腕として外相にとどまるとみられる。

であるなら外交で大幅な変化はないと見るべきじゃないんですかね。

 アボット氏は、中国と自由貿易協定(FTA)を結ぶなど経済面では親密ぶりを見せつつ、南シナ海問題では日米と「法の支配」を訴えるなど、安保面で「超保守」の姿勢もみせた。

 単にアボット流に「バランスを取ってるだけ」だと思うのですが(そのバランスの取り方の是非はともかく)。ちなみに同じ事をしてるのが韓国の朴クネ政権だと思いますが産経らウヨにとっては「中国寄りに見えるのか」、やれどっちつかずの二股膏薬だの、米国を裏切っただのと罵倒しています。

 ターンブル新政権の安保政策について、東南アジア研究所(シンガポール)のマルコム・クック上級研究員は、豪州による南シナ海への監視活動参加などには「より慎重になるだろう」と指摘。安倍政権が「準同盟国」と位置づけて豪州への売り込みを図る潜水艦の採用も、「方向性は踏襲されても、判断は後ろ倒しになる可能性がある」という。

 事実かどうか知りませんが、仮にそうなるとして別に悪いことは何もないでしょう。むしろアボットが「反中国的な方向」に傾きすぎていた*9のがある程度修正されるつうことですから。オーストラリアのアボットに変に引きずられて安倍に「反中国」で暴走されてはたまったもんじゃありません。


■【豪首相交代】安倍氏と気脈通じた「親日アボット氏敗北に衝撃
http://www.sankei.com/politics/news/150914/plt1509140028-n1.html

 親日派として知られたオーストラリアのアボット首相が与党党首選で敗れた。安倍晋三首相と気脈を通じ、日豪経済連携協定(EPA)の締結や毎年の首相相互訪問で合意するなど、首相就任後の2年で日豪関係は飛躍的に深化してきただけに、敗北は日本にとって衝撃だ。

 やれやれですね。オーストラリアも「安倍首相の友人アボット氏が敗北して残念です」などと産経に言われても「はあ?」と苦笑いするしかないでしょう。向こうは安倍を別に「親友と思ってない」でしょう。EPAの締結ぐらいで「親友扱いされても」向こうも苦笑するしかないでしょう。
 安倍や産経は「オーストラリアのアボットもいざとなったら中国封じ込めに協力してくれる、アボットは安倍首相の友人だ」と勘違いしてたのかも知れませんが。
 まあ、後継首相がどういう立場か知りませんが少なくとも「反日ではない」でしょう。別に「対日関係」が理由でこういう選挙結果が出たわけではないようですし*10
 大体産経の記事*11ですら「アボット氏の人気が低迷しており党首辞任論が高まっていた」と書いてるのに何が「衝撃」なんでしょうか。


【9/18追記】
ライプツィヒの夏『日本の自民党よりオーストラリアの自由党のほうが、よっぽどまともな政党だと思う』
http://blog.goo.ne.jp/mccreary/e/0996c757ba294a2ab9fa3ee6a3d7ac1c
id:Bill_McCrearyさんに拙記事をご紹介いただきました。
 いつもありがとうございます。
 向こうのコメント欄にすぐに何か書き込もうと思ったのですが、「9/16当日風邪で寝込んでしまい」書き込む機会を逸してしまったので特にコメントはしません。
 最初このMcCrearyさんエントリを見たときは『オーストリア自由党*12』と誤読し「ああ、ハイダーのいたところか、確かに今の自民党より向こうの方がまだマシかもな」などと思ってしまいましたが、もちろん「オーストラリアの自由党」ですね。

*1:2008年党首選挙に勝利し自由党党首に就任するが2009年党首選挙でアボットに敗れ党首の座を明け渡す。2013年に成立したアボット内閣では逓信相に就任。2015年に支持率が低迷するアボットに対し党首選挙の実施を要求。アボットに勝利し、2009年の雪辱をはらした(ウィキペ「マルコム・ターンブル」参照)。

*2:電子工業大臣、上海市長・党委員会書記などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

*3:どんな関係かこれだけではよく分かりませんが

*4:そもそもアボットの失脚理由が経済無策であり、ターンブルの売りが「経済活性化」であることに注意すべきでしょう。

*5:そもそもアボットの失脚理由が経済無策であり、ターンブルの売りが「経済活性化」であることに注意すべきでしょう。

*6:そう言う認識の是非についてはひとまず論じません

*7:もちろん「中国との友好関係に協力してくれた人」と認定した人間への敬称ですので全くのリップサービス、口から出任せではないでしょうが。

*8:例えば産経『親中派の称号「中国人民の老朋友」』(http://www.sankei.com/premium/news/150623/prm1506230006-n1.html)参照

*9:とは言えそれでもアボットは産経が期待するほどのアンチ中国ではないでしょうが

*10:ただし後継首相が「アボットは中国に冷淡すぎで日本に近過ぎた」として日本や中国との関係でバランスを変える可能性はあるかも知れません。その場合だって「反日なんてあり得ない」でしょうが産経は「反日評価する」のでしょうね。

*11:この記事ではなく別の記事ですが

*12:冗談ではなくマジであり、小生はそう言うとんま野郎です。