今日の中国ニュース(2020年1月14日分)(映画『犬神家の一族』のネタばらしがあります)

◆I濱Y子のツイートにコメント

I濱Y子
 その自信はどこからくるのだろう
台湾の独立勢力は「1万年にわたって悪評残す」=中国外相 | ロイター
 中国の王毅*1国務委員兼外相は13日、台湾の総統選で独立志向の与党、民主進歩党民進党)の蔡英文総統が再選されたことを受け、独立勢力は「1万年間にわたって悪評を残す」と述べた。
 王毅氏は、台湾が中国の一部であるという「1つの中国」が国際社会の共通認識になっていると指摘。1つの中国の原則は「台湾の選挙によって少しも変わることはなく、西側の政治家の誤った言動によって揺らぐこともない」と主張した。

 こういうのはあくまでも「我々は台湾独立など何年経とうが認めない」の誇張表現でしかないのでI濱のようなことを言い出すのは単に滑稽なだけです。
 ちなみにこのツイートに「反中国をこじらせたバカ」が多数リツイートしていて吹き出しました。
 いずれにせよ、少なくとも現時点においては王外相の言うように「実質的には独立状態だが、国際法的(国際社会的)には国扱いされてない」という台湾の状況は当面変わりそうにないわけで、「現状維持派(まあこれもある意味事実の独立派ですが)ならともかく、公然と独立を主張する勢力はしばらくの間押さえ込める」という自信を中国側が持つのは当然でしょう。そうした事態は、今回の蔡英文再選でどうにかなるもんではない。


リベラル21 台湾総統に蔡英文再選(田畑光永
 アンチ中国のリベラル21、田畑光永*2らしくて「うんざり」「アホと違うか?」ですね。
 このような文章を書けば田畑のような輩からは「ボーガスは中国シンパ」と見なされるでしょうがあえて批判を書きます。
 別記事でも既に書きましたが、この選挙、あえて言えば俺は「負けたのは台湾民主主義」と思っています。
 「郵政選挙での小泉*3自民党大勝」のようなくだらない選挙だったと。その意味では中国の言う「汚い選挙だった」は結論だけ言えば「中国のいう通りだ、汚い選挙だった」と思います(ここでは中国が「汚い選挙だった」と言う根拠やその思惑はあえて無視しています)。
 小泉氏はあの選挙で「郵政民営化」のみを争点とする酷い選挙をやり、愚かにも日本国民多数派はそんな彼を勝たせました(勿論少数ではアレ批判派もいますし、俺もその一人ですが)。
 一方、今回、蔡英文は「台湾の自主性を守れ」のみを争点とする酷い選挙をやり、愚かにも台湾住民多数派はそんな彼女を勝たせました(勿論少数ではアレ批判派もいますが)。
 あえて言えば「蔡の行為は小泉氏より酷い」と俺は思います。
 小泉氏の場合「郵政民営化反対」という野党は実際に存在した。
 蔡の場合、どこに「台湾の自主性なんかどうでもいい、今すぐ中国と統一しよう」なんて候補がいるのか。
 国民党の韓国瑜は「経済を考えたら中国と必要以上に対立すべきではない。蔡英文は支持者受けを狙って、必要以上に中国との対立を煽ってるポピュリズム政治家だ。私はそんなことには反対だ」といっただけです。
 それを蔡英文が「韓国瑜は中国シンパだ」と不当なレッテルを貼り、「香港デモ問題」で反中国感情が高まり、その結果、愚かな台湾住民多数派が蔡に踊らされ、韓は敗北した。そんなことの何が「習近平の敗北」といって喜ぶことなのか。むしろ嘆かわしいことではないのか。
 蔡の勝利を「習近平の敗北」というのは、反北朝鮮色の強い「韓国極右政党(自由韓国党、あるいはその前身政党)」が大統領選に勝利すること*4を「金正日(あるいは金正恩)の敗北」と言うくらい馬鹿げたことではないのか。
 「太陽政策」の金大中盧武鉉文在寅*5の大統領選勝利を「金正日(あるいは金正恩)の勝利」と言うくらい馬鹿げたことではないのか。
 政治や外交というのは「意見が違うから敵視する」で済む話ではありません。だからこそ、金大中盧武鉉文在寅太陽政策を主張したし、韓国瑜は中台友好を主張した。それを「北朝鮮シンパ、中国シンパ」扱いするのはまともな主張ではない。
 なお、リベラル21は「韓国リベラル政党(金大中盧武鉉文在寅政権)」の太陽政策については基本的に「合理的なもの」として支持しており、台湾との違いには本当に頭痛がします。なぜ「韓国瑜=文在寅(現実的な対中外交を目指す)」「蔡英文自由韓国党(異常な反中国)」と言う理解をして、蔡英文批判をしないのか、さっぱりわかりません。まあ、「中国について論じているのは田畑、韓国について論じてるのは別の人間」ではあるのですが。
 ならば韓が勝てば田畑らにとって「習近平の勝利」なのか。まあ、ある意味、中国にとってそういう面はあるかもしれない。
 しかし韓は「中国の傀儡」ではもちろんない。そして蔡英文のようにいたずらに中国との対立を深めることが台湾にとって本当にいい事なのか。
 蔡とその支持者が「勝ったんだ、俺は中国に勝ったんだ!*6」と映画「犬神家の一族」の「青沼静馬」のようなことを言ったところで何がどう勝ったのか。
 静馬の場合は犯人に対し「あんたは俺の『息子だ』という嘘を信じ、俺を相続の上で有利にしようとして、既に二人の人間を殺害した*7。今更、あんたは俺が偽物だと暴露できないだろう。そんなことをしたら俺は相続権を失い、あんたが不利益になる。俺は犬神家に勝ったんだ!」といえるかもしれない(実際には逆上した犯人がそうした利害得失を無視して静馬を殺害しますが)。
 蔡の場合は「勝ったんだ!」といったところで台湾の国際的地位が上がったわけでも何でもない。
 「韓を中国シンパ扱いする連中」が「韓に勝ったから中国に勝った」と放言してるだけです。しかし「繰り返しますが」韓は「中国の傀儡」ではもちろんない。むしろ「韓を勝利させた上で、彼に台中関係をよくしてもらう(もちろん韓が中国との安易な妥協に走らないよう監視はする)」方がよほど台湾のためになったでしょう。
 そもそも台中関係が今のようになってしまったのは、先代総統・馬英九*8が経済重視の観点から「台中友好」に務めてきたところ、蔡英文が「カネが全てか」「馬前総統は中国に媚びすぎだ、私は彼には反対だ」などという態度を取り出したからです。
 これが中国の反発を買い、いわゆる「断交ドミノ」のような締め付けが中国側から来た。
 この時、蔡英文が「台中関係」に配慮して、中台関係改善に乗り出せば良かった。しかし蔡がしたことは「中国は酷い国だ」と反中国を扇動することだった。そんなポピュリズム政治家を評価できる田畑は俺に言わせれば「アンチ中国の馬鹿」です。
 さて田畑の駄文にも突っ込んでおきます。

 去る11日の台湾総統選。予想された結果とはいえ現職の蔡英文が得票率57.13%、800万票余を積み上げて圧勝したことは、中華人民共和国誕生以来の中国の歴史の流れが変わったのを世界に知らしめる一大エポックを画すものであった。

 と言うほどの話でもないでしょう。小泉郵政選挙自民党大勝並みに馬鹿げた事件であり、「小泉氏退陣後の自民党が麻生*9政権において政権を鳩山*10民主党に奪われた」ようにいずれ「化けの皮が剥がれるだろう(蔡が政権運営の困難に直面するだろう)」と俺は見ています。
 大体大勝したとは言え「得票率57%」であり残りの「43%」は蔡を是としなかったわけです。
 そして田畑が書くようにこの選挙結果は事前世論調査から「中国政府も含めて」ある程度予想されていました。それについては台湾:総統選挙と政治情勢(中国専門家分析)|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページで浅井氏も指摘するとおりです。
 ここで浅井氏は「中国政府関係機関の台湾選挙情勢分析」を乗せていますがそこにおいても「蔡英文が有利なこと」「蔡英文当選の可能性を見込んで台湾政策を立てる必要があること」は指摘されています。中国にとって蔡の再選はもちろん「嬉しいことではない」でしょうがそれは既に彼らも選挙当日前から予想して色々と台湾政策を立案しているわけです。浅井氏も指摘するように、田畑が言うほどの政治的ショックが中国にあるかどうか。

 考えてみれば、現在、中国本土と台湾が対立しなければならない実質的理由は全くないと言っていい。
 経済面では相互補完的関係が幅広く成立している。大陸の通信機器メーカーと台湾の半導体組み立て企業とは今や切っても切れない関係にある。
 それに伴って海峡をはさんでの双方の人間の往来、交流はほとんど自由化された。

 中国は「現状維持なら容認する」とし、馬前総統時代は「分かりました、そうします」で争いなど基本的になかったので、俺も全く同感ですが、ここで俺は「にもかかわらず、独立を目指すかのような言動をし、いたずらに中国と台湾の対立を深める蔡英文はおかしい、本当に韓の敗北が残念だ」と思うのに対し、田畑は「断交ドミノをしかけるなどする中国が全て悪い。蔡英文は何一つ悪くない」というのだから「呆れて二の句が継げない」。そもそも蔡が「中国を挑発するような態度をとったこと」を何故完全無視できるのか。

 前の世代が果たせなかった「台湾解放*11の実現」はなかでもとりわけ喉から手が出るほどに欲しい勲章なのだ。2015年秋、当時の台湾・馬英九総統とシンガポールでの会談にこぎつけたおり、世界中の記者、カメラマンの前で何分間も馬英九の手を握って離さなかったシーンは、その象徴であった。

 田畑の与太は本当にばかばかしいですね。もちろん「可能なら」習氏は「中台統一」をしたいでしょう。しかし「それが容易でないこと」は彼だって分かっている。過去において分断国家の統一には「ベトナム統一(軍事力による統一)」「ドイツ統一(経済が破綻した東ドイツが西ドイツに吸収される)」がありますがこれらも統一まで時間がかかった上に「ベトナムケース(台湾の軍事征服)」「ドイツケース(台湾の経済破綻)」も現実的にありえないので、中国にとって全く参考にならない。
 「とりわけ喉から手が出るほどに欲しい勲章」というほど彼が「中台統一」に固執しているとは俺は思いません。「安倍にとっての改憲や(最近は諦めたようだが、一時の)北方領土返還」「大阪維新にとっての大阪都構想」ほどにも彼はそんなことに固執してないでしょう。勲章なら既に彼には「AIIBと一帯一路がある」。
 そもそも馬総統との会談は「中台経済交流の推進」が目的であり「中台統一」が目的ではない。
 もちろん中国側は「中台友好=中台統一の前段階(中台友好が進めば自然に統一機運も高まる)」という主張をしていますが、いくら習氏でも「馬氏との会談」で「中台統一が進んだ」と思うほど脳天気でもないでしょう。
 「馬総統との会談」は「これで台湾で当面、独立宣言が出る危険性は遠のいた(現状維持の可能性が高まった)」「これで中国、台湾ともに金儲けの種が出来た」と言う意味では勿論嬉しかったでしょうが。というかもちろん「本心嬉しかった」でしょうが政治家なんだから「その言動はただの本心ではなく世間に向けたパフォーマンス要素」もあるわけです。
 「世界中の記者、カメラマンの前で何分間も馬英九の手を握って離さなかった」ことによる政治パフォーマンス要素を「習氏が考えていたこと」は明白でしょうに。

*1:中国共産党中央台湾工作弁公室主任(国務院台湾事務弁公室主任兼務)、駐日大使などを経て国務委員(外交担当)兼外相

*2:著書『中国を知る』(1990年、岩波ジュニア新書)、『トウ小平の遺産』(1995年、岩波新書)など

*3:宮沢内閣郵政相、橋本内閣厚生相を経て首相

*4:過去には李明博や朴クネが実際に勝利

*5:盧武鉉政権大統領秘書室長、「共に民主党」代表を経て大統領

*6:ただし原作にはあんな台詞はなく、映画オリジナルです。

*7:実はあの犬神家での「遺言状」は民法に知識のある人間からすれば「公序良俗民法第90条)違反で違法無効じゃん」つう代物です。というのも「Aと結婚しないと相続権が全くなくなる」というのでは「野々宮珠世の結婚の自由&相続権」を不当に侵害しているからです。そして遺言書が無効ならば当然殺人は起こりえないわけです。

*8:連戦内閣法相、台北市長などを経て台湾総統

*9:橋本内閣経済企画庁長官、森内閣経済財政担当相、小泉内閣総務相、第一次安倍内閣外相、自民党幹事長(福田総裁時代)を経て首相。現在、第二~四次安倍内閣副総理・財務相

*10:新党さきがけ代表幹事、細川内閣官房副長官民主党幹事長などを経て首相

*11:田畑が「中台統一」と表現しない辺りが興味深い。