ノーベル文学賞でいろいろ

ノーベル文学賞を全受賞者の作品を1冊は読むことにしたい(手始めに、2011年以降の受賞者から読んでいきたい) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
 気になるのは「受賞が戦前」だと「邦訳が入手できない作家(未邦訳、あるいは邦訳されたが品切れ絶版)がいないか」ということですね(また、「戦後受賞」でも第三世界の作家だと「未邦訳、あるいは邦訳されたが品切れ絶版」の危険があるでしょう)。

 代表作に関しては、ウィンストン・チャーチル*1など「第二次世界大戦」を読むしかありません。やっぱりアンリ・ベルクソン*2は、「時間と自由」あるいは「物質と記憶」を読むのかなあ(なお、(ボーガス注:1953年受賞の)チャーチル以後、受賞者は、作家専従者に限るということになったらしい。いやボブ・ディランは本業歌手だよね)。
 ノーベル文学賞というのも、必ずしも狭義の文学作品だけでなく、前掲チャーチルなど回顧録もあれば、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ*3のようなノンフィクション(記録文学、ドキュメント、ルポルタージュなどいろいろな呼称があります)などあるわけで、いろいろな好みのものを選択することができるというものでしょう。

 文学者とは言いがたい人間としては以下がいます。

ノーベル文学賞受賞者の一覧 - Wikipedia参照
◆テオドール・モムゼン
 1817~1903年。1902年受賞。著書『ローマの歴史I:ローマの成立』、『ローマの歴史II:地中海世界の覇者へ』(以上、2005年、名古屋大学出版会)、『ローマの歴史III:革新と復古』(2006年、名古屋大学出版会)、『ローマの歴史IV:カエサルの時代』(2007年、名古屋大学出版会)等
バートランド・ラッセル
 1872~1970年。1950年受賞。著書『幸福論』(1991年、岩波文庫)、『結婚論』(1996年、岩波文庫)、『哲学入門』(2005年、ちくま学芸文庫)、『論理的原子論の哲学』(2007年、ちくま学芸文庫)、『怠惰への讃歌』(2009年、平凡社ライブラリー)、『現代哲学』(2014年、ちくま学芸文庫)等

 代表作については、「なるべく」ということにしますので、軽く読める本にするかもです。

 これについては以下の「アニメ化や映画化」されたものが比較的「軽く読める本」なんですかね?。

ノーベル文学賞受賞者の一覧 - Wikipedia参照
【受賞年順】
ラドヤード・キップリング
 1865~1939年。1907年受賞(受賞当時42歳で現時点で最年少のノーベル文学賞受賞者)。著書として、ディズニーアニメ『ジャングル・ブック』(1967年公開)の原作『ジャングル・ブック』(岩波少年文庫角川つばさ文庫、角川文庫、講談社青い鳥文庫新潮文庫、文春文庫)
◆セルマ・ラーゲルレーヴ
 1858~1940年。1909年受賞。著書としてNHKアニメ『ニルスのふしぎな旅』(1980年放送:ニルスの声は小山茉美)の原作『ニルスのふしぎな旅』(岩波少年文庫偕成社文庫、角川文庫、講談社青い鳥文庫
モーリス・メーテルリンク
 1862~1949年。1911年受賞。著書としてフジテレビ『メーテルリンクの青い鳥 チルチルミチルの冒険旅行』(1980年放送:声はチルチルが古谷徹、ミチルが小山茉美*4)の原作『青い鳥』(岩波少年文庫岩波文庫角川つばさ文庫、角川文庫、講談社青い鳥文庫講談社文庫、新潮文庫
※なお、岩波少年文庫角川つばさ文庫講談社青い鳥文庫は子ども向け
ジョージ・バーナード・ショー
 1856~1950年。1925年受賞。著書に映画『マイ・フェア・レディ』(1964年公開、オードリー・ヘプバーン*5主演)の原作『ピグマリオン』 (光文社古典新訳文庫)
トーマス・マン
 1875~1955年。1929年受賞。著書に映画『ベニスに死す』(1971年公開、ルキノ・ヴィスコンティ*6監督)の原作『ベニスに死す』(岩波文庫、角川文庫、集英社文庫
◆シンクレア・ルイス
 1885~1951年。1930年受賞。著書に映画『エルマー・ガントリー』(1960年公開、アカデミー主演男優賞(バート・ランカスター)、助演女優賞(シャーリー・ジョーンズ)、脚色賞(リチャード・ブルックス)受賞)の原作『エルマー・ガントリー』(角川文庫)
アーネスト・ヘミングウェイ
 1899~1961年。1954年受賞。著書に1943年にゲイリー・クーパー*7イングリッド・バーグマン*8の主演で映画化され、1978年には宝塚歌劇団によってミュージカル化された『誰がために鐘は鳴る』(角川文庫、新潮文庫
アルベール・カミュ
 1913~1960年。1957年受賞。著書に映画『異邦人』(1967年公開、ルキノ・ヴィスコンティ監督)の原作『異邦人』(新潮文庫
◆ボリス・パステルナーク
 1890~1960年。1958年受賞。著書に映画『ドクトル・ジバゴ』(1965年公開、デヴィッド・リーン*9監督)の原作『ドクトル・ジバゴ』(新潮文庫
ジョン・スタインベック
 1902~1968年。1962年受賞。著書に映画『エデンの東』(1955年公開、エリア・カザン監督、ジェームズ・ディーン主演)の原作『エデンの東』(ハヤカワ文庫)
川端康成
 1899~1972年。1968年受賞。著書に映画『山の音』(1954年公開、成瀬巳喜男監督)の原作『山の音』、「吉永小百合(1963年)」「山口百恵(1974年)」等主演で既に何度も映画化されてる『伊豆の踊子』(集英社文庫新潮文庫
大江健三郎
 1935~2023年。1994年受賞。著書に映画『飼育』(1961年公開、大島渚監督)の原作『飼育』(新潮文庫)、映画『静かな生活』(1995年公開、伊丹十三監督)の原作『静かな生活』(講談社文芸文庫
ギュンター・グラス
 1927~2015年。1999年受賞。著書に映画『ブリキの太鼓』(1979年度カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、アカデミー外国語映画賞を受賞)の原作『ブリキの太鼓』(集英社文庫
莫言
 1955年生まれ。2012年受賞。著書に映画『紅いコーリャン』(1987年公開、張芸謀*10監督)の原作『紅いコーリャン』(岩波現代文庫
カズオ・イシグロ
 1954年生まれ。2017年受賞。著書に映画『日の名残り』(1993年公開)の原作『日の名残り』(中公文庫、ハヤカワ文庫)、映画『わたしを離さないで』(2010年公開)の原作『わたしを離さないで』(ハヤカワ文庫)
◆ペーター・ハントケ
 1942年生まれ。2019年受賞。著書に映画『ゴールキーパーの不安』(1972年公開、ヴィム・ヴェンダース*11監督)の原作『不安:ペナルティキックを受けるゴールキーパー』(三修社

 小生は『伊豆の踊子』など「一部を除いてほとんど未読」ですが。またid:Bill_McCrearyさんは「逆にほとんど既読」かもしれませんが。

【参考:エルマー・ガントリー】

「エルマー・ガントリー」を読む : 悠悠炊事2017.1.23
 昨年、アメリカのフォークシンガー、ボブ・ディランノーベル文学賞となって話題になった。ボブ・ディランアメリカ人として10人目*12の受賞者で、最初にノーベル文学賞を受けた作家はシンクレア・ルイスで1930年のことだ。シンクレア・ルイスの小説で一番広く読まれたのは「エルマー・ガントリー」だろう。1960年にバート・ランカスタージーン・シモンズで映画化された。私は1963年頃に東京の五反田の名画座で観ている。
 10数年前、この映画の原作(日本では既に絶版)を読んでみようと、5,000円近い金を出して文庫本の古書で買ったものの、20数ページほど読んで退屈して放っておいた。
 昨年の暮、このまま放おっておくのも無駄だからと決心をして読み出した。
 ところが下巻の80ページまで読み進んだところ、そこからストーリーがおかしい。80ページの次が113ページになって128ページまで続くが、そこから97ページになり最後まで続く。つまり81ページから96ページがないのだ。この本は落丁と乱丁だったのだ。
 本の奥付には「落丁・乱丁本はお取替えいたします」と書いてあるものの、この角川文庫のエルマー・ガントリー下巻は1965(昭和40)年のものだ。角川に在庫はないだろう。
 気になるから図書館で1940(昭和15)年に発行された「妖聖ガントリー」の復刻本を借りてきた。
 「エルマー・ガントリー」は絶版になって久しく、今後、新刊が出ることもないだろう。ここに詳細な粗筋を書こうと思っていたが、その気がなくなった。読み終わったから捨ててしまおう。
 ノーベル文学賞の作家の本はどれも面白くないものだと私は思っている。「エルマー・ガントリー」は映画だったからよかったのだ。
 映画の脚色が素晴らしかったのだ。脚本、監督はリチャード・ブルックス。こんな退屈な原作を面白い映画に仕立て上げた手腕は見事だ。 

*1:1874~1965年。内務相、蔵相、海軍相等を経て首相(1940~1945年、1951~1955年)。1953年ノーベル文学賞受賞。著書『第二次世界大戦』(河出文庫)、『第二次大戦回顧録・抄』(中公文庫)、『わが半生』(中公クラシックス)等

*2:1859~1941年。1927年ノーベル文学賞受賞者。著書『時間と自由』(岩波文庫白水Uブックス)、『創造的進化』(岩波文庫ちくま学芸文庫)、『道徳と宗教の二源泉』(岩波文庫ちくま学芸文庫、中公クラシックス)、『物質と記憶』(岩波文庫講談社学術文庫ちくま学芸文庫)、『笑い』(岩波文庫光文社古典新訳文庫ちくま学芸文庫平凡社ライブラリー)等

*3:2015年ノーベル文学賞受賞者。著書『チェルノブイリの祈り』(2011年、岩波現代文庫)、『戦争は女の顔をしていない』、『ボタン穴から見た戦争』(以上、2016年、岩波現代文庫)等

*4:この頃(約43年前)は古谷(1953年生まれ)も小山(1955年生まれ)も若手だったと思うとしみじみします。

*5:1929~1993年。1953年に『ローマの休日』でアカデミー主演女優賞受賞

*6:1906~1976年。1963年、『山猫』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを、1965年に『熊座の淡き星影』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞

*7:1901~1961年。1941年に映画『ヨーク軍曹』で、1952年に映画『真昼の決闘』でアカデミー主演男優賞を受賞

*8:1915~1982年。1944年に『ガス燈』で、1956年に『追想』でアカデミー主演女優賞を、1975年に『オリエント急行殺人事件』でアカデミー助演女優賞を受賞

*9:1908~1991年。1957年に『戦場にかける橋』で、1962年に『アラビアのロレンス』でアカデミー監督賞を受賞

*10:1987年、『紅いコーリャン』で映画監督としてデビュー。翌1988年にベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。1991年、『紅夢』でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を、1992年、『秋菊の物語』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を、1994年、『活きる』でカンヌ国際映画祭審査員グランプリを、1999年、『あの子を探して』で二度目となるヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を、2000年にチャン・ツィイーの映画デビュー作となった『初恋のきた道』でベルリン国際映画祭審査員グランプリを受賞

*11:1972年、友人でもあるペーター・ハントケの小説を映画化した『ゴールキーパーの不安』でヴェネツィア国際映画祭国際映画批評家連盟賞を、1984年、『パリ、テキサス』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを、1987年、『ベルリン・天使の詩』でカンヌ国際映画祭監督賞を、1993年に『ベルリン・天使の詩』の続編『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』でカンヌ国際映画祭審査員グランプリを、1999年で音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でロサンゼルス映画批評家協会ドキュメンタリー映画賞を、2000年、『ミリオンダラー・ホテル』でベルリン国際映画祭審査員賞を受賞

*12:ちなみにルイス、ディラン以外の8人はユージン・オニール(1936年受賞)、パール・バック(1938年受賞)、ウィリアム・フォークナー(1949年受賞)、アーネスト・ヘミングウェイ(1954年受賞)、ジョン・スタインベック(1962年受賞)、ソール・ベロー(1976年受賞)、ヨシフ・ブロツキー(1987年受賞)、トニ・モリスン(1993年受賞)。なお、2016年のディランの受賞後、米国人としては2020年にルイーズ・グリュックが受賞(ノーベル文学賞受賞者の一覧 - Wikipedia参照)