私が今までに読んだ本の紹介(野村正實編:追記・訂正あり)

・野村正實
 東北大学教授。氏の主張については個人サイト(http://www.econ.tohoku.ac.jp/~nomura/index.htm)も参照ください(ただし個人サイトは2009年7月8日で更新が止まっている)。
 私が持っている野村氏の著書は以下の通りです。
 「知的熟練論批判」、「日本の労働研究」、「日本的雇用慣行」(以上、ミネルヴァ書房)、「日本企業・理論と現実」(共著、ミネルヴァ書房*1
 「知的熟練論批判」は日本の労働研究に大きな影響を与えた小池和男氏(現.法政大学名誉教授)の「知的熟練論」を批判したもの。野村氏は以前から小池学説に批判的だったそうですが、この本では衝撃的な事実を暴露しています。何と野村氏によれば、「知的熟練論」は主張が間違っている以前に、小池氏が資料を自分に都合良く改変(というより捏造といった方がいいかもしれない)してつくった説にちがいない(そう考えないと理解できない矛盾点が多すぎる)というのです!*2*3*4
 野村氏の批判が正しければ、小池氏は「資料捏造犯人」として何らかのペナルティを受けるべきだろう。一方、野村氏の批判が間違っていれば、野村氏が「名誉毀損犯人」として何らかのペナルティを受けるべきだろう(もはや野村説と小池説は意見の違いです、ですむ問題ではないだろう)。とにかく、黒白をはっきりさせるべきだと思うのだがそうなってないんだよなあ・・・。*5
 「日本の労働研究」は「知的熟練論批判」の続編(副題は「その負の遺産」)。「日本の労働研究」通史ではないので注意。「知的熟練論批判」では小池氏批判が展開されたが、「日本の労働研究」では何故「日本の労働研究」は小池氏の嘘を見抜けなかったのか、という問題意識で、「日本の労働研究」の「負の遺産」(と野村氏が考えるもの)が批判される。*6
 「日本的雇用慣行」は野村氏による「日本的雇用慣行」全体像を描く試み。なお、野村氏も断っているが、この本には非正規雇用(パート、派遣等)について論じた部分はないので注意。*7*8


【追記:2009年11/23】
1)「日本的雇用慣行」の面白いと私が思う部分について紹介していなかったのでなるべくわかりやすく紹介。
野村氏は「社会人」と言う概念を外国語には訳しづらい特殊な概念としているが、あえて訳すなら「企業人」「会社員」と同義の概念だろうとしている。
したがって「企業人」「会社員」ではないもの、あるいはそのイメージがわかないもの(公務員、農家、自営業者、医師、教師、弁護士、芸能人など)は、例え労働者であっても、「社会人」とはあまり呼ばれないという事である。(以前、それに近いことを「非国民通信」氏(http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006?sess=eb805907d1af23790df9944b92cd4d6b)もエントリにしていたと思う)
2)ちなみに野村氏は自己のサイト等で「沼津高専」時代のことを「思い出したくない過去」として描いている(氏は沼津高専を中退し、東北大学に入学)。「高専」と言う制度の是非(野村氏はかなり否定的)はともかく、野村氏にそんな思いをさせた当時の「沼津高専」教職員は恥じてしかるべきだろう。


【追記:2015年3/22】
 最近偶然気付いたのですが野村正實『学歴主義と労働社会:高度成長と自営業の衰退がもたらしたもの 』(2014年、ミネルヴァ書房)という本が発刊されたようです(たぶん俺は読まないと思いますが)。なお『日本的雇用慣行』で約束された「非正規についての著作」の約束はいつ果たされるんでしょうか?

参考
EU労働法雑記帳(濱口桂一郎*9ブログ)「野村正實『学歴主義と労働社会』」
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/post-165e.html

*1:この本では、80年代一世を風靡した日本的経営礼賛論(具体的には青木昌彦、浅沼萬里、小池和男各氏)を批判している。もはや、日本的経営礼賛論は廃れたが、野村氏らは、論者が自らの誤りを認める等、きちんと清算されたわけではない以上、批判が必要と考えているようだ。なお、野村氏は知的熟練論批判について執筆しており、内容は「知的熟練論批判」とかなりかぶる。

*2:なお野村氏によれば、氏が「知的熟練論」の資料改変疑惑に気づいたのは、遠藤公嗣『日本の人事査定』(1999年、ミネルヴァ書房)で遠藤氏(明治大学教授)が資料改変の疑いがあると指摘したことがきっかけだと言う。遠藤氏のさまざまな主張については個人サイト(http://www.kisc.meiji.ac.jp/~endokosh/)を参照して欲しい。

*3:遠藤氏は著書『賃金の決め方』(2005年、ミネルヴァ書房)で野村氏の「知的熟練論」での小池批判を支持し、野村氏に反論しない小池氏を批判している。なお、『日本の人事査定』、『賃金の決め方』はともにいい本(もちろん小池批判以外にもいろいろ書いてある)だと思うので一読をおすすめしたい。

*4:小池氏の知的熟練論に関する研究は一部は共同研究であり、野村氏、遠藤氏は共同研究者たちに対しても、反論するよう求めている。しかし、小池氏同様、反論はないようだ。

*5:野村氏に酷評された小池氏だが、著書「日本産業社会の『神話』」(日本経済新聞出版社)で2009年の読売・吉野作造賞を受賞している。審査員には学者(猪木武徳国際日本文化研究センター教授、山内昌之東京大学教授、北岡伸一東京大学教授)もいるのだが、彼らは野村氏の小池批判を知らないんだろうか?。それとも知った上で、小池氏を支持すると?(その理由は?)

*6:主たる負の遺産として批判されているのは隅谷三喜男氏(故人)の日本的内部労働市場論である。野村氏は隅谷氏や小池氏の説を実証なき理論(小池氏に至っては野村批判が正しければ捏造だが)と批判し、過去の日本の労働研究には実証が不足していたと見ている。

*7:野村氏は非正規雇用についてはいずれ別著を書き上げるつもりとしている。なお、非正規雇用について書かなかったのは、正社員オンリーでもこの本の分量が450頁を超えてしまったからだという。

*8:野村氏の主張はおそらくかなり特異であること(必ずしも通説的見解ではないこと)に注意が必要。「会社の一部としての会社内組合」「『ベースアップ』という用語を廃語に」(いずれも、この本の章や節のタイトル)はその典型だろう(連合に批判的な日本共産党ですら連合を「会社の一部」呼ばわりはしていないと思う)。なお、野村氏が「『ベースアップ』という用語を廃語に」という主な理由は、「ベースアップ(略してベア)概念は定義が困難であり、定義することに意義があるか疑問」と氏が考えているからである。

*9:著書『新しい労働社会:雇用システムの再構築へ』(2009年、岩波新書)、『日本の雇用と中高年』(2014年、ちくま新書)、『若者と労働:「入社」の仕組みから解きほぐす』(2013年、中公新書ラクレ)など