新刊紹介:「前衛」9月号(追記・訂正あり)

 「前衛」9月号の全体の内容については以下のサイトを参照ください。
http://www.jcp.or.jp/publish/teiki-zassi/zenei/zenei.html

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは9月号を読んでください)

市田忠義「自公政治退場の願いを共産党に」
(内容要約)
市田氏は日本共産党書記局長、衆議院議員
・党方針「建設的野党」「行動する是々非々」の説明。自公政治は変えなければならないが、民主党も問題点*1があり、とても(社民党国民新党のように)連立などできない。
・(民主党政権が出来たとして)協力するところは協力するが批判すべきところは批判する。
・そのためにも是非衆院選では皆様のご支援をいただきたい。1議席でも躍進したい。→追記:残念ながら現状維持(9議席)にとどまった(民主大勝のあおりで減るよりは良かったが)

小沢隆一「衆院選選挙制度改革の展望」
(内容要約)
・偽りの政治改革による「選挙制度改革」と「政党助成金」は日本の政治を劣化させた(例:小泉郵政選挙)。
・日本の政治を良くするためには(時間がかかるだろうが)以下のことを最低限行う必要がある。
 「少数意見切り捨ての小選挙区制度をやめる」(大選挙区か比例にする)
 「汚職をなくすため企業献金を廃止する」
 「政党助成金をやめる」

阿蘇隆「自民党民主党の『政治とカネ』を問う」
(内容要約)
自民党民主党西松建設疑惑(二階俊博経済産業大臣小沢一郎民主党代表代行など)の他、与謝野馨財務・金融大臣の迂回献金疑惑、鳩山由紀夫民主党代表の「故人」献金疑惑を厳しく批判。*2

■二宮厚美「麻生政権が最後に残した国民への挑戦書:『骨太方針09』『安心社会報告』『中期プログラム』の意味」
(内容要約)
・麻生政権は「骨太の方針」(国民の批判が強まっている新自由主義的政策)から脱却するため、「骨太」を修正する『安心社会実現会議報告』『持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム』を出さざるを得なかった。
・しかし、その脱却は、財界の反対などから中途半端なものになった。

■乾友行「ゆきづまる『軍事同盟絶対』の政治と国民のたたかい」
(内容要約)
・「アメリカの無法・無謀なイラク戦争に荷担したこと」、「地域住民の意見を無視し、基地強化を政府が押しつけようとしていること」等から、日米安保に対する批判は高まり、保守派を含めた市民との共闘の条件は大きくなっている。
・最終目標は安保廃棄であるが、安保容認派も含めた市民と出来る限り、「基地強化反対」「核密約追及」「米軍犯罪追及(及びそれに関連して日米地位協定改正)」「思いやり予算の減額(最終的には廃止)」等、個別問題で共闘の道を探っていくべきである(例:岩国市長選)。そうすることが、安保廃棄にも最終的はつながっていく。
・安保廃棄を実現するためには、北朝鮮問題の平和的解決(最終的には南北統一)が非常に重要である。(本心はともかく自民党は北に対抗するために米軍が必要としているから)*3

早川光俊「温室ガス削減・産業界に『優しい』日本の中期目標」。*4
(内容要約)
・日本政府のCO2削減目標は財界に甘すぎる。もっと厳しい目標にすべきである。→追記:鳩山民主党は目標をより厳しいものにすると表明しているので今後に注目。

■高瀬康正「住宅の貧困もたらした『構造改革』推進政治」
(内容要約)
・日本の住宅問題は深刻である。こうした状況になったのは、「都市基盤整備公団の独法化(都市再生機構)による採算第一主義の蔓延」、「都市再生機構の新規住宅建設からの撤退」、「住宅金融公庫の廃止(住宅金融支援機構に改編)」などが原因ではないのか。過去の反省にたった住宅政策の転換が必要である。*5

■特集「破綻する『医療改革』・どう打開するか(上)」
【滝本博史「診療報酬の大幅引き上げは医療危機打開の処方箋」】
(内容要約)
・政府の「診療報酬の抑制」は「高い窓口負担から、受診抑制が起こる」「医師が儲からない分野から撤退する」「儲からない分野でも、もうけを出すため、人員削減→過労から医師が退職→結局うまくいかず、撤退」などの形で医療崩壊を助長している。
・日本では、政府が医療にかける費用は国際的に見て低くもっとお金をかけるべきである。
・診療報酬抑制方針は撤回されるべきである。

■黒田健司「国民本位の公務員制度改革を:ILO勧告に応じない日本政府の責任」
(内容要約)
・政府は公務員制度改革を唱えているが、これが「国民のための改革」「公務労働者の権利強化の改革」になる保証は全くなく、監視が必要である。
・なお、政府はILOの5度にわたる勧告(消防職員などへの団結権保障等)を無視し続けている。自分に都合のいいときはグローバルスタンダードという癖に恥ずかしいとは思わないのか?

■論点「足利事件は司法に何を問いかけたか」(松本恵美子)
(内容要約)
足利事件ではDNA鑑定の失敗ばかりが問題視されるように思うが最大の問題点は「見込み捜査による警察の自白強要(とそれを検察、裁判所がスルーしたこと)」である。*6
・こうした問題点を解決するためには「取り調べの可視化」「検察官手持ち証拠の全面開示の義務づけ」などの措置が必要である。*7

【10/19追記】
朝日の報道によれば、「DNA鑑定は精度が高いから菅家氏を犯人だと確信して自白を強要した」わけではないらしい。何と、当時から「DNA鑑定の精度が低いことを検察は理解しており、警察に自白などその他の証拠がなければ起訴は困難と指摘」していたらしい。その結果、自白強要に走ったのなら弁解の余地まるで無しだ。しかもそうした事実をおそらく菅家氏にもマスコミにも伝えず、「DNA鑑定は無謬」とだまし続けてきたのだろうから、当時の捜査当局者は「詐欺師」「人間のくず」などと罵倒されても仕方ないだろう。

■暮らしの焦点「新型インフルエンザ・経済損失補てんは国、自治体の責任で」(原田完)
(内容要約)
新型インフルエンザによって、京都の観光業はすさまじいダメージを被った(筆者の原田氏は共産党京都府議)
・観光業者に自己責任で頑張れというのは無責任であり、国、自治体(京都府京都府下市町村)による何らかのサポートが必要である。

■スポーツ最前線「高速水着の氾濫・FINAの対応が後手に」(和泉民郎)
(内容要約)
高速水着問題がこれほどの大問題になったのはFINA国際水泳連盟)がきちんとした方針を出さないから。どんな結論を出すにせよ、明確な方針を出すべき。

■メディア時評
【新聞:「都議選報道と『政権選択』」(金光 奎)】
(内容要約)
・都議選報道での、新聞の「政権選択選挙」という、都議選を衆院選の前哨戦とする報道は許し難い。
・その結果、「自民/民主以外(共産や生活者ネット等)がマトモに報道されなかった」「都政の問題点(新銀行東京等)がマトモに報じられなかった」*8という問題が生まれた。
・新聞には猛反省を求めたい。*9

【テレビ:足利事件が報道に投げかけること(沢木啓三)】
(内容要約)
足利事件でテレビが冤罪を見抜けなかったその責任は重い。
裁判員裁判で冤罪を起こすと、さらに問題なので、テレビにいっそうの努力を求めたい。
・一方で、すぐれたテレビ報道もあった。
 日本テレビの「バンキシャ」が再審決定がなされる前に、冤罪ではないのかと報道したことは高く評価できる。
 また、大阪の毎日放送(TBS系)はドキュメンタリー番組で「飯塚事件」(「足利事件」同様、DNA鑑定が問題となり、被告は無罪を主張していた)を取り上げ、死刑を執行した森英介法務大臣を批判したが、こちらも高く評価できる。

■座談会「採択20年・批准15年:子どもの権利条約を日本の教育にどう生かすか」(三宅良子、松村忠臣、石井郁子)
(内容要約)
・政府・文部科学省の「子どもの権利条約」に対する態度は冷淡である。そのことは、文科省のHPに掲載されている事務次官通知「『児童の権利に関する条約*10について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19940520001/t19940520001.html
に明白である。
 冒頭に「本条約は、世界の多くの児童が、今日なお貧困、飢餓などの困難な状況に置かれていることにかんがみ」と、まるで、発展途上国だけが対象の条約(あるいは経済的困難だけが対象の条約)だと誤解させかねないことが書かれている。
 また、「本条約の発効により、教育関係について特に法令等の改正の必要はないところでありますが」と、勝手に法令等改正の必要がないと決めつけていることもまずすぎだろう。
・また、一部の極右マスコミが「子どもの権利条約」バッシングをしていることにも注意が必要。(例:週刊新潮・平成21年3月19日号記事「『子どもの権利条約』で日本は滅びる」)

■藤森毅「民主的教師論の今日的意義」
(内容要約)
・まず、日本共産党が1974年4月17日の赤旗に発表した「民主的教師論」(教師は労働者であるとともに教育の専門家)の説明。*11
最高裁学テ判決で、「教師の自主性」がある程度認められたことを紹介。*12
・「職員会議の諮問機関化」、「教員評価制度導入」、「教員免許更新制導入」、「主幹教諭の新設」など、最近の文教行政は、教師の自主性を狭め、上意下達を強める方向性だがこれは改める必要がある。

■広井暢子「保育の公的責任を放棄する日本の異常はたださなければならない(下)」
(内容要約)
・日本政府は保育の公的責任を放棄しているとしか、思えないと批判。
・この点、スウェーデンの取り組みは参考に値するとして、様々な取り組みを紹介。

*1:消費税増税、9条改憲非核三原則の見直し、比例定数削減、農業切り捨ての日米FTA推進など。

*2:西松のダミー団体から献金された有力政治家として、二階、小沢氏の他にも自民党では尾身幸次財務大臣加藤紘一元幹事長、藤井孝男運輸大臣森喜朗元首相、川崎二郎厚生労働大臣古賀誠元幹事長の名が、民主党では山岡賢次国会対策委員長の名が上がっている。
 また、小沢氏については公設第一秘書が逮捕された上、国沢被告(元・西松社長)の裁判で、検察によって「小沢・天の声」疑惑が指摘されている。

*3:南北統一したら米軍の存在意義について別の理由を持出すのかもしれないが。

*4:「優しい」にカギ括弧がついているのは、「甘やかし」にすぎず、本当の「優しさ」ではないという意味。(排ガス規制にマトモに対応せず、日本の自動車産業に負けたと言われるアメリカの自動車産業みたいになってしまうのではないかと言うこと。)

*5:こうした政策には民主党も賛成したことに注意。どこが「国民の生活が第一」なのだろうか?

*6:もちろんDNA鑑定の失敗も問題だが。また、当初、同一犯によると見られる別の未解決の幼女誘拐殺人についても、容疑者として追及していたのに、それについては起訴しなかった。何故、その時に足利事件も不起訴としなかったのだろうか?。なお、足利事件については「捨身成仁日記」(http://d.hatena.ne.jp/buyobuyo/)にいろいろと興味深いエントリがあるので、一度ご参照を。

*7:未だに「取り調べの可視化」に反対し続ける捜査当局は本当にひどいと思う。

*8:マトモに報じると、知事提案の99%に賛成する民主を野党と言いづらいからだろうか?

*9:残念ながら、今の新聞にそれを期待してもムダかもしれない。

*10:児童の権利に関する条約」(政府はこう呼ぶ)も「子どもの権利条約」も同じものである。なお、この通知が出た時点では文科省でなく文部省。

*11:当時の赤旗社説の一部引用
田中首相らは、教師は『聖職』であって労働者ではない、としきりに主張しています。しかし、田中首相らは教師が『聖職』だとまともに考えているとは言えません。教師が労働者ではないという考え方は、教師の労働基本権や組合活動、政治活動の制限を是認することになりますが、それでも、教師を『聖職』だと本気で考えるならば、その『聖職』性を保証しなければなりません。すなわち、『聖職』にふさわしい待遇をするために、現在とは比較にならぬほど高い給与を出さなければいけません」
 赤旗も指摘しているけど、なぜ日本には「聖職者は貧乏でOK」「教育(教師の給与に限らない)は金かけなくてOK」って人が多いんだろう?

*12:教育基本法「改正」によって、学テ判決がどうなるかという問題はあるが(政府は野党の反発を恐れて、「影響はありません」と答弁していたと思うが)。