新刊紹介:「歴史評論」11月号(追記・訂正あり)

 「歴史評論」11月号(特集/2009年歴史学の焦点+第43回大会準備号)の全体の内容については「歴史科学協議会」のサイトを参照ください。

http://wwwsoc.nii.ac.jp/rekihyo/

 以下は私が読んで面白いと思った部分のみ紹介します。(詳しくは11月号を読んでください)

【2009年歴史学の焦点】
■「韓国木簡研究の現在」(橋本繁)
(内容要約)
・1975年に慶州で木簡が出土してから、韓国木簡の研究史は34年になる。しかし、本格的な研究が開始されたのは、1990年代末以降のことである。
・木簡研究を進展させるためには、木簡についての情報の共有が必要である。韓国木簡研究の報告書はその点で、まだ不備がある。
・韓国木簡研究の進展は韓国史研究のみならず東アジア史研究を進展させるだろう。


■「絵画史料論*1と動物史―忘れられた馬の焼印をもとめて―」(黒田智)
(内容要約)
・中世の絵巻物「十二類*2合戦絵」に出てくる馬の直垂*3に出てくる文様は馬の焼印*4である。
・しかし、近世になって、軍馬の需要が減ることによって焼印は廃れていった。
・「十二類合戦絵」は忘れられた馬の焼印についての情報を伝える貴重な資料である。


■「近代史における憲法研究の展開」(増田知子)
・内容が難しくて、上手く要約できなかった。戦前憲法史を研究する場合、「元老」、「内大臣」、「御前会議」、「大本営」など、憲法に規定がない制度が大きな政治権力を持って政治を動かすので憲法「だけ」の研究ではダメだと言う部分は分かったが。(冷静に考えると憲法に規定がないのに強大な権限を持つなんておかしくないか、違憲じゃねーの、と思うが)
なお、本論文で取り上げられている憲法とは「大日本帝国憲法」である。その意味でタイトルはいかがな物かと思う。「近代史における憲法研究の展開」といった場合、「日本国憲法」も含まれると考えてもおかしくないからである。(それとも近代史といった場合、戦後は含まれないのか?。戦後は現代史とか同時代史とか呼ぶのだろうか?)


■「フィルム・アーカイブにおける映像資料の保存と復原―歴史学にとっての映画―」(板倉史明*5
(内容要約)
・フィルム・アーカイブにおける収集方針:
 「興行的に失敗した駄作」も含め基本的にあらゆるフィルムを後の歴史研究のために収集する。価値中立的な収集に努めると言うこと。(もちろん予算上の限界はあるが。なお、こうした方針はフィルムに限らず全てのアーカイブに共通する)*6
・フィルムの保存:
 フィルムの中には経年劣化し、上映不可能な物もあるので、そうした物は複製の必要がある。また戦前のフィルムは可燃性で保存しづらいので、不燃性フィルムに複製する必要がある。なお、フィルムじゃなくてデジタルに保存すればと思うが、「デジタル化に金がかかる」「デジタルはシステムが変わった時が大変(VHSからLD、LDからDVDみたいな話)」と言う理由からフィルム保存が一般的だという。
・フィルムの復元:
 戦前映画は、オリジナルが消失し、複製しか残っていない場合がある。この場合、様々な考証により、よりオリジナルに近いフィルムを確定する必要がある。

【第43回大会準備号】
 歴史科学協議会は11月14日(土)、15日(日)に早稲田大学で、第43回歴史科学協議会大会・総会(大会テーマ:「世界史認識と地域史の構想Ⅲ」)を行うが、そこで行われる報告の要旨が以下の文章。(報告自体とそれに対する質疑応答は歴史科学協議会HPによれば「歴史評論」2010年5月号に掲載される予定)*7
 内容はどれも難しくて上手く要約できなかった。


■「報告要旨:二〇〇八年世界経済危機の歴史的性格」(萩原伸次郎)
(内容要約)
・「二〇〇八年世界経済危機の歴史的性格」を論じる。


■「報告要旨:グローバル化と国家・地域の再編―現代日本の歴史的位置―」(岡田知弘)
(内容要約)
現代日本における「グローバル化」に対応した政府、財界の「国家・地域の再編」構想(平成の市町村合併とか道州制導入論とか)、及び政府・財界の構想に対する対抗運動(年越し派遣村など)について論じる。*8


■「報告要旨:日本近世における労働社会の構造」(森下徹)
(内容要約)
・日本近世における労働力売買*9(?)について「周防徳山藩」(萩山口藩の支藩)を材料に論じる。


■「報告要旨:失業対策の意図と帰結―近代日本の経験から―」(加瀬和俊)
(内容要約)
・戦前日本の「失業対策の意図と帰結」について論じる。


■コラム・歴史のひろば「韓中日三国の高校世界史教科書における第二次世界大戦」(辛珠柏)
・内容が難しくて、上手く要約できなかった。なお、こうした試み*10は、今後も行われるべきだと思う。


■編集後記(近藤成一)*11
 これについては文章を引用しコメント。

歴女』って言うんですって?。歴史好きな女性のことを。

 そうらしいですね。ただ、マスコミや地方自治体が商売(観光によるまちおこし、歴史を題材とした商品(書籍、ゲームソフト等々)の販売など)のためにしかけたブームじゃねーの、って気もしますが。話題になっているのって戦国武将とか限られたテーマらしいし。*12

じゃあ男性のことは?あんまり聞かないですね。

 犬が人をかんでもニュースにならないけど、人が犬をかむとニュースになるというのと同じでしょう。歴史なんて「オヤジ臭い物」(少なくともそういうイメージがある)を好きなのが「若い女性」だから騒がれるのだと。

歴史を借りてアイドルを創り出しちゃうのが『歴女』なんじゃないかなあ。人気ナンバーワンの幸村サマ*13なんて、史実の真田信繁*14とは似ても似つかない。

 プロの歴史学者さんからすればそう見えるかもしれませんね。ただ、「歴史学」(現実)と「歴史小説」(虚構、ファンタジー)ごっちゃにするのは「歴女」に限らないでしょう。*15まあ、きっかけがそれでも、まともな(?)歴史学の方向に少しでも来てくれればいいんじゃないですか?
歴女が古文書読んだり、遺跡発掘したり、研究論文書いたりしたら面白いけど、さすがにそれはないか?)

【追記:10/31】
ウィキペディアには「歴女」以外にも関連項目として「鉄子」(鉄道マニアの女性)、「仏女」(仏教マニア、または仏像マニアの女性)なんて言葉があった。もう何というか、「趣味」+「女性」で何でもありなのか?
こんなブログもあるし。
歴女と「くら寿司」』http://d.hatena.ne.jp/kntmania/20091030/1256865453

「伊達すし宗」、「サラダ幸村」って何だよ、くら寿司、とお約束で突っ込んどく。

*1:日本史における絵画資料研究の草分け的存在として黒田智論文でも名前が挙がっている黒田日出男がいる。最近の黒田日出男の本には「王の身体・王の肖像」(ちくま学芸文庫)、「謎解き洛中洛外図」(岩波新書)がある。

*2:十二類とは干支の動物のこと。

*3:馬は擬人化されているので直垂を着ている。

*4:焼印は、「どこ産の馬であるかを示す物」である。つまり、ある種のブランドマークである。

*5:この論文のフィルムとは写真フィルムではなく映画フィルムである。

*6:価値中立的な収集は分かったのだが違法フィルムはどうするのだろうと少し気になった。違法といっても「日活ロマンポルノ」のような微妙なケースを想定しているのだが。

*7:なお、歴史科学協議会HPのトップページには『シンポジウム「陵墓公開運動30年の総括と展望」』(http://wwwsoc.nii.ac.jp/rekihyo/movement/ryobo_sinpo091123.html)、『シンポジウム「歴史教育ジェンダー・教科書からサブカルチャーまで」』(http://wwwsoc.nii.ac.jp/rekihyo/movement/gakujyutukaigi_sinpo091005.html)の紹介があるので、ここでも紹介しておく

*8:萩原氏と岡田氏の報告は現在進行形のテーマなので、歴史学報告と言うより政治学、経済学っぽい報告だが。なお、歴史科学協議会のホームページによれば、萩原、岡田両報告のコメンテーターは五十嵐仁氏

*9:具体的には、石工(一定の技術を持つ職人)、武家奉公人(単純労働力で失業の危険が高い?)など。

*10:この種の試みとしては、例えば、日中韓3国共通歴史教材委員会「未来をひらく歴史:東アジア3国の近現代史」(高文研)がある。

*11:なお、編集後記は歴史科学協議会HPの「編集長日記」(http://rekihyo.blog.shinobi.jp/)で読むことができる。

*12:歴女」を名乗るなら「歴史評論」「歴史学研究」「日本歴史」「史学雑誌」とか読めという気がしないでもない。

*13:昔から「幸村サマ」は講談などで大人気ですからね。「真田十勇士」(猿飛佐助、霧隠才蔵など)の活躍とか。

*14:ウィキペディアによれば、講談本などの影響で一般に流通している「真田幸村」ではなく、「真田信繁」が正しいようだ。

*15:別に虚構は虚構と分かった上でなら、現実とは別物として楽しんで良いと思いますけどね。例えば、大河ドラマ義経」に「武蔵坊弁慶などいない」とケチつけても面白くないし。もちろん余りにもヒドイ虚構は話が別ですが。