【産経抄】5月27日

id:agricola氏は

 枕にミステリを持ってきて、それを相撲協会のスキャンダルにうまいことつなげた至極まともなコラム/「こっ、こんなまともなコラムは俺たちの産経抄じゃない!!」とファンクラブスレの住人が狂乱してた(苦笑)

というブコメをつけており確かにいつもに比べればとてもマトモなのだが、いくつかコメント。なお、amazon書評に寄れば、「まほろ駅前」にある便利屋「多田便利軒」を舞台にした話のようなので清海の話はともかく本全体がミステリと呼べるかは微妙では?。
三浦氏もいわゆるミステリ作家ではないようですし。

 三浦しをんさんの直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』(文春文庫)は、東京南西部にある架空の街*1が舞台だ。便利屋の多田はある日、知り合いから女子高生の清海を匿うよう頼まれる。その街では最近、夫婦が刺殺され、一人娘で、清海の同級生でもある園子の行方がわからなくなる事件が起こっていた。
 ▼「園子、見てる? 寂しいよ」。ワイドショーで涙ながらに訴えた清海は、マスコミの取材攻勢にさらされていた。最初のうち清海の話をうのみにしていた多田だが、ワイドショーのビデオを何度も見ているうちに、あることに気づく。どこかでテレビを見ているかもしれない園子に、何かを伝えようとしているのではないのか。

暴力団の話をするのにいきなり三浦氏の本の話で面食らいました。悪いとは言いませんけれど個人的にはあまり好きじゃない導入部。三浦氏の本と今回の事件、共通点は「テレビで何かを訴えようとしているという点」だけ*2ですし、暴力団について言えば現時点では断定されたわけではなく、警察の推測のようです(抄子の文章では小説の方も、この時点では多田の推測に過ぎませんがまあ、この推測は正しいのでしょう)。「テレビで何かを訴えようとしているという話」は三浦氏の本に限らないでしょうし。まあ、抄子は三浦ファンなのでしょう。版元は文春で産経とは関係ありませんし(それともフジテレビでドラマ化でもするんですか?)。
 この書き出しだと、犯人は誰なのか、園子はどこにいるのか、清海は何を訴えたかったのかなど、オチが気になりますね。
・なお、amazonの書評を見るとこの作品、短編集のようですが、この抄子の文章では、清海や園子がメインの長編のようでそこも少し引っ掛かりますね。

 弘道会の幹部らは、わざわざテレビカメラと向かい合う席を選んでいた。警察によれば、テレビ中継を通じて自分たちの姿を、刑務所に服役している弘道会出身の山口組組長に見せて、変わらぬ忠誠を示そうとした疑いが強いという。

 「テレビ中継を通じて自分たちの力を誇示しようとしていた」(俺たちはこんな良い席取れるんだぜ!。相撲協会にそれだけ食い込んでるんだぜ!)なら分かりますが組長への忠誠心ねえ?。組長は相撲ファンなんでしょうか?

 各地で興行を打つために、地元ヤクザの協力が不可欠だった昔と違い、今や力士や芸能人にとって、暴力団との関係は命取りになる。

・今も興行で暴力団が関わってくることは少なくないのでは?。例えば格闘技イベント・プライドについてフジテレビは途中で放送を打ち切りましたが、あれも、週刊現代がスクープした暴力団問題が原因でしょう。また、週刊誌で報じられた中田カウスのスキャンダルなどもそうしたものの一つでしょう。
・もちろん、山口組が公然と神戸芸能社(美空ひばりなど当時の人気スターが所属)を経営していたり、吉本興業中興の祖と呼ばれる林正之助山口組とのつきあいを公然と認めていたりした時代とは時代が違うのは確かです(もちろんその方が望ましいことです。暴力団は所詮、犯罪者集団ですから)。ウィキペディアに寄れば、林は「1968年1月11日、当時の山口組組長・田岡一雄と組んでレコード会社を乗っ取ろうとした容疑で兵庫県警に逮捕」されているそうです。「わしが田岡親分に電話一本連絡すれば、山口組の兵隊が来て血の雨を降らすぞ!」とレコード会社幹部を脅したそうです。
 今、こんな事件を林のような大手芸能プロ幹部が一度でも起こせば、その幹部はもはや表舞台に二度と出られないでしょうが、林はその後も吉本幹部として君臨しました。もちろん、林が「切れ者」「創業者一族」というのもあるでしょうが、事件当時の日本が今と違ってかなりヤクザに甘かったというのもあるでしょう。

 そんな時代に、場所そのものが、暴力団の結束のために利用された可能性が強いとなれば、日本相撲協会の衝撃も大きかったはずだ。彼らと決別できるのか、まさに大一番である。

・確かに決別して欲しいものです。ただヤクザも「決別したい」と言われて「はい、そうですか」と引き下がるお人好しではないでしょう。当然、警察など行政のバックアップが必要になります。
・ヤクザについて言えば、政界や財界が、「左翼政党や労組潰し」「地上げ」等に使っていたので、警察もある程度、お目こぼししてきたという要素は否定できないでしょう(在特会への警察の甘い対応など、平和活動家がマンションでビラ配りしただけで住居侵入で逮捕する癖に何だよと思わざるを得ません)。また、任侠映画などの影響で日本人がヤクザに甘いというのもあるでしょう。
 だからこそ「犯罪組織」なのに堂々と組事務所なんか構えているわけです(地下に潜られるのもそれはそれで嫌ですが)。
・芸能界だけが問題ではないということです。

*1:ウィキペディア等によると町田市をモデルとした「まほろ市」。「幻」(つまり実在の都市ではないという意味)とかけているらしい。

*2:三浦氏の本の事件は暴力団関係ないですよね?